JRRCマガジン No.111 私的領域における著作物等の利用について(4)

川瀬真

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JRRCマガジン No.111  2017/8/28
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強い日差しと共に八月の空が戻って来ました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?

さて、今回の「川瀬先生の著作権よもやま話」は、
「私的領域における著作物の利用について」の4回目。
前回に引き続き、
私的録音録画補償金制度についてお話しいただきました。

◆◇◆川瀬先生の著作権よもやま話━━━━━━━━

第16回「私的領域における著作物等の利用について(4)
            私的録音録画補償金制度②」

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4 私的録音録画補償金制度の見直しに関するいくつかの論点
 先述したように補償金制度は、制度導入後の新たな実態の変化等を踏まえ、
制度の見直しが検討されましたが、補償の必要性という入口の段階における
権利者、機器等の製造業者及び利用者にかかる関係者間の合意が得られず
に今日に至っています。そこで、ここからは補償の必要性と仮に制度設計す
るとすればどのような点に留意する必要があるかの2点について、私の考えを
整理してみたいと思います。

(1)補償の必要性
 私的録音録画により権利者は不利益を被っているのか、不利益があるとす
ればそれに対し何らかの補償の必要性があるのかという論点です。
 私的使用のための複製(30条)は、もともと「閉鎖的な範囲の利用であること」
と「零細な利用であること」の2つの理由から無許諾・無償の複製を認めたもの
です。また、その背景には、私的領域で行われる複製行為について権利者が
直接権利行使することは事実上困難であるとする現実的な要因もありました。
 その後の私的録音録画の実態を踏まえ、私的録音録画補償金制度の導入
が決定されたときの前提条件として、「私的録音録画は、総体として、その量
的側面からも、質的な側面からも、立法当時予定していたような実態を超えて
著作者等の利益を害している状態に至っている」ので、「著作者等の利益を保
護する必要性が生じている」という関係者間における合意の成立がありました
(著作権審議会第10小委員会報告書<平成3(1991)年>)。
 この背景には、そもそも著作権の制限規定というのは、本来権利が働く利用
について様々な理由から権利者の権利行使が強制的に制限されるので、権
利者の受忍限度を超えた複製等が行われる場合については補償措置も含め
た何らかの救済措置が必要であるとの考え方があるからです。
 上記の合意は、まさに当時における私的録音録画の実態を検証した結果、
権利制限の代償措置として補償金制度の導入を関係者全員が認めたことに
なったからだと考えられます。
 しかしながら、制度導入後の新たな利用形態として、技術的保護手段(複製
の回数等を規制する技術)の拡大やダウンロード型の配信サービスの普及が
あげられます。
 技術的保護手段は一般に権利者側の要請に基づき導入されるものですが、
権利者側が複製禁止を選択した場合は別にして、機器等の製造業者等や利
用者側から見ると、複製は認めるが複製回数を制限する選択をした場合まで
補償の必要性があるかどうかが問題になるところです。すなわち、これまでは
他人が行う複製を制御できなかったのに、技術的保護手段が導入され、権利
者側が自己の意思により複製の回数等を制限できるようになれば、当該複製
は権利者側の承認の下に行われることになるので、もはや補償の必要性は
ないという主張になります。しかしながら、権利者側からは、私的録音録画が
無許諾で行えることは、長い間著作権法で認められていることであり、劇映画
等のように1回でも複製されると権利者の利益に重大な影響を与える特殊な
著作物を除き、事実上複製禁止の選択はできないので、仮に技術的保護手
段が導入されたとしても、利用者の便を考えれば補償措置+複製回数等の制
限は選択肢としてあるとの反論がありうるところです。
 実務面を見ても、例えば現在地上波デジタル放送においては、10回までの
録画を認めるいわゆるダビング10(テン)という放送番組を録画する際の複製
回数制限が採用されていますが、この採用経緯を見ても、権利者側の主張が
そのまま採用されたわけではなく、利用者の録画行為に支障が出ない範囲の
仕組が望ましいとの条件を踏まえて採用されたものであり、そこには権利者側
の積極的な意思は反映されていません。
 そのようなことから、私自身は権利者側の意思が直接的に反映されない又
はできない技術的保護であれば、補償措置+複製回数等の制限は理論的に
ありうると考えています。
 なお、補償金制度を採用している諸外国でも、例えばドイツやフランスのよう
に補償金の額を定めるに当たっては技術的保護手段の程度を考慮するとし
(ドイツ著作権法54条a(1)、フランス知的所有権法典54条2項)、技術的保護
手段が導入され複製回数等が制限されたとしても補償の必要性はなくならな
いとしている国があります。
 ところで、ダウンロード型のネット配信のように権利者側、配信業者及び利
用者との契約、と技術的保護手段の組み合わせにより、利用者の複製に制
限を設けることができる場合についてどうかという問題があります。この場合、
上記のような地上波デジタル放送の場合とは異なり、ビジネスごとに例えば複
製回数について対価の権利者側の意思を直接的に反映できる可能性があり、
また消費者との個別契約の中で利用者から複製に対する対価を要求できる
可能性もあるからです。
 私自身は、ダウンロード型のネット配信のように通常配信業者と利用者の間
において契約が結ばれるものであり、その契約を通じて複製に関する対価の
徴収に関する取り決めができるような環境が整えば補償の必要性はなくなる
のではないかと考えています。
 以上こうしてみると、例えば劇映画のパッケージやストリーミング型のネット
配信のように技術的保護手段により録音録画ができない場合や利用者との
契約により複製の対価が徴収できるビジネスモデルによるダウンロード型の
ネット配信を除いて、音楽CD等のパッケージを用いた録音録画、放送番組の
録音録画、更には後日説明する違法サイトからの30条1項3号に該当しない
録音録画等、及びこれらにより作成した録音録画物を用いた複製については
補償の必要性があると考えます。最近話題になっているクラウド上の録音録
画についても同様と考えます。
 パッケージ販売については、年々その販売量や販売金額が低下傾向にあり
ますが、それでも例えば音楽CDについていえば、まだ2000億円程度の市場
があり、過去に販売された膨大な蓄積もあります。また、過去の実態調査にお
いても音楽CD等を音源とする複製がまだ相当数行われていることが明らか
になっています。
したがって、将来的に音楽CD等のパッケージソフトがなくなり、権利者の意思
が直接的に反映できる技術的保護手段により録音録画が制御され、対価の
徴収が可能な時代が来れば、補償の必要性はなくなると考えられますが、現
時点では放送番組の録音録画も含め補償の必要性はあると考えます。
 なお、購入した音楽CD等を用いて行うプレイスシフト(様々な環境で視聴す
るための録音録画)や放送からのタイムシフト(放送時間と別の時間に視聴
するための録音録画)については、権利者側が被る不利益が軽微であり補償
の必要性はないのではないかとの指摘があります。しかしながら、先述の第
10小委員会における関係者間の合意の際には、上記のような録音録画は最
も一般的な行為であったわけですので、私自身は改めて議論をする必要はな
いのではないかと考えています。
 
 次回は、今回説明できなかったもう一つの論点について解説します。

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 事務局からのお知らせ
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【メルマガに関するお詫びと訂正】

8月18日配信のJRRCマガジンNo.110のなかで、誤った記載がございました。
以下の通り訂正し、お詫び申し上げます。

57行目
誤)(略)、それを受けて事務局はJRRCと相談のうえ所定の使用料を支払ったとの報告を受けている。

正)(略)、それを受けて事務局はJASRACと相談のうえ所定の使用料を支払ったとの報告を受けている。

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