JRRCマガジンNo.410 コンプライアンス・企業倫理を考える10 個人情報の保護

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JRRCマガジン  No.410 2025/3/13
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

本日3月13日は「青函トンネル開業記念日」
1988年(昭和63年)3月13日にJR津軽海峡線が開業し、海底トンネル「青函トンネル」が開通した事にちなんで制定されたそうです。

さて、今回は板東氏の「コンプライアンス・企業倫理を考える」です。

板東氏の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/bando/

◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
⑩ 個人情報の保護
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                        日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 板東久美子

 大学・研究機関、企業における研究活動に関しても、様々な面からコンプライアンス・倫理の実践が問題となります。研究活動で不正として問題になる行為は、利益相反、公的研究費の不正使用、ねつ造、改ざん、盗用、生命倫理に関するルール違反等、多岐にわたっています。最近では、前々回に取り上げたようなAIの利用に関わる倫理も大きな課題になっていますし、安全保障の観点からの情報の適切な管理も求められるなど、研究倫理の問題も地平が広がっています。
 今回は、そのような研究と倫理の様々な側面について取り上げてみたいと思います。

研究倫理の徹底
 誠実に信頼される形で研究を行い、その成果を公表することは、研究活動のまさに生命線です。「研究倫理」とは、そのような研究活動を適切に進めるための基本的な価値観です。その中には、研究活動の対象となる人・生物、社会・環境への配慮や研究成果が社会に及ぼす影響についての責任もあります。
 特に、人を対象とした研究においては、人・生命の尊厳の尊重、個人情報の保護など、留意すべき事柄は広く深いといえます。このような研究の倫理の指針として、文部科学省・厚生労働省・経済産業省による「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が2021年に定められ、2023年に個人情報保護法の改正等を踏まえて改訂されています。この指針においては、 研究者等の基本的責務として、 研究対象者の生命・健康・人権を尊重することや、法令・指針等を遵守して、倫理審査会の審査と研究機関の長の許可を経た研究計画書に従って、適正に研究を実施すべきこと、研究対象者への事前の十分な説明を行って自由な意思に基づく同意を得ること(インフォームドコンセント)などが定められています。また、 研究機関の長について、研究の適正な実施の確保など様々責務を定めるとともに、必要な規程や体制整備を求めています。このように、人を対象とした研究は生命・人権を尊重した慎重な手続きによって行われることとなっています。
 研究倫理を徹底するために、研究コミュニティでも積極的な取組がなされており、その例として、私も評議員として関わらせていただいている一般社団法人公正研究推進協会(APRIN,Association for the Promotion of Research Integrity)の活動について、少しご紹介させていただきたいと思います。APRINは、研究倫理教材や勉強会の提供、研究機関等への支援を通じて、科学の発展に伴うグローバルな規範意識を啓発し、研究機関等の研究活動を支援することを目的として、生命医科学系・理工系・文系等学術研究を代表する研究者達によって2016年に設立されました。現在では大学・研究機関の研究者・学生のみならず、中等教育機関、企業の実務者にまで支援対象を拡大しています。
新しい課題にも対応した多様なeラーニング・プログラム、セミナーの実施や講師紹介など活動は年々充実しており、会員数は4千機関を超えています。年に1回の全国公正研究推進会議においては、大学等の教育機関、研究機関、研究団体、企業、行政等の様々な関係者が集まって、新たな課題の共有や熱心な議論を行っています。最近のテーマとしては、生成AIと研究との関わり方やデジタル社会における誤情報や研究不正の問題、研究の国際化・オープン化に伴う安全保障等のリスクの問題などが取り上げられています。

