JRRCマガジンNo.427 最新著作権裁判例解説31

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JRRCマガジン No.427   2025/7/17
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【8/6開催】 JRRC 著作権講座初級オンライン開催について
【3】【7/31・8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日7月17日は「東京の日」

1868年(慶応4年)のこの日(旧暦、新暦では9月3日)、明治天皇の詔勅(しょうちょく)により「江戸」が「東京」に改称されたそうです。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その31)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 今回は趣向を変えて、従来の裁判例解説とは少し異なる解説記事をお届けいたします。
 すでに裁判例解説で取り上げていますが(注1)、近時の著作権関係訴訟においては、いわゆる発信者情報開示請求に係るものが多くなっていると言われています(注2)。
 最近の状況を調べてみると、本年に出されている判決等で6月末時点において公表されているもののうち、著作権分野に分類されるものが22件カウントできます。そのうち、上記発信者情報開示請求に係るものとしては10件の存在を見てとることができるところであり(注3)、割合的には約45%ですので、確かに発信者情報開示請求に係る訴訟がかなり多いという印象になっています。

 さて、ここで、発信者情報開示請求と著作権に関する訴訟との関係について見ておきたいと思います。発信者情報開示請求は、現状において「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(平成13年法律第137号)に基づいて行われるものです。同法律は略称的に「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)と呼ばれていますが、その施行は本年4月1日であり、それ以前の開示請求は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)(略称的には「プロバイダ責任制限法」(プロ責法))に基づいて行われていました。
 これら情プラ法とプロ責法との関係については、同一の法律番号が付されていることからも看取されるように、嘗てのプロ責法の題名等を一部改正したものが現在の情プラ法になっています(注4)。
 この一部改正が行われた際の内閣提出法案(注5)における理由書を見ると、「近年、インターネット上のSNS等の特定電気通信役務を利用して行われる他人の権利を侵害する情報の流通による被害が深刻化する一方、情報発信のための公共的な基盤としての特定電気通信役務の機能が重要性を増していることに鑑み、大規模なSNS事業者等を 大規模特定電気通信役務提供者として指定し、侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図るための義務を課す等の 措置を講ずる必要がある。」とされており(注6)、大規模プラットフォーム事業者に義務付けられた具体的な措置内容については、①対応の迅速化(権利侵害情報)につき、ⅰ)削除申出窓口・手続の整備・公表、ⅱ)削除申出への対応体制の整備、ⅲ)削除申出に対する判断・通知が、②運用状況の透明化につき、ⅰ)削除基準の策定・公表、ⅱ)削除した場合の発信者への通知が法定されています。
 そして、プロ責法から引き継いだ内容も含め、現在の情プラ法で規定されている主要事項は、①プラットフォーム事業者等の免責要件の明確化、②発信者情報の開示、③(上述の)大規模なプラットフォーム事業者等の義務の3点で構成されているところ、この②につき、権利侵害情報の発信者を特定して損害賠償請求等を行うことができるように発信者情報開示請求権が同法第5条で規定されており、ここで著作権侵害との接点が生じてくることとなります。この「接点」の詳細については、この第5条で複数定められているところ、特に重要なものとして、第1項で見てみると、「当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」(第1号)と「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。」(第2号)があり、実際の裁判の場面でも著作権侵害の明確性と権利者に開示に係る正当な理由とが存するかどうかが主要な争点となってきます。

 このようなことを踏まえて、冒頭に摘示した10件の事件を見てみると、旧ツイッター等を利用するケースもありますが、P2P方式のファイル共有プロトコルである「ビットトレント」に係る事件が大多数を占めています。匿名投稿者等によって無断利用される著作物等についても種々ありますが、動画や音楽などが散見され、これらの著作物や音源の利用について、被疑侵害者側からは引用利用(著作権法第32条第1項等)による抗弁がなされることもありますが、公衆送信権や送信可能化権の侵害が認定されているのが一般的であり(注7)、事案によっては複製権侵害も明示されることがあります(注8)。その上で、権利者サイドが開示を受けるべき正当な理由 については、損害賠償請求等の権利行使を予定していることをもって定型的に肯定されており、最終的に発信者情報の開示が認められているというのが全般的な状況です。
 今回は従来の個別裁判例の解説とは異なる内容でお届けいたしました。次回以降もその時々の状況等を踏まえて適宜工夫してまいりたいと存じます。今回は以上といたします。

