JRRCマガジンNo.352 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)21 権利の例外(4) フェアディーリング④

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JRRCマガジン  No.352 2024/1/11
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】2024年1月24日開催 オンライン著作権講座のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)申込受付中!
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 皆様、明けましておめでとうございます。
 公益社団法人日本複製権センター(JRRC)は、権利者様、利用者様のご協力のおかげで順調に業績を伸ばさせていただいております。
 JRRCは、これまでの関係者の皆様のご努力により、企業、団体、官公庁等において著作物の複製等を適法に行うためには権利者の許諾が必要であるとする基本的な意識はほぼ浸透したのではないかと考えています。
ただ、適法に著作物を利用するためにはどうしたらよいのか、どのような団体に相談し又は契約を結べばよいのかという具体策まで普及しているとは言えません。これはJRRCの責任であると痛感しているところです。
 そのため、今年度から新聞、雑誌等の複製等が頻繁に行われていると思われる官公庁を中心に、地域の新聞社様の参加・協力を得て、地域ごとに具体的な契約相談会を開催しております。
 また、新聞等のクリッピング利用についてはJRRCの管理外の利用ですが、新聞社様の事務的負担を軽減する一方で、利用者の利便性の向上を促進するためクリッピング利用契約に関する契約代行業務をこの2月から開始する予定です。
 さらに、わが国においても、海外の著作物を利用する機会が増えてきておりますので、JRRCと同種の外国管理事業者と相互管理契約を締結し、わが国の企業等が適法に海外の著作物を利用できる環境作りに努めています。
現在英国、米国と交渉中ですが、他の国の管理事業者とも順次契約交渉を進めていく予定です。
 これらのほかにも、デジタル利用にあわせた使用料規程の改定、これまで実施している著作権セミナー・メールマガジンの充実等JRRCは今年度も大きな課題を抱えての出発ですが、一つ一つ課題を克服しながら権利保護と利用の円滑化の実現を目指して努力を続けていくつもりです。
 どうぞ皆様、今年もよろしくご支援を賜りますようお願いします。

                                                                 公益社団法人日本複製権センター
                                                                  代表理事・理事長 川瀬 真
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さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
Chapter21. 権利の例外(4):フェアディーリング④
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに

イギリス著作権法の第1部「著作権」の第3章は「著作物に関して許された行為」を規定しています。この第3章には、第28条から第76A条まで規定があります。

それらの規定の中には、「フェアディーリング」(本連載Chapter17を参照)という要件がある場合と、それがないため「フェア」という要件を裁判所が判断しない場合との2種類が存在します。フェアディーリングとして規定されているのは、研究又は私的学習の目的(第29条)のほか、批評、評論、引用及び時事の報道(第30条)、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュ(第30A条)、教育のための例示(第32条)の目的によって分類された4つの場面です。

今回は、前回に引き続き、フェアディーリング規定のなかから、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュ(第30A条)を目的としたフェアディーリングに関する規定をみていきます。

2.カリカチュア等を目的とするフェアディーリングの概要

イギリス著作権法の30A条は、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュを目的とする著作物のフェアディーリングは、著作権を侵害しないことを定めています。

この規定は、1988年著作権法の制定当時には存在せず、2014年10月1日から導入されました。他方、EUでは2001年の情報社会指令が、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュに関して、権利制限を規定することを許容していました。

許容していた、というのはどういうことでしょうか。情報社会指令では、指令で規定する権利に対する制限については、制度調和の観点から、情報社会指令に定めたもののみを認めるというスタンスを取っています。カリカチュア、パロディ又はパスティーシュについては、EU加盟国がそのような権利制限を導入しても、情報社会指令に反しないということを意味します。逆に言えば、導入しなくても、情報社会指令には反することはありません。

2014年10月より前のイギリスの立場は、パロディ等がある著作物に対する批評・批判を目的とするフェアディーリングに該当し(第30条)、出所が明示されている場合には、権利の例外として許容されるという立場でした。しかし、一般的にパロディがそれを充足するのは難しいという見方もあり、政府の諮問に基づくガワーズレビュー、ハーグリーブスレビューによる検討の末、この分野に新たなフェアディーリング規定が導入されることになりました。

