半田正夫の著作権の泉
~第25回 藤田嗣治の絵~
フランスを中心に戦前から戦後にかけて活躍した画家藤田嗣治(フランス名 レオナール・フジタ)の半生を描いた日仏合作映画「FOUJITA」が今秋上映されるとのことで、彼は再び脚光を浴びることになりそうだ。彼の描いた「乳白色の肌」と称される独特の技法による裸婦像はヨーロッパにおいて高く評価されたそうであるが、日本国内においては不遇であったようである。それは彼の奔放な女性関係と言動が当時のわが国の風土と相いれなかったうえ、恩師である黒田清輝の印象派に反逆して独自の画風を確立したことが批判の対象となり、さらに加えて、戦時中に描いた「アッツ島玉砕」「ハルハ河戦闘図」などの作品により戦争協力者との烙印を押され、わが国の美術界から弾劾を受けたことによる。このことから彼は日本に失望し、昭和24年フランスに渡り、やがて日本国籍を捨てフランスに帰化するに至るのである。
彼の作品をめぐっては著作権法上いくつかのトラブルが発生している。
【その1】
某出版社は「原色現代日本の美術」全19巻を刊行するにあたり、そのうちの1巻を関東大震災から太平洋戦争までの間における日本人画家による主観的な写実あるいはフォービズムの流れに立つ洋画を対象とした巻に当てることにし、その場合に欠くことのできない作品である藤田の絵画を鑑賞図版として載せたいと考え、著作権の承継人である藤田夫人に複製の許諾を求めたが夫人の拒絶にあったため、窮余の一策として、同書に載せるA執筆の論文「近代洋画の展開」のなかに補足図版として挿入すればA論文における引用として扱われ、著作権者の許諾は不要であると考え、夫人に無断で補足図版として掲載した。そのことを知った夫人は烈火のごとく怒り、出版社を相手取り、同書の出版差止めと損害賠償を求めて訴えを提起した。この事件において東京地裁は引用に当たらないとしたうえで藤田夫人の全面勝訴の判決を下している。
【その2】
某社はレオナール・フジタ展を開催するにあたり、展示中の絵画を複製し、それに解説を加えた本を作って会場内において1冊1900円で販売した。この本は縦横ともに24センチ、紙質はアート紙、金色の装丁を施した140頁にも及ぶ豪華本で、そこには展覧会に出品されている藤田の絵画百数十点が複製されていた。この展覧会には藤田夫人がにせものと断ずる絵画が含まれていたため、夫人は展覧会の開催について協力を断っていた。しかし、展覧会そのものは絵画の所有者の許しがあれば開けることになっていたため、展覧会の開催を阻止することはできなかったが、作品の複製・販売については著作権者の許諾が必要であった。そのことを知った夫人は、本として複製・出版することは許諾していないとして本の販売差止めと損害賠償を求めて訴えを提起した。これに対して訴えられた某社は、この本は展覧会の観覧者のために作品の解説または紹介をすることを目的とした小冊子であり、これは著作権法47条によって許された行為であると争った。著作権法47条はたしかに、絵画や写真を適法に展示する者は、「観覧者のために作品の解説または紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる」と規定しているが、前記のような本がこの「小冊子」に該当するかが争われることになったのである。この事件を処理した東京地裁は、47条は展覧会の観覧者の鑑賞を助けるために解説・紹介したカタログ等に展示作品を掲載するのが通常であるという実態から許容するものであるから、観賞用として市場において取引される豪華本や画集はこれに当たらないとして、藤田夫人勝訴の判決を下している。
以上2件の例からも明らかなように、藤田夫人のいっさいの妥協を許さない強靭な姿勢をうかがうことができるが、そこには石もて追われるごとく日本を去らざるをえなかった藤田夫妻の日本画壇に対する強烈な不信の念と深い怨念のほどを読み取ることができるようである。
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山本隆司弁護士の著作権談義
~第33回 米国著作権局報告書~
米国でのグーグルブックサーチ訴訟以来、世界各国では、著作権者から個別に許諾を取ることの困難な「孤児著作物(orphan works)」への対処に様々の立法的対応を試みてきました。米国著作権局は、2015年6月4日に、「孤児著作物と大量デジタル化(Orphan Works and Mass Digitazation)」に関する著作権局長報告書を公表しました。
この報告書では、孤児著作物への対応策と大量デジタル化への対応策を分けています。孤児著作物への対応策としては、その著作物の利用に対しては著作権侵害責任を制限する立法を提案しています。また、大量デジタル化への対応策としては、欧州諸国で採用されている拡大集中許諾制度の実験的導入を提案しています。
著作権侵害に対しては、米国でも、日本と同様に、損害賠償請求と差し止め請求が認められています。損害賠償請求としては、日本では現実損害の賠償しか認められませんが、米国では侵害者の得た利益を(著作権者の受けた現実損害を超えて)吐き出させる利益賠償や、法定賠償が認められています。「孤児著作物」の侵害については、許諾料相当額の賠償のみを認め、差し止め請求その他を制限する制度を提案しています。
