最新の情報は「著作権者不明等著作物裁定申請書作成ガイド〔2021年11月改訂新版〕」をご覧ください


以下情報は2018年9月25日現在のアーカイブです

目次

1.裁定申請に当たって

2.裁定申請書類

3.著作権者と連絡することができない場合における「相当な努力」とは

4.補償金の額の算定と著作権等管理事業者並びに探索の流れ

第196回通常国会に提出された「著作権法の一部を改正する法律案」が、平成30年5月18日に成立し、同年5月25日に平成30年法律第30号として公布されました。今回の改正では、著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し(第67条等関係)が図られ、補償金等の支払いを確実に行うことが期待できる国や地方公共団体等について、事前の供託を求めないものとし、権利者と連絡をすることができることになった際に、事後的に権利者に補償金を支払うことを認める旨、規定(第2項)しています。同様に、申請中利用に当たって供託をすることが求められる担保金も、国や地方公共団体等については免除し、権利者が現れた場合に、利用に係る補償金を直接権利者に支払えば足りることとなりました(第67条の2)。
ただし、この改正規定は、平成31年1月1日からの施行となりますのでご留意ください。「国や地方公共団体等」の具体的な機関としては、「国」には、国の機関としての行政機関のほか、国立国会図書館、国立大学附属図書館などが含まれ、「地方公共団体」には、都道府県庁、市区役所、町村役場などのほか、公立大学附属図書館などが含まれます。
また、「国や地方公共団体等」の裁定申請であっても、申請に当たっては補償金(担保金)の算定は従前どおり必要ですので、ご注意ください。

1.裁定申請に当たって

裁定申請に当たっては、オーファンワークス実証事業委員会に相談する場合、代理人(専門の行政書士又は弁護士)に依頼し、その代理人が文化庁への相談・連絡調整をする場合、申請人が自ら文化庁に相談し、申請関係書類を作成し、提出する場合があります。

オーファンワークス実証事業委員会に相談する場合

文化庁委託著作権者不明等の場合の裁定制度の利用円滑化実証事業の事業期間内のみご利用できます。著作権等管理事業者への照会は、オーファンワークス実証事業委員会が行います。

専門の行政書士又は弁護士が代理人となり、文化庁への相談・連絡調整及び著作権等管理事業者等への照会を行う場合

代理人への報酬が発生しますが、申請者(依頼人)の事務負担が最も軽くなる方法です。供託金後払いを希望する国や地方公共団体等もご利用いただけます(申請者はあくまで「国や地方公共団体等」であるため。)。

申請人が自ら文化庁に相談し、申請関係書類を作成し、提出する場合

オーファンワークス実証事業委員会や代理人を介さない方法です。供託金後払いを希望する国や地方公共団体等は、この方法か、または上述の代理人を立てる方法のいずれかを選択します。

2.裁定申請書類

裁定申請書類は、裁定申請書本体のほかに「著作権者と連絡することができない理由」(著作権法施行令8条1項5号)を疎明する書類、「補償金の額の算定の基礎となるべき事項」(著作権法施行令8条1項4号)を明らかにする書類が必要です。

裁定申請書本体様式と、各事項の根拠法令を赤書きで示しましたので、ご覧ください。
申請を代理人(行政書士又は弁護士)に依頼される場合には、代理人の職印を押印していただき、申請人ご本人の押印は必要ありません。

【1 著作物の題号】
図書であれば「書名」のことです。題号がなければ「題号無し」、題号が不明であれば「題号不明と記入します。公益社団法人著作権情報センターの「権利者を探しています」広告サイトに掲載する際にも記載します。

【2 著作者名】
著作者名の表示がないときは「表示がない」、著作者が不明であるときは「不明」と記入します。公益社団法人著作権情報センターの「権利者を探しています」広告サイトに掲載する際にも記載します。

【3 著作物の種類及び内容又は体様】
「著作物の種類」について例示すると、次のようなものがあります。

言語の著作物(小説)
言語の著作物(脚本)
言語の著作物(論文)
言語の著作物(講演)
音楽の著作物
美術の著作物(絵画)
美術の著作物(版画)
美術の著作物(彫刻)
建築の著作物
図形の著作物(地図)
図形の著作物(図表)
映画の著作物
写真の著作物
漫画の著作物
プログラムの著作物
実演
レコード

「著作物の内容又は体様」には、一例として「「〇〇〇〇誌」〇〇出版社,昭和××年××号,××ページに掲載されたエッセー」」(雑誌に掲載された著作物)などと記入します。題号、著作者名とともに、著作物を特定しやすくするのが目的ですので、公益社団法人著作権情報センターの「権利者を探しています」広告サイトに掲載する際にも記載します。

