JRRCマガジンNo.412 中国著作権法及び判例の解説7 コネクテッドカーの著作権侵害事件と法的分析

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JRRCマガジン  No.412 2025/3/27
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】 山形新聞・京都新聞・宮古毎日新聞も利用可能に!
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日 3 月 27 日は「さくらの日」
例年 3 月下旬は多くの地域で桜の開花時期を迎えることと【さ ( 3)く (9) ら】の語呂合わせから 3×9=27 として、 日本さくらの会が 3 月 27 日に記念日を制定したそうです。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。

方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説 ━━━
7 コネクテッドカーの著作権侵害事件と法的分析 
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲

1.はじめに
 近年、スマートコネクテッドカー産業の急速な発展により、 車載エンターテインメントシステムの利用シナリオがますます多様 化している中、 この新興分野における著作権問題も浮き彫りになっています、 特に、ネットワーク接続された車載システムには、 ハードウェア提供者、システムインテグレーター、 コンテンツ提供者など、多くの関係者が関与しており、 それぞれの責任をどのように認定するかが新たな法律課題となってい ます。
 本稿では、 2024 年に北京インターネット法院が下した判決を紹 介し、 車載ネットワークシステム機器での動画再生が情報ネットワーク伝 達権の侵害に当たるかどうか、 及び複数の侵害主体の共同侵害に関する問題について検討し、 コネクテッドカー技術の発展と著作権保護のバランスについて考察 します。

2.事件の概要
原告: 某コンピュータシステム株式会社、某テクノロジー(北京) 株式会社
被告 1 : 北京某テクノロジー株式会社(コンテンツ提供者)
被告 2 : 広州某車載ネットワークテクノロジー株式会社( 車載システム提供者)
被告 3 : 肇慶某新エネルギー投資株式会社(自動車製造業者)

(1)原告の主張
原告は、テレビドラマ『我只喜欢你』 (本件作品) の独占的な情報ネットワーク伝達権及び権利行使権を有しており、 被告らが許可なく特定ブランドの車載動画アプリを通じて本件作品 を提供したことにより、 原告の情報ネットワーク伝達権を侵害したと主張。

(2)被告の抗弁
被告 1 (コンテンツ提供者): 本件作品動画はユーザーによってアップロードされたものであり、 著作権侵害には該当しないと主張。
被告 2 (車載システム提供者): 自社は単に車載モバイルインターネットと動画アプリのダウンロード サービスを提供するのみであり、 著作物の提供行為を制御することはできず、 合理的な注意義務を尽くしているため責任を負わないと主張。
被告 3 (自動車製造業者): 自社は特定ブランドの自動車を製造するメーカーであり、 本件とは無関係であると主張。

(3)争点
本件の主要な争点は、三被告が著作権侵害を構成するかどうか、 特に車載システム提供者である被告 2 の責任の認定についてである 。

(4)裁判所の見解
⇒ 被告 1 は、 侵害動画を特定の動画アプリのネットワークサーバーにアップロー ドし、ユーザーに提供していた。 これは原告の情報ネットワーク伝達権を侵害する行為である。
⇒ 被告 2 は、 特定ブランドの車載システムとアプリ管理サービスの提供者であり 、 ユーザーは特定のアカウントにログインしなければこれらのサービ スを利用できない。被告 2 は、被告 1 と協力し、 特定ブランドの車載システム内の動画アプリの導入、表示、 プロモーションを担当し、 さらに動画アプリの会員パッケージサービスの提供及び決済を行っ ていた。これにより、被告 2 は著作物の提供行為の関与者及び利益 享受者として、被告 1 と共同侵害を構成し、連帯責任を負う。
⇒ 被告 3 は自動車のハードウェア製造業者であり、 コンテンツの提供に直接関与していないため、 著作権侵害の責任は問われない。

(5)判決の結果
被告 1 及び被告 2 は、 原告に対して経済的損害及び合理的な費用を合計 50 万元支払うよ う命じられた。一審判決後、当事者は控訴しなかった。

                  ― ( 2023 )京 0491 号民初 11731 号民事判決書より抜粋

3. 分析とまとめ
(1) 直接侵害責任の認定(被告 1 )
裁判所は、中国の著作権法第十条第十二項に基づき、被告 1 が許可 なく情報ネットワークを通じて公衆に著作物を提供した行為が、 原告の情報ネットワーク伝達権の侵害に当たると認定しました。
また、被告 1 は、動画をサーバーにアップロードし、 ユーザーに提供するという積極的な行為を行ったため、 直接侵害者と認定されました。そして、被告1は「 ネットワークサービス提供者」と明らかに区別され、「 避風港原則」( 日本のプロバイダ責任制限法の侵害情報の削除義務等に相当) の適用も認められず、「ユーザーがアップロードした」 という抗弁も本件では認められませんでした。

(2) 共同侵害責任の認定(被告 2 )
中国民法典第 1168 条では、 二人以上が共同で侵害行為を行い損害を発生させた場合、 連帯責任を負うと規定しています。本件において、被告 2 の以下の 行為は共同侵害行為を構成しています。
● 分業協力:車載アプリのカスタマイズ、導入、 プロモーションを主導し、被告 1 とコンテンツサービスの連携を形成 。
● 経済的利益の享受:会員パッケージ料金の分配を受け、 侵害行為から直接的な利益を得ていた。
● 管理能力: ユーザーがログインしないとサービスを利用できないことから、 コンテンツの配信を管理できる立場にあった。

(3) 被告 3 の免責
ハードウェア製造業者として、 コンテンツの提供やサービス運営に関与していないため、 著作権侵害の責任は問われませんでした。

(4)業界への示唆
本件は、車載ネットワーク環境において、 車載サービスシステム提供者がコンテンツ分配チェーンに深く関与 (例:会員サービス)している場合、 たとえ直接コンテンツを保存していなくても共同侵害が成立する可 能性があることを初めて明確に示しました。これは、従来の「 ネットワークサービス提供者」 の技術的中立性とは異なる取り扱いとなります。
また、本件は、 IoT やスマートホームなどの新興分野における著 作権保護にも参考となり、もし主体が侵害コンテンツの提供に「 実質的な貢献」をしている場合、 共同侵害者として認定される可能性があります。
スマートコネクテッドカー関連企業や IoT 関連企業は、 コンプライアンス監査を強化し、 特にアプリケーションの提携において権利と責任を明確にし、 分業協力モデルによる知的財産リスクへの巻き込まれを防ぐ必要が あります。

4. おわりに
 本件判決は、 車載ネットワーク環境における著作権責任の境界をより明確にし、 即ち本判決は「ハードウェア—システム—コンテンツ」の三者の責任範囲を明確に区分し、 技術革新と著作権保護のバランスを図りました。その主な示唆は、 デジタル経済のエコシステムにおいて、 関与の程度と収益の関連性が共同侵害を判断する上で重要な指標と なるという点にあります。今後、 車載ネットワークサービスの拡大に伴い、 本件は業界全体の知的財産協力保護メカニズムの整備を促進する可 能性があります。

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