JRRCマガジンNo.437 著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた3

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JRRCマガジン  No.437 2025/9/25
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」③
【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日9月25日は「骨董の日」

江戸時代の戯作者・山東京伝による随筆『骨董集 巻之三』に記された日付が「文化十二乙亥九月二十五日」であったことにちなみ、この日に制定されたそうです。

さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/

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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」③
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              千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【承前】
前回は,著作権の普及啓発活動の足跡をたどるような説明をした後,著作権の普及啓発活動と著作権教育について私見を紹介しました。
今回は,学校教育における著作権教育の課題について考えます。

【小・中・高等学校の教員に対する著作権教育】
コンピュータ・プログラムが著作権法上の保護を受けることが明確化された1985(昭和60)年改正の前後は,コンピュータの普及に伴って生じたアプリケーション・ソフトの安易な複製が社会問題となっており,海賊版ソフトの販売のほか,企業等の組織内でのソフトの無許諾コピーも横行していました。
そのような時期,文部科学省と文化庁との連名で,教育現場に対して著作権に関する注意喚起の通知が発せられています(1991(平成3)年と1993(平成5)年)。
その通知では,コンピュータ・プログラムの保護が国際的にも重要な課題となっていることを述べたうえで,「つきましては,各学校等においては,これまでもコンピュータ・プログラムの適正な管理に努めておられることと存じますが,貴職におかれては,下記事項に御留意の上,管下の学校等に対し,指導の一層の徹底を図られるようよろしくお願いします。」とし,下記事項では1番目に「コンピュータ・プログラムの著作物の開発,流通,利用に際しては,著作権を侵害する行為が行われることのないようにすること。」を挙げています。つまり,端的に言うと「教員たるもの著作権侵害行為をすることがないように」と注意喚起しているわけです。他方,児童生徒に対する教育に関しては,下記事項の4番目に「情報教育の推進に当たっては,児童生徒の心身の発達段階に応じ,プログラムが著作権法上の著作物として保護されていることを理解させること。」と触れられてはいますが,この段階では抽象的な表現にとどまっています。
しかし,時代の流れは教員の意識の転換を求めるようになります。

