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JRRCマガジン No.461 2026/3/19
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日3月19日は「ミュージックの日 」
「ミュー(3)ジック(19)」の語呂合わせから、
音楽関係者の労働団体である日本音楽家ユニオンが、1991年(平成3年)に制定したそうです。
濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/
◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その38)
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横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未
今回は、大阪地判令和8年1月20日(令和5年(ワ)第9267号)〔ヤマシロン事件〕を取り上げます。
<事件の概要>
本件においては、原告(インターネットコンテンツの企画・立案・制作・運営や映像等デジタルコンテンツの企画・運営・制作等を目的とする会社であり、Aが代表取締役)と、被告山代ガス、被告佐賀新聞サービスのほか、「悪の秘密結社」(ヒーローショーに特化したイベント企画・運営、舞台衣装のデザイン・造形・製作・販売等を目的とする会社であり、Bが代表取締役)との間で、被告山代ガスの広告宣伝用ヒーローコンテンツの制作等に関して、以下のような契約関係が存在。
【原告と被告佐賀新聞サービスとの間の本件委託契約1】
原告は、平成29年4月3日、被告佐賀新聞サービスとの間で、被告山代ガスの広告宣伝用のヒーローコンテンツ(下記本件委託契約2を参照)に係る各種制作について、原告が委託を受ける旨の業務委託契約(本件委託契約1)を締結。
本件委託契約書1には、「この契約書に基づいて制作された制作物の著作権は、甲(被告佐賀新聞サービス)に帰属し、乙(原告)は、甲の許可なくしてこれを使用してはならない。」との記載はあった一方で、本件委託契約1のもとで原告が制作した著作物について、原告が著作者人格権を行使しないことを承諾する旨や著作権法27条及び28条に定める権利を譲渡する旨の記載は無し。
【原告と被告山代ガスとの間の本件委託契約2】
原告は、平成30年2月27日、被告山代ガスとの間で、「ヤマシロン」に関する利用許諾及びマネジメント業務委託に関する契約(本件委託契約2)を締結。
本件委託契約書2は、被告山代ガスがマネジメントするヒーローコンテンツ「ヤマシロン」を本コンテンツと定義した上、原告に対し、原告を本コンテンツの運営事務局として、グッズ製作、販売、管理、メディア出演に関する斡旋等のマネジメント業務を委託することができる旨を定めるほか、被告山代ガスが原告に対し、本コンテンツのグッズ製作及び販売を許諾するにあたっての手続・対価などを規定したもの。
これらに関して、被告山代ガスの広告宣伝用のヒーローコンテンツとして制作された本件各著作物(上記ヒーローコンテンツのイラスト等)の制作には、原告からの委託を受けた「悪の秘密結社」が一貫して関与していたが、当時において、「悪の秘密結社」と被告らとの間には、それらの制作や権利処理に関する直接の契約関係は無し(各著作物の創作者については、「悪の秘密結社」か原告かのいずれか一方が該当することには基本的に当事者間で争いがないが、一部の著作物の創作者については争いあり)。
その後、被告佐賀新聞サービスは、令和5年7月10日頃、原告に対し、ヤマシロンに関連するヒーローコンテンツの著作権は、本件委託契約1に基づき、被告佐賀新聞サービスに帰属しているにもかかわらず、原告が、ヤマシロンに関するウェブサイトに被告佐賀新聞サービスが管理者としてアクセスすることを妨げているとして、同契約中、ヤマシロンに関するウェブサイトの更新・改修及びSNS更新に係る部分を解除するとの意思表示をした。
また、被告山代ガスは、令和5年7月18日頃、原告に対し、同年9月30日限りで本件委託契約2の契約を更新せず、同日をもって契約関係を終了する旨の意思表示をした。
