JRRCマガジンNo.440 最新著作権裁判例解説33

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JRRCマガジン No.440   2025/10/16
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
【3】【11/5開催】東京商工会議所千代田支部主催 著作権セミナーのお知らせ
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日10月16日は「世界食糧デー」
飢餓撲滅と「食料への権利」実現を目指す世界共通の記念日として、
国連食糧農業機関(FAO)が創設された1945年10月16日を記念し、1981年に国連により制定されたそうです。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その34)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 今回は、知財高判令和7年7月9日(令和6年(ワ)第70505号)〔動画スクショ・インスタ投稿事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、原告が被告に対し、被告がインターネットを利用して画像等を投稿することができる情報ネットワークであるインスタグラムにおいて別紙投稿記事目録記載の投稿(以下「本件投稿」という。)をしたことにより、別紙動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたと主張して、不法行為に基づき、損害金合計235万9066円及びこれに対する不法行為の日である令和4年6月13日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案です。

<判旨>
 原告の請求を一部認容。
「前記前提事実、証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、原告が、写真を選択して拡大してトリミングし、過去を振り返るというイメージからスタートし、未来に向かって歩いていく想いを示すようエフェクトを施し、動画の再生速度、再生時間及び写真が表示される順番等を決め、第2の人生の幕開けを意味する「Chapter 2 of life」という文章及びリスタートできたことの想いを示す「You Are The Reason」という題名の音楽を挿入するなどして制作されたものであることが認められ、本件動画は、過去を振り返るところから未来に向かって歩いていくこと、また、第2の人生の幕開けや、リスタートできたことの想いを表現するように、視聴覚的効果が生ずる方法を工夫して、制作されたものであるといえる。
そうすると、本件動画は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、映画の著作物として著作物性を認めるのが相当である。
そして、本件動画をスクリーンショットした本件画像には、原告が写真に施したエフェクト及び「Chapter 2 of life」との文章が映し出されており・・・、本件動画の本質的特徴を感得することができるものといえる。
したがって、被告は、本件動画から本件画像をスクリーンショットし、被告のインスタグラムアカウントに投稿(本件投稿)し、その際、著作者として原告の氏名を表示しなかったことにより、本件動画に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものといえる。
また、以上に照らし、被告には、著作権及び著作者人格権侵害についての故意が認められるから、被告は、原告に生じた損害を賠償する義務を負う。」
「(1) 著作権侵害による損害 8万4000円
公衆送信権の侵害期間は令和4年6月13日から令和6年10月31日までであると認められる・・・。本件動画の制作経過、本件動画の性質及び被告による本件動画の利用の態様に照らせば、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、月額3000円と認めるのが相当である。(改行)そうすると、著作権侵害による損害額は、8万4000円であると認められる(著作権法114条3項。なお、侵害期間は、原告の計算方法に従って1か月に満たない日数を切り捨てた。)。
(計算式)3000円/月×28か月=8万4000円
(2) 著作者人格権侵害による慰謝料 5万円
以上に認定した事実のほか、本件画像が投稿された被告のインスタグラムアカウントのフォロワー数が24人であること・・・、本件画像は、原告がインスタグラムにアップした本件動画をスクリーンショットした静止画で、本件動画のごく一部であることを含む一切の事情を勘案すると、著作者人格権侵害による慰謝料額は5万円と認めるのが相当である。
(3) 発信者情報開示の費用 30万円
原告は、本件投稿の投稿者を特定するため、弁護士に委任して、コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示の仮処分を申し立て、アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求の訴えを提起して、被告を特定し、同弁護士に対し、合計120万4605円を支払った・・・。
発信者情報開示の仮処分及び訴訟を適切に遂行するために専門的知識を有する弁護士に委任することはやむを得ない場合があるといえることから、発信者情報開示の費用については、社会通念上相当な範囲において、被告による不法行為と相当因果関係のある損害として認められる。そして、発信者により侵害されたとする権利の内容、上記各手続の性質を勘案すると、発信者情報開示の費用のうち30万円については、社会通念上相当な範囲として、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(4)弁護士費用 4万5000円
被告の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は、4万5000円と認めるのが相当である。」
「よって、原告の請求は、47万9000円及びこれに対する令和4年6月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の部分は理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。」

