JRRCマガジンNo.369 フランス著作権法解説10 インターネット上の著作権侵害対策(最終回)

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JRRCマガジン  No.369 2024/5/16
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説(最終回)
【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)本日〆切!
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

今日5月16日は「旅の日」
元禄2年3月27日(新暦1689年5月16日)、松尾芭蕉が「奥の細道」の旅へ旅立ったことから、
せわしない現代生活の中で「旅の心」を大切にし、旅のあり方を考え直す日として制定されたそうです。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の連載の最終回です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第10回 インターネット上の著作権侵害対策
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1 はじめに-全体像
 今回は、インターネット上の著作権侵害対策について説明します。フランスにおける著作権侵害対策の特徴は、著作権侵害に対する責任があるかどうかという問題から離れ、著作権侵害があるという事実のみに着目して対策を講じているところにあります。
 インターネットでは、個人が自由にコンテンツをアップロード・ダウンロードできるため、著作権侵害に対する個別対応の費用対効果を考えると、消極的な対応にならざるをえません。しかし、フランスでは個別対応をあきらめることなく、主に個人を対象とした段階的警告制度(331-19条)を設け、成果を上げています。
 さらに、著作物等が違法に利用される可能性がある場を提供するプロバイダに対しても、著作権侵害に対する責任問題と離れ、対策を求めることができる法制度となっています(336-2条)。加えて、コンテンツ共有サービスプロバイダに対しては、欧州デジタル単一市場指令17条を国内法化したことにより、新たな義務が課されることになりました(137-1条以下)。
 フランスでは、視聴覚・デジタル伝達規制局(略称ARCOM)が、インターネット上の侵害対策のうえで重要な役割を果たしています。ARCOMは、これまでインターネット上の著作権侵害対策を行ってきたHADOPIと、視聴覚最高機関(CSA)が一緒になり創設された機関であり、3つの任務があります(331-12条)。その一つがインターネット上の侵害から著作物等を保護する任務であり、これには、スポーツ法典に定めるスポーツ興行主催者の視聴覚利用権(連載第9回参照)の侵害からスポーツ映像等を保護する任務も含まれます(同条)。この任務を遂行するため、ARCOMは段階的警告とミラーサイト対策を実施しています。そのほかの任務として、インターネットサービスの提供に使用される著作物等の適法な提供の発展を促進し、適法・違法の利用を観察する任務が課せられています。この任務を遂行するため、ARCOMはオンラインコンテンツ共有サービスプロバイダを監督しています。
 以下、それぞれの制度について、説明します。

2 違法アップロード・違法ダウンロード対策に関する実体法
 知的財産法典336-2条は、インターネットサービスのコンテンツについて著作権等の侵害が存在する場合、裁判所が、侵害の治癒に寄与することができるいかなる者に対しても、このような侵害を予防しまたは停止させるのに適したあらゆる措置を命じることができると定めています。
 措置の相手方となりうる者は、検索エンジン運営者、アクセスプロバイダ、ホスティングサービスプロバイダなど、著作権侵害に対する責任があるかどうかとは無関係に、著作権等の侵害を治癒することに寄与する可能性があるすべての者が対象になります。つまり、措置の名宛人が著作権侵害に対して責任があるかどうかを問わず、法的措置をとり得る制度となっています。侵害を予防しまたは停止させる措置の例として、ブロッキング、検索結果からの非表示、フィルタリング、削除がありえます。
 また、次条は、違法アップロード・違法ダウンロードの防止のため、インターネットへアクセスするサービスの加入者は、そのアクセスが本人または第三者によって、著作物等の違法な利用に供されないよう監視する義務を負うこと定めています(336-3条)。この規定が、段階的警告制度の実体法となっています。

3 段階的警告制度
 段階的警告制度は、インターネットのサービス加入者に対し警告状を段階的に送付することにより、著作権侵害を抑止することを目的とする制度です。インターネットへアクセスするサービスへ加入する者は、そのアクセスが、本人または第三者によって著作権等の侵害に供されないよう監視する義務を負うため(336-3条)、その義務を違反した者に対して、警告状を送付するのです。
 ARCOMは、権利者などからの申請により、監視義務の違反を確認した場合、加入者に当該義務を遵守するよう警告を送ることができます(331-19条)。3回目の送付によっても義務違反が認められる場合、司法手続きに移行します。ARCOMの報告書によれば、2022年は、初回の警告数は約15万件、司法手続きへ移行した数は約1400件、実際に裁判になった件数は約900件とされます。したがって、違法アップロード・違法ダウンロード対策として、一定の成果を上げているといえます。