悪の秘密結社は、令和6年6月3日、被告山代ガスとの間で、①「「山代ガス株式会社営業部ヒーロー課ヤマシロン」に関する著作物の著作者が被告山代ガスであること、その著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む。)及び著作者人格権が被告山代ガスに帰属すること、②同著作物の著作者が悪の秘密結社である場合、同著作物の作成時点で、悪の秘密結社は、被告山代ガスに対して同著作物に関する著作権を譲渡し、被告山代ガスに対し、著作者人格権を行使しないことを約していたことを確認する旨の合意をした。
このような状況下において、本件は(最終的に)、原告と被告らとの間において、別紙の「「著作物目録」記載の各著作物(注1)につき、原告が複製権、公衆送信権、翻案権、二次的著作物に関する原著作者の権利その他一切の著作権及び著作者人格権を有することを確認するものとなっています。
<判旨(著作権法第61条第2項関連部分)>
判決においては、本件各著作物の全てにつき、原告が共同著作者の一人であるか、単独の著作者かいずれかに該当するものとされた上で、「原告が、被告山代ガスに対し、本件各著作物に関する著作権を、著作権法27条及び28条に定める権利を含めて譲渡する旨の合意をしたか」の争点については、著作権の譲渡の状況及び著作権法第61条第2項の適用に関して、以下の通りに判示。
「まず、原告及び被告らとの間で取り交わされた本件各著作物に関する著作権に関する明示的な合意は、原告及び被告佐賀新聞サービスとの間で締結された本件委託契約1に、「この契約書に基づいて制作された制作物の著作権は、甲(被告佐賀新聞サービス)に帰属し、乙(原告)は、甲の許可なくしてこれを使用してはならない。」(6条)との規定があるのみであり、被告山代ガスとの間では、本件委託契約2を含め、著作権の帰属や権利処理に関する何らの明示的な取決めも存在しない。
しかし、本件委託契約1によれば、原告は、譲渡の相手が誰かはともかくとしても、本件各著作物の著作権を譲渡する意思を表示していたものではある。そして、被告ら間では、少なくとも本件訴訟において、本件各著作物の著作権が被告山代ガスに帰属するとの認識で一致しているというのみならず、原告も、本件著作物1ないし10が完成して間もない平成29年7月時点で、 被告佐賀新聞サービスに対し、ヤマシロンに関するポスターに付記する著作権者表記について、被告山代ガスが著作権者であることを前提とした提案をしていたこと、原告及び被告山代ガスとの間で平成30年2月に締結された本件委託契約2でも、著作権の帰属等について直接明示する規定こそなかったものの、本件各著作物に基づいて製作されたグッズの著作権を、被告山代ガスが有することを前提とした許諾及び対価支払を定めていたこと、本件委託契約2に基づいて原告が被告山代ガスに提出していた許諾申請書には、一貫して、被告山代ガスが著作権者である旨の表示がされていたことというように、本件各著作物の著作権が、これを用いた広告宣伝の主体でもある被告山代ガスに帰属していることを前提とした言動を一貫して行っていたことが認められる。 また、被告佐賀新聞サービスも、著作権者表記に関する原告の上記提案について、異論がなかったところでもある。
以上のような事情を総合考慮すれば、原告と被告らとの間では、本件委託契約1のもとで原告が制作した著作物については、その権利発生とともに、被告山代ガスに譲渡され、その帰属とする旨の合意が、本件委託契約1の締結時からあったものと認めるのが相当である・・・。」
「まず、著作権法61条2項は、翻案権等(著作権法27条)や二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(著作権法28条)を譲渡する場合には、「特掲」、すなわち、これを特に掲げることを要求し、これを欠いた場合には、これら権利につき、譲渡者になお留保されたものと推定すると規定するものであるところ、その文言に加え、その趣旨が、著作権者(譲渡人)の保護にあると解されることも踏まえれば、「特掲され」たというためには、契約に際して、単に「著作権等一切の権利を譲渡する」などというような包括的な記載、合意をするだけでは足りず、譲渡対象権利として、著作権法27条や28条の権利を具体的に挙げることにより、当該権利が譲渡の対象となっていることを明記するなど明示的に合意する必要があるというべきである。
本件では、原告が被告佐賀新聞サービスとの間で締結した本件委託契約1にも、さらには、被告山代ガスとの間で締結した本件委託契約2にも、文言上そのような特掲がないことは明らかであるところ、本件各著作物に関する著作権のうち、著作権法27条及び28条に定める権利は、上記・・・のような著作権全般の帰趨とは異なり、原告に留保されたものと推定される。」
