JRRCマガジン第31号 連載記事

半田正夫の著作権の泉 

~第19回 なんとも奇妙なはなし――ゴーストライター事件その後~

 ゴーストライター問題で昨年世間を騒がせた佐村河内氏の事件はいぜん後遺症が続いているようだ。
 新聞報道によると、日本音楽著作権協会(JASRAC)は佐村河内氏と締結していた著作権信託契約を昨年12月31日付で解除したとのことである。
 JASRACが契約を解除したのは、交響曲第1番「HIROSHIMA」を含む約100曲で、このうちの大部分は新垣隆氏の作曲によるものであった。佐村河内氏はこれらの著作権を新垣氏から譲渡されたものと主張していたようであるが、譲渡の事実を裏付ける資料の提出をJASRACが佐村河内氏に求めたにもかかわらず、これが提出されなかったために、契約の解除に踏み切ったものであると報じている。
 
 ところで、かつて施行されていた「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」のもとにおいては、音楽の仲介業務団体としてJASRACだけが業務実施についての許可を受けており、他の団体が介入する余地はなかった。このため著作者による委託先の選択の自由が制限されることとなり、さらには使用料規程が認可制であったことからこれが独占価格を招き市場原理に反するなどの批判が生ずるようになった。この結果、平成12年にこの法律が廃止されて、新たに著作権等管理事業法に生まれ変わって現在にいたっている。この法律によれば、JASRACのような管理事業をもくろむ者は文化庁長官の登録を受ければよいことになっており、現にJASRAC以外にもいくつかの団体が登録を受け誕生している。したがって、著作権者としてはJASRACとの契約が解除されたとしてもその他の管理事業者と契約をすれば音楽の利用に支障はないといえるし、また権利者みずからが単独で管理すればよいのであるから、権利者が困るということはないと思われる。

 だが、権利者はそれでよいとして、困るのは音楽の利用者である。音楽の利用の際には権利者の許諾が必要であるが、権利者がだれで、どこにいるのかを自分で探さなければならないからである。本連載「著作権の泉」の第8回で述べたように、通常は、著作権法14条の規定により、著作物の表面に著作者として名前の載っている佐村河内氏を作曲者であり著作権者だとして扱えばよいはずであるが、佐村河内氏が記者会見で自らが著作者ではないと宣言し謝罪しているのであるから、この推定規定の適用は難しいのではないかと思われる。

 新垣氏自身が著作者は自分であり、著作権は譲渡していないと宣言すれば、利用者は彼と交渉すればよいが、マスコミの報道ではそのような事実は伝わってこないばかりか、当事者が会ってこの点についての話し合いをしたとのニュースも聞こえてこない。奥歯に物が挟まったような記事ばかりで、著作権の帰属についてはうやむやにすまそうとしているのではないかと疑いたくなるばかりである。Wikipediaによれば新垣氏は音楽家としての立派な経歴と力量を持ち、業界ではかなり評価されていた人物のようであるが、このような音楽家がなぜゴーストライターとしての地位に甘んじていたのか、そしていまなおなぜ佐村河内氏名義の作品の著作者は自分であり著作権も自分に帰属していると明確に答えないのか、一般常識からは考えられないことばかりである。なにかいえないような事情でもあるのかと勘繰りたくなるような話である。

 このような状態が続くのであれば、問題となっている楽曲を利用しようとする者は(もしいればの話ではあるが)、著作権法67条による著作権者不明等の場合における著作物の利用の規定を使って裁定の手続きに入り、文化庁長官の定める担保金を供託する(著作権法67条の2)ことによって利用するしかないのかもしれない。本来この制度は長期間経過したために著作権者が不明になった場合などを想定して作られた制度であり、本件のような場合を念頭に置いた制度ではないであろうが、条文上はあえて適用が否定されるものとは思われないからである。

