JRRCマガジンNo.452 欧州AI規則の解説9 AI規則における声の利用

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JRRCマガジン  No.452 2025/1/15
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◆今回の内容
【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説
【2】【1/28開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日1月15日は「小正月」の日

1月15日は、正月行事の締めくくりとされる小正月。
地域によっては、どんど焼きでお正月飾りを焚いたり、小豆粥を食べて一年の健康を願う風習があるそうです。

さて、今回は井奈波先生の「欧州 AI規則の解説」です。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

━━ ◆◇◆【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説━━━━━━━
第9回 AI規則における声の利用
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 AIによる音声の生成に関し、特に著名人の音声がコンテンツ生成に利用されるとの問題があり、音声の保護について各国で議論の対象となっています。この問題に関しては、欧州においても議論が固まっているといえません。今回は、この問題に関し、AI規則によりどこまで対応しているかを中心に紹介します。

1 AIシステム提供者・導入者の透明性義務(AI規則50条)
 (1) AIシステム提供者の義務(50条2項)
 まず、AI規則は、音声を含む合成コンテンツを生成するAIシステム提供者に対し、その出力が機械により読み取り可能なフォーマットでマークが付けられ、AIによって人工的に生成されたものと検出可能であることを保証する義務を負わせています(50条2項)。
 AIによって生成された合成コンテンツにはマーキングが必要であるとの前提で、AIシステム提供者に技術的ソリューションを提供する義務を課すものです。
  
 (2) AIシステム導入者の義務(50条4項)
 さらに、AIによる音声の生成はディープフェイクとなり得、音声を生成しまたは操作するAIシステム導入者(つまり使用者)は、ディープフェイクを生成する者として、AIによる人工的な生成物であることを明示する透明性義務が課せられます(50条4項)。
 AI規則上、ディープフェイクは、「AIが生成しまたは操作した画像、音声または動画のコンテンツであり、それが実在する人、物、場所、実体、または出来事との類似し、本物または真実であると誤って人に認識され得るもの」と定義されます(3条(60))。 ディープフェイクを用いる目的は問いませんので、ディープフェイクを悪用するかどうかにかかわらず、AIが実在する人の音声を本物と思わせるような音声を生成するコンテンツは、ディープフェイクとなります。
 なお、50条4項は、コンテンツが芸術的作品を構成する場合、AIによる生成物であることを示すこの透明性義務は、作品の表示や享受を妨げない適切な方法で生成コンテンツの存在を公表することに限定されることを定めます。これは表現の自由や芸術・学術の自由を妨げないよう配慮したものであり、第三者の権利および自由のため適切な保証は留保されていますので、芸術作品であっても、この透明性義務を免除するものではないと考えられます(前文134項)。

2 汎用AIモデル提供者の義務(AI規則53条)
 (1) EU法遵守義務および方針(ポリシー)策定義務(53条1項c)
 汎用AIモデル提供者は、著作権および著作隣接権に関するEU法を遵守するためのポリシーを定める義務があります。前回の連載ではデータマイニングの文脈で本条項について説明しましたが、ポリシーの策定は、データマイニングに限らず、著作権・著作隣接権に関するEU法の遵守全般に関係します。

 (2) 要約の作成・公開義務(53条1項d)
 これに加え、汎用AIモデル提供者は、AIオフィスが提供するテンプレートに従って、汎用AIモデルの訓練のために用いられるコンテンツについて、十分に詳細な要約を作成し、公開する必要があります。この要約は、「著作権者を含む正当な利益を有する当事者が、EU法がそれらに与えた権利を行使しおよび遵守させることを容易にする」ことを目的としています(前文107項)。
 テンプレートにより、著作者および実演家は、自分の作品がどのようにAIの訓練に用いられているかを理解でき、権利行使につなげる仕組みです。

3 実体法上の保護
 AI規則は、上記のとおり、主に透明性を確保することによって、権利者の権利行使を容易にする手続的な側面を定めています。しかし、音声に対する実体法上の保護を認める根拠を定めるものではなく、この問題は各国の実体法に委ねられます。

