JRRCマガジン第58号(表現の自由と著作権)

山本隆司

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   JRRCマガジン No.58 

山本隆司弁護士の著作権談義
第43回「表現の自由と著作権」

                                   2016/5/19配信
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皆様、こんにちは。
JRRCメルマガ担当です。

いよいよ沖縄・奄美地方では梅雨入りしたとのこと。
梅雨前線が本州をおおうのもあとわずかですね。
季節が巡るのが早いな~と思う今日この頃です。

それでは、
山本隆司弁護士の著作権談義
第43回「表現の自由と著作権」
をお送りいたします。

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山本隆司弁護士の著作権談義 
第43回 「表現の自由と著作権」
                               
 思想・感情に「不可避な」表現には創作性が認められませんが、同様に、「ありふれた」
表現にも創作性は認められません。「ありふれた」表現とは、TrippTrapp 事件・知財高裁
平成27年4月14日判決のように、創作の時点で世の中に広く存在するという意味(独
立概念)でしょうか。それとも、システムサイエンス事件・東京高裁平成元年6月20日決定
のように、思想・感情の表現としてありふれているという意味(関係概念)でしょうか。
東大名誉教授の中山信弘先生が創作性の概念として複数の表現方法があることと主張
された頃から、独立概念としての「ありふれた」表現が登場したように思えます。おそらく、
特許の進歩性の概念と親和性があるのでしょう。しかし、著作権法は、表現の自由との関
係において発展し、「ありふれた」表現の概念も思想・感情(アイデア)との関係概念とし
て重要性を持つものです。
 表現の自由(日本国憲法21条1項)がいかなる表現に対する規制をも禁止する意味で
あれば、表現に対する規制である著作権法は真正面から表現の自由に反することにな
ります。米国においてはこの点が深く議論されています。すなわち、表現の自由の重要
性は、自由な思想の流通によって民主主義を支えるという点にあります。表現の自由は、
いかなる表現をしてもいいという意味ではなく、思想感情を外部に伝達すること(自由な
思想の流通)の自由を保障するものです。他方、著作権は、その伝達のために取られた
特定の表現方法を規制するにとどまります。そのため、著作権と表現の自由とは概念的
に矛盾しない、と理解されています。
 ところが、著作権の保護が表現の自由を脅かす文脈がいくつかあります。そこで、それ
を回避するための概念が登場します。
 その第1は、アイデアと表現の二分法理です。著作権による表現の保護(著作者に対
する独占権の付与)が表現された思想や事実にまで及ぶとすれば、アイデアに対する
特定人の独占権が発生し、表現の自由の核心である、アイデアを他人に伝達すること
の自由が妨げられることになります。したがって、著作権制度においては、表現とアイデ
アを二分し(アイデアと表現の二分法理(Dichotomy of Idea/Expression))、著作権の保
護が及ぶのは表現のみであって、アイデアには著作権の保護が及ばないという原則(ア
イデア自由の原則)が必要となります。日本でも、江差追分事件・最判平成13年6月28
日は、この原則を確認しています。
 第2に、不可避・平凡な表現に対する創作性の否定です。アイデアと表現に緊密な関
係があって、特定のアイデアを伝達するには特定の表現方法にならざるを得ない場合
(アイデアと表現が不可分な関係にある場合やアイデアの表現として平凡である場合)
です。この場合には、アイデア自由の原則と著作権による表現の保護が抵触しますが、
表現の自由を貫徹するために、アイデア自由の原則が著作権による表現の保護に優
先し、著作権による当該表現の保護が否定される必要があります。
第3に、引用に対する権利制限の制度やフェア・ユースの制度です。自由な思想の流通
と自由な事実の伝達によって民主主義を支えるという表現の自由の目的から、真理を
探究し、事実を正確に伝達し、または他人のアイデアを批判批評するために他人の表
現を利用する必要がある場合には、表現の自由のために、表現の保護が制限される必
要があります。著作権法は,このような表現の自由の保護のために引用に対する著作
権の権利制限を設けています。
第4に、複製権ないし依拠性の概念です。特許発明は、まねした場合でなくても、当該特
許発明を実施すれば特許権侵害になります。同じように、自分のアイデアを自分の表現
で伝達したにもかかわらず、当該表現が他人の表現との偶然の一致によって他人の著
作権に抵触することがあれば、自由にアイデアを伝達することが妨げられることになっ
てしまいます。それゆえ、著作権は、他人の表現を複製することのみを規制し、偶然の
類似表現には及ばないこととされています。
以上のように、著作権法はすでに自己完結的に表現の自由の保護と著作権の保護との
調整を達成しています。ところが、TrippTrapp判決のように、ありふれた表現を、アイデア
との関係概念で捉えず、それから独立した独立概念として理解することは、ひいては表
現の自由に対する脅威を生ずるおそれがあります。
 以上

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■お問合せ窓口
   公益社団法人日本複製権センター(JRRC)
     ホームページの「お問合せ」ページからアクセスしてください。
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■編集責任者
   JRRC副理事長 瀬尾 太一   
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