JRRCマガジンNo.400 中国著作権法及び判例の解説3 中国におけるデータ集の知的財産権保護について

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JRRCマガジン  No.400 2024/12/26
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています。

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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

今年も残りわずかとなりました。
今号が2024年最後のJRRCマガジンとなります。一年間ご愛読ありがとうございました。
来年も皆さまに著作権を中心に様々な情報をお届けしてまいります。
皆さまにおかれましても良いお年をお迎えください。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。

方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説━━━
4 初AI生成音声の侵害事件について 
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                         中国弁護士・中国弁理士 方 喜玲

1.はじめに
 本件は、AI生成音声を人格権益として保護する初めての判例であり、音声が人格権益の一つとして身分専属性を有することを明確にしただけでなく、自然人の音声権益がAI合成音声を含むことも明らかにしました。また、録音物の著作権を有していることがAI音声化を無断で行うことを許可するものではなく、さらに訓練された生成AIモデルを商業利用することも禁止されるという判断が示されました。音声権益とは著作権法で保護される音声の表現形式とは異なり、音声権益に基づく経済的利益と精神的利益を保護するものです。なお、本件AI生成音声は、特定の内容と結び付いておらず、著作権法上の保護対象とはなりません。
 以下、判決の概要を説明します。

2.判決の概要
(1)原告と被告
    原告:殷某某、声優。配音(アフレコ)業界で一定の知名度を有する。
    被告:
    被告1:北京某智能科技社。テキストから音声への変換サービスを提供する。
    被告2:北京某文化メディア社。原告に録音物を依頼し、録音物の著作権を所有。
    被告3:某ソフトウェア会社。原告の録音物(被告2からのもの)を使用して生成AIを開発し、生成された音声を上海某ネットテクノロジー社(被告4)が運営するクラウドサービスプラットフォームで販売。
    被告4:上海某ネットテクノロジー社。AI音声製品をクラウドプラットフォームで販売。
    被告5:北京某テクノロジー開発会社。被告3からAI音声製品を調達し、販売。
(2)事件の概要
 殷某某は、自身の音声が無断でAI技術により加工され、新たなAI音声が生成され、複数の短編動画プラットフォームで広く使用されていることを発見しました。調査の結果、これらの音声は被告1が提供するテキストから音声への変換サービスに由来することが判明しました。原告は、被告の行為が自身の音声権を侵害していると主張し、侵害の差止、謝罪、および損害賠償を求めました。
(3)事件の争点
  ⇒ 本件原告が主張しているのは、音声権(人格権)か音声権益(人格権益)か。
  ⇒ 音声権益はAI生成音声に適用されるのか。
  ⇒ 被告の使用行為が原告の正当な許可を得ていたか。
  ⇒ 被告の行為が侵害に該当するか、侵害に該当する場合の責任内容。

(4)法律上の問題点と適用法規
  ⇒ 法律上の問題点
    音声権の性質:音声は独立した人格権とみなされるのか、肖像権に準じて保護されるべきか。
    AI生成音声の識別可能性について、主観基準(一般の認識)と客観基準(声紋認識など)が含まれるが、どの基準で判断するべきか。
    責任分担:AI生成音声の全工程に関与する各被告の責任分担。
  ⇒ 主要適用法規
    「民法典」第1023条第2項:自然人の音声の保護は肖像権保護の関連規定を準用する。
    「民法典」第990条:人格権とは、民事主体が享有する生命権、身体権、健康権、姓名権、名称権、肖像権、名誉権、栄誉権、プライバシー権などの権利を指す。前項の人格権以外にも、自然人は身体の自由や人格の尊厳に基づくその他の人格的権益を享有する。
    「民法典」第995条:人格権侵害に関する民事責任。
    「生成型人工知能サービス管理暫定規則」第7条:生成型AIのトレーニングデータの合法性要件。
(5)判決
 被告1および被告3は原告に対して書面で謝罪し、被告2および被告3は原告に経済的損害25万元を賠償するというものであり、一審判決後当事者の双方は控訴しませんでした。

                          ―(2023)京0491民初12142号民事判決書より抜粋

3. おわりに
(1)音声の保護について
 中国の現行民法典では、「音声権」を独立した人格権として直接規定していません。民法典第1023条第2項では「自然人の音声の保護は肖像権保護の関連規定を準用する」と定められており、また民法典第990条では、「人格権とは、民事主体が享有する生命権、身体権、健康権、姓名権、名称権、肖像権、名誉権、栄誉権、プライバシー権などの権利を指す。前項の人格権以外にも、自然人は身体の自由や人格の尊厳に基づくその他の人格的権益を享有する」と規定されています。
 本件判決では、音声権益を音声保護の対象とする判断が示されました。音声権益は著作権法で保護される音声の表現形式とは異なり、音声権益がもたらす経済的利益および精神的利益の保護を目的としています。
(2)AI生成音声の保護について
 自然人の音声保護は、必ずしもAI生成音声の保護を意味するものではありません。なぜなら、AIモデルを用いて生成された音声は、自然人の発声による音声ではないからです。本件判決では、AI生成音声の保護は音声の識別可能性に基づくと判断されました。たとえAIモデルの訓練に使用された録音作品について被告が著作権を有しており、また生成された音声はAIによって合成されたものであっても、AI生成音声から自然人の身元が識別可能である場合には、その自然人の音声権益の保護がAI生成音声にまで及ぶと認定されました。
(3)AI生成音声の保護対象について
 本件で保護されるAI生成音声は、ユーザーが指定したテキスト内容をもとにテキスト音声変換サービスを使用して生成されたものであり、特定の内容とは結び付いていません。すなわち、本件で保護されたのは特定の自然人の音声の識別可能性という特徴です。本件判決では、音声の識別可能性は、使用方式、主観基準、客観基準に基づいて総合的な判断を行う必要があることが示されました。
(4)技術利用の境界に関する示唆
 本件は技術利用の境界を定める上で参考になる価値を提供しています。技術の発展を許容する一方で、自然人の権益保護を強調しています。

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【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催で著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権 」と「ネット上の違法サイト対策 」について講演予定です。

★募集要項★
日 時:2025年1月21日(火) 10:00~15:10 (予定)
会 場:Zoom(オンライン開催)
定 員:200名
参加費:無料
主 催:公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学

★講師紹介★
・川瀬 真 氏  JRRC理事長、元文化庁著作権課著作物流通推進室長
・甲野 正道 氏 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授

★プログラム★(講義の進捗度合いにより時間は変更になる場合があります。)
10:00 ~ 10:05 講師紹介等
10:05 ~ 12:00 著作権制度の概要 【講師】川瀬 真 氏
12:00 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:00 トピックス「 AIと著作権 」 【講師】 甲野 正道 氏
14:00 ~ 14:10 休憩
14:10 ~ 15:10 トピックス「 ネット上の違法サイト対策 」 【講師】川瀬 真 氏
15:10      終了予定

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編集責任者 
JRRC代表理事 川瀬 真

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