「(上記原告に留保推定された支分権の覆滅事情の有無については、)まず、本件においては、上記推定を覆滅する事情の検討の前に、上記推定を補強する事情として、原告及び被告ら間において、本件各著作物の権利処理があいまいなものであったことを指摘しなければならない。
すなわち、前記・・・で説示のとおり、事後的な総合評価としては、本件各著作物の著作権は、原告から被告山代ガスへと譲渡したものと認められるものではあるが、原告と被告らの間では、著作権法27条及び28条に定める権利の譲渡に関する特掲どころか、被告山代ガスに著作権を帰属させること自体の明文の取決めさえ欠き、むしろ、契約書上は、本件各著作物の著作権が被告佐賀新聞サービスに帰属しているかのような外観さえあったものである。現に、本件訴訟前には、被告佐賀新聞サービスが自らを本件各著作物の著作権者である旨主張するなど、被告らの間でさえ、著作権の帰属をめぐる錯綜が見られたところである。
しかも、原告にとって自らの著作権の処理に直接言及する唯一の契約書である本件委託契約1は、諸事情に照らして、別紙・・・のとおりに、原告及び被告佐賀新聞サービス間で締結されたと認めるものであるが、証拠として提出されている契約書は双方当事者の署名又は押印を欠いたものである・・・。
このようなあいまいさが多分に残る権利処理をしていながら、その譲渡合意の射程に、著作権法27条及び28条の権利も含まれていると解することは、それら権利の譲渡につき特掲を求める著作権法61条2項の趣旨に照らし、大いに躊躇されるものというべきである。」
「他方、被告らが指摘するとおり、原告及び被告佐賀新聞サービス間の本件委託契約1の内容をはじめ、前記認定の事実経過に照らせば、同契約のもとで、本件著作物1ないし10のような二次元のイラストが制作された後、三次元のヒーロースーツを制作するほか、本件各著作物の二次的著作物に該当するようなグッズの製作等をすることが当初から契約の前提となっていたものでもある。しかし、大阪高等裁判所平成23年(ラ)第56号平成23年3月31日決定を引用しつつ、このような事情をもって、著作権法27条及び28条の権利も含めた権利譲渡があったとの根拠とする被告らの主張は、事案の相違を捨象したものと言わざるを得ない。
すなわち、まず本件著作物1ないし10のような二次元のイラストとの関係において、これを三次元のヒーロースーツとすることは、複製の域を超えた創作行為として、翻案となり得るものであるが、本件委託契約1においては、そのようなヒーロースーツの制作も含めて、原告が委託を受けていたものである。この点、仮に、原告の関与しない形でのヒーロースーツ制作が想定され、原告もこれを了承していたのであれば、原告が翻案権も含めて譲渡した根拠となり得るものではあるが、本件では、その前提を欠くものといえる・・・。
また、本件著作物の二次的著作物に該当するようなものも含めたグッズの製作等についても、本件委託契約1の締結当時から想定されていたもので・・・、被告山代ガスが販売主体となることも、原告が販売主体となることもあった・・・ものであるが、前記認定事実のとおり、後者の場合はもちろん、前者の場合であっても、新たなグッズ製作等が、原告の関与なしに行われることは、少なくとも本件各著作物が制作されてから数年の間はなかった・・・のであるから、やはり、原告が翻案権をいわば手放していたことの根拠になるものではない。
このように、これら事情は、原告が翻案権等を含めて著作権譲渡をしたことを積極的に示すものとはいえず、むしろ、原告が、本件各著作物の二次的著作物の制作、管理も含め、ヤマシロンに関するコンテンツ全体を取りまとめ、管理する立場にあることが原告及び被告ら間の当初の共通認識であったことを示すもので、著作権法27条及び28条の権利が原告に留保されていたとの推定と整合的な面さえあるといえる。」
「また、被告らは、原告が、ヤマシロンについて被告山代ガスを著作権者とする表示の付記を自ら提案していたほか、被告山代ガスに対する許諾申請においても同様の表示を継続していた旨指摘する。
しかし、前記・・・のとおり、本件各著作物の著作権そのものは、著作権法27条及び28条に定める権利に関する点をおくとしても、被告山代ガスに移転していたもので、当時としては原告もこれに異論があったものではない。そして、前記・・・での検討に加え、本件委託契約2の内容に照らせば、本件各著作物との関係では二次的著作物に当たる製品等であっても、原告がその制作に関与した著作物の著作権(複製権等)は、本件委託契約1のもとで原告が制作したイラスト、ヒーロースーツなどの著作権(複製権等)と同様、被告山代ガスに譲渡されるとの合意が原告及び被告ら間にはあったものといえる。上記著作権者の表記は、こういった著作権全般の帰属を示す趣旨のものとして了解可能であり、著作権法27条及び28条の権利に限って原告に留保されていることと、相いれないものとまではいえない。」
