JRRCマガジン第43号(未承認国の著作権保護)

半田正夫

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   JRRCマガジン 半田正夫の著作権の泉
                 第31回「未承認国の著作権保護」
                                2016/1/7配信 第43号
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

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☆タイトルでお届けするコンテンツの内容がわかるタイトルに変更しました。
さらに、細かな変更を予定しています。
ご意見などございましたら、是非、お願いいたします!

JRRCマガジンリニューアル第1弾は、
好評の半田正夫の著作権の泉、
『第31回 未承認国の著作権保護』
をお送りいたします。

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半田正夫の著作権の泉 第31回 未承認国の著作権保護

かつてこんな事件があった。

 北朝鮮の行政機関が製作した映画を日本のテレビ会社が入手し、その一部を
ニュース番組で放映したところ、無断放映を理由に訴えられたというものである。
ニュース番組といえども映画の著作物として保護されるのがふつうである。
だが、いうまでもなく北朝鮮とわが国との間には国交はないのであるから、
わが国で保護する必要はないと一言で片付けられてしまいそうである。
しかしそうはいかないのである。

というのは、北朝鮮が2003年1月28日に著作権を保護する条約である
ベルヌ条約に加入書を寄託し、同条約は同年4月28日から北朝鮮につき効力が
生じているからである。同条約では、同盟国に対して自国民と同等の保護を
他の同盟国の国民にも与えることを義務づけており(同条約5条)、
これを承けてわが国著作権法は6条3号において、「条約によりわが国が保護の
義務を負う著作物」は「この法律による保護を受ける」と規定し、
さらに日本国憲法98条2項が「日本国が締結した条約及び確立した国際法規は、
これを誠実に順守することを必要とする。」と規定しているところからみると、
未承認国である北朝鮮の著作物もまたわが国で保護しなければならないように
見えるからである。

 ところが、最高裁は、わが国についてすでに効力が生じている多数国間条約に
未承認国が事後に加入した場合、当該条約に基づき締約国が負担する義務が
普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは別として、
一般に未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに
生ずると解することはできず、わが国は当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか
否かを選択することができるものと解するのが相当である、
との一般論をまず示したうえで、
①ベルヌ条約は、同条約3条(1)(a)(b)などから、同盟国という国家の枠組みを
前提として著作権の保護を図るものであって、普遍的価値を有する一般国際法上の
義務を締約国に負担させるものではないこと、
②北朝鮮がベルヌ条約に加入した際、同条約が北朝鮮について効力を生じた旨の告示が
行われていないこと、
③外務省や文部科学省は北朝鮮の国民の著作物につき、ベルヌ条約によりわが国が
同盟国の国民の著作物として保護する義務を負うものではないとの見解を採っていること、
を考慮し、わが国で保護する必要はないとの判断を示している
(最判平成23・12・8民集65巻8号275頁)。

 だが、①の普遍的価値を有する一般国際法上の義務とはなにかが不明確なうえに、
かりにこれを認めたとしても、これの有無によってベルヌ条約の適用いかんを
判断する材料とするには説得力が乏しいといえるし、
②の告示をしなければわが国で保護しないというのも勝手すぎる考え方であり、
③にいたってはお役所が勝手にそのような見解を採っているというだけで論外と
いえるように思われる。たしかに、北朝鮮では日本の著作物を保護していないで
あろうからわが国においても保護してあげないという趣旨は理解できる。
そうであるならば、そのような考え方を述べている規定をベルヌ条約のなかから
探し出すべきではなかろうか。どんぴしゃりの規定はないものの、
近いことを述べた規定は存在する。それは相互主義を定めた同条約7条(8)である。
これは保護期間について、わが国では死後50年保護しているので同条約に加入している
他国の国民についてもわが国では死後50年保護するのを原則とするが、
かりにその国が日本人の著作物を死後30年しか保護しないのであれば、
対抗上、わが国においても同国の国民の著作物は死後30年で保護を打ち切りにする
というものである。保護の期間についてはお互い様という考え方がここではとられている
のである。そうだとするならば、北朝鮮国内では日本の著作物についてはまったく保護
していないであろうから、わが国内においても北朝鮮の著作物についてはまったく保護
する必要はないということが可能となるのではなかろうか。
同上の規定をここまで押し広げるのはいささか強引すぎるきらいがあるかもしれないが、
判旨よりも説得力があるように感じられるがいかがなものであろうか。

 ISイスラミックステーツという、国家かどうかはっきりしないものが登場してくるよう
になった昨今、ひとり北朝鮮だけの問題だけではないように思われたので取り上げた次第
である。

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