JRRCマガジンNo.399 最新著作権裁判例解説25

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JRRCマガジン No.399   2024/12/20
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています

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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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皆さま、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

12月も後半に入りましたが、皆さまはどのタイミングで年の瀬を実感されますでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その25)
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                              横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

 本年最終分となる今回は、東京地判令和3年7月16日(令和3年(ワ)第4491号)〔訴状ブログ公開事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は,原告が,被告に対し,被告の行為(※)は,別件訴状に係る原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権)を侵害するものであるとして,慰謝料30万円(著作権侵害に基づく慰謝料15万円,著作者人格権に基づく慰謝料15万円の合計額)及びこれに対する不法行為日である令和2年9月24日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案です。
(※)原告は,別件の名誉毀損訴訟(東京地方裁判所令和2年(ワ)第20028号。以下「別件訴訟」という。)の訴訟代理人であり,被告(恋愛や就職活動に関し,「A」名義で,書籍の執筆や,インターネットでの情報発信を行う者)は,同訴訟の被告の一人でもあるところ,被告は,原告に無断で,別件訴訟の第1回口頭弁論期日の前に,原告の作成した別件訴訟の訴状(以下「別件訴状」という。)を,自らのブログの記事内にそのデータファイルへのリンクを張る形で公表するなどした(*)もの。
(*)被告は,令和2年9月24日,原告に無断で,自らのブログ「Aのぐだぐだ」内の「Bさんから2020年8月11日に発送された訴状に対する見解」と題する記事(以下「本件ブログ記事」という。)において,別件訴状のデータファイル(ただし,被告の氏名や被告以外の別件訴訟の被告に関する部分はマスキングされている。)へのリンクを張り,別件訴状の内容を公表し た。本件ブログ記事には,別件訴状を受領したことや被告の認識する別件訴訟に至るまでの経緯の記載のほか,「A側の見解」として,「改めて訴状をいただいたことは大変遺憾です。」,「仮にBさんの感情を害するものがあっても受忍限度内であると考えます。」,「『デマを意図的に拡散した』かのごとく記載されたことについては,業界の大御所であるBさんからパワハラを受けたと感じています。」などと記載されている。被告は,令和2年9月24日,そのツイッターにおいて,本件ブログ記事を紹介する投稿を行った。(なお,別件訴状は,令和2年12月15日の別件訴訟の第1回口頭弁論期日において,陳述された。)

<判旨(※著作権法第40条第1項関係部分のみ)>
 原告の請求を一部認容。
「(1) 著作権法40条1項は,「裁判手続(…)における公開の陳述は,同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き,いずれの方法によるかを問わず,利用することができる。」と規定しており,自由に利用することができるのは裁判手続における「公開の陳述」であるから,未陳述の訴状について同項は適用されない。
 これに対し,被告は,訴状が裁判手続での陳述を前提に作成されるものであることなどを理由として,未陳述の訴状についても,同項が類推適用又は準用されると主張するが,裁判手続における公開の陳述については,裁判の公開の要請を実質的に担保するためにその自由利用を認めることにしたものと解すべきであり,かかる趣旨に照らすと,公開の法廷において陳述されていない訴状についてまでその自由利用を認めるべき理由はない。
(2) 被告は,未陳述の訴状を公表した場合であっても,公開の法廷における陳述を経た場合には,その瑕疵が遡及的に治癒されると主張するが,別件訴状が公開の法廷で陳述されることにより,それ以降の自由利用が可能となるとしても,それ以前に行われた侵害行為が遡及的に治癒され,原告の受けた損害が消失すると解すべき理由はない。
(3) 以上によれば,別件訴状の公表に著作権法40条1項が類推適用又は準用されるとの被告主張は採用し得ない。」