「最後に、原告は、本件委託契約2のもと、本件各著作物の複製の域にとどまる製品の製作、販売のみならず、二次的著作物の製作、販売についても、被告山代ガスの許諾を求める申請を継続していたもので、このことは、一見すると、本件各著作物の著作権法27条及び28条の権利も被告山代ガスに帰属していることが前提の外観となっている面があることは否定できない。
しかし、本件委託契約2とこれに基づく上記許諾申請の内容は、本件各著作物の著作権が、著作権法27条及び28条の権利とそれ以外の権利とで、原告と被告山代ガスとにいわば分属している状況下において、当事者間の任意の定めとして、ヤマシロンに関するグッズの製作、販売等について、各グッズが複製の範囲にとどまるか、翻案にまで及ぶものであるかを区別せず、一律に被告山代ガスの許諾に係らしめるとともに、その売上・利益の配分ルールを合意し、運用したものとして理解することが可能であり、翻案権等も含めて被告山代ガスに移転していたと見ることのみが、唯一了解可能な解釈なわけではない。少なくとも、上記・・・での検討もあわせた総合考慮のもと、双方当事者とも著作権法に関する十分な知識を欠いたまま作成、利用されていたことがうかがわれる許諾申請の書式等の記載をもって、著作権法61条2項の推定を覆すまでの事情として重きを置くことはできない。」
「以上のとおり、原告及び被告らの間で、著作権法61条2項の推定を覆滅させるべき事由があるとは認められないから、本件各著作物に関する著作権のうち、著作権法27条及び28条の権利は、原告に留保されているものと認められる。」
(なお、本件著作物の中には、原告や「悪の秘密結社」等による共同著作物であるものが含まれているが、これらの共同著作物に係る第27条・第28条の権利についても、その関係性等を踏まえて、原告の単独又は被告山代ガスとの共有になっているものと判示。)
<解説>
今回は著作財産権の譲渡に係る特則規定である第61条第2項を取り上げます。同条項は「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と定められており、著作財産権はその全部・一部を他人に譲渡することができますが(同条第1項)、その際でも、二次的著作物の創作やその利用に係る第27条・第28条の支分権の譲渡については、明示的に譲渡契約書に書かれる等のことが無い限りは譲渡人に残ったままの状態であるとの推定効が働く、という規定です。
著作財産権を構成する支分権のうち、二次的著作物に関するものだけをこのように特別扱いしている理由については、次のように説かれています(注2)。
「本項創設に当たり念頭にありましたのは、懸賞募集の場合のように、画一的フォームの一方的契約約款による著作権譲渡のケースであります。例えば、雑誌において「応募した作品の著作権は当社に帰属する」という応募要項を定めている場合におきましては、単に著作権と書いているにすぎないときは、映画化権とか翻案権といった権利は応募した作者に残っているものと考えるというのが本項の規定でございます。全く対等の契約当事者間の著作権譲渡契約の場合のように原権利者において一定の権利を留保する機会や地位が認められる場合はともかく、画一的な契約約款によって譲受人側の一方的意思に対する抗弁の余地が実際上存しない形において締結される契約にあっては、経済的に弱者の地位にある著作権者側を保護する必要性が強く認められるからであります。
・・・通常著作権の譲渡というのは、著作物の原作のままの形態による利用権の譲渡を当然その内容としていても、どのような付加価値を生み出すか予想のつかない権利については明白な譲渡意思があったとは言い難いものがあるからでありまして、そういった点で、映画化とか翻訳とかは譲渡時において予定されてはいない利用形態であるところから、そういう二次的な形態における利用権は原権利者に残すという建前をとったのであります。」
これは現代的には消費者契約法的な観点に基づきつつ、言ってみれば「財産的価値等の点でどう化けるか分からない」というような二次的著作物に係る支分権については著作権者保護を重視したものと言えるかと思います。
