半田正夫の著作権の泉
~第28回 カラオケ法理とその文脈(2)~
そうこうするうちに平成11年に著作権法が改正され、前述の経過措置が廃止されて録音物の再生すべてに演奏権が及ぶこととなった。この結果、カラオケ営業が演奏権の対象となることについてはまったく争いの余地がなくなったのである。したがって、カラオケをめぐる法的論争も終焉をみた感があったが、どっこいカラオケ法理は生きていたのである。
次のような事件が発生したのである。
海外に赴任している駐在員や留学生の間には日本のテレビを見たいという人が急増し、これに応える形で日本のテレビ番組を海外在住者向けに転送サービスをする業者が現れた。業者の行った仕組みは、「ロクラクⅡ」と称する親機と子機とがセットになった送受信装置を海外にいる利用者に貸し出すものであるが、親機は業者が日本国内に設置してネット回線に接続、子機は海外にいる利用者が自分の手元に置いて、これをリモートコントロールして親機で録画したテレビの画像を転送するというものであった。この事件においては録画している者はだれか問題になったのである。リモートコントロールとはいえ利用者がみずから子機を操作して親機に録画させ、それを転送しているだけととらえるならば、複製の主体は利用者ということになり、それは私的複製の範囲に属することになるので、著作権侵害は成立しないことになる。そして業者はそのような環境を提供しただけなので、業者も著作権侵害をしていないことになる。これに対し、サービスの目的、機器の設置・管理、親機と子機の通信の管理、複製のための環境設備、業者が得ているであろう経済的利益などを総合的に考慮すると、業者を複製の主体とみることもできる。原審では前者の考え方を採用したのに対し、最高裁はこれを覆し、「放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者が、その管理・支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該複製機器に録画の指示がなされると放送番組の複製が自動的に行われる場合には、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。」と判示して、原審に差戻している(最判平成23・1・20民集65巻1号399頁)。この判決は、サービス提供者は単に複製を容易にする環境を整備しているだけでなく、その管理・支配下において放送番組の複製の実現における枢要な行為をしており、この行為がなければ利用者が録画の指示をしても、放送番組の複製をすることは不可能であったという点に着目してサービス提供業者を複製の主体と判断したもので、カラオケ法理と同じ文脈に立った判決といえるのである。
このようなカラオケ法理的な考え方が是認されるならば、これはさらにほかの方面においても応用される可能性が出てくるように思われる。思いつくままに二三例をあげよう。インターネットカフェにおいて利用者が違法に配信されている音楽や映像作品をダウンロードする場合のカフェ経営者の責任、ホテルなどが宿泊客のサービスとして客室内に設置していたインターネット接続施設を客が利用して同上の行為を行った場合のホテル経営者の責任、さらにはコンビニなどに設置されている複写機を使って店を訪れた客が書籍などをコピーした場合の経営者の責任などである。いずれも経営者の管理・支配下において複製が行われており、経営者がそのようなサービスを提供することによって利益をあげている点では共通であるからである。最後のケースは現在のところ著作権法附則5条の2によって個人としての複製者については複製権の侵害が適用されないが、カラオケ法理のように設備を設置している経営者が複製の主体だとすると私的複製から外れるので複製権の侵害が現実化してくるように思われる。とすれば附則5条の2が存在する現段階でも店の経営者に対する使用料の請求が可能であるように思われるが、はたしてどうであろうか。
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山本隆司弁護士の著作権談義
~第36回 米国著作権局~
アメリカの著作権局は、行政府ではなく、立法府に属しています。いま、著作権局を立法府から分離して、独立行政庁に組織替えする動きが出ています。
アメリカの著作権局は、連邦議会に属する連邦議会図書館の一部局です。著作権局の主な仕事である著作権登録は、1897年までは、各連邦地方裁判所で行われていました。1897年に連邦議会図書館内に著作権局を創設し、これに著作権登録業務を移したのが、現在の著作権局の起源です。
著作権局は、連邦議会図書館の一部局なので、図書館長(Librarian)が著作権局長(Register of Copyrights)を任意に任免することができます。著作権局には、約450名の職員がいます。