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山本隆司弁護士の著作権談義

~第27回 米国HathiTrust訴訟~

 2014年6月10日に、米国の第2巡回区連邦控訴裁判所が大学図書館のデジタル化について判決を下した事件を紹介します。
米国の13大学がHathiTrustを共同で設立しました。設立されたHathiTrustは、各大学の蔵書をデジタル化し、共同利用するHathiTrustデジタル図書館(「HDD」)を運営します。HathiTrustにはすでに大学や研究機関などの80図書館が参加しています。HDDは、デジタル化した図書を3つの方法で利用に供します。第1は、公衆が利用できるサービスで、単語を検索すると、その単語がどの本の何頁目に何カ所登場するかのリストが出てくるサービスです。第2は、参加図書館がHDDを使って、視覚障害者・読書障害者に図書を読上げまたは拡大して提供できるサービスです。第3は、参加図書館が自己の保有する図書のデジタルコピーを事故などにより喪失した場合に、HDDから代わりのデジタルコピーの提供を受けられるサービスです。
また、ミシガン大学は、絶版図書について「孤児著作物計画」(OWP)を進めていました。OWPは、絶版図書について、まず著作者を調査し見つからない物を孤児著作物としてリスト化し公表し、つぎに図書館利用者にデジタル形式で利用可能にするというものでした。しかし、絶版図書と孤児著作物との識別に困難を来たし、その実施を無期延期しました。
 これに対して、作家や作家の団体がHDDのサービスが著作権を侵害すると主張してHDDとその参加大学を、また、OWPが著作権を侵害すると主張してミシガン大学をニューヨーク南部地区連邦地方裁判所(地裁)に訴えました。地裁は、第1に、米国の作家団体などいくつかの団体について、原告適格を否定し、その訴えを却下しました。ただし、国外の作家団体で、その本国法で著作権管理権限を認められるものについては、原告適格を認めました。第2に、HDDのサービスについて、3つともフェア・ユースに該当すると認定し、原告の請求を棄却しました。また、第3に、OWPについては、計画が中止されているので、事件としての成熟性(事件性)がないとして、訴えを却下しました。
 原告からの控訴を受けた第2巡回区連邦控訴裁判所は、第1に、米国の作家団体などいくつかの団体に原告適格を否定した点については地裁の判決を支持しました。しかし、第2に、HDDのサービスのうち2つについては、詳細にフェア・ユース該当性を検討しこれに該当すると認定しましたが、喪失したデジタルコピーの代わりを受けられるサービスについては、当該図書が市場で入手できないか等の事実について審理が尽くされていないと認定して地裁判決を破棄し、差し戻しました。第3に、OWPに対する事件性については、地裁の判決を支持しました。
 この判決には、フェア・ユースの認定について、新たな点はありませんが、最新の事例として紹介いたしました。
 なお、この事件と関連する事件として、グーグルがミシガン大学などと協力し、大学図書館の蔵書をスキャンし、グーグル・ブックとして提供した検索サービス(検索結果のスニペット表示)に対する著作権侵害事件があります。この訴訟は、作家らが2005年にクラス・アクション(集団訴訟)として、同じニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提起されました。原被告間で和解条件が決まりましたが、日本の著作権者もそれに拘束されるクラスの定義だったため、日本でも大騒ぎとなりました。最終的に、裁判所は、私が別稿で指摘したとおり、事件性のない著作物まで含むクラスの定義に問題があるとして、和解条件を認可しませんでした(2011年)。その後、和解条件が原被告間でまとまらず、一方でクラスの定義について争い、他方でフェア・ユースの成否が争われていましたが、地裁は、2013年11月14日に、グーグルの検索サービス(検索結果のスニペット表示)がフェア・ユースに該当するとの判決を下しました。