カリカチュア、パロディ又はパスティーシュの意味について、イギリスの著作権法は定義を置いていません。情報社会指令にも定義はありませんが、欧州司法裁判所の判決でパロディの意味が示されているので、イギリスの著作権法のテキストではそれを引き合いに出してパロディを説明してきました。

EUレベルでは、欧州司法裁判所のデックミン事件判決において、「パロディ」の意味が明らかにされています(Johan Deckmyn and Vrijheidsfonds VZW v. Helena Vandersteen and Others, Case C-201/13)。同判決では、パロディの本質的特徴を、第一に、既存の作品を想起させながら、それとは明らかに異なること、第二に、ユーモアや嘲笑の表現であることと定義しました。

また、パロディ化された元の作品に対して明らかな違いを示すことを超えて、パロディ自体にオリジナルな性質を持たせることも求められません。パロディが、パロディ化された元の作品の作者以外の者によるものであると示す必要もありません。パロディのメッセージが、元の作品自体とは無関係であってもよいですし、元の作品の出典に言及する必要もありません(同判決 [21], [23]参照)。

このような緩やかな条件で認められるパロディは、ある作品そのものをパロディの対象にする場合(いわゆる「ターゲット型パロディ」)に限定されず、ある作品を他の何かを標的とするために使用する場合(「ウェポン型パロディ」と呼ばれることもある)にも及ぶ可能性があると評価されています(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.268)。

他方で、欧州司法裁判所は、著作権者の利益とパロディを表現する者の表現の自由との間で公正なバランスをとらなければならないとも指摘しています(同判決 [27]参照)。

なお、欧州司法裁判所も、カリカチュアとパスティーシュの意味については、まだ明らかにしていないようです。

イギリス著作権法では、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュを目的とすることに加えて、その利用がフェアディーリングである必要があります(フェアディーリングについては、Chapter18を参照)。また、批評・批判、引用のフェアディーリングと異なり、出所の明示は必要とされていません。

3.シャザム事件
3.1 事案の概要

イギリスでは、最近まで実際に30A条の適用が問題となった裁判例はなかったようですが、2022年の高等法院におけるシャザム事件判決(Shazam Productions Ltd v Only Fools The Dining Experience Ltd 他 [2022] EWHC 1379 (IPEC))では、パロディやパスティーシュの抗弁の成否が問題となり、一定の判断が示されました(事件の詳細については、小泉直樹「イギリス著作権法におけるテレビコメディ番組のキャラクターの保護とパロディの抗弁」慶應法学49号(2023年3月)1頁で参照できます)。

イギリスBBCで1981年から2003年までに放送された有名なテレビコメディに、「Only Fools and Horses」という作品がありました。イギリスの労働者階級のコメディで、脚本はジョン・サリバンが書きました。ジョン・サリバンはすでに故人であり、現在は原告のシャザム社がその権利を管理しています。

ちなみに、「Only Fools and Horses」というタイトルは、「愚か者と馬だけが(働く)」という言葉に由来します。このコメディドラマには、南ロンドンに住む労働者階級の二人の兄弟が登場するのですが、このコメディのユーモアのほとんどが、実際に働かずにお金を稼ごうとする彼らの行動によることに由来しているようです。

被告のOnly Fools The Dining Experience Ltdは、テレビコメディ「Only Fools and Horses」の登場人物が参加するインタラクティブなダイニングショーを運営しました。観客は着席での食事を楽しむのですが、「Only Fools and Horses」の登場人物を演じる俳優が、観客を巻き込みながらサービスを提供しました。俳優たちは登場人物と同じような身なりをしますが、このダイニングショーでは、パブで行われるクイズという架空のシーンにのみ登場し、同様のキャッチフレーズやジョークで観客を楽しませました。

