JRRCマガジンNo.444 欧州AI規則の解説7 そのほかのAIシステムおよび汎用AIモデルに対する規制

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジン  No.444 2025/11/13
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※マガジンは読者登録の方と契約者、 関係者の方にお送りしています。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日11月13日は「うるしの日」

漆工芸の美しさを知ってもらうために制定され、
平安時代に文徳天皇の皇子・惟喬親王が漆の製法を伝授されたという伝説に由来するそうです。

さて、今回は井奈波先生の「欧州 AI規則の解説」です。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

━━ ◆◇◆【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説━━━━━━━
第7回 そのほかのAIシステムおよび汎用AIモデルに対する規制
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆  

 今回は、リスクベースアプローチ(連載第2回参照)において、これまで解説したAIに関して禁止される行為(連載第 4回参照)およびハイリスクAIシステム(連載第5回・第6 回参照)以外の限定的なリスクを有するAIシステム(AI規則第Ⅳ章)およびミニマルリスクのAI システム、ならびにリスクベースアプローチの外に位置する汎用AIモデル(AI規則第Ⅴ章)について説明します。 

1 限定的なリスクを有するAIシステムに関する透明性義務
限定的なリスクを有するAIシステムは4つのカテゴリーに分類され、それぞれのカテゴリーに応じた透明性義務が課されます(50条)。本条に基づく透明性義務に関しても、行動規範の策定が予定されています(50条7項)。現在、AIオフィスは、本条に関する行動規範やガイドラインの策定に向け、調査を実施している段階です。
https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/news/commission-launches-consultation-develop-guidelines-and-code-practice-transparent-ai-systems

表7-1 限定的なリスクを有するAIシステムのカテゴリーに応じた透明性義務

限定的なリスクを有するAI システムのカテゴリー 透明性義務の内容
チャットボット 提供者は、自然人がAIシステムと交流していることがわかるようにAIシステムを設計する必要があります。ただし、使用状況や使用の文脈からわかるものは除外されます(50条1項)。
合成コンテンツ生成AI 提供者は、AIの出力がマシンにより読み取り可能なフォーマットでマークが付され、AIによって人工的に生成されまたは操作されたものとして検出できるようにすることが求められます(同条2項)
感情認識システムと生体分類システム 導入者は、当該システムに接する自然人に対し、そのシステムの運用を通知し、個人データ処理のルールに従って個人データを処理することが求められます(同条3項)。
ディープフェイク 導入者は、当該コンテンツがAIによって、人工的に生成されまたは操作されたことを明示することが求められます。芸術作品等の性質を有するものである場合は緩和され、表現の自由にも配慮されています(同条4項)。

2 ミニマルリスクのAIシステム
リスクベースアプローチのピラミッドの底辺にあるミニマルリスクのAIシステムについては、ハイリスクAIシステムに適用される要件(第Ⅲ章第2節)に定める要件の全部または一部の自発的な適用を目的とする行動規範の策定が予定されています(95条1項)。

3 汎用AIモデル提供者の責任
 (1) 汎用AIモデルとAIシステム
汎用AIモデル(正確にいえば汎用目的AIモデル)は、一般にAIシステムに搭載されるもので、AIシステムとは区別されます(前文97項)。汎用AI モデルが、AIシステムに組み込まれ、それによりさまざまな目的に対応する性能を有する場合、それは汎用AIシステムとみなされます(前文100項、3条(66))。汎用 AIモデルは、汎用性を示すものであることを要し(3条(63))、例として、少なくとも10のパラメータを持ち大規模な自己教師あり学習を用いて大量のデータで訓練されたモデル(前文98項)や大規模生成AIモデル(前文99項)が挙げられています。

(2) 汎用AIモデルの分類
汎用AIモデルは、システミック・リスクを示すものとそうでないものに分類されます。システミック・リスクとは、「汎用AIモデルのハイインパクトの性能に特有のリスクであり、その範囲を原因として、または公衆衛生、保安、公共の安全、基本的権利、または社会全体に対する実際の悪影響または合理的に予見可能な悪影響を原因として、EU市場に重大な影響をもたらすリスクであって、バリューチェーン全般にわたり大規模に広がり得るもの」と定義され(3条(65))、システミック・リスクを示すAIモデルに該当するかどうかは、ハイインパクトの性能を有するか、それと同等の性能を有することが基準になります( 51条1項)。
 ハイインパクトの性能とは、「最先端の汎用AIモデルに記録された性能と同等か、それを上回る性能」と定義されていますが(3条(64))、汎用AIモデルは、浮動小数点演算により測定されたその訓練のために陥られる累積計算量が10の25乗を超える場合にハイインパクトの性能があると推定されます(51条2項)。この閾値は、欧州委員会の委任法令により変更される可能性があります(51条3項、 97条)。
 このように、システミック・リスクを示すかどうかは、形式的基準で決まり、実質的にシステミック・リスクを示かどうかは、原則として問題にしていません。ただし、システミック・リスクを示すことの形式的基準を満たす汎用AIモデルであっても、汎用AIモデルの提供者は、実質的にシステミック・リスクを示さないことを証明して、その義務を回避することができます(52条)。

