JRRCマガジン No.122 私的領域における著作物等の利用について(7)

川瀬真

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JRRCマガジン No.122  2017/12/8
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12月に入り大雪も過ぎ、一段と寒さが厳しくなる今日この頃。
皆さまお元気でお過ごしでしょうか?

さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「映画の盗撮の防止に関する法律」です。
近年 有料映画を楽しむツールはバラエティに富み、
一層手軽に楽しめるようになりました。
一方で、海賊版が後を絶ちません。
思い出の1つともなる映画、出会い方も大切にしたいですね。
川瀬先生に法的観点からお話しいただきました。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第20回「私的領域における著作物等の利用について(7)
            映画の盗撮の防止に関する法律」

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1 はじめに
「映画の盗撮の防止に関する法律」(盗撮防止法)は、
平成19(2007)年の通常国会で成立し、同年8月30日から施行
されています。
この法律は、超党派の議員立法で成立したもので、
著作権法にかかる特別法という位置付けです。この法律の内容
を簡単に言いますと、①映画館の中では「私的使用のための
複製(30条)」の適用がないこと、②私的使用目的で盗撮を
行ったとしても他の行為と異なり罰則の適用があることの2点
につきます。
それでは、盗撮防止法ができた背景及び経緯はどのようなもの
であったのでしょうか。

2 立法の背景・経緯
演奏会場や劇場では、コンサートや演劇の公演前に、演奏等の
録音・録画は作品や演奏家等の権利を守るためご遠慮ください
等のアナウンスがあるのが通常です。これは、公演の様子を
録音録画し、それをインターネットで配信したり、パッケージ
にして販売する等のいわゆる海賊行為を防止するために行われ
るのと同時に、周辺の観客の視聴の迷惑にならないための配慮
という意味もあると思われます。
このような「お願い」というのは、一般に主催者が有する施設
管理権に基づき行われていると考えられますが、このような
主催者の指示を無視して録音録画を行ったとしても、著作権の
制限規定である「私的使用のための複製」(30条)に該当すれ
ば著作権侵害にはならないことになります。
このことが大きな社会問題になったのが映画の盗撮問題です。
1980年代以降、映画館等で盗撮された映画の複製物が世の中に
出回るようになり、その後の機器のデジタル化・小型化及び
インターネットの普及により、違法な公衆送信が頻発するように
なりました。また、当時の映画関係者によると、封切り直後の
映画館内や封切り前の試写会で、映画館の従業員が話題の映画が
盗撮されていることを見つけその中止を求めると、撮影者は30条
で私的使用目的の複製は認められているので自分の行為は適法だ
と言い張り、映画館内の撮影は認めていないとする主催者側と
言い合いになる等他のお客さんの迷惑になったり、映画上映を
中断せざるを得なくなったりしてその対策に苦慮していたという
ことでした。
確かに映画の場合、音楽等の作品と異なり、映画の封切り前又は
封切り直後に、映画がネットに流出すると、これを視聴した多くの
人が映画館に足を運ばなくなり、ビジネスに大きな影響があると
考えられます。
映画関係者からは、その対策の一環として著作権法を改正して
映画館における撮影は違法であることを明確にしてほしいとの
要望が文化庁に出されました。ただ、よく考えてみると、映画を
インターネット等で公開することを目的として撮影することは、
そもそも私的使用目的とは言えませんので、撮影者の行為は違法
であることは明白です。また、万が一私的使用のためであった
としても映画館が施設管理権に基づき撮影を禁止している以上、
撮影者はその指示に従うのは当然のことです。また、このことは
演奏会場や劇場等における同様の行為においても同じことが
言えます。
したがって、仮にこの要望を踏まえ著作権法の改正を政府で行う
とすると、映画の盗撮は通常は違法なものですから、違法な行為
を違法にするという法改正は不可能なので、何のためにどの条文
をどのように改正するのかについて改めて整理する必要があります。
また、何故映画館だけを特別扱いするのかについても同様です。 
このようなことから、政府に著作権法の改正を求めるのは事実上
難しいと判断した映画業界は、自民党の知的財産戦略調査会に
相談をしたところ、この盗撮防止法が超党派の議員立法で成立
しました。

3 盗撮防止法の内容
(1)定義
まず、映画の撮影が行われる場所である「映画館等」の定義ですが、
「映画館その他不特定又は多数の者に対して映画の上映を行う会場
であって、当該映画の上映を主催する者によりその入場が管理され
ているものをいう」(2条2号)と定義されています。したがって
通常の映画館はもちろんのこと、上映設備が整っていれば多目的
ホールなども入場が主催者により管理されていれば映画館等に
含まれることになります。
次に「映画」の定義ですが、「映画館等において観衆から料金を
受けて上映が行われる映画」のことをいいますが、有料上映に先立
って行われる試写会で上映される映画もこの法律でいう「映画」に
含まれます(2条3号)。
さらに「盗撮」の定義ですが、映画の著作権者の許諾を得ない映画
の影像の録画及び音声の録音のことをいいます(2条3号)。

(2)著作権法の特例措置
映画の盗撮については、30条が適用されません(4条1項)。すなわち、
映画の盗撮行為は理由の如何を問わず、著作権侵害であり違法とな
ります。
また、これまで説明してきたように公衆の使用に供することを目的
として設置されている自動複製機器を用いて行う私的使用目的の複製
(著作権法30条1項1号)や技術的保護手段を回避して行う私的使用
目的の複製(同法30条1項2号)等は違法ではあるものの、個人の行為
は軽微なものとして罰則の適用はありませんでしたが(同法119条1項)、
映画の盗撮の場合は、仮に私的使用目的であっても罰則(10年以下の
懲役又は1000万円以下の罰金、又はこれらの併科)の適用があること
になりました(4条1項)。
なお、罰則の適用は、日本国内における最初の有料上映後8か月を経過
した映画については適用されません(4条2項)。この8か月というのは、
わが国における劇場公開期間はおおむね8か月以内であるという事実を
踏まえ設定されたようです。ただ、ここで注意すべきことは、確かに
旧作映画の盗撮であれば罰則の適用はありませんが、盗撮行為が違法
であることに変わりはありません。

(3)映画の盗撮防止措置の実施義務
映画関係者には、「映画の盗撮を防止するための措置を講ずるよう努め
なければならない」という努力義務が課されています(3条)。
映画好きの方は、映画館に入ると「NO MORE 映画泥棒」という
キャンペーン・ポスターを見たり、上映前にキャンペーン・CMが流れ
たりしているのに気が付いておられると思いますが、このようなことも
盗撮防止措置の一環で行われています。

4 おわりに
映画の盗撮は、この法律の制定を契機に激減したといわれています。
映画関係者の話では、30条の適用がなくなったおかげで盗撮者が言い訳
できなくなったこと、また悪質な者については直ぐに警察に通報できる
ことが大きな原因ではないかということでした。議員立法での解決に
ついては、この法律が盗撮に悩まされている映画業界の要望に応えて
映画館の中での利用行為に限定して対応したように他の分野との整合性
や理論構築の面であまり精緻に考える必要がなく柔軟に対応できる長所
があります。仮に政府提案の著作権法改正によりこの法律の内容が実現
できたとしても、文化審議会での検討、利害関係者との調整、法案審査
等でかなりの時間を要したのではないかというのが正直な感想です。

次回は、違法に公衆送信された著作物等を受信して行う録音録画に
関する改正(いわゆるダウンロード違法化)について解説します。

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