例年けやきホールにて開催してきたシンポジウムを、本年は新型コロナウイルス感染症拡散防止の観点から、座談会という形式に変更した。
「オーファンワークスの新しい著作権環境」を見据えて、上記参加者により活発な意見交換がなされた。

座談会テーマ「新しい著作権環境の確立に向けて」

  • 日 時 2020年3月5日(木)15:00~16:30
  • 会 場 公益社団法人日本複製権センター 会議室
  • 主 催 オーファンワークス実証事業実行委員会

出席者

小説家
公益社団法人日本文藝家協会 副理事長

弁護士

特定行政書士
日本行政書士会連合会専門員(著作権・知財創造教育)

学校法人駿河台学園総務人事部(著作権担当)部長
駿台予備学校 東日本教務部(メディア事業統括担当)部長/海外著作権連絡協議会 副代表理事

日本製薬団体連合会 文献複写問題検討ワーキングチーム 座長
薬剤師/塩野義製薬株式会社 メディカルアフェアーズ部

写真家
一般社団法人日本写真著作権協会 常務理事

座談会概要

山口

オーファンワークスへの対応は各国一律ではなく、様々な制度を組み合わせる立法的対応が考えられる。オーファンワークス実証事業実行委員会は過渡期の取り組みであり、実証事業を通じていろいろな課題も見えてきており、将来的に裁定制度の代替となるような制度へ繋がっていくことを期待している。

和田

入試問題の二次利用には課題が多く、権利者の許諾が得られず、過去問題を使った教材が使えないことが受験者の不利益に繋がり、教材としてのコンテンツが貧弱化しかねないなど円滑な二次利用が求められている。15年前に日本文藝家協会と全国予備校協議会とが包括的な著作物利用の協定を結ぶなどして教材への入試問題の円滑な二次利用への対策を講じているが、一部の解決にとどまっている。特に英文入試問題に関しては、その多くが出題にあたり改変を伴うため、許諾が得られない場合もあり、こうした課題を解決する提案の一つとして、36条の権利制限下で作成された入試問題の二次利用を補償金付権利制限化する法改正の要望書を文化庁へ10年前に提出しているが、いまだ法改正に結びついていない。

製薬業界の立場からは、古い医学論文等において著作権が著作者に残っているケースで、共著者が複数いる場合では、著作者全員から許諾をとるのが難しいため、オーファンワークスとなることが少なくない。製薬会社には薬機法により情報提供の努力義務が課されており、根拠文献を求められることもあるが、著作者に著作権が残ったままでは許諾をとることが難しかったので、今回のようにオーファンワークス実証事業を利用させていただき、適切な費用で情報提供できることが分かったことは大きな成果であった。

高橋

公共図書館や大学図書館がデジタルアーカイブ構築のために裁定を受ける場合、その後の作業に膨大な費用がかかってくるが、この種のデジタルアーカイブ化は我が国の文化資産を残すことになることからも国からの積極的な援助があるとよいと考える。またデジタルアーカイブ化する際に重要なのは、システムが適正に機能するために正確なメタデータを登録することである。

三田

実証事業実行委員会が始まった4年前には、著作権保護期間が死後50年から70年に延長されると著作権者の遺族探索が問題となるとされていた。しかし、実際の実証事業においては、ネット時代になることで文学者の著作物だけでなく、いろいろな人が書いた作品から入試問題が出題されることになり、著作者を発見して許諾を得るのはほぼ不可能ということの方が大きな問題となってきている。こうした状況下において、オーファンワークスを使えるようにすることが課題となる。

山口

米国ではいろいろなものをデジタル化することによって生じる法的問題についての関心が高まっており、日本においてもオーファンワークス実証事業で個別の案件を扱っていくだけではなく、デジタル化の動きへの対応も考える必要がある。

高橋

大学などのデジタルアーカイブ化においては、まだ埋もれている著作物も多く、裁定制度の活用の余地がある。

三田

文藝については、著作権等管理事業法によって定められた使用料が決まっており、その方法を利用することでもっと簡単に処理できるようになる。入試問題や医薬品開発など社会性の強いものについては、補償金制度と連動した権利処理をするなどして、簡便な処理で利用できる方策を模索していく必要がある。

山口

各国がデータベースを構築していく状況からすると、実証事業実行委員会が行っているデータベース調査、補償金目安算定の仕事は、AIに委ねていけると望ましい。裁定制度は著作権者を非常に手厚く保護する制度であるが、連絡がとれない著作権者から許諾をとれな い著作物については、より利用しやすい制度に改める必要がある。

高橋

裁定AIには予算措置や専門的知識が必要であり、実現には課題も多い。

和田

入試問題の二次利用問題においては、裁定制度は使う側のリスク低減の仕組みと認識して利用している。

供託金不要や探索の「相当の努力」が緩和されると、裁定制度はもっと利用しやすくなる。

瀬尾

皆さんのお話を伺い、過去の著作物の二次利用ではなく、現在漂っている匿名性の高いもののアーカイブや喫緊の利用に裁定の対象が変わってきていることを認識した。アーカイブ対応を前提とした裁定制度の在り方を考える必要もある。今後これらの意見を参考に、次世代の裁定制度に向けた提言に繋げていきたい。