 (3) 汎用AIモデル提供者の義務
 
汎用AIモデル提供者およびシステミック・リスクを示す汎用AIモデル提供者の義務は、以下の一覧表(7-2)のとおりです。システミック・リスクを示す汎用AIモデル提供者については、汎用AIモデル提供者の義務に加え、独自の義務が課されます(55条)。なお、汎用AIモデルの提供者がそのAIシステムにその汎用AIモデルを組み込む場合、 AIシステムに適用される義務に加えて、モデルについて定められる義務も遵守することが求められます(前文97項)。

表7-2 汎用AIモデル提供者の義務

汎用AIモデル提供者の義務
・モデルの技術文書作成義務(53条1項a)。附属書Ⅺの情報を含むものであること。
・文書等作成保存義務(同条項b)。附属書Ⅻの要素を含むものであること、およびAIシステムの提供者が理解でき、本規則の義務を遵守できるようなものであること。
・著作権および著作権に関するEU法を遵守するための方針策定義務(同条項c)。
・AIモデルの訓練内容の公表義務(同条項d)。
・汎用AIモデル提供者が第三国において設立されている場合、代理人選任義務(54条)。
システミック・リスクを示す汎用AIモデル提供者の義務
・53条・54条の義務、つまり汎用AIモデル提供者の義務および代理人選任義務
・モデル評価の実施(55条1項a)
・EUレベルの潜在的システミック・リスクの評価・軽減義務(同条1項b)
・重大インシデントの通知義務(55条1項c)
・サイバーセキュリティの確保義務(同条項d)

 このうち、技術文書作成義務・文書等作成保存義務(53条1項a・b、附属書Ⅺ・Ⅻ)は透明性義務の内容を構成するもので、透明性義務については行動規範が策定されています。さらに、著作権遵守の方針策定義務(同条c)、システミック・リスクを示す汎用AIモデルについてのサイバーセキュリティ確保義務(55条1項d)についても、それぞれ行動規範が策定されています。汎用AIモデル提供者は、行動規範に署名することにより、 AI規則を遵守していることを示すことができます。Amazon、Googleなど数十社が、行動規範にすでに署名しています。
行動規範:https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/policies/contents-code-gpai

 (4) 透明性義務について
汎用AIモデルは、提供者が自らの製品に組み込んだり、他の提供者(AI規則では川下の提供者と呼ばれます)により提供されることがあります。したがって、川下の提供者も考慮した透明性が求められます(前文101項)。透明性義務は、附属書に定める事項を記載した文書を作成等することにより履行したことになります。モデル文書については、上記のURLにおいて公開されています。
 なお、汎用AIモデルであっても、フリーかつオープンソースのライセンスの枠内でリリースされ、パラメータが公開されているAIモデルの提供者には、透明性義務は適用されません(53条2項)。すでに、透明性が保証されていると考えられるからです(前文102項)。ただし、システミック・リスクを示す汎用AIモデルはこの限りではありません(53条2項)。
 
4 条文と前文の対応関係

表7-3 条文と前文との対応関係

第Ⅳ章
50条 チャットボット(1項)
合成コンテンツ生成AI(2項)
3項
ディープフェイク(4項)
適用関係(6項)
行動規範(7項)
132項
133項
132項
134項
136項、137項
135項
第Ⅴ章
51条
52条
53条
55条
56条
110項、111項
112項、113項
101項~109項
114項、115項
116項・117項
第Ⅹ章
95条 165項、166項

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      インフォメーション
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジンはどなたでも読者登録できます。 お知り合いの方などに是非ご紹介下さい。

□読者登録、 配信停止等の各種お手続きはご自身で対応いただけます。
ご感想などは下記よりご連絡ください。
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

■各種お手続きについて
JRRCとの利用契約をご希望の方は、 HP よりお申込みください 。
(見積書の作成も可能です )
⇒https://jrrc.or.jp/

ご契約窓口担当者の変更 
⇒https://duck.jrrc.or.jp/

バックナンバー
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      お問い合わせ窓口
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          
公益社団法人日本複製権センター (JRRC)
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

※このメルマガはプロポーショナルフォント等で表示すると改行の 位置が不揃いになりますのでご了承ください。
※このメルマガにお心当たりがない場合は、お手数ですが、 上記各種お手続きのご意見・ご要望よりご連絡ください。

アーカイブ

PAGE TOP