JRRCマガジンNo.448 欧州AI規則の解説8 AI規則とデータマイニングによる著作物の利用

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JRRCマガジン  No.448 2025/12/11
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説
【2】 無料オンライン著作権ミニセミナーのご案内 (近年の複製権等を巡る新聞報道と組織内での適正な複製利用について)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日12月11日は「国際山岳デー」

この国際デーは、国際社会が山岳地域の環境保全と持続可能な開発について考えることを目的として
2003年(平成15年)の国連総会で制定されたそうです。

さて、今回は井奈波先生の「欧州 AI規則の解説」です。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

━━ ◆◇◆【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説━━━━━━━
第8回 AI規則とデータマイニングによる著作物の利用
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 AIモデルの訓練には、著作権により保護されるテキストや画像などが利用される可能性があります。それを前提に、AI 規則は、汎用AIモデルの提供者(EU市場にモデルを上市するわが国の提供者にも適用される)の義務として、「著作権および著作隣接権に関するEU 法を遵守するための方針を定めること、特に、指令(EU)2019/790第4条第3 項に従って表明された権利の留保を、最先端の技術によるものを含め、特定しかつ遵守するための方針を定めること」(53条1項c )を定めています。
 ここで求められるのは、方針(ポリシー)の策定ですが、ポリシーの策定にあたっては、上記のとおり指令(EU)2019/790(デジタル単一市場著作権指令。以下「DSM指令」といいます)の遵守が前提となります(同条項、前文106項)。
デジタル単一市場著作権指令の翻訳:https://www.cric.or.jp/db/world/EU/EU_02a.html#4

1 DSM指令4条
 (1) テキストおよびデータマイニングのための例外または制限
 DSM 指令 4条は、著作権および著作隣接権に対し、テキストマイニングおよびデータマイニングの例外または制限を定めています(同条 1 項)。テキストマイニングおよびデータマイニングは、 「情報(パターン、傾向および相関関係を含むがこれらに限定されない)を導き出すため、デジタル形式のテキストおよびデータを分析することを目的とするあらゆる自動分析技術」と定義されます(同指令 2 条(2) 。以下「データマイニング」といいます )。データマイニングの目的に特段の制限はなく、商業目的であっても、この例外または制限の適用が認められます。また、対象となる著作物・著作隣接権の保護対象物は、適法にアクセスできるものでなければなりません。
 なお、このほか、デジタル単一市場指令は、学術研究目的でのデータマイニングの例外または制限を定めています(3条)。

 (2) 権利留保
 データマイニングの例外または制限は、「権利者が、オンラインで公衆に利用可能とされるコンテンツのため機械により読み取り可能となる手段のような適切な方法で、同項にいう著作物や他の保護対象物の使用を明示的に留保していないことを条件として、適用されなければならない」と定められています(DSM指令 4条 3項)。そこで、権利者は、著作物や著作隣接権の保護対象物をデータマイニングに用いることを認めないという留保(オプトアウト)ができます。オプトアウトされた場合、 AIモデルの訓練でコンテンツをデータマイニングに用いるには、権利者の許諾が必要となります( AI規則前文 105項)。
 オプトアウトの方法については、DSM指令前文18項に「オンラインで公衆に利用可能とされているコンテンツについては、メタデータおよびウェブサイト、またはサービスの利用規約を含む、機械により読み取り可能な手段により当該権利の留保が行われた場合にのみ、当該権利の留保が適切であるとみなされる」とありますが、ここでは具体的方法は特に示されていません。