さて、今回の判決において判示された第61条第2項の関係部分ですけれども、まず同条項の「特掲」については包括的な合意・記載では足りずに第27条や第28条が譲渡の対象になっていることを明示的に合意することが必要だとの一般論が述べられています。これは、上記立案担当者による次のような解説(注3)と符合するものとなっています。
「・・・二次的利用権を含む全著作権の譲渡を受けるためには、それを明記する必要がございます。例えば、文芸の著作物であれば、「翻訳権・映画化権その他の翻案権を含む全ての著作権」というように、二次的利用権を具体的に特記することによって本項の適用を免れることができます。これならば、懸賞小説に応募する者においても、翻訳権や映画化権が全部取り上げられることを事前に了解したうえで応募することになりますから、その結果についても納得するだろうということであります。単に「全ての著作権」とか「一切の権利」という表現では、契約で特掲したことにはなりません。」
次に、本条項はあくまでも推定効を規定しているものであり、それを覆滅する事情があれば第27条・第28条の支分権も譲受人に譲渡されたことになることから、今回の判決においては覆滅事情の有無が詳細に検討されています。尤も、この判決の文面を見る限り、覆滅可否の判断に当たって裁判体がかなり苦心しておられる様子が看取されます。彼らの指摘を概括的にまとめると、以下のようなものとなります。
・抑々、原告と被告らとの間の著作権処理はあいまいな状況。被告山代ガスに著作権を帰属させる明文の取り決めも無いし、被告佐賀新聞サービスが著作権者であるかのような外観になっていて、しかも佐賀新聞サービスは訴訟前には自身が著作権者であると主張していたくらいに被告らの間でも錯綜。かつ、著作権処理に関する記載が唯一部分的にされていた本件委託契約1でも、その契約書に両当事者の署名・押印無しでもあり、「譲渡合意の射程に、著作権法27条及び28条の権利も含まれていると解することは・・・大いに躊躇されるものというべき」
・他方で、被告ら指摘の通りに、本件委託契約1等によると、本件著作物1~10のような二次元イラストが作成された後に、三次元のヒーロースーツの作成や本件各著作物の二次的著作物に当たるようなグッズの制作等を行うことが当初から契約の前提になっていたところではあるものの、(本件は、ひこにゃん事件に係る大阪高裁判決(注4)とは事案を異にするものであって、)本件委託契約1ではそのようなヒーロースーツの制作も含めて原告が受託したものであり、実際、そうしたグッズの製作・販売等が原告の関与無しに行われることは本件各著作物の制作後数年間はなかったのであって、
「これら(の)事情は、原告が翻案権等を含めて著作権譲渡をしたことを積極的に示すものとはいえず、むしろ原告が、本件各著作物の二次的著作物の制作、管理も含め、ヤマシロンに関するコンテンツ全体を取りまとめ、管理する立場にあることが原告及び被告ら間の当初の共通認識であったことを示すもので、著作権法27条及び28条の権利が原告に留保されていたとの推定と整合的な面さえあるといえる」
・ところで、原告においては、ヤマシロンについて被告山代ガスを著作権者とする表記の付記を自分で提案していたこと、被告山代ガスに対する許諾申請においても同様の表示を継続していたことについては、当事者間の認識や本件委託契約2の内容からすると、かかる「著作権者の表記は、こういった著作権全般の帰属を示す趣旨のものとして了解可能であり、著作権法27条及び28条の権利に限って原告に留保されていることと、相いれないものとまではいえない」
・原告が本件委託契約2にもとで本件各著作物の二次的著作物の製作・販売についても被告山代ガスの許諾を求める申請を継続していた点については、「一見すると、本件各著作物の著作権法27条及び28条の権利も被告山代ガスに帰属していることが前提の概観となっている面があることは否定できない」が、「本件委託契約2とこれに基づく上記許諾申請の内容は、本件各著作物の著作権が、著作権法27条及び28条の権利とそれ以外の権利とで、原告と被告山代ガスとにいわば分属している状況下において、当事者間の任意の定めとして、ヤマシロンに関するグッズの製作、販売等について、各グッズが複製の範囲にとどまるか、翻案にまで及ぶものであるかを区別せず、一律に被告山代ガスの許諾に係らしめるとともに、その売上・利益の配分ルールを合意し、運用したものとして理解することが可能であり、翻案権等も含めて被告山代ガスに移転していたと見ることのみが、唯一了解可能な解釈なわけではない。」