【児童生徒に対する著作権教育】
成人の場合,かつてであれば文化庁に直接質問するとか,講習会・研修会に参加するなど本人の主体的意思による学習の選択肢がありました。今であればそれらに加えてインターネットを通じて情報を入手するという選択肢も増えています(得られる情報のバラエティについても,1990年代と今日とでは格段に豊富になっています)。
児童生徒の場合,専門的事項については基本的に学校で教員から学ぶということが基本です(最近は,児童生徒が主体的に学び,教員がそれを支援するという考え方になりつつあります。もっとも,インターネットを活用した学習に際しては,真偽が不明な情報に惑わされないようにするとか,危険な情報に近づかないようにするなどの観点から慎重な取り扱いになる傾向もあります)。したがって,著作権のような内容については,教員の指導力が大きく影響すると考えられます。
1998(平成10)年から1999(平成11)年にかけて告示された中学校・高等学校学習指導要領で,「技術・家庭」や「情報」の内容の取扱いに「著作権」という言葉が盛り込まれたことは大きな転換点だったと思います。
このことは,教員にとっての著作権の考え方を「教員たるもの著作権侵害行為をしてはならない」というものから「児童生徒に対して著作権に関する内容を適切に指導しなければならない」というものに転換するよう求めたことになるわけです。正確には,この学習指導要領改訂の時点では,「著作権」という語は「内容の取扱い」の部分に記述されるにとどまっており,「内容」では「情報通信ネットワークやデータベースなどを利用した情報の収集・発信の際に起こり得る具体的な問題及びそれを解決したり回避したりする方法の理解を通して,情報社会で必要とされる心構えについて考えさせる。」(高等学校「情報」の場合)と抽象的に記述されていました。しかし,社会の情報化という流れに沿った改定で学習指導要領にその用語が載ったということだけでもインパクトはありました(筆者自身は,著作権の本質的な部分については,情報系の教科ではなく音楽や美術といった芸術系の教科の方がふさわしい(指導もしやすい)のではと思っていましたが…)。
学習指導要領への記述は,学校における著作権の普及啓発(著作権教育)を促す重要なきっかけとなるわけですが,その語が記述されたからといって全国の学校の授業が自動的に変わるわけではありません。教員の意識改革と指導法・教材の研究や開発等が必要となり,現在まで現場の教員は奮闘を続けている状況です。
ところで,前述のように中学校・高等学校段階での著作権教育は「技術・家庭」「情報」の教科で,という認識は学校現場に定着しています。しかし,例えば「国語」の授業で,作文の活動に当たって『引用』に関連付けながら著作権に気づかせるような指導も見られます。中学校や高等学校段階では小学校に比べて各教科の指導内容の専門性が徐々に高くなってくるため,教員の免許も教科別になっています。このことは専門的知識の豊富な教員が生徒の実態に応じて分かりやすくかみ砕いて指導できるという意味を持っていますが,半面,教科の縦割りの指導に陥りやすいというリスクもはらんでいます。学校によっては「著作権のことは「技術・家庭」や「情報」の担当の先生に任せておこう」という空気になってしまうのも残念な実態です。現行の学習指導要領でも,「教科横断的な指導」という用語が頻繁に使われていますので,上述の「国語」の授業で引用の指導に関連付けて著作権に関わる内容を指導するようになれば,「技術・家庭」や「情報」での指導と有機的につながり,児童生徒にとってもいわば立体的に理解できる助けになるのではないかと考えられます。
授業で著作権に関連させた指導を行う場合,単元の開発者(授業担当者)によってねらいの設定を工夫することになっています(学習指導要領では,「この事項は一律にこのように指導せよ」とは記述されておらず,児童生徒の実態に応じて教員が教材や指導方法を工夫しながら指導することになっています。)。したがって,「技術・家庭」や「情報」以外の教科で著作権に関連づけた指導をしてみようと考える教員は,(教科書に著作権に関する説明などが載っているわけではないので)より様々な工夫をすることになり,ねらいの設定にも頭をひねることが多いはずです。
作文の活動で『引用』を指導する場合,具体的な指導方法(授業の展開)としては「カギかっこを付けよう」「出典を記載しよう」などといった活動につなげたものが多いようです。このような指導だけでも(授業の中で「著作権」という語を使わなくても)十分立派な著作権教育ではないかと思います。このような指導であれば,おそらく小学校高学年を対象とした授業でもできる可能性があります。むしろ,児童生徒の発達段階が進んだ次の段階の指導の方が難しいかもしれません。
なぜカギかっこでくくるのか,なぜ出典を記載するのかを考えさせられる段階になったときにどうするか。著作権にある程度詳しい教員だと,「著作権法には『引用』という規定があって,公正な慣行に合致する方法であれば著作権者の許諾を得ずに引用することができる」ということを説明するかもしれません。
それはそれで正しいし,「技術・家庭」や「情報」に限らず著作権に関連する指導の幅が広がっていくのは,著作権の仕事に関わる者にとってはありがたいことです。おそらくこのような実験的・挑戦的な指導をする教員も,どうすればよりよい著作権教育になるのかということに悩みながら試行錯誤してきたのだろうと思います。
そのような悩みの遠因は,著作権教育のねらいが学習指導要領では明確でないことにあるのではないかと考えています。
学習指導要領にはどのように記述されているのか,学習指導要領に記述されたことがらについて現場の教員がどんな苦労や工夫をしているかについては次回に説明します。

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【2】【10/23開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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今年度初となるJRRC著作権講座中級を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。
講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。
エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。

★日 時:2025年10月23日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
           特集①
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:15 JRRCの管理事業について
13:15 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:25 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:25 ~ 15:35 休憩
15:35 ~ 16:20 第4部 特集②
16:20 ~ 16:50 質疑応答
16:50 終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/250925-2/ ★

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