2 AI規則
 (1) AI規則53条1項(c)
 冒頭に述べたとおり、汎用AIモデル提供者は、EU法の遵守を前提とするポリシー策定義務(53条1項c)を負います。ポリシーの内容は、「著作権および著作隣接権に関するEU法を遵守するためのポリシー、特に指令 (EU)2019/790第4条第3項に従い権利者が表明した権利の留保を特定しかつ遵守するためのポリシー」であり、「汎用 AIモデルをEU市場に上市する提供者はすべて、これらの汎用AIモデルの訓練の基礎となる著作権に関する行為が展開される裁判管轄に関係なく、この義務を遵守しなければならない」とされます(前文106項)。なお、汎用AIモデルがフリーかつオープンソースのライセンスの下でリリースされたとしても、AI規則53条1項(a)(b)の透明性義務と異なり、著作権に関する義務は免除されません(前文104項)。
 したがって、我が国の汎用AIモデル提供者であっても、EU市場にそのモデルを上市する場合には、著作権に関するEU法の遵守義務と方針策定義務に従うことが求められます。その趣旨は、AIモデルの提供者間の公正な競争を保証するため(EUの著作権法より低いレベルのルールを適用される者が、競争上、有利となってしまうため)であるとされます(前文106項)。AIモデルのトレーニングに関する著作権の規制が緩い国でトレーニングができても、EU市場ではそのような抜け駆けは認められないことになります。
 なお、その汎用AIモデルの訓練に用いられたコンテンツについては、AIオフィスが提供するテンプレートに従って、要約を作成し、公表することが求められます(53条1項d)。  このテンプレートはすでに提供されています。その目的は、著作権者等が著作権を行使できるようにするためとされます(前文107項)。
テンプレート:https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/explanatory-notice-and-template-public-summary-training-content-general-purpose-ai-models

 (2) 行動規範
 汎用AIモデル提供者の行動規範は、前回の連載で述べたとおり、透明性・著作権・安全性およびセキュリティの各章に分けて公表されています。汎用AIモデル提供者は、行動規範に署名することが求められ、既にGoogleやOpenAIなど多くの事業者が署名しています。
 行動規範:https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/contents-code-gpai

 著作権に関する行動規範には、次の事項が定められています。
表8-1 著作権に関する行動規範
1 著作権ポリシーの策定、アップデートおよび実施
2 WWW(World Wide Web)をクローリングする場合、合法的にアクセス可能なコンテンツのみを複製および抽出すること
3 WWWをクローリングする場合、権利留保を識別しかつ遵守すること
4 出力の著作権侵害リスクの軽減
5 連絡先の指定および苦情申立て手段の設置

 上記2のとおり、 WWWをクローリングすることによりAIモデルをトレーニングする場合、合法的にアクセス可能な著作物等を複製および抽出することを確保することが求められます。そのため、 具体的には、技術的手段を回避しないこと、および侵害サイトをクローリングから除外することをポリシーとして確約することが求められます。後者の侵害サイトの除外手段については、EU やEEAの裁判所等により侵害を認定されたサイトが対象で、そのリストは EUの機関により提供されることとされています。この点は、今後の実務的な対応が気になります。
 さらに、上記3のとおり、WWW をクローリングすることにより AIモデルをトレーニングする場合、権利留保を識別し、遵守することが求められます。具体的には、インターネット・エンジニアリング・タスクフォース( IETF:https://www.ietf.org/ )が定めるロボット排除プロトコル(robots.txt)の指示を読み取って従うクローラーを使うことや、権利留保を表明するプロトコルを識別し、遵守することをポリシーとして確約すること が求められます。
 クローリングされたくない権利者は、このプロトコルを用いれば、完全ではないにせよ、クローリングを排除する一定の効果はあるといえます。行動規範の署名者で検索エンジンを提供する者は、権利者が権利留保をしたとしても、検索エンジンにおいて不利益に扱わないように求められます。
ロボット排除プロトコル:https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc9309.html#name-requirements-language
 上記4は、AIモデルが統合されたAIシステムが、著作権侵害の可能性のある出力を生成するリスクを軽減するようを求めるもので、そのために提供者は技術的保護措置の実施等を ポリシーとして確約することが求められます。