【4 著作物の利用方法】
権利者不明の著作物をどのように利用するのかを記入します。たとえば、(1)複製する、(2)修復してデジタル化し、インターネットで無償公開する、(3)〇〇〇〇部を複製して1部〇〇〇〇円で販売する、(4)譲渡する、などが挙げられます。詳しい記載例は、「裁定の手引き」(文化庁長官官房著作権課,2018,p.18-19)をご覧ください。補償金(担保金)の額の算定にも関わる事項となりますので、国との事前相談が大切です。

【5 補償金の額の算定の基礎となるべき事項】
【6 著作権者と連絡することができない理由】
  この二つの項目については後述いたします。

【7 著作権法第67条の2第1項の規定による著作物の利用の有無】
この項目は、裁定申請中に、裁定を待たずに著作物を利用したいかどうかを問うものです。「有り」又は「無し」を記入します。申請中利用制度のメリットについては、「裁定の手引き」(文化庁長官官房著作権課,2018,p.34)をご覧ください。

3.著作権者と連絡することができない場合における「相当な努力」とは

次に著作権者と連絡することができない場合の疎明資料についてご説明します。
著作権者と連絡することができない場合については、著作権法第67条第1項の前半部分に「公表された著作物又は相当期間にわたり公衆に提供され、若しくは提示されている事実が明らかである著作物は、著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払ってもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合」と規定され、著作権法施行令第7条の7に委任されています(より詳細な内容は、平成21年文化庁告示第26号において公表。)。すなわち、次のようになります。

(1)広く権利者情報を掲載していると認められるものとして文化庁長官が定める刊行物その他の資料を閲覧すること。(著作権法施行令第7条の7第1項第1号)

【刊行物その他の資料】
次の(ア)から(ウ)のうちいずれか適切な方法を選択して探索します。

(ア)著作物の種類に応じて作成された名簿その他これに準ずるもの(平成21年文化庁告示第26号第1条第1号)
権利者名又は作品名が判明している著作物等で、公表年が比較的古い場合に有用です。
「裁定の手引き」(文化庁長官官房著作権課,平成30年4月版,2018,p.9-10)によれば、名簿・名鑑等で 適切なものを少なくとも1冊以上図書館等で参照して、権利者情報を探索 することとなっています。次に一例を紹介します。

対象分野 名簿・名鑑等名 出版社名等 最終発行年
一般 日本紳士録 株式会社ぎょうせい 2007
人事興信録 興信データ株式会社 2009
言語 現代日本執筆者大事典 日外アソシエーツ株式会社 2015
文藝年鑑 公益社団法人日本文藝家協会 毎年発行
音楽 音楽年鑑 株式会社音楽之友社 2005
音楽家人名事典 日外アソシエーツ株式会社 2001
美術 美術年鑑 株式会社美術年鑑社 毎年発行
美術家名鑑 株式会社美術倶楽部 2011
写真 現代写真人名事典 日外アソシエーツ株式会社 2005
実演 日本タレント名鑑 株式会社VIPタイムズ社 毎年発行

最寄りの図書館に名簿・名鑑等が所蔵されているかどうかは、都道府県立図書館の横断検索(統合検索)や「カーリルローカル 」の利用をお勧めします。たとえば、東京都立図書館統合検索を利用すると、都立図書館各館のほか、区立図書館、市町村立図書館、国立国会図書館、首都大学東京図書館などに、該当する名簿・名鑑等の所蔵の有無を確認することができます。カーリルは、所蔵館のほか該当書のカバーデザインなども見ることができ、図書館に出向いて名簿・名鑑等を探す際にとても便利です。

(イ)広くウェブサイトの情報を検索する機能を有するウェブサイト(平成21年文化庁告示第26号第1条第2号)
権利者名及び作品名が不明な場合、権利者名又は作品名が判明しているものの広範な情報が掲載されている名簿・名鑑等が存在しない場合、権利者等が外国人で名簿・名鑑等の閲覧が非常に困難である場合などに用います。
GoogleやYahoo!JAPANなどの検索サービスを用いて権利者情報を探索します。

(ウ)過去になされた裁定に係る著作物等について、再度裁定を受けようとする場合にあっては、文化庁のウェブサイトに掲載された過去に裁定を受けた著作物等のデータベース(平成21年文化庁告示第26号第1条第3号)
裁定を受けようとする著作物等が、過去に裁定がなされている場合に行います。
著作権者不明等の場合の裁定実績オンライン検索データベース 」を利用するものです。

(2)著作権等管理事業者その他の広く権利者情報を保有していると認められる者として文化庁長官が定める者に対し照会すること。(著作権法施行令第7条の7第1項第2号)

裁定を受けようとする著作物等が過去に裁定を受けたものでないときは、次の(ア)及び(イ)を行います。

(ア)著作権等管理事業者その他の著作権又は著作隣接権の管理を業として行う者であって、裁定申請に係る著作物、実演、レコード、放送又は有線放送と同じ種類のもの(以下「同種著作物等」といいます。)を取り扱うものへの照会(平成21年文化庁告示第26号第2条第1号)