アメリカの著作権局の中心的業務は、著作権登録の申請に対する審査・登録手続と、日本の著作権登録に相当する著作権譲渡証書の登録手続です。これらの業務は、著作権法の執行業務であるという意味では行政事務です。他方、それらの登録が訴訟要件であり、もともと裁判所が行っていたことからも明らかなとおり、司法事務とも見ることができます。さらに、著作権登録は連邦議会図書館への納本制度と結びつけられたことに着目すれば、現行法がそうであるように、立法事務とも見ることができます。
アメリカの著作権局の業務は、日本の文化庁著作権課・国際課と同様に、多岐にわたっています。立法府の機関らしく、連邦議会の求めに応じて、著作権立法に協力し、著作権制度に関する調査研究を行っています。たとえば、2015年6月4日の「孤児著作物と大量デジタル化(Orphan Works and Mass Digitization)」に関する報告書があります。また、著作権法に基づいて規則制定権限が与えられており、準立法作用を行っています。
また、著作権局は、立法府に属しながらも、間接的ですが、行政府の行う国際条約の交渉にも関与しています。
さらに、著作権に関する強制許諾について著作権使用料を決定する作業を行っています。その著作権使用料の争いを裁く著作権使用料審判官は、著作権局には属しませんが、連邦議会図書館の他の一部局です。著作権使用料審判官の業務は、準司法作用です。
以上のように、アメリカの著作権局は著作権法制の中心官庁として業務範囲を広げており、連邦議会図書館の一部局であることや立法府に属することに疑問が持たれてきています。もはや行政機関以外の何者でもないとも言われています。
このような背景の下に、連邦議会下院司法委員会が2015年4月29日に開催した公聴会において、著作権局長Maria A. Pallante女史は、著作権局の機構改革として、著作権局を、大統領が直接著作権局長を任命する独立行政庁とするよう提案しました。この公聴会では、過去2年間にわたる著作権制度改革のための一連の公聴会の締めくくりとして、著作権局長から著作権制度の改革ポイントを聴取するものでしたが、質疑の大半は著作権局の機構改革に集中しました。なお、この公聴会の日は安倍首相の連邦議会演説に重なっていました。公聴会の議事録から、安倍首相の演説の間、公聴会が中断した様子が分かります。
以上のとおり、著作権局の機構改革が著作権法の改正作業のアジェンダに載りました。著作権局が独立行政庁となるか、特許商標庁と同様に商務省に属することになるかは別にして、行政官庁としての立場を与えられれば、国際条約の交渉をはじめとして、積極的に著作権行政に乗り出してくることが予想されます。
以上
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JRRCなうでしょ 第27回
こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
北海道はもう初雪が降りましたね。
段々と木々の葉も色づいてきて紅葉の季節となってきました。
これからはコートが必要になってきましたね。
読者の皆さんも薄着で風邪を引かないようご注意ください。
それでは10月号JRRCなうでしょの最初のお知らせです。
先週21日(水)に、大阪産業創造館で関西地区初開催のJRRC企業・団体のための著作権基礎講座を開催いたました。
会場のキャパシティを東京会場の2倍の100名に増員して開催しましたが、おかげさまで当日はほぼ満席となり、関西地区の読者の皆様の著作権に対する意識の高さを裏付ける結果となりました。
また、今回は関西地区独自の企画として、基礎講座終了後に相談コーナーを設置し、参加者が気軽に契約や著作権について相談できるようにしたところ、10名以上の参加者の皆さんからご利用いただきました。
このため、今後は東京地区においても講座終了後に相談コーナーを設け、気軽に相談できる機会を用意しようと考えています。
内容についても今年度は、著作権の初心者を対象とした基礎講座を開催していますが、参加者のアンケートからは実務者向けの講座も開催して欲しいとの要望も強いことから、今後は実務者のための講座の開催も検討したいと考えています。
このように、JRRCといたしましてはより読者の皆様のご要望を取り入れた形で著作権の啓発活動を実施していくつもりですので、今後もご意見・ご要望がありましたらご遠慮なくどしどし事務局宛にご連絡ください。
次回関西地区講座は、2016年3月7日(月)14時から同じく大阪産業創造館での開催を予定しています。
詳細につきましては来年1月頃にメルマガ及びJRRCホームページでご案内予定ですので
今しばらくお待ちください。
次に著作物実態調査のご案内です。
只今、JRRCでは契約者の皆様から頂いた著作権使用料を、権利者に正確・適正に分配するための基礎資料となる著作物実態調査を実施中です。
調査実施対象となられた契約者様にはご足労をおかけしますが、JRRCにとりまして権利者から利用者の皆様が自由に著作物の複製ができる許諾をいただく代わりに、権利者に対し正確・適正な分配を行うことをお約束しており、そのための基礎資料となる調査です。
どうぞご協力のほどよろしくお願いいたします。
以上10月号JRRCなうでしょでした。