JRRCマガジンNo.441 著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた4

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジン  No.441 2025/10/23
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」④
【2】【11/5開催】東京商工会議所千代田支部主催 著作権セミナーのお知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日10月23日は「電信電話記念日」
1869年10月23日に電信線架設工事が開始されたことにちなみ、1950年に当時の電気通信省によって制定されたそうです。

さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/

◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」④
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆ 

              千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【承前】
前回は,中学校・高等学校の学習指導要領に「著作権」について記述されるようになったのだけれど…というところまで説明しました。

【児童生徒に対する著作権教育】(つづき)
例えば現行の中学校学習指導要領(2017(平成29)年告示)の「技術・家庭」の内容「D 情報の技術」から抜粋すると,
(1) 生活や社会を支える情報の技術について調べる活動などを通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 情報の表現,記録,計算,通信の特性等の原理・法則と,情報のデジタル化や処理の自動化,システム化,情報セキュリティ等に関わる基礎的な技術の仕組み及び情報モラルの必要性について理解すること。
と記述されており,当該部分の内容の取扱いでは,
(4) 内容の「D情報の技術」については,次のとおり取り扱うものとする。
ア (1)については,情報のデジタル化の方法と情報の量,著作権を含めた知的財産権,発信した情報に対する責任,及び社会におけるサイバーセキュリティが重要であることについても扱うこと。
と記述されています。
「著作権の重要性について扱うこと」と言われても,多くの教員にとっては,児童生徒がどのようなことができるようになればよいのかが分かりにくく,ねらいの設定に苦労するのだろうと思います。なお,このようなことは著作権教育に限りません。話は少し脱線しますが,学習指導要領の記述が抽象的な表現になっているのは,学校における指導が地域の実情や児童生徒の実態に応じて柔軟かつ多様な工夫をしながら展開できるよう,大綱的な基準にとどめていることが理由です。
したがって,指導する内容やその取扱いについて学習指導要領に書き込むにも限度があるだろうと考えられます。社会で生じる様々な課題について,「子供の頃からの教育が大切だ」と言って学習指導要領に盛り込むべきという主張や要望は,常に様々な分野から文部科学省に寄せられていますが,子供たちにとっての1日24時間,1年365日は限られているので(それは大人も同じですが),あれもこれもというわけにはいきません。課題によってはたとえ学習指導要領の記述が抽象的であっても,教員が単元を開発するに当たってねらいを設定する際にそれほど悩むことはないものもあるでしょうが,著作権をどう教えるかという課題の場合は簡単ではないような気がします。教員がねらいの設定に苦労する結果,自らの学習経験や生活体験に基づいてねらいを検討することになります。
例えばコンテンツビジネスに関わる企業での実務経験のある人が教員採用試験を受けて教員になったような場合であれば,体験的ノウハウも豊富なので著作権に関する単元の開発に当たってもアイディアが湧きやすいかもしれません。しかし,多くの教員にとっては著作権に関する実際的場面はなかなかイメージできませんので,自ずと報道などで見聞きする事例から発想するのではないかと思われます。報道で取り上げられる著作権に関する情報となると,著作物の利用に関する紛争やトラブルが目に入りやすく,それらを見聞きしているうちに「法を守らなければならない」「訴えられないようにしなければならない」という意識が強くなり定着していくことは予想されます。そうすると,前回に取り上げたような『引用』に関連づけた単元を開発する際にも「法を守る」「訴えられないようにする」ことをねらいとして設定するようになる可能性は高くなるかもしれません。しかもそれは無意識のうちに。
しかし,そのような流れで児童生徒に著作権のことを考えさせる(気づかせる)ことはベストな指導なのでしょうか。もちろん,そのような指導が間違っているとは思いませんが,視点を変えてみることも大切だと思っています。筆者が教員を対象とした研修会などで著作権のことについて解説する際には,法律の解説よりも,できるだけ日常的な仕事や趣味の活動に関連付けた話題をより多く取り上げるようにしています。すると「著作権の研修って法律を理解することだと思っていたけれど,そうではなかった」という反応が聞かれることがあります(なかには,「それでがっかりした」というのもあるかもしれませんが)。つまり,『引用』を取り上げる場合,前述のように「こうすれば著作権者の許諾を得なくてもよい」という指導になると,それが徐々に「こうすれば法律違反にならない」,さらには「こうすれば訴えられない」とかいう考え方に発展してしまわないかという懸念が筆者にはあります。
そこで,カギかっこでくくるとどんな効果が生まれるか,出典を記載することによってどんな効果が生まれるかを考えさせるステップを間に挟んではどうかということを教員研修の場で提案するようにしています。「こうすれば許諾を得なくてもよい」という知識や発想は,場合によって他者の作品への敬意を忘れさせてしまう気がするからです。カギかっこでくくることによる効果に気づけるかどうかという点については,例えば「この物語のこの部分の記述(又は新聞や雑誌の記事,検索して見つけたWebサイトでの解説など)を読んで,自分はこう思った」という区別を児童生徒自身が説明できればそれで90点です(100点でも構いません)。自他の作品の区別をつけることを認識するということは,「他者の作品の尊重」の第一歩だからです。
成人の文章でも,どこまでが他人の主張でどこからが執筆者の主張かという区別がつかないものはしばしば見られます。引用する場合でも,原典の執筆者に連絡をとり「私はあなたの作品を読んでこう感じたので,そのことをレポートにまとめたが,あなたがこの作品で言いたかったことについての理解はこれでよいか」と確認することは間違っているわけではありません。
小学校や中学校段階であれば(連絡先を調べる手間暇の問題は別として)むしろ望ましいかもしれません。著作権法の『引用』の規定は,作者に許諾を得なくてもよいというだけであって,許諾を求めてはならないというものではないからです。
出典の記載についても同様です。「出典はどう記載すればいいですか」という質問は,研修会では定番となっています(特に教員を対象とした研修では)。なぜ引用の出典を記載するのかというと,レポートなどの場合,その読者が「誰がそんなことを言っているのか」などの疑問を感じたときに,原典を調べて確認(検証)することができるようにするというのが第一の目的です。誰のどの文章を読んでそのように思ったかということがあいまいであると,適当なことを書いているのではないかと疑義が生まれ,自分が調査したレポート自体への信用も薄れます。自分の調査の妥当性を主張できるようにするためには,自分が引用した原典を,読者も確認しようと思えばできるようにしておく必要があります。このように考えれば,自ずと読者にどのような情報を提供すればよいのかが見えてくるはずです。
第二の目的は,原典の執筆者に対する敬意でしょう。読書感想文であればその対象とした物語,学術研究であれば先行研究の成果,それらが存在していたおかげで,作品に触れて豊かな心になったり,後発研究に発展させたりすることができるわけですが,そのことに気づくことができれば,ある意味での感謝の意も自然に表することができるでしょう。そのためにはどのような記述が適切なのかを考えればよいわけです。
つまり,出所の明示については,「こう記載すればいい」「こう記載しなければならない」という誰かによって決められた正解(のようなもの)を求めるのではなく,出典表示の目的や効果を考えることができれば,自ずと答えは出てくるはずだと筆者は考えています。そして今日の学校教育では,そのような思考ができるようになることを目指しているのではないかと考えています。
次回は高等教育における著作権教育の課題について考えてみます。

