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JRRCマガジン No.435 2025/9/11
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◆今回の内容
【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日9 月11日は「 公衆電話の日」
1900年(明治33年)のこの日、東京の新橋駅と上野駅構内に、交換手を介して相手に接続する日本初の自動公衆電話が設置されたことにより制定されたそうです。
さて、今回は井奈波先生の「 欧州AI規則の解説」 です。
井奈波先生の前回の連載は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/
━━ ◆◇◆【1】井奈波先生の 欧州AI規則の解説━━━
第5回 ハイリスクAIシステム
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今回は、ハイリスクAIシステム(AI規則第Ⅲ章および附属書Ⅰ・Ⅲ)について説明します。ハイリスク AIシステムは、リスクベースアプローチにおいて容認しがたいリスクのあるAIより一段階下に分類され、AI規則がもっとも詳細な規定をおいています。
ハイリスクAIシステムは、1.製品についてハイリスクとみなされる、附属書Ⅰに列挙されるEU指令等の対象になるAIシステム(6条1項)と、2.サービスについてハイリスクとみなされる、附属書Ⅲに列挙される8分野のAIシステムに分類されます。
1 6条1項および附属書Ⅰ関係のAIシステム
(1) ハイリスクとみなされる AIシステム
ハイリスクとみなされるAIシステムは、(i)附属書ⅠのリストにあるEU調和法(Union harmonisation legislation)の対象となる製品のセキュリティコンポーネントとして使用されることを目的とするか、または(ii)AIシステム自体がEU調和法の対象となる製品であり(6条1項aの要件)、かつ、それらが附属書ⅠのリストにあるEU調和法に従って、上市またはサービス開始のために第三者(認証機関notified body)による適合性評価の対象となるもの(6条1項bの要件)です。
附属書Ⅰのリストは、A節とB節に分かれています。A節は、「新たな立法枠組みに基づくEU調和法のリスト」であり、B節は「その他のEU調和法のリスト」です。
以上の説明ではわかりにくいと思われる、①新たな立法枠組み(New legislative framework)、②EU調和法、③附属書Ⅰ、④第三者による適合性評価について、以下で簡単に補足説明を加えます。なお、新たな立法枠組みとEU調和法については、「製品に対するEUのルール実施に関する『ブルーガイド』2022」と題する欧州委員会の通達に解説があります(前文64項)。https://www.ibf-solutions.com/fileadmin/Dateidownloads/Amtsblaetter/the-blueguide-on-the-implementation-of-eu-products-rules-2022.pdf
(2) 補足説明
①新たな立法枠組み:EUは、商品の自由移動による単一市場の実現を目的としています。新たな立法枠組みは、その目的を実現するために2008年に採択された、域内市場に流通する製品について、適合性評価、CEマーキング、市場監視、技術文書(これらはAI規則でハイリスクAIシステムにも要求されます)などに関する規定を含む措置のパッケージです。具体的には、EU規則765/2008(認証および市場監視規則)、決定768/2008および規則 2019/1020(市場監視および製品適合性規則)で構成されます。
②EU調和法:EU調和法は、上記の市場監視および製品適合性規則2019/1020の附属書Ⅰにリスト化されている71分野の製品に関する指令や規則をいい、このEU 調和法の対象となる製品に規則2019/1020が適用されます。
③附属書Ⅰ:AI規則の附属書Ⅰは、EU調和法のうちAI規則の適用対象となる法令のリストが提供されています。附属書Ⅰ第A節のEU調和法に基づきAI規則の適用対象となる製品は、機械、玩具、レジャー用船舶、エレベーター、爆発可能性のある環境での使用を目的とする機器および保護システム、無線機器、圧力機器、索道設備、個人用保護具、ガス燃料を燃焼する機器、医療機器、体外診断用医療機器です。附属書Ⅰ第B節のEU調和法に基づきAI規則の適用対象となる製品は、航空機、車両、船舶機器、鉄道などモビリティに関する分野の製品です。
なお、附属書ⅠがA節とB節に分かれているのは、AI規則の適用範囲が異なるからです。B節記載のEU調和法の対象となる製品に関連するハイリスクAIシステムについては、第6条第1項、第102条ないし第109条(最終規定)、および第112条(AI規則の再検討に関する規定)のみが適用されます( AI規則2条2項)。言い換えれば、B節にあるEU調和法の製品には、AI規則のほとんどが適用されません。