客観的には、今回の判決中で指摘されているように、著作権法に必ずしも明るくない当事者が法律専門家の協力もなく、同法の観点からしていくつかの不備を抱えた状態での著作権譲渡に係る合意・行動を行っていたところ、当初のように相互の協力関係が円滑に進んでいた時点と異なり、途中から原告の協力者である「悪の秘密結社」が原告の関与しない状態で被告らと協力してヤマシロンに関するグッズの製作・販売等を行ったことで原告が不満を抱くようになり、原告と「悪の秘密結社」・被告らとの関係性が悪化して、
最終的には本件訴訟の提起に至ったものであって、そのような中で今回の裁判体においても推定効の維持/覆滅に関して明確な決め手に欠ける考えであったことは上記各部分の説示の言い回しを見ても明らかであったといえるでしょうし、それだけにヤマシロン関係のグッズ製作等に係る原告の(被告らに対する)行動の状況を重視するならば推定効覆滅との判断もあり得たものと思われますが、今回の判決においては、原告・被告らの著作権処理が非常に不明確であったことが大きく響いており、それに対して種々の状況を勘案しても、著作権法で態々規定されている特別の規定(推定効)を乗り越えて、覆滅成功の方向に軍配を上げるまでには至っていないと判断されたものと解されます。
なお、著作権法がこのような第61条第2項の条文を整備していることの妥当性に関しては必ずしも意見の一致を見ておらず(注5)、2000年代初頭には複数年にわたって政府内で検討されたものの、その検討結果は「第61条第2項は廃止の方向で検討すべきであるが,本規定はあくまで推定規定であること,及び廃止する場合には著作権制度審議会が念頭に置いていた出版社等による懸賞小説募集のような約款による著作権譲渡といった一定の譲渡契約について何らかの手当を行う必要があると考えられるところから,現状においては,本規定のみを直ちに廃止するための法改正を行うことは適当ではない。」とされているところであり(注6)、現在も第61条第2項の改正には至っていない状況です。今回は以上といたします。
(注1)ヤマシロンのイラスト等については以下の裁判所ウェブサイトを参照。
https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/attachmentfile/attachmentfile-file-206236.pdf
(注2)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』495-496頁
(注3)前掲注2・496-497頁
(注4)本文記載の判旨において引用されている大阪高裁決定に関しては、半田正夫=松田政行編『著作権法コンメンタール[第2版]2』752-753頁[飯島澄雄=飯島純子]による以下の解説を参照。
「契約に「特掲」が認められない場合であっても,譲渡されたことが立証され,本条2項の推定が覆された事案もある. あるキャラクターの著作権者らにキャラクターの着ぐるみ等 作成について承諾を得ず,かつ契約書にも「著作権等一切の権利は400年祭委員会に帰属する」とだけ書かれていたケースにおいて着ぐるみ作成の権利が原権利者に留保されるかどうかが問題となった事案で,大阪高裁は「著作権等一切の権利は400年祭委員会に帰属する」という文言では「特掲」されたとはいえないが,契約書別紙の仕様書に「キャラクターは,着ぐるみ等を作成する場合もあるので,立体的な使用も考慮すること.」とキャラクターの立体使用の予定を明示していたこと,キャラクターが400年祭のイメージキャラクターとして各種行事や広報活動に広く利用されることを予定していたことに鑑み,著作権法61条2項の推定を覆す事情があるとした(大阪高判平23・3・31判時2167号81頁-ひこにゃん事件)」
また、本決定に関しては判例百選においても以下の解説がある。小泉直樹=田村善之=駒田泰土=上野達弘編『著作権判例百選[第5版]』170-171頁[池村聡]。さらに、別事件に係るものではあるが、第61条第2項を取り扱うものとして、田村善之=奥邨弘司=駒田泰土=上野達弘編『著作権判例百選[第7版]』200-201頁[山名美加]も参照。
(注5)本条項の必要性について疑問を呈する見解として、例えば、中山信弘『著作権法〔第4版〕』537-539頁。
(注6)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/05072901/003-6.htm
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