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JRRCマガジン No.115 2017/9/22
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気づけば虫の声も主役交代となり、一段と秋めいてまいりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「私的領域における著作物の利用について」の5回目。
私的録音録画補償金制度の見直し論について、
川瀬先生の見解をお話しくださいました。
◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━
第17回「私的領域における著作物等の利用について(5)
私的録音録画補償金制度③」
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4 私的録音録画補償金制度の見直しに関するいくつかの論点②
前回は、私的録音録画の現状を踏まえ、補償の必要性があるかどうかについて
私自身の考えを説明しましたが、技術的保護手段の導入やそれと契約システムの
組み合わせにより、補償を必要としない複製やその可能性を秘めた複製の存在が
あることが分かりました。しかし、一方では例えば音楽CDの音源を用いた複製
や放送番組の複製等のように複製に供する機器等の形態の変化や技術的保護手段
による複製等の規制はあるものの、補償金制度が導入されたときとあまり変わら
ない複製の実態があることも事実と考えられます。
(1)30条の適用範囲
技術的保護手段を回避して行う複製(30条1項2号)や違法な公衆送信を受信し
て行う録音録画(30条1項3号)のように私的領域で行われる複製であっても権利者
の許諾権を働かせる方が適当な利用方法については、30条の適用範囲を狭めてい
く必要があると考えます。30条の適用範囲をどうするのかについては、例えば
現在30条の対象となっている違法複製物からの複製を違法とするかどうかの問題
もあります。また、先述した技術的保護手段と契約の組み合わせにより権利者の
権利行使が可能な分野についても、権利者の権利行使を容易にするためには30条
の適用範囲外にした方がいいのかもしれません。いずれにしても、補償金問題を
検討するに当たっては、30条の適用範囲の問題は避けては通れない課題であると
考えます。
(2)検討の手順
このように30条の適用範囲の課題を解消したとしても権利制限の対象にしてお
く必要があり、かつ補償が必要な利用については何らかの補償措置を考えていく
ことが必要と考えます。また、その補償措置については、わが国では既に補償金
制度が導入されているわけですから、その制度の見直しをまず検討し、それで
対応できなければ更なる対応策を考えるという手順で検討するのが最も適切な
方法だと考えられます。
(3)補償金制度の見直し
このような点から、補償金制度の見直しを検討するに当たって、考慮すべき
いくつかの点を整理したいと考えます。
①現行補償金制度の欠陥
現行の補償金制度が機能していないのは、何度か述べたように専用録音・録画
機器と専用記録媒体を用いて録音録画したときに補償金請求権が発生するという
基本的な仕組みが現状と全く適合していないからです。最近はパソコン・スマート
フォンのように利用者が機能を選択する汎用機器、ハードデイスク内蔵型の機器
のような機器と記録媒体が一体化したものによる録音録画に加え、クラウドシステム
を使った録音録画も活用されており、録音録画の方法が劇的に変化しました。
したがって、現状を踏まえた上で新たな発想の下に制度設計が可能かどうか
検討をする必要があります。
②補償金の支払い義務者
制度設計に当たって、私自身は補償金の支払い義務者を誰にするかという問題
が解決されれば補償金制度の再構築は可能だと思っています。なお、この問題は、
現行法のように機器と記録媒体の製造業者等に補償金の支払いについて何らかの
義務を課すのかどうかという問題、と現行法のように支払い義務者が利用者でい
いのかの2つの問題が内包されています。
ア 補償金の支払いについて何らかの義務を課する者は誰かについて
パソコンやスマートフォンのような汎用機器の普及が進む中で、ますますソフトと
ハードの分離が進んでいます。パソコンについても、CD、DVD等の再生・複製の
機能がないものが多くなりました。購入時に録音録画の機能を内蔵している場合