著作権等管理事業者の例として、次のような法人が挙げられます(一部掲載)。

著作権等管理事業者登録状況一覧や連絡先の詳細は、「著作権等管理事業者登録状況 」を参照してください。

(イ)同種著作物等について識見を有する者を主たる構成員とする法人その他の団体への照会(平成21年文化庁告示第26号第2条第2号)

当該著作物等の分野の著作者等が加盟する著作者団体((公社)日本漫画家協会等)や、当該著作物等の分野の研究者等を構成員とする学会(学術団体)等があります。

(ウ)文化庁長官への照会(平成21年文化庁告示第26号第2条第3号)

「文化庁長官への照会」とは、裁定を受けようとする著作物等が、過去に裁定がなされている場合に著作権者不明等の場合の「著作権者不明等の場合の裁定実績オンライン検索データベース 」を利用するものです。

(3)時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載その他これに準ずるものとして文化庁長官が定める方法により、公衆に対し広く権利者情報の提供を求めること。(著作権法施行令第7条の7第1項第3号)

公衆に対し広く権利者情報の提供を求める方法として、「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」へ掲載するか、「文化庁長官が定める方法」のいずれかを選択します。
「文化庁長官が定める方法」とは、公益社団法人著作権情報センターのウェブサイトに7日間以上の期間継続して掲載することを指します(平成21年文化庁告示第26号第2条第3号)。
現状では、日刊新聞紙への掲載はなされず、公益社団法人著作権情報センターのウェブサイトへの掲載が主流となっています。掲載料は、1件8,100円です。

4.補償金の額の算定と著作権等管理事業者並びに探索の流れ

ここでは、裁定申請書本体が求める記載事項の【5 補償金の額の算定の基礎となるべき事項】と 【6 著作権者と連絡することができない理由】の関係について簡単にご説明します。

探索の流れの一例として、著作権者不明等著作物の分野が「言語(文芸)」の例で以下に記します。
補償金の額の算定の前に、著作権者と連絡することができないことを示さなければなりませんので、

「言語(文芸)」であれば、名簿・年鑑等として『文藝年鑑』(公益社団法人日本文藝家協会,毎年発行)等を最寄りの図書館で閲覧してみます。先述のカーリルローカル等で所蔵館を調べてから出向きます。

名簿・年鑑等で解決しなければ、著作権等管理事業者に照会することになります。「言語(文芸)」であれば、公益社団法人日本文藝家協会(先述の『文藝年鑑』の発行者でもあります。)に照会します。この著作権等管理事業者でも権利者が不明であると判断された場合は、【6 著作権者と連絡することができない理由】の案を、著作権等管理事業者の協力のもと作成します。次いで、同じ著作権等管理事業者に協力していただき、【5 補償金の額の算定の基礎となるべき事項】の案を作成します。この段階までには、文化庁長官官房著作権課に相談の一報を入れていることを前提とします。

このように、著作権者不明等著作物の裁定申請には、当該著作物の分野の著作権等管理事業者と緊密に連絡しながら、【6 著作権者と連絡することができない理由】及び【5 補償金の額の算定の基礎となるべき事項】のそれぞれの案を積み上げていくことになります。この案の段階で、文化庁長官官房著作権課の指示を複数回仰ぎながら、申請書類を作成していきます。文化庁作成の次の図は、権利者と連絡が取れなかった場合の手続のおおよその流れとなります。


文化庁長官官房著作権課「裁定の手引き」平成30年4月版,2018,p.2.

我が国の著作権法は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送という文化的所産の公正な利用に留意し著作権者等の権利の保護を図ることにより、文化の発展に寄与するとしています。また、万国著作権条約パリ改正条約は、序文において、著作権保護制度が、個人の権利の尊重を確保し、文学、学術及び美術の発達を助長するものであり、人間精神の所産の普及を一層容易にすると述べています。

社会は創造的な営みを繰り返すことで、著作物等の文化的所産を生み出してきました。この文化的支所産はひとえに文化資産であり、後世に伝達されうるものといえます。しかしながら、多くの人々の知るところとなっている文化的所産は一握りにすぎません。劣化が進んでいたり散逸しそうになっていたりしている著作物等は、まず修復し、そのうえでマイクロフィルム化やデジタル化を行い、インターネットにより公開したり、有償で復刻したりすることになりますが、その前提として権利者の許諾を得ることが必須の条件となります。

その手立てとして、我が国では、著作権法により著作権者不明等の場合の裁定制度が存在しています。この裁定制度はまさに、我が国の文化的所産の公正な利用と著作権者等の権利の保護を図らしめ、もって我が国の文化の発展を積極的に進めようとするものです。

著作権者不明等の場合の裁定制度について多くの方々に関心をお持ちいただき、本ガイドが裁定制度利用の際の道しるべとなれば幸いです。

執筆者:日本行政書士会連合会 国際・企業経営業務部 知的財産部門,2018