<解説>
 今回の事件においては、別件訴状における公衆送信権侵害や公表権侵害の成否、著作権法第41条(時事の事件の報道のための利用)の適用の有無など複数の争点がありますが、本解説においては従来あまり争点化されることのなかった著作権法第40条第1項について取り上げたいと思います。
 著作権制限規定のうち第39条~第41条は報道利用を許容するものであり、そのうち第40条については「公開の演説等の利用」の見出しの下、最新の第1項で「公開して行われた政治上の演説又は陳述並びに裁判手続及び行政審判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続をいう。第四十一条の二において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と規定されています(注1)。今回の事案に即して約めれば、裁判手続における公開の陳述は基本的に利用可能になっている、ということです。
 本条全体の立法趣旨は「政治上の演説等がその著作物としての性質上、広く公衆に伝達され、かつ自由に利用されるべき趣旨のものであるところから、公開の政治上の演説・陳述と裁判手続等における公開の陳述について、原則として自由利用を認めるとともに、公共機関における公開の演説・陳述についても、その性質上報道目的のための利用を認めたものであります」とされており(注2)、また、ベルヌ条約パリ改正条約との関係では同条約第2条の2(1)の「政治上の演説及び裁判手続においてされた陳述につき前条に定める保護の一部又は全部を排除する権能は、同盟国の立法に留保される。」に対応するものです(注3)。
 さて、今回の判決においては、裁判手続における公開の陳述の自由利用を著作権法第40条第1項が認めている点について「裁判の公開の要請を実質的に担保するためにその自由利用を認めることにしたものと解すべき」と述べた点に意義があり、上述の立法趣旨と齟齬が無い理解がなされていると考えられるところです。
 その上で今回の事案においては、被告が原告の別件訴状をブログで公開した時点では別件訴訟での同訴状の陳述がなされていなかったが、その後の別件訴訟で同訴状の陳述がなされたというケースに関して、①抑々訴状は訴訟での陳述を前提として作成されるものである等として、訴状が陳述されていなくてもその利用については著作権法第40条第1項の類推適用を受けることができるのか、②未陳述の訴状については第40条第1項の類推適用は否定されるとしても、その公開後に実際に訴訟で訴状が陳述された際には瑕疵の治癒として同条同項が遡及適用されることになるのかという被告主張の点が争われましたが、裁判所は第40条第1項の文言に沿った判断をしており、被告のいずれの主張についても退けています。
 被告がこのような点を争った根拠は、判決文に記載された「著作権法40条1項は,裁判の公開の原則の実質的保障という趣旨の規定であるところ,同項で「公開」が要件とされているのは,外部発表を前提としないがゆえに述べられた内密性を有するものについては自由利用を認めることは不適当と考えられるからである。」との被告主張に現れているものであり、これは立案担当者の説く「公開されて行われた演説又は陳述とか公開の陳述とかの公開要件が一つかぶっておりますが、これは、秘密演説会における演説とか非公開審理における陳述のように、外部発表を前提としないがゆえに述べられた内秘性を有するものについては、自由利用を認めるのは不適当と考えられたからであります」との解説(注4)と同様のものであるところ、被告側はそれを自説の方にぐっと引き寄せて活用し、そこから上記①・②の瑕疵の治癒等へと展開した訳ですが、
少し引いた立場で考えてみると、訴状が公開の法廷で陳述されることになるというのであればその時点で第40条第1項の適用を検討すれば足りると考えられますし、同条の類推適用を認めるとなるとその適用範囲をどの程度まで拡げて考えるべきかといった論点も生じ得るといったような点を考慮すれば(注5)、裁判所としては被告主張を採用する必要性がないと判断したものと考えられるところであり、またその判断は妥当であったものと解されましょう。
 今回の事案は複雑なものではありませんが、冒頭申したように第40条第1項という普段は然程深く触れることのない条項に関する珍しい裁判例を扱いました。今回は以上といたします。

(注1)著作権法第40条については「著作権法の一部を改正する法律」(令和5年法律第33号)において改正されており、本条は令和6年1月1日から施行されている。
(注2)加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』356-357頁
(注3)小泉直樹=茶園成樹=蘆立順美=井関涼子=上野達弘=愛知靖之=奥邨弘司=小島立=宮脇正晴=横山久芳『条解著作権法』485頁[茶園成樹]
(注4)前掲注2・357頁
(注5)また本件においては、別件訴状についての被告によるアップロード行為につき、原告の有する公表権の侵害の有無や、原告の同意の有無も争点となっており、今回の判決においてはいずれの争点についても裁判所は被告の主張を採用していないが、仮に本解説本文記載の著作権法第40条第1項の適用を本件で肯定することとなった場合にはこれらの公表権侵害の有無等の争点にも影響が及ぶこととなるのであるから、その点に鑑みても、今回の被告主張には困難性が伴っていたものと解される。

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【2】【1/21開催】 オンライン著作権講座開催のご案内(JRRC・大阪工業大学主催)
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ご好評につき今年度も大阪工業大学と共催で著作権講座をオンラインにて開催することとなりました。
本講座は、著作権法を学んだことの無い方や、企業・団体の研究者や学生の方で著作権に関する基礎的な知識をお持ちの方向けとなっております。
学生・企業・団体・個人どなたでも受講は可能ですので、ふるってご参加ください。
今回は著作権制度の概要に加えて、トピックスとして「AIと著作権 」と「ネット上の違法サイト対策 」について講演予定です。

★募集要項★
日 時:2025年1月21日(火) 10:00~15:10 (予定)
会 場:Zoom(オンライン開催)
定 員:200名
参加費:無料
主 催:公益社団法人日本複製権センター・大阪工業大学

★講師紹介★
・川瀬 真 氏  JRRC理事長、元文化庁著作権課著作物流通推進室長
・甲野 正道 氏 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授

★プログラム★(講義の進捗度合いにより時間は変更になる場合があります。)
10:00 ~ 10:05 講師紹介等
10:05 ~ 12:00 著作権制度の概要 【講師】川瀬 真 氏
12:00 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 14:00 トピックス「 AIと著作権 」 【講師】 甲野 正道 氏
14:00 ~ 14:10 休憩
14:10 ~ 15:10 トピックス「 ネット上の違法サイト対策 」 【講師】川瀬 真 氏
15:10      終了予定

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