<解説>
 今回の事案は、被告によるスクショ・インスタ投稿が原告著作物に係る複製権等を侵害したとするものであり、著作権の侵害論についてはコメントを差し挟むことはせず、損害論について少し見ておきたいと存じます。
 著作権侵害に対する主な民事救済措置は差止請求(著作権法第112条)と損害賠償請求(民法第709条等)であるところ、本解説(その30)でも少し言及したように、損害賠償請求については上記の通り民法の規定を根拠条文としつつ、著作財産権侵害に係る請求額については著作権法第114条各項において民法に対する特則規定が設けられています。
 その意図するところについては、立案担当者によって次のように述べられています(注1)。
「故意又は過失による財産権侵害の場合には、民法上の不法行為に対する損害賠償請求権の制度によることとすると、権利者の保護に欠ける面が出てまいります。第1に、損害額の挙証責任は被害者側にあることとされていますが、著作権侵害等の行為が行われた場合に、その損害額がいくらであるかということを算定するのが非常に困難な場合があります。というのは、有体物品が盗まれた場合に、損害額がいくらかということは、盗まれた時点におけるその物品の交換価値が通常生ずべき損害額でありまして、客観的に損害額を立証することが一般に可能でありますけれども、著作物の場合には、ある著作物が無断で利用された場合に、著作物がその利用行為によってどれだけの損害を蒙ったかということは、立証が困難である場合が多うございます。」
 このように、有体物と異なる無体物たる知的財産に係る権利侵害が発生した場合に権利者が被る損害については、知的財産という情報の遍在性や毀損の有無等を踏まえて考えると、基本的には、積極的損害ではなく消極的損害(注2)と捉えられることになるところ、著作権法第114条各項では「権利者側の立証責任を軽減するための算定のルールを定めている」(注3)と理解されることになります。
 そして、その具体的な算定ルールについては、長い条文が規定されていますが、敢えて端的にいえば、第1項は(侵害品等の譲渡等された数量)×(権利者の単位利益額)を基本とする内容であり(注4)、第2項は侵害者の利益額(第1項と対比すると、(侵害品等の譲渡等された数量)×(侵害者の単位利益額)(注5))と推定する内容であり、第3項は最低限の損害賠償額を保証する内容(注6)となっており、一般的にはこれら各項のいずれを用いて損害賠償を請求するかについては、これまでの特許権侵害等に係る裁判例(注7)における判断基準も踏まえて権利者側が判断することとなります(注8)。
 因みに、これらの算定ルールは全体として各知的財産法の共通的措置事項であり、事実関係としては、「特許法等の一部を改正する法律」(平成10年法律第51号)において、特許法や意匠法等の中に算定ルールが拡充されたことをきっかけに(また算定ルールに係る追加的改正(注9)についても同様に)、著作権法においてもこれに追随して(全てが同一という訳ではないのですが)基本的に同様の内容が拡充・規定されてきた経緯があります(注10)。
 このように権利者の救済措置として整備されてきた特則規定による損害賠償請求の認容額がどの程度のものになるかという点についてですが、今回の事案においては、判決文に記載された原告の主張の文言からすると、著作財産権侵害については、第114条第3項の適用が主張されている模様であるところ、原告の請求額と裁判所による認容額とを対比してみると、以下のような状況です。

  (請求額) (認容額)
〇著作財産権侵害 14万円
(※月5000円×28か月)
8万4000円
(※月3000円×28か月)
〇著作者人格権侵害 80万円 5万円
(※被告インスタアカウントのフォロワー数が24人であること等を考慮)
〇発信者情報開示の費用 120万4605円 30万円
(※侵害された権利の内容等を勘案し、社会通念上相当な範囲として、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる範囲を認定)
〇弁護士費用 21万4461円 4万5千円
(※被告の不法行為と相当因果関係のある分を認定)

 単純な積み上げの計算だけでいえば、235万9066円を請求して47万9千円が認容されたものであり、割合としては約2割というところになります。とはいえ、上記対比状況を仔細に見ると、元の請求額のうち認容額が大幅減になっているものは著作者人格権侵害(75万円減)と発信者情報開示費用(約90万円)の2つであり、著作財産権侵害の部分では月単価で6割は認められているので、被告インスタグラムアカウントのフォロワー数等の状況からすると、それなりの認容額になっていると言えるのかもしれません。尤も、今回の著作財産権侵害による損害を算定するに当たって、一月の単価として5000円が適正なのか3000円が適正なのかについては、今回の判決文を見る限りでは判断のつきかねるところであり、知的財産権侵害における大要である消極的損害を適正に算定することは矢張り容易ではないと再認識する次第です。今回は以上といたします(注11)。

