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JRRCマガジン No.456 2026/2/12
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説
【2】【2/26開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
【3】日本行政書士会連合会主催「著作権普及啓発実践セミナー」開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日2月12日は「ペニシリンの日」
1941(昭和16)年のこの日、イギリスのオックスフォード大学附属病院が、世界で初めてペニシリンの臨床実験に成功した日だそうです。
さて、今回は井奈波先生の「欧州 AI規則の解説」の連載の最終回です。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/
━━ ◆◇◆【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説━━━━━━━
第10回 製造物責任指令とAI規則
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EUでは、2024年10月 23日の製造物責任指令が採択され、同年12月8日に発効(国内法化の期限は、2026年12 月9日)しています。今回は、製造物責任指令とAI規則との関係について、説明します。なお、従前の1985年7月 25日の製造物責任指令(以下「旧指令」といいます)は、新たに採択された指令により廃止されています。
製造物責任指令:Directive (EU) 2024/2853 of the European Parliament and of the Council of 23 October 2024 on liability for defective products and repealing Council Directive 85/374/EEC (Text with EEA relevance)
旧指令(廃止):Council Directive 85/374/EEC of 25 July 1985 on the approximation of the laws, regulations and administrative provisions of the Member States concerning liability for defective products
1 製造物責任指令のAI対応
AI規則は、AIにより生じるリスクを防止することを目的とし、AIにより何か問題が生じたときの責任についてはまったく規定していません。
他方、製造物責任指令は、技術革新を考慮し、新指令を現代化させることを目的としています。問題は、製造物責任指令が、AIについても製造物責任を負わせることになるかどうかです。不法行為責任は過失責任ですが、製造物責任は無過失責任であり、AI に製造物責任が適用されるならば、責任を問われる可能性が広がります。この点、同指令前文3項は、AIを含む新たな技術等の進展により改正が必要となったことを改正の理由としていますので、AI をターゲットにしていることは明らかとなっています。
ところで、AIについては、AI責任指令の法案がありましたが、2025年2月に撤回されました。そこで、製造物責任指令がAIに適用されるのかが問題とされます。
AI責任指令案:Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on adapting non-contractual civil liability rules to artificial intelligence (AI Liability Directive)
2 AIの製品該当性
まず、製造物責任指令の「製品」にAIが該当するか否かが問題となります。旧指令は、有体物と無体物を区別し、有体動産のみを対象としていました。しかし、製造物責任指令4条1号は、「製品」を「すべての動産であり、他の動産または不動産に組み込まれまたは相互接続される場合も含み、電気、デジタル製造ファイル、原材料、ソフトウェアを含む」と定義しています。新たな指令では有体物と無体物の区別はなく、いずれも製品となります(指令前文 13項)。 ソフトウェアも「製品」であり、スタンドアロンの製品であっても、他の製品に統合されるものであっても「製品」となり、ソフトウェアにはAIも含まれ、(指令前文13項)、AIは製品として扱われます。
製造物責任指令は、2026年12月9日から上市された製品またはサービスが開始された製品について適用されます。ソフトウェアがアップグレードされたりアップデートされたりして変更された場合も適用対象となり、AIシステムが学習で大幅に変更される場合も変更が行われた時点で上市されまたはサービスが開始されたとみなされます(指令前文40項)ので、適用前に上市されまたはサービスが開始されたAIシステムであっても、適用後に変更があれば、適用対象となります。
ただし、商業活動の範囲外で開発または提供されるフリーでオープンソースのソフトウェアは製造物責任指令の適用対象外となります(指令前文14項)。フリーでオープンソースのAIシステムは、原則としてAI規則の適用対象外でもあります(AI規則2条12項)。
3 製品について責任を負う者
製造物責任を負う者は製造者で、EU域外の製造者も責任を負います(指令第8条第1項c)。また、オンラインプラットフォーマーも責任を負う場合があります(同条第4項)。
4 損害
AIシステムに対して製造物責任指令が適用されることがあるとしても、製造物責任指令は、消費者その他の自然人の保護を目的としているため(指令前文9項)、そこで賠償の対象となる損害は、欠陥製品を原因として自然人が被った、死亡、心身の傷害、財物に生じた損害となります(指令第5条)。財物に生じた損害については、データの損壊も対象となりますが(指令前文20項)、業務用に使用されるものは除外されます(指令第6条1項(c))。 また、損害は、物的損害だけでなく、国内法で認められるのであれば、精神的損害も賠償の対象となります(同条2項)。しかし、純粋な経済的損害や、プライバシー侵害や差別など基本的権利に対する侵害については、それ自体では製造物責任指令に基づく責任を生じさせるものではないとされます(指令前文24項)。
