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JRRCマガジン No.346 2023/11/24
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その8
【2】【12/15開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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皆さま、こんにちは。
秋晴れの爽やかな日がつづいております。
みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。
福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/
◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その8━━
『権利制限』について考える 上
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福井 明
この欄で取り上げた「引用」や「時事の事件の報道のための利用」は「権利制限」規定と言われます。利用者側が一定の条件を満たした場合、著作(権)者の権利が及ぶのをブロックし、例外的に無許諾で利用できるようにすることです。こうした規定は、他にも多くあります。報道関係以外の権利制限規定も新聞社には深い関係があるので、2回に分けて記したいと思います。
まず、この「権利制限」という言葉ですが、「分かりにくい」という声をよく聞きます。「利用者が無許諾で使えることなのに、それを『制限』というから、混乱する」という訳です。ある友人は「利用者目線の言葉ではない」と、憤慨します。
これは著作権法の構造がそうなっているからです。同法は、第21条から28条までで、複製権や演奏権、公衆送信権、翻案権などと、さまざまな権利を列挙し、それらを「著作者が専有する」と記します。著作者の権利は、ことのほか強いと表明している訳です。一方、同法は「公正な利用に留意する」ことも目的にしています。このため、私的使用、学校の授業での複製や公衆送信、営利を目的としない上演、公開の美術著作物の利用などと特定の分野で、例外的に著作(権)者の強い権利を制限し、「著作物を無許諾で●●できる」という規定を設けています。こうした権利制限規定は第30条から49条までと、権利の規定よりずっと多く、しかも、その内容、範囲は、度重なる著作権法改正で拡大されています。
今回は、近年の法改正で導入が相次いだ「補償金付き権利制限」に焦点をあてたいと思います。学校の授業で先生が文章や写真などのデジタルコンテンツを教材として生徒らに送信したりネット上で共有したりすることが無許諾でできる一方、学校設置者が著作権者に補償金を支払う制度(2018年改正)と、図書館が利用者に著作物の一部をメールなどで送信でき、利用者が補償金を支払う制度(21年改正)です。私はともに、新聞協会著作権小委員会の正副委員長・幹事としてこれらの制度化に審議段階からかかわりました。
「えっ、そんな仕組みなんですか!そんなこと、できるんですか?」。文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会が教育での補償金付き権利制限の議論を本格化させた2016年、小委員会の後、会場で傍聴していた新聞各社の知財担当者が同小委事務局の文化庁著作権課幹部を囲んだ際、その幹部の発言にすごく驚きました。ある社の担当者が「この補償金は、文科省が各学校に補助金を出し、各学校がそれを基に権利者の徴収団体に支払うのですよね?」と尋ねたところ、この幹部が「いえ、そうではありません。権利者がつくる補償金請求団体が全国の学校とそれぞれ契約して、受け取ります」と答えたからです。
この制度は、小学校、中学校、高校、大学だけでなく、専修学校や防衛大学校、保育所、公民館などの社会教育施設も対象になります。全国の学校の数は、小中学校、高校、大学だけで計約3万5000!補償金請求団体に一体何人の職員がいたら、これだけの学校と交渉し、契約を結べるのか。制度のスタート時、この団体には1円の収入もないのに、職員人件費を含む運営経費はだれがどう負担するのか。ぼう然としました。帰社して、このことを社の幹部に伝えたら、「そんな制度、無理なんじゃないの」の一言でした。
しかし、著作物の「利用料」が一括して公衆送信利用を可能にする「補償金」にかわる、まったく新しい制度作りを、権利者側が「できっこない」と言ってはいられません。2016年12月、文藝家協会、写真著作権協会、美術著作権連合、書籍出版協会、学術著作権協会、JASRAC、新聞協会など37の権利者団体が「教育分野での著作物の円滑な利用と著作権者の権利保護を両立させる制度設計が必要。権利者団体が一致して制度の受け皿作りを図る」として「教育利用に関する著作権等管理協議会」を発足させました。今の「授業目的公衆送信補償金等管理協会(サートラス)」の前身です。座長は、写真家であり日本複製権センター副理事長(当時)で、2022年に急逝された瀬尾太一さんでした。
