JRRCマガジンNo.445 最新著作権裁判例解説35

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JRRCマガジン No.445   2025/11/20
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【12/4開催】「オンライン著作権講座 初級」開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日11月20日は「世界こどもの日」
1954年、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、国連によって制定されたそうです。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その35)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 今回は、知財高判令和7年9月26日(令和7年(ワ)第70047号)〔NONレーベル事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、被告(映像制作、動画配信業務、タレントマネージメント等を目的とする株式会社)が、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)により、別紙侵害著作物目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る被告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことを理由に、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和6年法律第25号による改正後の題名は、
「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」であり、以下「法」という。)5条1項に基づき、東京地方裁判所に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める申立て(令和6年(発チ)第11178号発信者情報開示命令申立事件)をしたところ、同裁判所がこれを認める決定(以下「本件決定」という。)をしたことから、同申立ての相手方であり電気通信事業を営む原告(有線テレビジョン放送施設を利用した電気通信事業等を目的とする事業者)が、被告に対し、法14条1項に基づく異議の訴えを提起し、本件決定の取消し及び同申立ての却下を求めた事案です。

<判旨(被告が本件動画の著作権を有するか否か)>
「(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア シエスタは、平成19年3月23日に設立された、映像の撮影、編集等を業とする株式会
社である。・・・
イ 本件動画は、平成30年2月2日、AVメーカー「NON」のレーベルから発売された。・・・
ウ 本件動画のパッケージには、「企画・制作 NON」との表示のほか、シエスタのIPPAにおける会員番号(030012)を併記したIPPAの審査済証が表示されている。・・・
エ シエスタは、令和元年11月14日をもって、同日付けで設立された被告に対し、本件動画の著作権を譲渡した。・・・」
「(2) 上記(1)で認定した事実によれば、本件動画はシエスタの申請によりIPPAの審査済証を受けたことが認められるところ、シエスタが、著作者ではないにもかかわらず、IPPAに審査を申請したと認めるべき事情は見当たらないから、「NON」とのレーベル名は、シエスタがアダルト動画を販売するに当たり用いた別名であり、本件動画の販売に当たっても、シエスタは、自己を表すものとして、パッケージに「企画・制作 NON」と表示したことが認められる。
また、弁論の全趣旨によれば、著作者がアダルト動画を販売するに当たり、動画のパッケージ等に社名を表示するのではなく、それに代えて別の名称をレーベル名として用いる場合があることがうかがわれる。
以上を併せ考慮すれば、本件動画は、公衆に提供されるに際して、シエスタを表す名称が、本件動画の著作者名として通常の方法により表示されているということができるから、シエスタは、著作権法14条により、本件動画の著作者と推定され、同推定を覆すに足りる事情はうかがわれない。
したがって、シエスタは、本件動画の著作者と認められ、その後、被告は本件動画の著作権の譲渡を受けているから、被告は本件動画の著作権を有していると認められる。」