(注1)本解説(その6)・(その9)を参照。
(注2)例えば、小川暁・講演録「最近の著作権裁判例について」コピライト743号(2023年)3-4頁。
(注3)ただし、この10件のうち1件については、発信者情報の開示の是非に関して判断されたものではなく、控訴人(原告)の損害を巡って、既に裁判所の決定を受けてなされている発信者情報につき、その開示手続に要した費用が相当因果関係を有するかどうかについて判断されたものである。知財高判令和7年6月2日(令和6年(ネ)第10088号)。
(注4)「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第25号)
(注5)「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案」(第213回国会内閣提出法案 閣法番号第34号)
(注6)法案の「5点セット」については、次の総務省サイトより検索可能。
https://www.soumu.go.jp/menu_hourei/k_houan.html
(注7)音源利用に係るレコード製作者の著作隣接権については、公衆送信権は規定されておらず、送信可能化権が法定されているところである(著作権法第96条の2)。
(注8)情プラ法上の発信者情報開示請求との関係では、本文記載の通り、権利侵害の明確性が認定できることが要件の一つであるため、この点だけでいえば、個々の支分権等を細かく取り出してその侵害を認定することは要しない訳であるが、SNS上で権利者に無断投稿をした場合、通常はサーバーへの蓄積が生ずるので、公衆送信権等のみならず複製権侵害も同時に発生することになろう。

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【2】【8/6開催】JRRC 著作権講座初級オンライン開催について
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先日延期のご案内を差し上げておりました「著作権講座初級オンライン」につきまして、
振替日程が下記の通り決定いたしましたので、ご案内申し上げます。
プログラムにつきましては、前回のご案内から変更はございません。

★開催日時:2025年8月6日(水) 13:30~16:35★

プログラム予定
13:30~15:05 第1部 著作権制度の概要
15:05~15:15 休憩
15:15~15:25 JRRCの管理事業について
15:25~16:35 第2部 死後の人格的利益の保護(八代亜紀さんの場合はどうなる)

★ 参加お申込みページ : https://jrrc.or.jp/event/250709-2/

皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

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【3】【7/31・8/20 開催】全国オンライン著作権セミナー開催のご案内
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このたび、全国の官公庁・民間企業の皆様を対象に、著作権に関する実務セミナーを開催いたします。
情報発信の多様化やデジタル化が進む現代において、著作権の適切な理解と対応は、業務運営上ますます重要性を増しています。
今回は、著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
また、一般的な著作権(初級レベル)についての解説や著作物の正しい利用方法についてより詳しくご説明いたします。

〇開催要項
日 時 :【第1回】7月31日(木) 14:00~15:30
    【第2回】8月20日(水) 14:00~15:30
会 場 :オンライン (Zoom/YouTube)
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター
参加協力:新聞著作権協議会(加盟68社)および日本経済新聞社、奈良新聞社

〇プログラム(予定)
【第1回】
トピックス1 著作権の集中管理と適正利用について
トピックス2 新聞の紙面ができるまで
トピックス3 新聞記事を巡る著作権侵害の事例 ~リスクを避けてクリッピング活用を~
トピックス4 著作物の複製等に関する利用許諾の取得について
【第2回】
トピックス1 著作権の集中管理と適正利用について
トピックス2 新聞の紙面ができるまで
トピックス3 新聞記事を巡る著作権侵害の事例
トピックス4 著作物の複製等に関する利用許諾の取得について

参加お申込みページ:https://jrrc.or.jp/event/250703-2/

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      インフォメーション
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