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JRRCマガジン No.402 2025/1/16
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
【3】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
本日1月16日は「禁酒の日」
1920(大正9)年1月16日にアメリカでが実施されたことにちなんで日本でも記念日が制定されたそうです。
さて、今回は板東氏の「コンプライアンス・企業倫理を考える」です。
板東氏の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/bando/
◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
⑧ AI(人工知能)と企業倫理
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日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 板東久美子
今回からは、デジタル社会、データ社会に関わるコンプライアンス・企業倫理の問題を取り上げたいと思います。AI(人工知能)やIoTなどに象徴されるデジタル技術やデータの利活用の急速な発展は、企業や行政、個人の行動に大きな変化をもたらし、社会の様々な分野に大きな影響を与えています。個人情報を始めとする情報・プライバシーの保護やセキュリティ、AIをめぐる人権・知財の保護や倫理の問題など、企業倫理やガバナンスに関しても、様々な新たな課題が提起されています。
今回は、生成AIなど、進化と利用拡大が目覚ましいAIをめぐる倫理とガバナンスの問題を考えてみたいと思います。
AI倫理をめぐる内外の動き
AIと倫理に関する問題については、深層学習によりAIが進化した2010年代後半から国内外で様々な検討が行われ、特に生成AIの登場により、ルール形成への取組みが加速されています。様々な国・団体・国際機関では、原則や行動規範を定め、その実施を推進していますが、各国のスタンスの違いも現れているものの、法規制の導入も見られるようになっています。
特に、EUにおいては、2019年に「信頼できるAIのための倫理ガイドライン」を公表したのみならず、2024年5月には、世界初の包括的な規制法であるAI法を制定しました。EUのAI法では、AIの利用に関するリスクを分類し、容認できないリスクのあるAIは利用も禁止されるなど、その程度に応じた規制内容を定めています。EU域外で開発されたAIであっても域内に輸入したり、利用した場合は、適用対象となります。
米国においては、民間による自主的な規制を原則としてきていますが、2023年10月には、初めて大統領令により、公開前のAIシステムの安全性を政府機関が検証する事前規制の仕組みを導入しました。この大統領令のトランプ政権での行方が注目されています。
日本では、2019年3月に、内閣府の統合イノベーション戦略会議が「人間中心のAI社会原則」を公表しています。同原則では、3つの基本理念(人間の尊厳が尊重される社会、多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会、持続性ある社会)のために、7つの原則―①人間中心の原則(人が自らAIをどのように利用するかの判断と決定を行う)②教育・リテラシーの原則(AIを社会的に正しく利用できる知識と倫理を全ての人に提供)③プライバシー確保の原則(個人データの適切な保護・扱い)④セキュリティ確保(サイバーセキュリティ確保を含むリスク管理のための取組)⑤公正競争確保(特定の者に資源が集中しないような公正競争環境)⑥公平性、説明責任及び透明性(不当な差別・扱いを受けることないよう、公平性・透明性のある意思決定と説明責任・信頼性の確保)⑦イノベーションの原則(徹底的な国際化・多様化や産学官民連携の推進)―を定めています。
また、総務省の「AIネットワーク社会推進会議」も、2019年9月に「AI利活用原則」を公表しており、適正利用、適正学習、連携、安全、セキュリティ、プライバシー、尊厳・自律、公平性、透明性、アカウンタビリティの観点から原則を示しています。さらに、自主規制の促進にとどまらず、2024年12月には、政府の「AI戦略会議」がAIに関する法整備の速やかな実現を提言しており、これを受けて本年の通常国会への法案提出の準備が進められています。この法案については、後日、内容がはっきりした段階でご紹介したいと思います。
国際機関や多国間の動きとしては、OECDにおいても、AIシステムが健全、安全、公正で信頼されるものとして構築されることを目指し、2019年5月に「AIに関するOECD原則」をとりまとめ、各国が採択しました。その中のAI倫理に関する原則としては、包摂的成長・持続可能な開発・幸福の増進への寄与、人間中心の価値観や公平性、透明性や説明可能性、安全性、アカウンタビリティといった項目が示されています。また、UNESCOでも教育・研究の分野におけるAIの開発・利用のルール形成を推進しており、2021年にはAIの倫理に関する勧告を採択し、2023年9月に「教育・研究分野における生成AI のガイダンス」をまとめています。