4 ミラーサイト対策
 ミラーサイト対策(331-27条)もARCOMが実施しています。ミラーサイトは、元となるウェブサイトと同じ内容を持つウェブサイトで、通常は、アクセスが集中する場合に負荷を分散させるために用いられるのですが、著作権侵害の場面では、元のウェブサイトとは別のドメインで規制を回避するために用いられることがあります。
従前は、ミラーサイト対策がなかったため、権利者は336-2条に基づき裁判所から命令を得ても、ミラーサイトに対して効力を及ぼすことができませんでした。この問題を解決するため、裁判所が、あるウェブサイトを対象としてオンライン公衆伝達サービスへのアクセスをブロックする措置や検索結果非表示の措置を命じた場合、その命令を得た権利者は、ARCOMに申立てを行い、その全部または実質を再掲するサービス、すなわちミラーサイトへのアクセスのブロックや検索結果非表示の措置を判決に定める者(プロバイダなど)に要求することができます。

5 コンテンツ共有サービスプロバイダの義務
 電子商取引指令12条は、情報を伝達するに過ぎないプロバイダは、送信される情報に対して原則として責任を負わないことを定めています。コンテンツ共有サービスプロバイダは、これによりユーザーがアップロードしたコンテンツについて、著作権侵害の責任を問われることなくその恩恵に浴していました。しかし、デジタル単一市場指令17条はこの体制を排除しました。フランスでは、2021年5月12日オルドナンス2021-580号により、同指令17条を国内法化し、オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダに適用される規定を新設しました(137-1条以下)。
 オンラインコンテンツ共有サービスプロバイダ(以下、単に「プロバイダ」といいます)とは、①公衆伝達サービス提供する者で、②その主な目的または主な目的の一つがユーザーによってアップロードされるコンテンツを大量に蓄積し、公衆に対しそれらへのアクセスを付与するものであり、③それにより直接または間接に利益を得ることを目的としてそのサービスを運営するプロバイダと定められています(137-1条1項)。
 新設された規定では、プロバイダが、ユーザーによりアップロードされる著作物へのアクセスを付与することにより、著作物の利用行為である公衆への伝達行為を行うものとされ、権利者からの許諾を得る義務を定めています(137-2条Ⅰ)。さらに、プロバイダは、複製に対する許諾を得る必要もあります(同条)。
 権利者からの許諾がない場合にプロバイダが責任を免れるためには、①許諾を希望する権利者からの許諾を得るための最善の努力、②権利者が利用不可とした著作物を利用できないようにすることに対する最善の努力、③権利者側からの通知によりアクセス遮断または削除するために行動しかつ将来アップロードされないようにする最善の努力のすべてを行ったことを証明する必要があります(同条Ⅲ1°)。したがって、プロバイダは、これら3つの行為義務を負います。
 プロバイダは一般的監視義務を負うことはなく(同条Ⅲ4°)、権利者からの情報に基づいて行動すればよいのですが、再アップロードがされないよう対策が求められます(上記③の義務)。ARCOMは、上述のとおり、インターネットサービスの提供に使用される著作物等の適法な提供の発展を促進し、適法・違法の利用を観察する任務を遂行しますが、その任務として、プロバイダが講じた著作権等を保護する措置の有効性の程度を評価し(331-18条Ⅰ)、かつ権利者とプロバイダとの協力を奨励しています(同条Ⅱ)。たとえば、YouTubeであれば、Content IDというツールにより、権利者の登録した動画を自動検知し、コンテンツをブロックするなど再アップロード防止対策をとっていますが、ARCOMはプロバイダが実施するこのような措置の実効性を評価し、監督しています。さらに、ARCOMは、プロバイダと権利者との協議を促し、著作物等が適正に利用される体制の構築を促しています。

 さて、この連載は、今回で最後になります。第1回でフランス著作権法をカオスと紹介しましたが、そのような世界にお付き合いいただき、ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(無料)本日〆切!
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今年度最初の著作権講座(初級)を5月22日(水)にオンラインで開催いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトより期限までにお申込みください。

★開催日時:2024年5月22日(水) 13:30~16:35★

プログラム予定
13:30~15:05 第1部 著作権制度の概要
15:05~15:15 休憩
15:15~15:25 JRRCの管理事業について
15:25~16:35 第2部 表現とデータ・アイデアの利用の境界について
詳しくはこちらから

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編集責任者 
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