◆◇◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━
【2】【11/5開催】東京商工会議所千代田支部主催 著作権セミナーのお知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆ ◇◆

東京商工会議所千代田支部主催のセミナー「AI時代の著作権利用・コンプライアンス基礎」に
当センターシニア著作権アドバイザーの川瀬が講師として登壇します。
当日は質疑応答のコーナーもございますので、皆さま是非ご参加ください。
※本セミナーは東商マイページのユーザー登録(無料)が必要です。

セミナー詳細ページ:https://myevent.tokyo-cci.or.jp/detail.php?event_kanri_id=206066

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      インフォメーション
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JRRCマガジンはどなたでも読者登録できます。お知り合いの方などに是非ご紹介下さい。

□読者登録、配信停止等の各種お手続きはご自身で対応いただけます。
ご感想などは下記よりご連絡ください。
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

■各種お手続きについて
JRRCとの利用契約をご希望の方は、HPよりお申込みください。
(見積書の作成も可能です)
⇒https://jrrc.or.jp/
ご契約窓口担当者の変更 
⇒https://duck.jrrc.or.jp/

バックナンバー
⇒https://jrrc.or.jp/mailmagazine/

━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇◆
      お問い合わせ窓口
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          
公益社団法人日本複製権センター(JRRC)
⇒https://jrrc.or.jp/contact/

アーカイブ

PAGE TOP