<解説>
 今回の事案においては、上記「事件の概要」記載の通り、プロバイダ責任制限法(情報流通プラットフォーム対処法)に基づく発信者情報開示に関して東京地裁が開示申立てを認める決定をしたことに対する当該決定の取消し等が求められた事案であり、最終的には上記決定が認可された結論となっているところ、今回は、その判断の前提となった本件動画の著作権者の確定につき争われた著作権法第14条の著作者の推定等の点を取り上げます。
 著作権法第14条は「著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。」と規定されており、その趣旨は次のように説明されています(注1)。
「・・・本条は、著作者の推定規定でございまして、著作権訴訟における著作者としての挙証責任を著作者から相手方に転換した規定であります。一般に、訴訟を提起しますと、権利を侵害されたと主張する者が真実の著作者であるかどうかということは、その訴訟を提起した側で立証する必要があります。ところが、私が何月何日にどこでこの本を書きましたといっても、証拠が何もなければ、立証することは不可能に近いわけであります。
そこで、例えば出版物に著者として名前が出ていれば、その人を著作者と推定し、著作者でないと主張する側が反対の立証をしなさいという規定が本条であります。」
 このように本条はいわゆる挙証責任の転換規定であるところ、同条の効果については次のように説明されています(注2)。
「本条の場合には、二通りの法律効果がありまして、第1が民事上の訴訟。例えば著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟の場合に、表示者が著作者として訴訟を提起すれば、原告適格が自動的に認められますし、逆に盗作を理由とする訴訟の場合には、盗作品に著作者名の表示がある者が被告適格を推定されるということになります。第2は、刑事上の告訴、例えば著作権侵害の告訴をする場合にも、被害者である告訴権者の推定についても本条の効力が及ぶということです。」
 さて、今回の事案につき著作権法第14条との関係で検討点となるのは、(公衆に提供提示されている)本件動画のパッケージに付されている一連の表示が「著作者名として通常の方法により表示されている」と言えるのかどうかという点です。
 この点、今回の事案についてはここで登場する組織名称等の関係性が少し複雑になっているところ、判決文によれば具体的には以下のようになっています。
・本件動画はAVメーカー「NON」のレーベルから発売され、そのパッケージには「企画・制作 NON」の表示が付されている。
・さらに、同パッケージには映像関係の株式会社シエスタのIPPA(旧・知的財産振興協会)の会員番号が記載されたIPPA審査済証も表示されている(注3)。
・上記シエスタは本件動画発売後に、(判決文における当事者の主張によれば、シエスタからアダルトコンテンツ事業を移転するために設立された)被告(株式会社du78)に本件動画に係る著作権を譲渡している。
 これに対して原告側は「NONと被告との関係は不明」との主張をしているところ、裁判所においては、
・シエスタが、著作者ではないにもかかわらず、IPPAに審査を申請したと認めるべき事情は見当たらない
ことをまず自身の判断の要素・事情としてあげ、これを理由として、
・「NON」とのレーベル名は、シエスタがアダルト動画を販売するに当たり用いた別名であり、本件動画の販売に当たっても、シエスタは、自己を表すものとして、パッケージに「企画・制作 NON」と表示したこと
を認定していて、さらに、
・著作者がアダルト動画を販売するに当たり、動画のパッケージ等に社名を表示するのではなく、それに代えて別の名称をレーベル名として用いる場合があることがうかがわれる
として、この事情を考慮することで
・本件動画は、公衆に提供されるに際して、シエスタを表す名称が、本件動画の著作者名として通常の方法により表示されているということができるから、シエスタは、著作権法14条により、本件動画の著作者と推定される(し、同推定を覆すに足りる事情はうかがわれない)として、
最終的には
・シエスタは、本件動画の著作者と認められ、その後、被告は本件動画の著作権の譲渡を受けているから、被告は本件動画の著作権を有していると認められる旨の判示が行われています。