G7においても、2023年5月の広島サミットの結果を踏まえ、日本が主導して安心で信頼できるAIの実現のための国際的ルールの形成を目指す広島AIプロセスが立ち上がり、同年10月には「高度な AI システムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」と「国際行動規範」、12月には「全ての AI 関係者向けの広島プロセス国際指針」がまとめられました。これらにおいては、高度な AI システムの設計・開発・導入において、法の支配、人権、デュー・プロセス、多様性、公平性、無差別、民主主義、人間中心主義を尊重すべきであるとし、リスクを特定・評価・軽減するための適切な措置、透明性の確保、AI ガバナンスの確立、適切なデータ・インプット対策と著作権等の知的財産や個人情報の保護などを求めています。このような枠組みへのG7以外の国・地域への参加を広げる取組も進められています。
AI倫理をめぐる問題
このようなAI倫理のルール形成の裏には、現実に起こっている様々な問題があります。
まず、公平性や差別に関しては、データの収集・評価・活用の在り方によって、無意識なものを含む様々なバイアスを前提としたり、むしろ拡大するリスクがあるのではないかという問題があります。データの種類・取り方やアルゴリズムについての透明性を高めたり、バイアスが生じないかについて作成時だけでなく、不断に検証していくこと、利用する者は結果を鵜呑みにせず、自ら適切に判断することなどが 必要になるでしょう。例えば、今まで女性の少なかった分野では、女性に関するデータが少なく、評価にバイアスがかかりやすいということが指摘されています。また、米国の裁判所においては、再犯リスクなどをAIで評価する支援ソフトを量刑判断等に活用していますが、例えば、黒人の再犯リスクの評価において不公平を生じていないかが問題とされています。訴訟でも争われ、適切な利用であればデュー・プロセス違反ではないと州最高裁で判断されましたが、正確性の検証を常に行うべきことなどの留意点も示されています。
AI自体が不適切な情報を学習することにより、人権を侵害するような不適切な行動をとるようになる事例も出ています。2016年にマイクロソフトの開発したAIチャットボットが、ユーザーの差別的なツィートを学び、公開されてすぐに人種差別や性差別などの暴言を吐くようになり、閉鎖されました。このようなリスクを想定し、一定の情報のスクリーニングなど様々な対策をとる必要について強く認識させた事件でもありました。
プライバシーや個人データの保護に関しても、データの取得や取り扱いの在り方によって侵害のリスクがあるのではないかという問題があります。就活サイト「リクナビ」の事例では、学生の就職情報サイト閲覧履歴から内定辞退の可能性を算出し、企業に提供していたため、個人情報保護法違反も認定されました。個人情報保護については、また回を改めてご説明したいと思いますが、個人データの取得や提供が単に法令違反かどうかではなく、公正さや社会的妥当性からみてどうかという企業倫理としての判断が必要になるといえましょう。
AIの開発・利用における著作権保護は、もちろん、大きな課題です。我が国の著作権法では、データ学習の段階の著作物利用を可能とする著作権制限規定が設けられていますが、生成AIの登場により、データ学習や生成に当たり、著作権・著作隣接権の侵害があるのではないかという懸念が創作者や新聞社等から示されました。文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会は、2023年3月に、「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、現行法の適用について整理し、開発・学習段階については、原則として著作物を利用可能としつつ、その限度を超えて問題ある場合について整理するとともに、生成・利用段階については、AIを使わない創作活動の場合の著作権侵害と同様に考える必要があるとして、類似性や依拠性の考え方について示しています。論点は多岐にわたりますが、ご参考になると思いますので、是非、文化庁のホームページをご覧いただければと思います(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html)。
その他、偽情報、ディープ・フェイクの問題やセキュリティの問題など、AIの利用に関し、現実に起きている問題は様々あります。技術の進展は、いろいろなリスクを拡大するとともに、一方で対応策の可能性も広げており、今後ともそれを注視していく必要があります。
企業におけるAI倫理のガバナンス
企業においても、AI倫理に関する様々な取組みが行われつつあります。 特にAIの研究開発やAIを活用したシステムやソリューションの提供に携わる企業では、AI倫理に関する指針や体制を整備して、AI倫理を推進する取組みを始めています。