は別にして、必要に応じて利用者自身が別途機器を購入したり、そのような機能
があるアプリを入手したりして録音録画を行うのが常態化しています。
すなわち、機器等の製造業者等に当該機器等を用いて行われる録音録画について
全ての責任を負わすのは理論的にも実際的にも困難ではないかと考えられます。
そこで提案ですが、ソフトとハードの分離が進む中、共通するのは録音録画の
ためのソフトウェアの存在です。録音録画ができる能力がある機器であっても、
ソフトウェアがインストールされていなければ実際には機器が機能しないと考え
れば、録音録画のためのソフトウェアの提供者に何らかの義務を負ってもらうのが
適当ではないかと思います。もちろん例えば機器の出荷時に既に録音録画ができる
状態になっている場合のように、機器の製造業者等が同時にソフトウェアの提供
者であれば義務を負ってもらうのは当然ですが、それは機器の製造業者等という
立場ではありません。また、この考えに基づけば記録媒体の製造業者等について
は原則義務の対象外になります。
②補償金の支払い義務者は利用者でいいのかについて
現行法の制度設計は、利用者が専用機器と専用記録媒体を用いて録音録画を
すれば当該利用者に対する補償金請求権が発生することになっているのですが、
これは利用者が専用機器等を購入すればほとんどの人は録音録画行為を行うと
いう蓋然性が前提となっています。しかしながら補償金制度を採用している
外国の制度を概観すると、先述したとおり日本のような構成を採用している国
はありません。わが国以外は録音・録画機器又は記録媒体の製造業者等です。
確かに現行法の制度設計は著作権法における著作物利用の原則に忠実である
という前向きの評価もありますが、この理論構成の前提条件は、専用機器又は
記録媒体の購入者のほとんどが録音録画を行うということです。
新たな現状を踏まえ制度設計を考えた場合、いわゆる記録媒体内蔵型の録音
録画専用機器しか存在しない場合は、これまでの論理構成でも問題ないと思います。
しかし、汎用機器やクラウドシステムについては、利用目的を消費者が選択する
こと、録音録画を可能にするソフトウェアは必ずしも録音録画専用でない場合も
あること(文章や写真等の複製にも利用できる)、また、購入時に当該ソフトウェア
が内蔵されていたとしても、汎用機器等の場合、当該機器を用いて録音録画が
行われる可能性は専用機器等よりは低いこと等を考えると、補償金の支払い義務者
は必ずしも利用者でなくてもいいと考えます。
5 まとめ
私的録音録画問題は,権利者、機器等の製造業者及び消費者という関係者の
合意の下にできた制度ですので、この関係者の足並みが揃わないと次の段階に
進めないという宿命を負っています。これまで文化審議会著作権分科会や関係者
の協議の場で学識経験者も交えて長い時間話し合いが行われてきましたが、未だ
関係者の合意形成に至らないというのも事実です。今後のことは分かりませんが、
これまでの経緯から合意の形成はそう簡単なことではないことは分かります。
しかしながら、相変わらず膨大な私的録音録画が行われているにもかかわらず、
補償の必要性がないという議論は理解しにくいものです。1970年の現行法制定時
と現在とでは私的録音録画の質も量も格段の差があるわけですので、制度もそれ
に応じて改善されていくのは当然のように思います。
補償金制度は、利用の自由を確保しつつ、権利者が被る不利益を金銭で補償
するという利用の円滑化と権利保護を同時に満たす有効な方法の一つと考えられ
ます。
最近、文化審議会著作権分科会では教育の情報化について議論が行われていま
したが、教育の情報化を円滑に実施するための権利制限は認めつつも、権利者の
被る不利益は補償金請求権の付与で調整し、当該権利の行使は集中管理方式の
採用で対応するという考えが示されております。私はこの考え方の基本は私的録
音録画補償金制度にあると考えておりますが、今後の権利制限の議論においては、
教育分野に限らず無許諾・有償により利用の円滑化を図るという制度的対応が
注目されると考えています。
以上の点から、私自身は私的録音録画の分野においても補償金制度を活用した
方法により解決することが一番いい方法ではないかと考えております。
次回は、技術的保護手段を回避して行う私的複製について解説します。
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編集責任者 JRRC代表理事 瀬尾 太一