 これを見るに、裁判所においては、AV映像作品に係る関係者の表示の在り方をめぐる固有の事情を具に考慮した上で、端的にいえば「本件映像についてはそのクレジットをトータル的にみてシエスタがその著作者なのであり、且つ、シエスタから、同社からの事業移転を目的として設立された被告に本件動画に係る著作財産権が適法に移転している」と判断しているものであるのですが、私見的には、各判断要素を些か冗長に連結・工夫して判断した結果であるように見えます。
というのは、今回の事案は上記の通り著作権法第14条(著作者の推定)における「著作者名が通常の方法により表示されている」の「通常の方法による表示」と言えるのかどうかが微妙な表示であったからではないかと思われるためです。
 例えば、上記「NONと被告との関係は不明」との原告主張に応答するためか、判断プロセスの起点として「シエスタが、著作者ではないにもかかわらず、IPPAに審査を申請したと認めるべき事情は見当たらない」点が指摘されていますが、これは必ずしも説得的な説示ではないと思われます。著作権法上、映画の著作物については、多数者の関与等を前提とする劇場用映画を念頭に、その著作者と著作権者とが往々にして分離しうることを前提とした制度設計がなされていること(著作権法第16条、第29条各項)はご存じの通りであり、そのことからすると、IPPA審査証を付された映像作品につき、その申請者がIPPAの会員であることに疑問を差し挟むかどうかはさておき、当該映像作品の著作者が同会員であるとは一義的に明らかであるとは限らないことになるものと思われます。
 そして別の観点から見ると、判断の結果として、シエスタが本件動画の著作者と認定されていることからすれば、本件動画は職務著作に該当するものと判断していることになる訳ですが、映像作品については(AVの場合はまた別かもしれませんが、)前述の通り多様な者による制作関与があり得ること、また、職務著作成立要件(法人等の業務に従事する者)との関係上、所謂社外の者が創作行為を行った場合に職務著作が成立するかどうかについては判例上必ずしも明確でなく(注4)、学説上も議論があること(注5)等を踏まえて考えると、「制作・企画 NON」とパッケージ表示されている本件動画自体について職務著作が成立しているのかどうかをAV業界における具体的な制作実態に即して検討し、本件動画の著作者と現在の権利関係とを判断するというのが本来的な争点・判断プロセスではなかったかと思われます。
 実際、今回の事案と同様の近時裁判例(注6)として、ビットトレントを用いたAVの著作権侵害に係る発信者情報開示命令申立てについての決定に対する異議の訴え事件においては、対象となった動画につき職務著作の成立可能性が検討・判断されているところです。勿論、両事案では当事者の主張・立証の内容・程度が異なっていることからして、必ずしも同一の判断プロセスを採用するものでない点はその通りではあるのですが、今回の判決については、著作者の推定規定と(創作者主義の例外である)職務著作成立可能性とが交錯しうるものであったこと、しかもそれが著作権法上固有のルールが種々敷かれている映画の著作物に係る事案であったことに鑑みると、著作権法第14条~第16条等の関係について思考を巡らせるに足る意義を有するものと思料します。今回は以上といたします。

(注1)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』148頁
(注2)前掲注1・151頁
(注3)旧・NPO法人知的財産振興協会は現在、「NPO法人適正映像事業者連合会」となっており、これに伴い、ジャケットマーク等についても「IPPA」から「CCBU」への切り替えが進んでいる模様である。
(注4)最判H15・4・11判時1822号133頁〔RGBアドベンチャー事件〕においては「著作権法15条1項は,法人等において,その業務に従事する者が指揮監督下における職務の遂行として法人等の発意に基づいて著作物を作成し,これが法人等の名義で公表されるという実態があることにかんがみて,同項所定の著作物の著作者を法人等とする旨を規定したものである。同項の規定により法人等が著作者とされるためには,著作物を作成した者が「法人等の業務に従事する者」であることを要する。
そして,法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものと解するのが相当である。」と述べているが、判決の文言上「雇用関係の存否が争われた場合」の判断基準が示されている状況であり、雇用関係がない場合における職務著作成立の可能性についてどう考えるべきかという点についてはこの判決の射程を含め、必ずしも判然としない。
(注5)小泉直樹=茶園成樹=蘆立順美=井関涼子=上野達弘=愛知靖之=奥邨弘司=小島立=宮脇正晴=横山久芳編『条解著作権法』275頁以下[愛知靖之]を参照。
(注6)大阪地判R7・9・4(令和7年(ワ)第4761号)、大阪地判R7・10・16(令和7年(ワ)第7316号)

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【2】 【12/4開催】「オンライン著作権講座 初級」開催のお知らせ
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今年度2回目となる著作権講座(初級)を12月4日(木)にオンラインで開催いたします。
本講座は著作権法を学んだことのない初心者向けの講座です。著作権法の体系に沿って著作権制度の概要を分かり易く解説するとともに、理解を深めるために重要判例や最新の情報についてもお話いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。

★開催日時:2025年12月4日(木) 13:30~17:00★

プログラム予定
13:30~15:05 第1部 著作権制度の概要
15:05~15:15 休憩
15:15~15:30 JRRCの管理事業について
15:30~16:40 第2部 最近の著作権制度の課題等
16:40~17:00 質疑応答
17:00     終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/251111-2/

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