ただし、「孤児著作物」の侵害として、この免責を受けるには、相当な調査を行ったが著作権者を見つけることができなかった善意の侵害者であることを要件としています。相当な調査として認められるためには、著作権登録を調査し、著作物の使用を著作権局に届けることのほか、著作権局長が定める手順による調査の実施等を必要としています。
他方、大量デジタル化の問題は、著作権者を調査して個別に許諾を取ることが可能であっても、その取引費用が多額にのぼるために、許諾取得が零細な利用に見合わない場合への対応です。許諾料を支払って利用したいと思っている利用者は、この取引利用の負担の前に、利用を諦めてしまいます。いわゆる「市場の失敗」を生じています。これを解消する手段として、この報告書は、拡大集中許諾制度の試験的な導入を検討することを提案しています。
通常の集中管理制度は、著作権者が管理団体に管理委託をした場合(opt-in)にのみ、管理団体は著作物の管理権限を持ち、第三者にこれを許諾することができます。これに対して、拡大集中許諾制度は、一定の管理団体は著作権者が管理委託を辞退しない限り(opt-out)当然に許諾権限を持ち、第三者にこれを許諾することができます。拡大集中許諾制度においては、著作権者を調査して個別に許諾を取る場合の取引費用を掛けることなく、許諾料を支払って著作物を利用できます。また、著作権者も、当該管理団体に許諾料の分配を請求することができます。
この報告書は、試験的に、言語著作物のカテゴリー、言語著作物に付帯する絵画著作物のカテゴリー、および写真のカテゴリーについて、拡大集中許諾制度を実施することとし、それに必要な立法措置を執ることを提案しています。
日本でも、文化審議会著作権分科会において、拡大集中許諾制度の可能性を中長期的課題として検討すべきであるとの議論がありますが、いまだ検討の俎上に載せていません。しかし、国外で拡大集中許諾制度によって徴収された日本の孤児著作物に対する分配金を受け取るのは、日本において孤児著作物に対して管理権限を持つ管理団体になります。日本に拡大集中許諾制度がなければ、そのような団体が日本に存在しないことになります。欧州に続いて、米国でも拡大集中許諾制度が実施されることになれば、日本に拡大集中許諾制度が存在しないことによって、日本が失うものは無視し得ないものとなります。日本の国益を大きく損なうことを懸念する次第です。
以上
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JRRCなうでしょ 第25回
こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
梅雨が明けて一気に猛暑ですね。
家に帰ると食後に冷蔵庫から氷菓子を取り出していただくのが楽しみになりました。
また、冷えたビールがおいしい時期でもあります。
とは言え、あまり冷たいものを食べすぎておなかをこわさないよう注意しましょう。
熱中症にも気を付けた方がよさそうですね。
それでは7月号の最初のお知らせです。
先月もご案内しましたが、JRRCでは今年の10月から12月にかけて、契約企業・団体を対象にした複写利用実態調査を実施いたします。
これはご契約者様からお預かりした複写使用料を、著作権者に正確・公平に分配するために隔年行っている調査ですが、文化庁登録の著作権等管理事業者としても最も重要な事業の一つでもあります。
現在約300企業・団体に対し実態調査のご協力依頼をさせていただいておりますが、対象となられた企業・団体の皆様におかれましては、ぜひとも本調査の趣旨に鑑みましてご協力をよろしくお願いいたします。
なお、実態調査に関して得られた情報については、企業機密として取扱い、調査目的以外には使用いたしません。
以上複写利用実態調査への協力依頼のお知らせでした。
次は第7回JRRC著作権セミナー実施報告です。
7月14日(火)に恒例の第7回JRRC著作権セミナーを開催いたしました。
おかげさまで当日は約500名の方にご参加いただき,大変盛況裏に終了しました。
特に今回は、より実務的な観点で企業の著作権教育を取り上げたパネルディスカッションを開催し、川瀬理事による講演と合わせて好評をいただきました。
次回以降も皆様からのアンケートを参考に内容の充実したセミナーを開催する予定ですので是非ご期待ください。
次は第2回JRRC著作権基礎講座開催のご案内です。
開催日は8月28日(金)14:00‐17:00で会場は前回と同じくアイビーホール(青学会館)です。
受付を7月31日(金)からJRRCホームページで開始する予定ですのでもう少々お待ちください。
更に関西地区読者の皆さんへお知らせです。
これまで大変ご要望の多かった関西地区でのセミナーを次のとおり実施いたします。
1.名称:第3回JRRC著作権基礎講座 関西編
2.日時:10月21日(水)14:00-16:30
3.会場:大阪産業創造館6F会議室E (大阪市中央区本町1-4-5)
4.人数:100名
申込受付は9月中旬を予定していますが、関西編は大きめの会場を用意しましたので少し
前広に受付開始することを検討中です。
関西地区の読者の皆様は今から予定を入れておいてください。
詳細はホームページ及び次号8月号でご案内の予定です。
最後に今号で横浜国立大学客員教授の川瀬理事からのお知らせと言うことで、横浜国立大学成長戦略研究センターが主催する著作権セミナーをご案内していますが、特に音楽関係の興味のある内容のセミナーであるのと参加費が無料ですので,読者の皆様でお時間のある方は是非参加してみたらいかがでしょうか。
以上7月号JRRCなうでしょでした。