研究活動における不正行為
 研究活動における不正行為は、研究自体の本質を侵すものであり、研究基盤のみならず社会に大きな影響を与えるものともなり得ます。研究活動における不正が相次いだことから、文部科学省は、所管の競争的資金等を提供する機関を対象とし(企業の研究機関が受けている場合も含みます)、2014年に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を公表しましたが、その中で、個々の研究者だけでなく、研究を行う機関は、不正行為に対し厳しい姿勢で臨む必要があるとしています。そして、何より重要なのは、不正行為の防止であり、研究機関は研究倫理教育の徹底などにより、不正行為が起こりにくい環境を整備する必要があるとしています。
 ガイドラインでは、厳しく対応すべき「特定不正行為」として、捏造、改ざん、盗用を挙げています。「捏造(ねつぞう)」とは、存在しないデータ、研究成果を作成すること、「改ざん」とは、研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること、「盗用」は、他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究成果、論文、用語を、当該研究者の了解若しくは適切な表示なく流用することをいいます。盗用は、著作権をはじめとする知的財産権侵害とも重なる部分がありますが、それより広いものといえます。このような特定不正行為があった場合には、その機関は調査結果を文部科学省への報告や公表をしなくてはなりませんし、その研究者はその研究に係る競争的資金の返還を求められたり、競争的資金の申請資格が制限されます。
 この「特定不正行為」には当たらなくとも、その他にもいろいろ研究において不正行為として認識される行為がありますので、留意する必要があります。例えば、既に発表した論文と本質的に同じ論文を投稿する「二重投稿」や、論文に直接貢献しない人を著者として表示したり、逆に論文に貢献した人を表示しないなど、論文の著作者が適正に公表されない「不適切なオーサーシップ」 も不正行為と認識されるものとして避ける必要があります。
 また、特に企業との関係においては、利益相反・責務相反が問題となります。資金の提供を受けて研究結果にバイアスがかかることがないよう、利益相反・責務相反の適切な管理、研究の信頼性・客観性・透明性の確保が必要になります。

社会・技術の変化の中での研究倫理をめぐる最近の課題
 研究倫理・公正研究をめぐるホットな話題の一つは、生成AIと研究との関わり方の問題です。先ほど少し触れたAPRINの全国公正研究推進会議においても昨年・今年とそのテーマがとりあげられましたが、AIの有用性とともに、リスクを認識することの必要性が指摘されています。本年2月12日に行われた公正研究推進会議では、永井良三APRIN理事長・自治医科大学長が「医療・医学研究における生成AIの課題~研究と規制をめぐる問題」の講演で、生成AIを通じて一般の市民も医療知識や診断に関する情報を入手できる一方、一定の割合で誤った情報が含まれるために、情報の取扱いには注意が必要として、AIの提示する情報を医療現場で利用するときの責任や倫理についても医学関係者で議論が始まったことを紹介しました。
また、わが国独自の医療生成AIの開発も重要ですが、開発に用いる医療情報の収集と同意の在り方など、改めて様々な課題があることも指摘しました。このように、様々な分野において、研究におけるAI利用の具体的な課題が明らかになりつつあります。
 もう一つ、最近の研究倫理をめぐる課題として、外国からの不当な影響による機微情報や技術の流出の懸念が顕在化しているという、研究活動の国際化に関わる問題があります。このような研究活動の国際化・オープン化に伴う新たなリスクにより、研究環境の基盤となる開放性・透明性が失われたり、利益相反・責任相反に陥る懸念がないよう、国際的に信頼性のある研究環境を構築することが必要というものです。政府においては、このような新たなリスクに対する研究の健全性・公正性(「研究インテグリティ」)の自律的な確保を目指し、研究者・ 研究機関等に透明性と説明責任を求めていく対応方針を2021年に統合イノベーション戦略推進会議において決定しました。
大学・研究機関等が、所属する研究者等に関して人事・組織のリスク管理として必要な職歴・兼業・資金獲得などの情報の報告を得て、利益相反・責務相反を管理するといった体制の整備が求められています。この問題は、安全保障貿易管理との適切な連携も求められており、外国人材の受け入れや海外の機関との連携を推進する一方、今まで十分でなかったリスクへの認識や必要な情報の獲得が求められる状況になっています。
 研究倫理は、研究者の世界のみならず、その成果を享受する様々なプレイヤー、社会全体に影響を与えるものです。研究をめぐる急速な環境変化の中、研究倫理を貫くための環境整備についても鋭い問題意識を持っていくことが必要になっているといえましょう。

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