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JRRCなうでしょ 第19回

こんにちは。
JRRC事務局長の稲田です。
2015年になって初めてのメールマガジンです。
今年の正月は9連休の方も多かったと思います。
私もおかげさまで正月はゆったりと家族と一緒に過ごすことが出来ました。
新年恒例の箱根駅伝では、青山学院大学素晴らしかったですね。
JRRCの半田理事長は、青山学院の前理事長でしたので、喜びもひとしおと思います。
さて、現在JRRCでは、2015年度事業計画を取りまとめているところですが、これまで著作権啓発事業として実施してきたJRRC著作権セミナー及び企業・団体向け著作権講習会に対する講師派遣事業の他に、新たに著作権に関する小セミナーの定期的開催を検討しています。
具体的な実施内容については、事業計画が承認されましたら改めて検討していく予定ですが、利用者の皆様のより身近なところで著作権の知識を深めていただける場を今後用意していきたいと考えておりますのでどうぞご期待ください。
本年も変わらず読者の皆様のJRRCへのご支援とご協力をよろしくお願いいたします。

それでは1月号の最初のお知らせです。
JRRC恒例の第6回著作権セミナーの一般受付を開始いたしました。
既に優先受付は終了しましたが、2月13日(金)まで受付していますので、同僚、ご友人の中でまだご存じない方がいらっしゃいましたら是非お勧めしてください。
(定員になりましたら締め切り前に受付を終了しますのでご注意ください)
今回は、著作権業界の重鎮として著名な齊藤博先生に「著作権法の変遷」を、著作権実務に経験豊富な山本隆司先生に「著作権侵害の事例とその対策について」と言うテーマで講演をお願いしています。
特に山本先生のテーマは、著作権侵害に関する実例を詳しく解説していただける内容となっていますので、読者の皆様にも関心が高い内容ではと思っています。
どうぞご期待ください。

次は、TPP交渉に関してのニュースです。
先週の新聞によると、日米間のTPP交渉が進展し、合意が間近と報じられていました。
米国側は、日本の自動車の規制に対する要求を取り下げる一方、日本は米国からのコメの輸入拡大や牛・豚肉の輸入制限の見直しを行うということのようです。
いよいよTPPが現実的になってきましたね。
TPPに関しては、知的所有権関連、特に著作権に関し大きな影響があるとされています。
具体的には、以下の3点が指摘されています。
1.著作権侵害に対する非親告罪化
2.懲罰的賠償制度
3.保護期間の70年化
詳細については次号で解説いたしますが、ここしばらくは新聞の報道に目が離せない状態です。
最後は、最近になってわが国でもナショナルアーカイブ構想に関する動きが盛んになってきましたのでお知らせします。
ナショナルアーカイブとは、国あるいは国家を超えた地域で博物館、美術館、図書館等に収められている絵画、古文書、書籍、写真、文献等の文化遺産をデジタル化し、誰もがインターネット上で利用できるデジタルポータルサイトと言うことができると思いますが、
日本でも最近になってようやく、ナショナルアーカイブの重要性について議論がされるようになりました。
特に文化庁は、昨年6月に文化関係資料のアーカイブに関する有識者会議を設置し、中間とりまとめを8月に発表しています。
そこでは、将来的な全体像として「文化ナショナルアーカイブ」(日本版ヨーロピアーナ)の構築を目指すとしています。
特に2020年の東京オリンピック開催を見据え、多言語化対応により海外向け発信力を強化することにも触れられています。
また、文化庁以外では、2012年に各種文化資源専門家、研究者、行政担当者などの有志からなる官民横断組織である文化資源戦略会議が設立され、ナショナルアーカイブの設立と
デジタルアーカイブ振興法の制定を目指して活動を続けています。
こちらでは、2015年1月26日から千代田区立日比谷図書館で一日アーカイブサミット2015が開催されています。
更に国立国会図書館では、ナショナルアーカイブの欧州版であるヨーロピアーナの担当者を迎えた国際シンポジウム「デジタル文化資源の情報基盤を目指して:Europeanaと国立国会図書館サーチ」と言うテーマで22日に国際シンポジウムを開催しています。
このように、日本でも段々とナショナルアーカイブ構築に関する議論が盛んになってきましたので、今後も必要に応じてJRRCなうでしょで取り上げていきたいと思います。
以上1月号のJRRCなうでしょでした。

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