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JRRCマガジン No.266 2022/2/10
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◆今回の内容
【1】白鳥先生のアメリカ著作権法のABC Chapter 7
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みなさまこんにちは。
ご好評をいただきました「白鳥先生のアメリカ著作権法のABC」の連載は今回最終回となります。
初回に白鳥先生からコメントがありましたようにコーヒーや(渋い)日本茶でも片手にどうぞお楽しみください。
3月からは今村哲也明治大学教授にイギリスの著作権制度について解説していただきます。ご期待ください。
白鳥先生の連載はこちらから全てご確認いただけます。
⇒https://jrrc.or.jp/category/shirotori/
◆◇◆アメリカ著作権法のABC━━━━━━
Chapter 7. 著作権の侵害
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7.1 イントロダクション
早いもので、本連載も、最終回を迎えました。いわば、グランド・フィナーレ(「G」rand Finale)となる今回は、「著作権の侵害」を取り上げます。
著作権の侵害については、これまでも、法定損害賠償等と登録制度との関係(Chapter2)や、民事的救済と刑事罰の概要(Chapter3)について取り上げてまいりましたが、そもそもどのような場合に、著作権の侵害があるといえるのでしょうか。
この点、著作権の侵害判断基準については、日本法もアメリカ法も、制定法である著作権法に具体的な判断手法が書かれているわけではありません。
日本法の場合は、江差追分事件最高裁判決(平成13年6月28日民集55巻4号837頁)が有名ですね。同判決は、「翻案」(27条)について、①「依拠」と、②「表現上の本質的な特徴」(の同一性維持及び直接感得)を定義として示し、これが、著作権(複製権や翻案権等)の侵害判断基準として、広く機能しているとみることができます。
それでは、アメリカ法の場合はどうでしょうか?
今回は、条文には必ずしも出てこない、著作権の侵害判断の考え方について、取り上げてまいります!
7.2 直接侵害
(1)基本的な考え方
アメリカ法の下においては、一般に、①「コピー行為」と、②「不適切な盗用」の2つを満たすものが、著作権侵害と認められます。ここにいう「コピー行為」(①)とは、被告が、独自に創作したもの(independent creation)かどうかを見極めるための要素ですので、まさしく、「依拠」に関わる判断基準です。また、「不適切な盗用」(②)は、そのコピー行為が違法というべきものかを判断するものであり、「実質的類似性」の有無に着目します。
ただし、大枠はこうなのですが、その具体的な判断基準については、裁判所によって微妙に異なる面があります。その代表的な考え方として、第2巡回区と第9巡回区の考え方をご紹介します。
(2)第2巡回区控訴裁判所の考え方
上記の侵害判断基準は、第2巡回区控訴裁判所による判断基準そのものです。すなわち、著作権侵害を主張する者は、自らが著作権者であることのほか、①「コピー行為」(copying)と、②「不適切な盗用」(improper appropriation)を立証しなければなりません(Arnstein v. Porter, 154 U.S. 464 (2d Cir. 1946))。
まず、①の「コピー行為」(依拠性)については、直接証拠からそれが認定できない場合には、その判断のための間接事実として、被告による原告著作物への「アクセス」(access)の事実や、問題となっている著作物間の「類似性」(similarity)の有無に着目します。これは、専門的な観点から、分析的に比較・判断されます。
なお、ここにいう「類似性」判断は、あくまでも、依拠性を判断するためのものですので、「表現」の類似性に留まりません。すなわち、著作権で保護されない「アイデア」部分も含めて、判断の基礎となり得ます。この「類似性」は、「証拠的類似性」(probative similarity)とも呼ばれ、仮に「アクセス」の証拠がない場合には、「顕著な類似性」がなければ、「コピー行為」有りとは認められません。
それでは、逆に、「アクセスの証拠力が強い場合には、類似性は低くてもよい」ということになるのでしょうか。そのような考え方は、「逆比の法則」(The Inverse Ratio Rule)と呼ばれますが、第2巡回区では、かなり前から、否定されています(Arc Music Corp. v. Lee, 296 F.2d 186 (2d Cir. 1961))。
さて、①の「コピー行為」(依拠性)が認定されると、次に、「不適切な盗用」(②)の判断に移ります。こちらは、専門的・分析的な判断ではなく、一般的な観察者又は聴衆の立場から、「実質的類似性」(substantial similarity)の有無が判断されます。
(3)第9巡回区控訴裁判所の考え方
第9巡回区における侵害判断基準の考え方は、時期によって揺らぎが見られるのですが、現在はおおむね、次のような取扱いといえます(Skidmore v. Led Zeppelin, 952 F.3d 1051(9th Cir.2020)参照)。