したがって、個人がAIシステムによって損害を被ったとしても、その損害が純粋な経済的損害であれば、製造物責任指令に基づく損害賠償の対象とはなりません。たとえば、AIシステムが事実でない事柄を生成したこと(ハルシネーション) により経済的損害を被ったとしても、製造物責任指令に基づく損害賠償責任は生じませんし、また、プライバシーの侵害や差別から生じた損害は、少なくとも製造物責任指令に基づく損害賠償の対象にはなりません。これらは、契約責任や製造物責任指令以外の不法行為責任の対象にはなり得ます。製造物責任指令は、 AIの責任に関する一般法ではなく、あくまで消費者その他自然人の保護を目的とした責任を認めるものです。
5 欠陥
AIは、上市後も学習し続けることになりますので、この場合に製造物責任指令の欠陥はどのように認定されるかが問題となります。
同指令によれば、「製品が、人が当然に期待し得る安全性、またはEU法または国内法で要求される安全性を提供していない場合」に、欠陥があるとみなされます(7条)。
指令7条2項は、欠陥であるかどうかの考慮要素を示していますが、「製品が市場に供給され、または使用開始された後も、学習を継続したり新しい機能を取得したりする能力が製品に与える影響」を考慮するとし(同条項(c))、生成AIを想定しています。また、「製品と共に使用されることが想定される他の製品(接続の方法によるものを含む)が製品に及ぼす合理的に予見可能な影響」を考慮するとし(同条項(d))、AIシステムが製品に接続された場合を想定しています。加えて、「安全に関連するサイバーセキュリティ要件を含む、関連する製品安全要件」(同条項(f))も考慮要素となります。
欠陥の立証責任は被害者にあり、立証責任の転換はないのですが、指令は、情報の非対称性を考慮し、推定規定を設け立証の負担を軽減しています(10条2項)。同条項(b)は、EU法に定める製品安全の義務的要件に製品が適合していないことを請求者が示した場合に欠陥の推定を認めていますので、たとえばAI規則においてハイリスクAIシステムに課せられるサイバーセキュリティ要件に問題の AIシステムが適合していないような場合、欠陥が推定されると考えられます。
加えて、証拠や関連事情を考慮し、 (a)技術的・科学的複雑性のため、製品の欠陥、欠陥と損害との因果関係、またはその双方を立証することが極度に困難な場合で、かつ(b) 製品が欠陥である可能性が高いこと、もしくは欠陥と損害との因果関係が存在する可能性が高いこと、またはその双方を請求者が示した場合には、製品の欠陥、欠陥と損害との因果関係またはその双方が推定されます(10条4項)。 したがって、AIシステムの場合、本条項により、欠陥、欠陥と損害の因果関係またはその双方が推定されやすい状況となっていると考えられます。前文 48項は、技術的または科学的複雑性は、国内裁判所が、様々な要素を考慮し、個別具体的に判断すべきであるとし、これらの要素には、機械学習など、使用される技術の複雑性が含まれると述べています。
さらに、因果関係の存在を立証するためにAIシステムの内部構造の説明が必要となる場合も例として挙げられています。加えて、裁判所が極度の困難性を認定するため、たとえば、AIシステムに関する請求の場合、請求者はAIシステムの具体的な特性や、それらの特性が因果関係の立証を難しくしている理由を説明する必要はないと述べています。
製造物責任指令が定める欠陥の推定規定は、製造物責任以外の場面においても影響を与え得るといえます。
6 最後に
本連載は、今回で最終回になります。AI規則は、単体でAIに対する規制が完結する性質のものではなく、さまざまなEU法が関係します。最終回は、製造物責任指令を取り上げましたが、そのほかにも、一般データ保護規則や刑事法との関係も問題となります。
また、AI規則と条文との対応関係については、中途半端に終わってしまいましたので、こちらでまとめを掲載しております。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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【2】【2/26開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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今年度2回目となるJRRC著作権講座中級を開催いたします。
本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。
講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。
エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。
★日 時:2026年2月26日(木) 10:30~16:50★
プログラム予定
10:30 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
特集①著作物について(境界領域)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:15 JRRCの紹介
13:15 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:25 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:25 ~ 15:35 休憩
15:35 ~ 16:20 第4部 特集②出版社の権利について
16:20 ~ 16:50 質疑応答
16:50 終了予定
★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/260128-2/ ★
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【3】日本行政書士会連合会主催「著作権普及啓発実践セミナー」開催のお知らせ
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2月25日(水)に日本行政書士会連合会主催の著作権普及啓発実践セミナーが開催されます。
下記URLより詳細をご確認のうえ、是非ご参加ください。
★ https://www.gyosei.or.jp/news/20251225 ★
【セミナー概要】
日 時:令和8年2月25日(水)12:30 開場 13:00 開始(16:30 終了予定)
場 所:イイノホール
(東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング 霞ヶ関駅C4番出口直結)
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