このようなAI倫理実践に向けた取組み例の1つとして、私もAI倫理外部委員会委員を務めている富士通株式会社のAI倫理に関する取組みを簡単にご紹介したいと思います。富士通では、2019年に「富士通グループAIコミットメント」を公表し、1)AIによってお客様と社会に価値を提供します 2)人を中心にしたAIを目指します 3)AIで持続可能な社会を目指します 4)人の意志決定を尊重し支援するAIを目指します 5)企業の社会的責任としてAIの透明性と説明責任を重視します という5項目を宣言しています。そして、様々な体制整備も進めてきており、2020年から、現場で生じた課題を受けて検討する社内横断組織として「“人間中心のAI”推進検討会」を動かしています。
また、外部有識者により構成する「AI倫理外部委員会」を設置し、AI倫理に関するさまざまなテーマについて、社長・副社長含めての議論を行い、その審議の結果を取締役会に報告しています。取組については、ホワイトペーパーとして社会への発信も行っています。AI倫理推進の担当組織としては、当初法務部の一部として行っていたのを、2022年からはAI倫理ガバナンスの司令塔として社長直属の「AI倫理ガバナンス室」を設置しました。また、2021年からは、AI倫理に関する技術の創出や知見の集約のため、富士通研究所にAI倫理研究センターを設置するなど、多面的にAI倫理の推進を図っています。
AI倫理の遵守は、このようなIT関連企業だけでなく、広くAIを利活用する様々な企業や組織にとってもますますガバナンス上重要になってきています。前述の広島プロセスの「全ての AI 関係者向けの広島プロセス国際指針」も広くAIに関わる者を対象としています。また、経団連の「企業行動憲章実行の手引き(第9版)」(2022年)においても、AIガバナンスの重要性が盛り込まれるようになりました。法整備も進められようとしています。広く企業においてAIをめぐる倫理とガバナンスについて関心を持ち、取組むべき時代が来ているといえましょう。
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【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催で著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権 」と「ネット上の違法サイト対策 」について講演予定です。
★募集要項★
日 時:2025年1月21日(火) 10:00~15:10 (予定)
会 場:Zoom(オンライン開催)
定 員:200名
参加費:無料
主 催:公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学
★講師紹介★
・川瀬 真 氏 JRRC理事長、元文化庁著作権課著作物流通推進室長
・甲野 正道 氏 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授
★プログラム★(講義の進捗度合いにより時間は変更になる場合があります。)
10:00 ~ 10:05 講師紹介等
10:05 ~ 12:00 著作権制度の概要 【講師】川瀬 真 氏
12:00 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:00 トピックス「 AIと著作権 」 【講師】 甲野 正道 氏
14:00 ~ 14:10 休憩
14:10 ~ 15:10 トピックス「 ネット上の違法サイト対策 」 【講師】川瀬 真 氏
15:10 終了予定
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【3】【1/24開催】ELNET・JRRC共催 オンライン著作権セミナーのご案内
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株式会社エレクトロニック・ライブラリー(ELNET)様と公益社団法人日本複製権センター(JRRC)が共催で著作権についてのセミナーを開催いたします。
★開催要項★
日 時:2025年1月24日(金) 14:00~15:20
会 場:Zoom(オンライン開催)
参加費:無料
主 催:株式会社エレクトロニック・ライブラリー・公益社団法人日本複製権センター
講演内容:「AIと著作権」(1)著作物の蓄積と解析(情報解析)
(2)AI作品の著作物性、著作者等
★プログラム(予定)★
14:00 ~ 14:05 開始のご挨拶
14:05 ~ 14:10 ELNETのご紹介
14:10 ~ 14:15 JRRCのご紹介
14:15 ~ 15:00 講演「AIと著作権」
15:00 ~ 15:15 質疑応答
15:15 ~ 15:20 終了のご挨拶
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