JRRCマガジン第36号 連載記事

半田正夫の著作権の泉

~第24回 応用美術の著作物性~

応用美術とは、実用品に美術を応用したもの、あるいは、美術上の技法や感覚を実用品に応用したものであるといわれ、一般に、①絵画を屏風に仕立てたり版画をスマホの模様にするなど、純粋美術としてできたものを実用品に応用する場合、②絵画や彫刻等の純粋美術の技法を一品製作たる陶器や織物に応用した場合(これが美術工芸品といわれるものである)、③純粋美術の感覚や技法を機械生産品または大量生産品に応用した場合、④図案その他量産品のひな形または実用品の模様として純粋美術が利用される場合、などがこれに含まれていると解されている。
ところで、これらの応用美術が美術の著作物として著作権法で保護されるのか、あるいは意匠として意匠法で保護されるのか、が問題となる。現行著作権法では2条2項で美術の著作物に美術工芸品を含むと規定するのみで、それ以外の応用美術、特に商品のデザインが美術の著作物として著作権で保護されるのか、意匠法で保護されるにすぎないのか、あるいは両者の重複適用を認めるのか、少なくとも条文の文言上からは明確ではない。

この問題について判例は、これまで若干の例外はあるものの、美術の著作物として著作権法によって保護されるものを、一品製作の美術工芸品のみに限定するか、あるいはそれ以外の応用美術にまで及ぼすものの、それは客観的、外形的にみて純粋美術に匹敵するような美的創作性を有しているものに限るとするのが一般であったようである。要するに、実用性を捨象し、平均的一般人の立場から客観的にみた場合に美的鑑賞の対象となりうる場合に著作権法で保護し、その基準に達しない場合は意匠法の問題として扱おうとしているものと評価することができた。

ところが、このような判例の傾向に反省を迫る判決が最近現れたのである(知財高裁平成27年4月14日判決)。事案は、日本のベビーグッズを製造販売しているY社の幼児用椅子がノルウエ―のX会社の製品名「TRIPP TRAPP」と呼称する椅子と類似しているとのことで、著作権侵害その他で訴えられたという事件である。この事件において裁判所は、著作権法「2条2項は、『美術の著作物』の例示規定にすぎず、例示に係る『美術工芸品』に該当しない応用美術であっても、同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、『美術の著作物』として、同法上保護されるものと解すべきである。」と判示し、さらに応用美術に著作物性を認めるにあたって美的創作性を基準とすることについては、「『美的』という概念は、多分に主観的な評価に係るものであり、何をもって『美』ととらえるかについて個人差も大きく、客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することも困難な場合が多いから、判断基準になじみにくいものといえる。」として従来の判例の傾向に疑問を投げかけ、結論として、「応用美術につき、他の表現物と同様に、表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば、創作性があるものとして著作物性を認めても、一般社会における利用、実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは、考え難い。」と述べて、応用美術の著作物性を肯定している。この見解はかねてより私が主張している考え方と同一であり、きわめて妥当と評することができよう。

流行に敏感な服飾デザインの世界においては、すぐれたデザインがすぐ盗用され、意匠登録を待っていては流行遅れとなって対策が後手にまわってしまうことを考えるとき、創作と同時に権利が発生して盗用を抑えることのできる著作権で保護することがとくに重要といえるのではなかろうか。その意味で本判決を高く評価したいと考える。