3 我が国の著作権法
  著作権法47条の5は、検索結果の提供を軽微利用として権利制限の対象と定めていますが、これは政令に定める基準によって行うことが求められ、著作権法施行令7条の4第1項第1号ロに定める著作権法施行規則4条の4によれば、robots.txtの指示がある場合は47条の5の適用はないことになります。
 ところで、検索拡張生成(RAG)に関し、令和6年3月 15 日「AI と著作権に関する考え方について」文化審議会著作権分科会法制度小委員会22頁によれば、「RAG 等による生成に際して、「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用するような場合は、法第 47 条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考えられる」とされます。
一方、同「考え方について」21頁~22頁によれば、著作権法30条の4について、「既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに著作物が含まれる場合でも、 RAG 等に用いられるデータベースを作成する等の行為に伴う著作物の複製等が、回答の生成に際して、当該データベースの作成に用いられた既存の著作物の創作的表現を出力することを目的としないものである場合は、当該複製等について、非享受目的の利用行為として法第 30条の4が適用され得ると考えられる」とされています。結局、robots.txt(お願いベースなので、我が国の技術的保護手段に該当するとは考えにくい)の指示によりRAGに用いることのオプトアウトが認められるか否かについて、現段階ではあまり明確な答えが出ていないように思います。

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【2】 無料オンライン著作権ミニセミナーのご案内
(近年の複製権等を巡る新聞報道と組織内での適正な複製利用について)
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毎年のように複製権や公衆送信権の侵害の裁判例及び侵害の疑いについての報道がなされており、
その度に多くの皆様から自らの組織における複製利用は問題ないかというお問合せをいただいております。
今年も5月に投資コンサルタント会社の事案が、また、11月には自治体についての事案が新聞をはじめとするメディアで大きく報道されたことから、
弊センターでは、お問合せの内容を踏まえ、組織内における著作物の複製利用についての基礎知識や複製等にあたり適切に許諾を得る方法についての情報を提供するミニセミナーを開催することと致しました。

参加は無料かつ短時間(1時間以内)での開催予定ですので、知識の再確認や異動等で新しくコンプライアンスを担当された方の参考情報入手の場としていただければと存じます。

【著作権ミニセミナー開催概要】
●日時
①2025年12月16日(火)15:00-16:00(説明30~40分、質疑15分)
②2025年12月19日(金)11:00-12:00(同)
③2025年12月19日(金)15:00-16:00(同)

●内容: 
・近年の著作権侵害事案に関する新聞報道
・複製権及び公衆送信権について(基礎的な内容)
・組織内における著作物の正しい利用について
※内容は多少変更となる可能性がありますので、予めご了承願います。

●お申込みURL: https://jrrc.or.jp/miniseminar/

●主催:公益社団法人日本複製権センター
●参加協力:新聞著作権協議会(加盟68社)* および 日本経済新聞社、日刊工業新聞社、奈良新聞社
*朝日新聞社,毎日新聞社,読売新聞グループ本社,産経新聞社,ジャパンタイムズ,報知新聞社,日刊スポーツ新聞東京本社,スポーツニッポン新聞社,東京スポーツ新聞社,東京ニュース通信社,日本農業新聞,共同通信社,時事通信社,北海道新聞社,室蘭民報社,十勝毎日新聞社,苫小牧民報社,東奥日報社,陸奥新報社,デーリー東北新聞社,岩手日報社,河北新報社,秋田魁新報社,山形新聞社,福島民報社,福島民友新聞社,茨城新聞社,下野新聞社,上毛新聞社,埼玉新聞社,神奈川新聞社,千葉日報社,山梨日日新聞社,静岡新聞社,信濃毎日新聞社,長野日報社,市民タイムス,中日新聞社,岐阜新聞社,新潟日報社,北日本新聞社,北國新聞社,福井新聞社,伊勢新聞社,京都新聞社,神戸新聞社,紀伊民報,山陽新聞社,中国新聞社,新日本海新聞社,山陰中央新報社,島根日日新聞社.みなと山口合同新聞社,宇部日報社,徳島新聞社,四国新聞社,愛媛新聞社,高知新聞社,西日本新聞社,佐賀新聞社,長崎新聞社,熊本日日新聞社,大分合同新聞社,宮崎日日新聞社,南日本新聞社,沖縄タイムス社,琉球新報社,宮古毎日新聞社

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