JRRCマガジンNo.433 著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた2

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JRRCマガジン  No.433 2025/8/28
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◆今回の内容
【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」②
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日8月28日は「気象予報士の日」

1994年に第1回気象予報士国家試験が実施されたことを記念して制定されたそうです。

さて、今回は大和先生の著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)についてです。
大和先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/yamato/

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【1】大和先生の「著作権に関する意識の普及啓発(著作権教育)について考えてみた」②
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              千葉大学アカデミック・リンク・センター特任教授 大和 淳
【承前】
前回は,著作権教育の現状などについて生成AIに尋ねた結果を紹介しました。プロンプトの入力がうまければ,なるほどと思えるアウトプットが得られたのかもしれないと,少しモヤモヤしています。この点についてはおいおい述べるとして,今回は,著作権教育を含む著作権の普及啓発活動がどのように進められてきたのかというところから始めたいと思います。

【著作権に関する意識を高めるためのこれまでの取組】
現行の著作権法は1970(昭和45)年に全面改正されました。旧著作権法が制定されたのが1899(明治32)年ですから,すでに70年余の歴史があったわけですが,古い書物を読んでみると,国民一般の著作権に対する認識はそれほど高くはなかったようです。そもそも旧著作権法が制定されたのは,在留外国人への治外法権など当時の不平等条約を是正するための条件として,日本の著作権制度や特許制度をヨーロッパ諸国の水準(ベルヌ条約やパリ条約に加盟できるレベル)に引き上げることが諸外国から求められていたという政治的な背景があったためであるとされています。そのため,国民自身に「著作権を保護・尊重しよう」という意識が希薄だったのかもしれません。そのような経緯もあったのか,現行著作権法の制定時には国会の附帯決議において「(政府は)著作権思想の普及等についてなお一層努力すべきである」との留意事項が記載されています(その後の法改正においても,たびたびこのような事項が附帯決議に盛り込まれています)。
「著作権思想」とはいささか大げさな哲学か宗教のような言いぶりですが,このことが文化庁において著作権思想の普及のために講習会等を展開するベースになったものと思われます。
ただ,当時の講習会では,制度の仕組みよりも「著作権」という言葉の認知度を高めることが実質的な目標であったという話を聞いたことがあります。新しい著作権法では著作隣接権制度が創設されたこともあり,実演家・レコード製作者・放送事業者等の関係者も著作権思想の普及に一役買って講習会の講師団に加わりましたが,小難しい話をしても受講者が退屈してしまうということで,著作権漫才を創作して舞台上で演じたという逸話があります。アナログの時代のことですから,そのような記録(実際にどのような漫才だったのか)が残っていないのが今となっては残念です。
その後,著作権審議会(現在の文化審議会著作権分科会)では,複写・複製,録音・録画,データベース,コンピュータ創作物,出版者の権利など著作物の利用を巡る新たな課題について検討を進めており,著作権思想の普及の一環として,それらの検討結果を一般に周知するようになってきたようです。今に例えると,「生成AIと著作権」を講習会のテーマのひとつとして取り上げるのに似ています。
1984(昭和59)年の法改正による貸与権の創設(その前年の貸レコード暫定措置法の内容を本法に組み込むことを含む)や1985(昭和60)年の法改正によるコンピュータ・プログラムの保護の明確化以降,頻繁に著作権法が改正されるようになり,「著作権思想の普及」は色合いを変え始めたように思われます。
すなわち,これまでは抽象的・理念的な課題であったものが,われわれ一般市民の日常生活の具体的行動に影響を及ぼす可能性がある課題になってきました。特に,1990年代に入ってからは,デジタル化・ネットワーク化の技術の発達・普及に目を見張るものがあり,著作権の世界でも「1億総ユーザー,1億総クリエイター」などというようなキャッチフレーズも用いられるようになりました。それまでは,著作物の利用(著作者の権利が及ぶ行為)の多くは,放送局,出版社,新聞社,レコード会社,映画会社などのような設備・資本・専門人材を有する組織にしか行えなかったのですが,PCとインターネット接続環境さえあれば,一個人がそれらの組織と同様の行為を行えるようになったわけです。
この頃から,すべての人に著作権の基本的な知識が必要になったといわれるようになり,次第に「著作権思想の普及」というよりも「著作権(に関する知識)(を尊重する意識)の普及啓発」という言葉が用いられるようになってきたように思われます。