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山本隆司弁護士の著作権談義

~第32回 応用美術~

先日(2015年4月14日)、知財高裁が応用美術の著作物性について、従来の解釈を転換する判断基準を示しました(イス事件)。この判断基準が今後の裁判例の主流となるのか注目されるところです。
この事件の原告らは、幼児用のイスをデザイン(横から見るとZ型であることが特徴)した会社とその独占的製造販売権を持つ会社です(いずれもスウェーデン法人)。被告は、少し似たデザイン(横から見るとZ型に、脚を付け足して下半分が三角形を構成する)の幼児用のイスを製造販売しました。原告らは、著作権侵害と不正競争防止法違反などで被告を訴えました。著作権侵害については、東京地裁は、原告製品に「実用的な機能を離れて見た場合に、美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えているとは認め難い」として、著作物性を否定しましたが、知財高裁は、原告製品に著作物性を認め、被告製品との類似性を否定しました。
実用品に含まれる美的表現に対して、美術の著作物をどのような要件で認めるかについては、いろいろな議論がありました。現行法の立法段階から論点になっていた意匠権と著作権の棲み分けをめぐって、実用品については、一品製作物ないし少量製作品しか著作物性を認めないという解釈もありました。しかし、裁判例は、数量的な基準を排除して、①純粋美術と同視しうる創作性・美術性があり、②実用性や機能性から独立して美的鑑賞の対象となりうることを要件とする裁判例が主流となっていますが、さらに③著名な画家による「高度の芸術性」を必要とする裁判例もあります。
他方、この事件の知財高裁は、意匠権と著作権の棲み分けのために特別の要件を課す必要はないとの前提に立っています。そして、以下のように、実用品の著作物性についても他の著作物と同じ基準で著作物性を認定すべきと、従前の議論から見ると画期的な判断を下しました。
「応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」
実用品の著作物性の問題は、著作権による保護から実用品の持つ実用性や機能性をどのようにして排除するかにあります。アメリカ著作権法では、意匠法の対象にも著作権の保護を認めつつ、実用性の表現から分離できない表現に対しては、著作権による保護を与えないというアプローチ(実用品の法理)を採っています。すなわち、米国著作権法101条は「実用品のデザインは、その物の実用性から識別されかつその実用性から独立する絵画、図形または彫刻の著作物としての特徴を有するときは、その限りにおいて、絵画、図形または彫刻の著作物と見なされる。」と規定しています。この判決までの日本の裁判例のアプローチは、この実用品の法理に近いアプローチをとっているといえます。
他方、この事件の知財高裁は、実用品の持つ実用性や機能性に拘束されたデザインは創作性を否定されるから、創作性の概念の解釈によって、実用品の持つ実用性や機能性に著作権による保護を排除できるとしています。この着眼自体はおもしろいと思います。しかし、果たしてその解釈が成功しているでしょうか。横から見るとZ型であり、2本の脚の角度が66度であることに表現上の創作性を認めました。しかし、イスのデザインを横から見るとZ型にするというのは、表現上の特徴ではなく、もはやアイデアそのものなのではないでしょうか。原告製品以前のイスのデザインにも、横から見るとZ型のものはありました。したがって、66度である点においのみ創作性を認めたことになります。しかし、Z型の脚がアイデアなら、50度であろうと70度であろうと66度であろうとその選択に創作性はないように思います。

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JRRCなうでしょ 第24回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
少々遅くなりましたが6月号のJRRCなうでしょを配信いたします。
ここしばらく梅雨の真っ盛りと言う感じで雨が続いていますね。
特に九州や四国地方は大雨の被害も出ていますので十分お気を付け下さい。
箱根山の小噴火も気になるところです。
この夏、箱根に温泉や避暑で旅行を計画している方は困りますよね。
早く収まってほしいものです。(温泉卵早く食べたいです)
それでは、6月号の最初のお知らせです。
JRRCでは今年の10月から12月にかけて、契約企業・団体を対象にした複写利用実態調査を実施いたします。
これはご契約者様からお預かりした複写使用料を、著作権者に公平に分配するために隔年行っている調査ですが、文化庁登録の著作権等管理事業者としても最も重要な事業でもあります。
今後ご契約企業・団体の中から対象者を無作為に抽出して、実態調査ご協力のご依頼をさせていただきますので、対象となられた企業・団体の皆様におかれましては、ぜひとも調査の趣旨に鑑みましてご協力をよろしくお願いいたします。
なお、実態調査に関して得られた情報については、企業機密として取扱い、調査目的以外には使用いたしません。
以上複写利用実態調査実施のお知らせでした。
次はJRRC著作権基礎講座実施の報告です。
5月号でお知らせしたとおり、6月26日(金)に第1回JRRC著作権基礎講座を開催いたしました。
おかげさまで募集開始後数日で応募者が定員を超えたため、締め切りさせていただきましたが、当日は約40名の方にご参加いただきました。
川瀬理事による1時間半の講義の後にコーヒーブレークを挟んで約3時間の講座でしたが
参加者からの質問も多数出され、終了後のアンケートでも好評をいただいております。
私も司会役で参加しましたが、さすがに前横浜国大教授ということで講義の方も実例を含めて丁寧に説明され、あっという間の1時間半でした。
参加者からのアンケートによると、初級だけでなく中級や上級レベルの講座も設定して欲しいと言ったご要望もありますので、今年度の初級講座を完了後来年度の課題として検討していきたいと思っています。
次回は8月28日(金)1400‐1700を予定していますので、参加希望の読者の方は是非予定を入れておいてください。
受付は今月下旬にホームページで開始いたします。
最後に7月14日(火)開催予定の第7回JRRC著作権セミナーのお知らせです。
おかげさまで第7回目を迎えたJRRC著作権セミナーですが、このたび文化庁の後援の許可もいただき、事務局一同準備を重ねているところです。
今回は、前回好評であったパネルディスカッションを再度設定し、「企業・団体における著作権教育」というテーマで文化庁著作権課から小林様、コンピュータソフトウェア著作権協会から久保田様、千代田化工建設株式会社から工藤様をお招きして川瀬理事によるコーディネーションで行います。
お席の方もまだ余裕がありますので興味のある読者の皆様は是非お申し込みください。
以上6月号JRRCなうでしょでした。

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