 (1) 著作隣接権
 我が国では、実演家がいったん映画の著作物にその実演を録音・録画することを承諾した場合には、録音物を作成する場合を除き、二次利用について承諾を得る必要はないというワンチャンス主義(91条)が採用されていることから、実演家の声をAIに学習させる行為に関して、著作隣接権による保護は極めて限定的であると考えられます。 また、非享受目的の利用に関する著作権法30条の4の規定も実演家の権利に準用されていますので(著作権法102条)、実演家の正当な利益を害する場合でない限り、AIに実演を学習させることは著作隣接権を侵害することにはなりません。
 EUの場合、情報社会指令2条は、実演家の実演の固定物について、実演家に複製権を認めていますので、ワンチャンス主義を採用する我が国とは出発点が異なります。さらに、著作隣接権についてもデータマイニングの例外が認められていますが(デジタル単一市場指令4条)、著作権の場合と同様、オプトアウトが可能です。
 したがって、実演家の音声については、各国の著作権法によりますが、著作隣接権の問題として捉えることが可能で、そのためにAI規則では透明性の確保が重要視されます。しかし、AIの訓練に用いられる音声は、必ずしも著作隣接権の保護対象となる実演から取得した声であるとは限らず、実演家の権利の枠組みによる保護には限界があります。

 (2) 個人データとしての保護の可能性
 一般データ保護規則(GDPR)4条(1)によれば、個人データとは、識別された自然人又は識別可能な自然人(「データ主体」)に関する情報を意味します。声は自然人を識別可能であれば、個人データに該当すると考えられます。さらに、GDPRでは、「生体データとは、自然人の身体的、生理的又は行動的な特性に関連する特別な技術的取扱いから得られる個人データであって、顔画像や指紋データのように、当該自然人を一意に識別できるようにするもの、又は、その識別を確認するものを意味する」と定義されています。
 ただし、AI規則の「生体データ」は、「顔画像や指紋データのような、自然人の身体的、生理的、または行動的特徴に関連する、特有の技術的処理の結果である個人データ」(3条(34))と定義され、識別の目的は要求していません。AI規則では、人の声も生体データの例に挙げられています(前文15項)。
 AI規則に定める権利義務に関連して処理される個人データに関しては、GDPRなどの個人データ保護に関するEU法が適用されます(AI規則 2条7項、前文10項)。GDPRは、技術的にニュートラルであるためあらゆる個人データ処理に適用され、その一般的性質から、AIシステムのトレーニングのための個人データ処理にも適用されます。そこで、音声の処理についても、GDPRによる保護の可能性も指摘されています。

 (3) 人格権による保護
 そのほか、加盟国の国内法に基づく一般的人格権としての保護も考えられます。たとえば、フランスでは、声を「音の肖像」として認めた裁判例(パリ大審裁判所1982年5月19日マリア・カラス事件)があります。本件は、歌手マリア・カラスが、自分の声質を評価するために1976年に録音した実演を放送したことに対し、マリア・カラスの相続人が、放送局らを放送の禁止や損害賠償などを求めて訴えた事件です。これは古い裁判例ですが、AIによるアウトプットに対する権利行使の可否が問題となる場面で注目されています。
マリア・カラスは、当該録音に満足せず、1977年に亡くなるまで、舞台に立つことも、新たな録音をすることもありませんでした。なお、当時、フランスでは、著作隣接権も実演家人格権も導入されていませんでした。争点の一つは、声の録音にマリア・カラスの権利が及び、放送を禁止する根拠があるのか、もう一つの争点は、マリア・カラスの死後、相続人が権利行使できるのか、の2点でした。
 裁判所は、最初の争点について、声は人格の属性であり、「音の肖像」であるから、許諾のない放送は不当であるとして、マリア・カラスの人格権の侵害を認めました。 さらに、人格権は死後に消滅するため相続人の権利行使が問題となるのですが、裁判所は、血縁者の連帯性を理由に、相続人の権利行使を認めました。死後の人格権および人格権を根拠とするパブリシティ権の行使については、その可否、および可とする場合にはその理論構成が問題となります。AIにより死者の精神が存続し得る状況においては、この問題は古くて新しい未解決の問題です。

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【2】【1/28開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催で著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権 」と「コンテンツ産業と著作権(音楽の流通を中心にして)」について講演予定です。

★募集要項★
日 時:2026年1月28日(水) 10:00~15:10 (予定)
会 場:Zoom(オンライン開催)
参加費:無料
主 催:公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学

★講師紹介★
・川瀬 真 氏  公益社団法人日本複製権センターシニア著作権アドバイザー、元文化庁著作権課著作物流通推進室長
・甲野 正道 氏  大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授

★プログラム★(講義の進捗度合いにより時間は変更になる場合があります。)
10:00 ~ 10:05 講師紹介等
10:05 ~ 12:00 著作権制度の概要 【講師】川瀬 真 氏
12:00 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:00 トピックス「 AIと著作権 」 【講師】 甲野 正道 氏
14:00 ~ 14:10 休憩
14:10 ~ 15:10 トピックス「 コンテンツ産業と著作権(音楽の流通を中心にして) 」 【講師】川瀬 真 氏
15:10      終了予定

★お申込みサイト★
https://jrrc.or.jp/event/260108-2/

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