文化審議会の同小委員会が教材公衆送信補償金制度を正式に提言したのが2017年2月、改正著作権法の成立が18年5月、サートラスの発足が19年1月でした。権利者団体の制度作りの取り組みはきわめて早い段階から始まったのです。
私は、この協議会の幹事、さらにサートラスの理事に、今春まで就いていました。権利者側の仕事、業務は、多岐にわたり、すごく多くて大変でした。図書館公衆送信制度の場合も大筋同じなので、ここでは教材公衆送信制度を対象に、そうした仕事などを記します(協議会時代とサートラスを通じてのものです)。
◆まず、補償金を請求し、受け取る指定管理団体の立ち上げ資金です。収入は何もないのに、専従の職員を雇用し、事務所を設けなければなりません。サートラスの場合、相当な額が必要で、各権利者団体が分担して拠出しました。
◆補償金額を決めなければなりません。教育団体側は当然、安くするよう求めます。権利者側としては利用料の「代償」ですから、それほど安くはできません。また、額は文化庁の認可を受けるので、どうしてその額なのか「根拠」を説明しなければなりません。数年間議論し、最後は権利者側が譲歩(各校種の額の一律引き下げ)をして決めました。
◆制度運用のガイドラインを作りました。教材のどういう利用が補償金の対象になるのか、著作権者の利益を不当に害する場合とはどのようなケースかなどを現場の先生方が理解しやすいようまとめる必要がありました。権利者側と教育団体、有識者で「関係者フォーラム」という団体をつくり、活発な意見交換をして「運用指針」を作成しました。
◆補償金分配のための著作物の利用実態を把握する調査を設計し、分配のルール作りをしました。全教諭の著作物データ利用結果を把握できれば完璧ですが、それは不可能です。このため、サンプル調査にならざるをえません。学校の種別や地域性などを考慮し、より有為な調査になるようにしました。また、サートラスの収入見通しは約50億円(23年度「事業計画」)、分配額は約34億円(同)と巨額です。補償金の分配ルール作りは、この制度の「生命線」といえます。専門の委員会や理事会で激しい議論を重ね、分配規程をまとめました。さらに「利用報告」の点検もあります。例えば「毎日新聞の写真を使った」とあっても、古い新聞の場合、社のデータベースの記述が不明確で、社の職務著作か、外部からの提供かを調べ、補償金を受け取る著作権者を特定するのに、かなりの手間がかかったりします。
◆さらに共通目的事業があります。改正著作権法は補償金収入の一定割合を「著作権の保護事業、著作物の創作振興に役立つ事業にあてる」と決めています。このため、サートラスが広く事業を募り、委員会で厳密に審査しています。23年度は55の助成事業を決定しました。
教育のICT化(デジタル化)は時代のすう勢であり、また、学校で新聞記事など多くの著作物が教材として使われることは歓迎します。図書館公衆送信も利用者の「知」へのアプローチを容易にする意味があります。権利者としてはもちろん「許諾」が原則ですが、利用者がより利用しやすくなるよう「権利制限」の範囲を広め、その代償として利用者が補償金を支払うという制度は、公益性が高い分野でならありうると思います。しかし、この制度は、現状では権利者側の負担があまりに大きいと考えます。作るだけでなく、見直し作業も必要です。2016年以降、私の1年間の仕事の3分の1程度は、協議会やサートラス関係だったように思います。「補償金を受け取るのは権利者だから」との声もあるでしょう。しかし、権利者側がずっと膨大な労力を負担するという状況は、やはり問題ではないでしょうか。現実的な負担軽減策が必要だと思います。
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【2】【12/15開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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この度、日本複製権センターは主に官公庁の方を対象とした、「官公庁向け著作権セミナー」を開催いたします。第3回開催のテーマは『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』です。
著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。なお、本セミナーは官公庁の方に限らずどなた様でもご参加いただけますので、多くの皆様のご応募をお待ちしております。
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会 場 :オンライン (Zoom)
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主 催 :公益社団法人日本複製権センター
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★ 詳しくはこちらから ★
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