(注1)加戸守行『著作権法逐条講義七訂新版』879頁以下
(注2)高瀬亜富講演録「著作権侵害訴訟の損害論 ~平成・令和の裁判例を分析して~」『月刊コピライトNo.737Vol.62』5頁では、積極的侵害につき「既存の財産が現実に減少するという形で受けた損害のことです。・・・例えば私が10万円のパソコンを持っていて車にひかれ、そのパソコンが壊れて使用不可能になったうえに3カ月入院してその間仕事ができなかったとします。この場合、まず10万円のパソコンが壊れたことで私の財産は10万円マイナスとなっており・・・また、病院に入院して入院費がかかったという場合も、既存の財産が現実に減少しているのでその入院費は積極的損害ということになります」と説明されており、他方で消極的損害につき「今の例では「私は3カ月間働けませんでした。働いていないことによって収入が得られませんでした」という、本来得られるはずのものが得られなかったという損害です。」と説明されている。
(注3)小泉直樹=茶園成樹=蘆立順美=井関涼子=上野達弘=愛知靖之=奥邨弘司=小島立=宮脇正晴=横山久芳編『条解著作権法』942頁[宮脇正晴]
(注4)第1項についてもう少しつけ加えるならば、後掲注10の令和5年著作権法一部改正により、現行第1項は実質的に第2号部分が拡充されているところ、その内容については、特許法の相当規定に係る説明ではあるが、高林龍『標準特許法〔第8版〕』311頁では「2019(令元)年に特許法102条1項が改正され2020(令2)年4月1日から施行された。同改正の実質は,改正前1項を1項柱書と1号とに分割し,そのほかに権利者に実施の能力がない等の理由で1号の算定にあたって控除された数量分について同条3項による相当実施料額の支払を合算して請求できるとする同条1項2号を新設したものである。」と端的に述べられている。また、著作権法における相当部分の改正に係る解説については、文化庁著作権課「著作権法の一部を改正する法律(令和5年改正)について【前編】」『月刊コピライト No.752 Vol.63』44頁以下を参照。
(注5)茶園成樹編『著作権法第3版』229頁[勝久晴夫]
(注6)同条第6項では「第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。」と規定されている。
(注7)知財高判H25・2・1判時2205号156頁〔ごみ貯蔵器事件〕、知財高判R2・2・28判時2464号61頁〔美顔器事件〕、知財高判R4・10・20判時2588号26頁〔椅子式マッサージ機事件〕等。
(注8)なお、さらに著作権法第114条の5では「著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」と規定されている。
(注9)「特許法等の一部を改正する法律」(令和元年法律第3号)
(注10)平成10年特許法等一部改正に対応する内容については「著作権法及び万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律の一部を改正する法律」(平成12年法律第56号)・「著作権法の一部を改正する法律」(平成15年法律第85号)において、また、令和元年特許法等一部改正に対応する内容については「著作権法の一部を改正する法律」(令和5年法律第33号)において各々措置されている。
(注11)本文記載コメントとは離れるが、最近の論考として、金子敏哉・講演録「著作権侵害による損害額の算定を巡る裁判例の動向」『月刊コピライト No.774 Vol.65』2頁以下において詳細な分析等がなされているので、興味のある読者におかれてはご参照いただきたい。

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【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
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今年度初となるJRRC著作権講座中級を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、 著作権に興味のある方向けです。
講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。
エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。
*本講座はお申込みいただいた方限定でアーカイブ配信を行います。

★日 時:2025年10月23日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
          特集①著作物について(境界領域)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:15 JRRCの管理事業について
13:15 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:25 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:25 ~ 15:35 休憩
15:35 ~ 16:20 第4部 特集②標章と著作権
16:20 ~ 16:50 質疑応答
16:50      終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/250925-2/
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【3】【11/5開催】東京商工会議所千代田支部主催 著作権セミナーのお知らせ
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東京商工会議所千代田支部主催のセミナー「AI時代の著作権利用・コンプライアンス基礎」に
当センターシニア著作権アドバイザーの川瀬が講師として登壇します。
当日は質疑応答のコーナーもございますので、皆さま是非ご参加ください。
※本セミナーは東商マイページのユーザー登録(無料)が必要です。

セミナー詳細ページ:https://myevent.tokyo-cci.or.jp/detail.php?event_kanri_id=206066

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