④適合性評価:適合性評価とは、EU調和法の製品群について、製品要件等を満たしているかどうかを評価するプロセスです。製品がEU調和法に従って適合性評価の対象となる場合にハイリスクと分類され、それは附属書Iに列挙されるEU調和法の対象となる③に記載の製品群となります。
以上より、製品やそのセキュリティコンポーネントに関して、ハイリスクとみなされるAIシステムとして規制対象となるものは、上記のとおり限定されています。
2 6条2項および附属書Ⅲ関係のAIシステム
(1) ハイリスクとみなされる AIシステム
附属書Ⅲは、上述のEU調和法とは無関係に、8分野の活動領域をかかげています。6条2項は、その8分野に該当するAIシステムを、その性質上、ハイリスクなものとみなします。なお、欧州委員会は委任立法によりこのリストを改正する権限があり、柔軟性が担保されています(AI規則7条)。
表5-1 附属書Ⅲに列挙されるハイリスク分野
分野 | ハイリスクとされるユースケース(附属書Ⅲより) |
1 生体認証 | ・遠隔生体認識システム ・生体分類システム ・感情認識システム (禁止されるAIシステムに入らないシステムでも、ハイリスクAIシステムとなり得るということです)。 |
2 重要インフラ | 重要なデジタルインフラ、道路交通または水、ガス、暖房、電気の供給における、管理および運用のセキュリティコンポーネントとして使用されることを目的とするAIシステム |
3 教育および職業訓練 | ・教育等に対するアクセス・入学許可・所属の決定のため ・習得の成果を評価するため ・アクセスできる教育レベルを評価するため ・試験中における学生の禁止行為の監視・探知のため用いられるAIシステム |
4 雇用、労働者管理および自営業へのアクセス | ・人の採用や選考のため ・昇進や解雇に影響を与える意思決定のため ・人の特性等に基づく業務の割り当てのため ・人のパフォーマンスおよび行動を監視・評価するため用いられるAIシステム |
5 不可欠な民間ービス・公共サービス・社会給付へのアクセス | ・医療サービス、社会的給付の付与等のために公的機関で使用するAIシステム ・信用スコアや支払い能力評価に用いるAIシステム ・生命保険や社会保険の分野でリスク評価や保険料の決定のために用いるAIシステム ・緊急通報を評価・分類するためのAIシステム |
6 法執行 | ・自然人が刑事犯罪の被害者になるリスクの評価のため ・ポリグラフのツールとして ・刑事事件における証拠の信用性評価のため ・犯罪を犯すリスクや過去の犯罪行動を評価するため ・刑事手続きにおけるプロファイリングのため法執行機関等が使用するAIシステム |
7 移民、亡命および出入国管理 | ・ポリグラフまたは同様のツールとして ・入国する自然人のリスク評価のため ・亡命・ビザ・滞在資格の審査等のため ・移民・亡命・出入国管理の範囲で自然人を識別等するため 所轄の公的機関が使用するAIシステム |
8 司法および民主的プロセスの管理運営 | ・司法当局を支援するためまたは裁判外紛争解決手続を支援するため、司法当局が使用するAIシステム ・選挙や投票に影響を与えるAIシステム |
(2) 6条2項のハイリスクAIシステムの例外
6条2項の適用によりハイリスクとみなされるAIシステムであっても、リスクが小さいことを理由とする例外が設けられています(6条3項)。つまり、「重大なリスク」を示さないものは、ハイリスクとはみなされません。同条項の文脈および前文53項からすると、重大なリスクは、意思決定の結果に重大な結果を与えるかどうかにより判断されます。
意思決定の結果に重大な影響を与えるかどうかの判断基準は、前文に規定され、以下の①~④のうち、1つ以上の条件が満たされる場合には、重大な影響を与えないとされます(前文53項)。すなわち、①手続上、狭いタスクを実行するだけのとき、②人間の活動の結果を改善することを目的とするとき、③意思決定パターンを検出することを目的とするとき、④準備行為に過ぎないタスクを実行するときのいずれかです。
3 AI規則の適用
ハイリスクAIシステムに関するAI規則の適用開始時は、複雑です。6条2項の対象であるハイリスクAIシステムについては、2026年8月2日から適用が開始され、6条1項の対象となるハイリスクAIシステムは2027年8月 2日から適用が開始されます(113条)。また、2027年8月1日以前に上市された附属書Ⅹの対象となるハイリスクAIシステムは、2030年12月31日までにAI規則を遵守するようにしなければなりません(111条1項)。
4 前文と条文の対応関係
最後に、今回の説明に関係する条文と前文の対応関係を示します。
表5-2 前文との対応関係
第3章:ハイリスクAIシステム 第1節 ハイリスクシステムとして分類されるAIシステム |
6条:ハイリスクAIシステムの分類ルール 1項 |
46項~51項 |
2項 附属書Ⅲ |
52項 54項~62項 |
|
3項 | 53項 | |
第7条:附属書IIIの改正 | 52項 | |
全般 | 63項 |
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