まず、①「コピー行為」と、②「不法な盗用」(unlawful appropriation)の2つについて、判断します。この点は、第2巡回区とおおむね同じですが、第9巡回区では、さらに、②について、(a)外来的テスト(extrinsic test)と、(b)本来的テスト(intrinsic test)に分けて、実質的類似性の有無の判断を行うべきことが示されています。その際、両テスト(基準)による判断は、「アイデア」ではなく、「表現」要素に着目して行うものであることが明確にされています。
ここで、外来的テストと本来的テストの違いは、判断主体・手法の違いにあり、前者(外来的テスト)が専門的・分析的な判断を行うのに対し、後者(本来的テスト)は、通常の合理的な観察者による判断を行うとするものです。
なお、上記でご紹介した「逆比の法則」は、実は、第9巡回区では長年採用されてきました。しかし、基準としての不合理性(アクセスがあったとしても独自に創作したのであれば著作権侵害とはいえないはず)や不明確性(求められる類似性の実際の程度が不明確)等を踏まえ、第9巡回区も、同法則は不採用とするに至りました(上記Skidmore判決)。
「逆比の法則」は、本来、①についての考え方ですが、第9巡回区の裁判所は、「実質的類似性」(substantial similarity)という用語を、②とともに①の判断においても使用してきたことから、同法則は、②にも当てはまるのではないかとの誤解も生じてきたようです。
(4)日米比較+α
日本もアメリカも、著作権侵害については、①「依拠」とともに、②表現についての「類似性」の判断を行うという点で、共通性があるといえます。また、②は、日本法でいえば「表現上の本質的な特徴」、アメリカ法でいえば「不適切な盗用」の判断ということですが、いずれも、その判断主体としては、作品(著作物)が一般にターゲットとしている「観察者又は聴衆」(日本流にいえば「接する者」)が想定されているとみることができると思います。
なお、日本においては、「表現上の本質的な特徴」要件について、独自の意義を見出さず、単純に「創作的表現」と読み替えるべきとの見解も有力に主張されています。しかし、「表現上の本質的特徴」要件は、実質的にみて著作権侵害というべきではない利用を除外するために、日本の最高裁が絞り出した基準だという捉え方ができるのではないかと考えられます(拙稿「調整原理としての著作物概念-著作権の相対性と表現の自由-」横浜法学30巻3号(2022年)〈所収予定〉参照)。
7.3 間接侵害
物理的、自然的な意味で著作権侵害を行っていない者についても、著作権侵害の責任を問うことはできるでしょうか。
この点、日本では、良くも悪くも(?)「カラオケ法理」が有名です。これは、そのような者についても、規範的に評価し、直接侵害の責任を問う考え方です。これに対して、アメリカ法では、「間接侵害」に関する判例法理が発達しています。
これには、類型として2つがあり、そのうちの1つが、「代位責任」(vicarious liability)です。これは、監督をする権利と能力があり、かつ、その行為から経済的利益を直接得ている場合に成立します(Shapiro v. H. L. Green Co., 316 F.2d 304(2nd Cir.1963)等)。なんだか、日本の裁判例(最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁〔クラブキャッツアイ事件〕)における「カラオケ法理」の2要件を彷彿とさせますね。
もう1つは、「寄与侵害」(contributory infringement)です。これは、他者による侵害行為を積極的に誘引する場合や、他者による侵害行為があることを認識しながら教唆ほか重要な貢献を行った場合に、成立するものです。ただし、「実質的非侵害」(substantial noninfringement use)の使用に適した汎用品又は流通商品の販売は、寄与侵害とはならないとされています(Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417(1984))。
7.4 むすびに
さて、計7回にわたりお届けしてまいりました本連載、いかがでしたでしょうか。
これまでの連載では、「フェア・ユース」だけではないアメリカ著作権法について、その全体像を理解できるよう、日本法との対比も含めながら、ご紹介するように努めてまいりいました。
Chapter1でも申し上げましたが、外国法を学ぶことのメリットとして、自国の法についての理解が深まるということがあるように思います。本連載が、少しでも皆さまのお役に立つことがあるようでしたら、幸いに存じます。
…というわけで、これまで、アメリカ法を眺めてみる中で、今回改めて、「日本」の著作権法の全体像についてもしっかりと、しかしそんなに堅苦しくなく理解しておきたい! という気持ちも、ムクムクと沸き起こってきたりしませんか?
そのような皆さまに耳よりの情報がございます。
それは、『クスッと笑えて腑に落ちる 著作権法ガイダンス』という書籍の存在です。一般社団法人発明推進協会より、今月22日、すなわち、2022年2月22日という、2並びの日に刊行される本ですが、何を隠そう、著者はこの私です。所々にユーモアも交えつつ、著作権法の体系及び裁判例等を学べる内容となっておりますので、皆さまと、今度は本の中でお会いできますことを、楽しみにしております!
さて、本連載はこれでいよいよ締めくくりです。これまで、戯言も含めまして、温かくお付き合いをいただき、誠にありがとうございました。
「アメリカ著作権法のABC」としてスタートした本連載は、ここに、「アメリカ著作権法のABCDEFG」(アメリカ著作権法のAtoG)として完結することを宣言いたします!(完)
(横浜国立大学国際社会科学研究院准教授 白鳥綱重)
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