これに対してシャザム社は、「Only Fools and Horses」の登場人物と脚本の著作権侵害およびパッシングオフの成立を争って訴訟を起こしました。

日本で言えば、あくまで仮想事例ですが、とあるイベント会社が、TBSで放送された『渡る世間は鬼ばかり』の世界観を反映したディナーショーを開催し、小島五月、勇、眞に扮した(テレビ出演者とは異なる)俳優が、ショーの中で開催するビンゴ大会で盛り上げようとしたら、故・橋田壽賀子さんの権利を管理している財団から訴えられたといった感じでしょうか。少し違うかもしれませんが、渡鬼の世界観が好きなお客さんは集まりそうですね。

3.2パロディとパスティーシュのフェアディーリング

この事案の争点はいくつかあり、結論として裁判所は著作権侵害とパッシングオフの成立を認めていますが、ここではパロディとパスティーシュに関する判断の部分を紹介することにします。

裁判所は、パロディの意義について、デックミン事件判決などを引用しながら議論をしました。その上で、「パロディ作品は、それ自体がある意味でユーモアや嘲笑として表現された意見表明である場合にのみ、対話を促進し、芸術的対立を生じさせることができる」、「(コメディ作品の)単なる模倣ではパロディを構成するのに十分ではない」という見方を採用しました。

その上で、パロディというよりは翻案による再生産に近いなどいくつかの点を挙げて、被告による登場人物、そのバックストーリー、ジョーク、キャッチフレーズの使用は、30A条におけるパロディ目的での使用ではないと判断しました。

また、パスティーシュに関しては、他の作品のスタイルを模倣した使用であること、既存の作品の集合物(メドレー)であること、という2つの要素が不可欠であるとし、さらに、いずれの場合も、パロディと同様に、パロディ化された元の作品とは明らかに異なるものでなければならないという考え方を示しました。

その上で、被告による使用は、スタイルを模倣するための使用ではないなどのいくつかの点を挙げて、被告による登場人物、そのバックストーリー、ジョーク、キャッチフレーズの使用は、30A条におけるパスティーシュ目的での使用ではないと判断しました。

4.終わりに

今回は、イギリスのフェアディーリングの規定のうち、カリカチュア、パロディ又はパスティーシュを目的とするフェアディーリングをみていきました。パロディを目的とした著作権制限規定は、現在のところ我が国にはありません。

日本において、シャザム事件で問題となったようなダイニングショーを開催する場合、キャラクター設定の利用だけで著作権侵害を認めることは難しいかもしれませんが、脚本中の著作物性のある表現を利用していれば、権利者の許諾が必要でしょう。また、テレビ番組の名称が商標登録されていたり、周知・著名であった場合、類似する名称を使ったイベントは、商標法や不正競争防止法との関係で問題が生じるかもしれません。

ところで、立法論ないし解釈論として、パロディの抗弁のようなものが日本の著作権法に必要かどうかは、難しい問題です。個人的には、人の作品をつかってわざわざパロディをする必要性があるのだろうかとも思いますが、そうした考えは表現の自由を軽視する偏狭な考え方かもしれませんので、悩ましい問題です。

寛容的利用(権利があっても実際には行使されない状況で、寛容されている利用)も、パロディストにとって多くの場合、救いの道となっていますが、権利者によって寛容されない場合には途端に著作権侵害になってしまうという問題点があります。

日本の現行著作権法の解釈でも、元の作品における表現上の本質的特徴を直接感得できないパロディ表現を創作すれば、複製にも翻案にも該当しませんから適法に行えます。雰囲気だけ似せて、皮肉を込めたり、おかしみを生み出すことは問題なく行えるわけです。とりあえず、その限りで著作権者の利益と表現の自由との折り合いをつけることはできるでしょう。

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【2】2024年1月24日開催 オンライン著作権講座のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)本日受付開始!
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催にて著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。

本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権」と「キャラクターと著作権」について講演予定です。

★開催要項★
日 時 :2024年1月24日(水) 10:00~15:20 (予定)
会 場 :オンライン (Google Meet)
定 員 :200名
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学
詳しくはこちらから

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