【一般市民における著作権への関心】
普及啓発を行う側から見た取組のこれまでの状況は以上のとおりですが,その啓発活動の受け手側の意識や関心はどうでしょう。
筆者もかつて文化庁で国民一般から著作権に関する質問や相談を受ける業務に携わったことがあります。その時期は,前述の「著作権」という言葉の認知度を高めることが目標とされた時代の最終期から頻繁に著作権法が改正され始めた時期にかけてでしたので,今日の一般の人たちの関心の度合いとはかなり違いがあるかもしれません。当時の相談者の立場は様々ですが,相談のために文化庁に来庁するということは,出版社や新聞社などの組織に属していない人がほとんどでした。インターネットを使って調べられる時代ではありませんし,自治体に著作権行政に関する部署があるわけでもありませんので,一大決心をして相談に訪ねたのかもしれません。アマチュアのクリエイターの場合,「このような作品を創作したが,どうすれば権利化できるか」「特許庁に行ったが,文化庁に尋ねるように言われた」「このような作品を創作したが,どうすれば真似されないか」という相談が多かったように思われます。
全国をいくつかのブロックに分け,ブロック内の都道府県のローテーションにより文化庁と当番自治体との共催の講習会も開催しており,電話での相談者には,そのような講習会で体系的な知識を学べることを案内していましたので,それに参加した人もいるかもしれません。地方での講習会では,一般市民からも多く参加している講習会もあれば,主催自治体の職員が参加者のほとんどを占める講習会もありました(自治体内部に著作権に関心をもつ職員が多く,それで会場の収容定員を充足してしまった可能性もありますので,一概にそれが問題だというわけではありませんが,疑問や関心をもつ一般市民がわざわざ文化庁(東京)まで行かなくても知識が得られる機会が,もし十分に確保されなかったとすれば残念です)。今はオンラインで様々な研修に参加できますし,オンデマンドで過去の研修会の動画を視聴することもできますので,興味・関心がある人にとっては情報を得やすい環境が整っています。
文化庁での相談対応や講習会企画の業務から離れてずいぶん経ちますので,現在の窓口でどのような質問・相談が多いのかは分かりませんが,大学生にアンケート調査を行って意識や知識を調べてみると,前述の質問に関わるような「無方式主義」に関する知識は今では広く定着しているのではないかと思われます。

【著作権の普及啓発と著作権教育】
「著作権の普及啓発」という用語には法律上の厳密な定義はありませんが,著作権を尊重する意識を高めるためのキャンペーン,コンクールなどのイベント,広告,広報などの情報発信,クイズ,ゲームなどのコンテンツ提供と,「著作権教育」とを合わせたものではないかと私は考えています。「著作権の普及啓発」というやや広い概念の中にその要素のひとつとして「著作権教育」があるという包含関係のようなイメージです。
著作権教育についても,学校教育,社会教育,企業内教育など多様な場があり,形態という切り口で考えると授業,研修,セミナー,講演会などという分け方もできるかもしれません。画然とした線引きはできませんが,「組織的体制の中で目標と内容を設定し,構成員に対して計画的に行われるもの」を著作権教育と呼んでいるように思います。もっとも,この定義だと,社会教育機関で行われる学習活動や,広く参加者を募って行われる講演会やセミナーは著作権教育ではないのかといった疑義も残りますが,定義を明確にしておかなければ困るような事情は今のところないように思われますので,それらの活動の主体の考えを尊重すればよいのではないでしょうか。
普及啓発活動であれ教育活動であれ肝心なことは,活動の主体が「それぞれが想定する対象者に対してどのような内容をどのような方法で提供するか」を意識して工夫することではないかと思います。学習者や情報の受け手にとって必要とされる内容(身に付けてほしい内容)や,それを伝えるのに適切な方法は,発達段階,経験,職階,業種・職種などによって様々です。分かりやすい教科書があったとしても,それによってすべての学習者に必ず100%の学習成果が上がるわけではありません。著作権のような(身近に感じられるようになったとはいえ)抽象性が高く利用場面ごとの専門性も高い事項については,なおさら対象者や目的に応じた情報発信の方法や学習方法の工夫や開発が重要なのではないかと思います。
次回は,学校教育における著作権教育の課題について考えてみたいと思います。

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