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JRRCマガジン No.351 2023/12/28
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その9
【2】2024年1月24日開催 オンライン著作権講座のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)申込受付中!
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皆さま、こんにちは。
今年も残りわずかとなりました。
今号が2023年最後のJRRCマガジンとなります。一年間ご愛読ありがとうございました。
連載は来年も続いていきますのでどうぞお楽しみに。
皆さまにおかれましても良いお年をお迎えください。
さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。今回が福井記者の連載の最終回となります。
福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/
◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その9━━
『権利制限』について考える 下
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福井 明
著作権法の権利制限は、私的使用、引用、授業での使用などと、それぞれ個別・具体的なケースに限り、著作権者の権利を制限するものでした。これに対し、ここ十数年間、「一般的で包括的な権利制限」を求める動きがずっとありました。平たく言えば、「条件なしで、著作物を無許諾で使えるようにすべき」ということでした。
2000年代以降、多くの人が大量に高品質のデジタルコピーをし、インターネットでやりとりする「デジタル・ネットワーク社会」が進展しました。これを受け、産業界や自民党などの一部から「情報やコンテンツがこれだけ流通しているのに、著作権法は『使いたい時は、権利者を探して許諾を得ろ』と、アナログのまま。時代に合っていない」「個別の制限規定を設けるやり方は、もう限界」といった声が上がり始めました。そうした人たちがモデルにしたのは、米国著作権法第107条の「フェアユース」規定でした。「批評、解説、報道、教授、研究などを目的とする著作物の公正な利用は、著作権侵害とならない」という内容です。
動きは高まります。政府の知的財産戦略本部(本部長は首相)は2009年に発表した「知的財産推進計画2009」で、「公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェアユース規定)の導入」を「重点施策」として打ち出しました。
これに対し、新聞協会などの権利者団体は強く反対しました。①フェアユース規定は抽象的なので、何が合法で、何が侵害行為なのか分からない②このため、著作権を侵害していないと強弁する「居直り侵害」や、知識・理解不足による「思い込み侵害」を増大させるおそれがある③フェアユースかどうかを判断するのは裁判所。米国には百年以上の判例の蓄積があるが、日本には何もない。裁判所が判断基準を明確にするまでは混乱が続くーーなどがその理由です。多くの権利者団体が反対意見書を出したりしたのは、私が新聞協会著作権小委員会幹事になる前でしたが、こうした主張には賛同します。フェアユースによって利用者は権利者の許諾を得る手間を省けたとしても、その後、裁判になれば長い時間と手間がかかります。結局「迅速で便利な制度」とはなりません。また、そもそも、日本の企業は提訴されるリスクは避けたいという志向が強いです。どういう場合がセーフなのか予測が立たず、裁判所にゲタをあずけるような規定を歓迎するとは思えません。
文化庁は、同計画2009を受け、「著作物の表現を享受しない利用なら可」とする「権利制限の一般規定」の法制化を目指しました。しかし、結局、抽象度の低い権利制限規定の導入にとどまりました。
「日本版フェアユース導入」が不完全燃焼に終わったため、知財推進計画はその後、「新たな産業の創出や拡大を促進する著作権権利制限規定の見直し(2014年)」「適切な柔軟性のある権利制限規定の創設(16年)」と、一般的な権利制限規定作りを繰り返し提唱します。文化庁はこれを受け、「柔軟な権利制限」案を打ち出しました。これは、権利者が受ける不利益の度合いと著作物利用の公益性という二つの観点から、著作物利用の類型を3つに分け、特に「著作物の表現の思想、感情の享受を目的としない利用(第1層)」「所在検索サービスなどに付随し、権利者に及ぶ不利益が軽微な利用(第2層)」という無許諾利用を認める内容です。従来の個別の権利制限規定に比べればやはり抽象的ですが、フェアユース規定よりは権利制限の範囲を限定しており、まだ予測可能性があると言えました。
新聞協会著作権小委の幹事各社は、自民党の知財政策にかかわっている国会議員を訪ね、「柔軟な権利制限」への意向を尋ねました。フェアユース的な規定の導入に意欲的な若手衆院議員は2017年2月、「僕らが考えているのは、イノベーションの創出。(文化審議会小委員会の報告書を受け、)これから選挙で選ばれた僕らが議論する。報告書の案がどうなるか分からないよ」「皆さんも権利者としてばかりでなく、もっと新しいサービスを考えてよ」と、私たちに話し、修正したい考えを示しました。また、山本一太参院議員(現群馬県知事)は2018年2月、「前進どころか後退した『柔軟な権利制限』の規定(怒)。党の提言をまったく反映していない」「このままの条文では賛成できない」と、自身のブログに書きました。フェアユース派の評価は厳しいものでした。
権利者としては、抽象的な権利制限にはもちろん反対です。しかし、私は、「柔軟な権利制限」は、デジタル分野での技術革新への対応と、著作物保護のぎりぎりのバランスを図っていると言いうるし、「権利者側がこれを蹴れば、今後もっと厳しい案が出てくる」と考えていました。権利者側とフェアユース派双方が不満で、「ともに一両損」のような案でしか着地できないだろうと思っていました。結局、「柔軟な権利制限」を盛り込んだ改正著作権法は、自民党の法案審査を通り、2018年5月に国会で成立しました。
一方、現在、生成AIの問題が起きています。改正著作権法では第30条の4(第1層利用)により、AIがネット上の新聞記事、画像などを無許諾で読み込んで「学習」することが認められています。しかし、近年、指示を入力すると、ただちに文章や絵を作り出す生成AIが普及し、権利者の利益と対立しています。改正法案の審議の際、私たちは、生成AIの出現を予測できていませんでした。そして、そもそも30条の4の「第1層利用」は、「権利者の利益を害さない」ことが大前提です。生成AIが著作権者の利益を害する事態は想定外であり、「論外」と言えます。権利者の貴重なコンテンツの価値と権利が損なわれる状況は解消されなければならないと考えます。
権利者に一方的な犠牲を強いるような十数年来のフェアユース的な要求に、権利者側が「権利を守れ」と対抗するのは当然です。しかし、それだけに終始していては、弱いのではと私は思います。繰り返し攻められ、いずれ権利を守りきれなくなってしまうかもしれません。
そこで、それだけではなく、権利者側が契約利用の「市場」を積極的に広げ、利用者が著作物をより使いやすい状況をつくっていかなければならないと思います。手前ミソですが、複製権センターのような著作権を管理する団体をより活用することが必要だと考えます。許諾の窓口を増やして、「許諾を得るって、こんなに簡単ですよ」と、利用者にアピールできれば、許諾権を奪おうとする試みのつけ入るすきをなくせます。今後、許諾権を守るためには、それしかないように思います。
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4月から連載してきました「新聞と著作権」は、今回が最後になります。新聞社の著作権管理の仕事は「秘密保持」を求められるケースが多いこともあり、これまでほとんど書かれたことがありませんでした。しかし、担当者は、社内での規定作りや授業目的公衆送信補償金等管理協会(サートラス)などへの運営参加、各部署からの相談への回答など、さまざまな問題に日々、悩みつつ、対応しています。そうした様子を少しでも分かっていただけたらと思い、書いてきました。お読みいただき、また、時折激励までいただいて、たいへんありがとうございました。
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【2】2024年1月24日開催 オンライン著作権講座のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)本日受付開始!
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催にて著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権」と「キャラクターと著作権」について講演予定です。
★開催要項★
日 時 :2024年1月24日(水) 10:00~15:20 (予定)
会 場 :オンライン (Google Meet)
定 員 :200名
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学
★ 詳しくはこちらから ★
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