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JRRCマガジン No.325 2023/6/22
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その3
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皆さま、こんにちは。
梅雨明けが待ち遠しい毎日です。
いかがお過ごしでしょうか。
さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。
福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/
◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その3━━
権利の根幹『職務著作』
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福井 明
これまで、この欄で「新聞社は記事、写真の著作権者」と記しました。これは言うまでもなく、著作権法に「法人の発意に基づき業務に従事する者が職務上作成する著作物で、法人名義で公表するものの著作者は、その法人とする」(第15条)という「職務著作」の規定があり、新聞の記事、写真は、この典型例とみなされているからです。今回は、新聞社の著作権の根幹である「職務著作」について記したいと思います。
「自然人」ではなく、組織である「法人」を著作者とするこの条文についてはこれまで、著作権法学者の間で多くの意見が交わされてきました。精神も肉体も有しない法人が著作者人格権を持つことについては「制約されうる」という考え方がなおありますが、財産権に関しては、「著作物の利用・流通のためにやむをえない」という消極論を含め、広く認められているように思います。
実際、新聞社の場合、記者が記事を書き上げる行為には記者の創作性を認めうるとしても、▼記者は会社から給与や取材費を得て、業務として取材し、記事を書いている▼自社の新聞やニュースサイトに載せることを目的としている▼記事の評価や責任は新聞社が負うーーことから、記事、写真を新聞社の著作物とするのは妥当と考えます。
もし、記事が職務著作ではなく、個々の記者が著作権を持つとしたら、どうなるでしょうか。日本の今の新聞作りは、かなり難しくなります。新聞社の政治部、社会部の場合、記者が書いた原稿は、キャップ(取材グループの責任者)に出され、それから本社のデスク(副部長)に送られます。キャップも、デスクも、原稿がより読みやすくなるようにと、普通、手を入れます。デスクによっては、自らの「美意識」や「リズム」を大事にし、原稿を大幅に書き換える人もいます。加えて、各記事のニュース性を判断して、紙面をつくる内勤記者(かつては整理記者と言いました)が、紙面事情のために出稿された記事の後ろ半分を削るということもあります。
記者個人が著作権者なら、これらの行為は翻案であり、同一性保持権の侵害といえます。キャップやデスクは記者の同意がないと、原稿にまったく手を入れられないことになってしまいます。書き換えたりできるのは、原稿(記事)が職務著作だからです。
私がかつて、毎日新聞の政治部にいたころ、ニュースをハコ囲みのやわらかい読み物ふうにまとめる「ハコもの記事」を中堅記者が出稿し、当日の担当デスクがこれをほぼ原形をとどめないまでに書き換えたことがありました。直された原稿を見せられた記者は、デスクに「ここまで人の原稿に手を入れる権利が、あなたにあるのか」と、くってかかっていました。職務著作とはいえ、記者には当然、表現や文章へのこだわりがあります。一方、デスクには「紙面に載せる記事を記者とデスクがともに仕上げる。よりいいものにする」という意識があります。新聞社の現場では日々、こうした「緊張関係」のもと、記事が作られています。
また、私が知財管理センター室長だったころ、ある県の支局長が「支局の記者が、地元のユニークなレストランの取材をし、店の写真付きで地域面に記事を載せた。そしたら、そのレストランから『この記事と写真を大きくコピーし、店内にはりたい』と言ってきた。取材を受けてくれた店だから、私がOKと回答した。いいですよね?!」と、問い合わせる電話をしてきました。
これは残念ながらOKではありません。支局の記者が書いたとはいえ、記事そして写真の著作権者は会社です。記事に記者の署名が載っていたとしても、何の関係もありません。支局長は、本社の許諾部門に電話し、許諾を得なければなりませんでした。
実は取材を受けた人たちから「記事をコピーして使いたい」という要請はすごく多くあります。かなり以前、私が支局の記者だったころは、そうした要請に支局が「新聞社のPRになる。いいですよ」と、勝手に無料で承諾していました。しかし、時代は変わり、コンプライアンスが重視されるようになりました。「手続き」が求められる訳です。このレストラン記事の件も、支局側が正規の手続きを踏み、本社の許諾部門に声をかけていれば、「取材に協力してもらったのだから」と、無料でのコピーが許諾されたのではと思います。
新聞社内で「記事は会社の著作物」に異論をはさむ人はいません。しかし、写真については時折、異論が出ます。
数年前、ある記者が会社の業務ではなく、休日に、私的に東日本大震災の被災地に行き、住民らの復興への取り組みを目にし、尋ねて歩きました。「従来から仕事ではなく、研究目的で休日に被災地に通い、地域の出来事や人の交流を観察している。今回の訪問も研究のため」とのことでした。しかし、訪問の10日後、この記者は毎日新聞朝刊に、被災地の人々のある取り組みをまとめる特集記事を載せ、ここに「私的な訪問」の際に撮った写真を掲載しました。そのうえで「写真は、紙面に載った以上、会社に著作権があるのは認める。しかし、そもそも業務で撮ったものではない。だから、私にも著作権がある。私が社外の論文などで自由に使う権利がある」と主張したのです。
確かに、会社は記者に業務出張の指示はしていませんし、交通費も出していません。しかし、私たち記者は入社時から「休みでもニュースになる現場に居合わせたら、写真を撮り、出稿するように」と教育されています。それは報道に携わる者として当然だと思っています。法的に言えば、この写真を職務著作とするポイントの「法人の発意」は、記者の入社直後からあると言えます。
この件については顧問弁護士事務所に見解を尋ねました。「法人の具体的な指示がなくても、従業員の著作物作成が予定、予期される限り,『法人等の発意』の要件を満たす、との知財高裁判決がある。今回は私的な訪問と、特集記事掲載が近接しており、『その写真の撮影は予定、予期されていた』と言いうる。したがって、職務著作と判断できる」とのことでした。
最後に、私のこのメールマガジン原稿は「職務著作」かどうかを考えてみます。職務著作の要件を、①法人の発意②(作成者が)業務に従事する者③業務で作成④法人名義で公表――と、改めて整理します。
私は、川瀬真・JRRC理事長から執筆の要請を受けました。そして、原稿はJRRCから公表されています。①と④については間違いなく要件を満たしています。次に、この原稿執筆が「シニア著作権アドバイザー」の私の業務かどうかです。マストの業務ではないでしょうが、広い意味では該当すると言いうるかと思います。最後に②です。JRRCの就業規則を読むと、私は「従業員」には当たらないとみられます。ただ、「業務に従事する者」ではあり、こちらも広い意味では該当するかもしれません。
一方、毎日新聞の友人は「あのメルマガ原稿は、毎日新聞社の職務著作では」と言います。実は私は今、毎日新聞のOBアルバイトもしており、毎日新聞社の従業員資格をまだ持っています。そして「法人の発意には『期待(福井なら最低限、毎月、何とかするだろう)』も含まれる。また、書いている内容は、毎日時代に業務で得た情報であり、『業務で作成』の延長上にある」と言うのです。ここまでは一定分からなくはないです。しかし、④をまったく満たしていません。したがって「毎日の職務著作」と言うのは無理があると思います。
結論的には「個人の著作物の余地はあるが、広い意味ではJRRCの職務著作と言えなくもない」というところでしょうか。
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