JRRCマガジンNo.396 中国著作権法及び判例の解説3 中国におけるデータ集の知的財産権保護について

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JRRCマガジン  No.396 2024/11/28
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
【2】【12/5開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
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皆さま、こんにちは。

弊センターは日比谷線の虎ノ門ヒルズ駅が最寄り駅の一つです。その沿線は国際色豊かな街が多く、仕事終わりに立ち寄るといろいろと楽しめます。クリスマスが近づく広尾のスーパーでは、目新しい商品が並び用途を想像するだけでわくわくしてきます。

さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。

方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/

◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説━━━
中国におけるデータ集の知的財産権保護について 
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                                方 喜玲

1.はじめに
 2024年7月、北京知的財産権法院は、中国初となる《データ知的財産権登記証》に関するデータ集の紛争事件(二審判決)についての判断を下しました。編集著作物としての著作権性を有するとは認められなかったものの、データ集に関する一定の権益の初歩的な証拠として《データ知的財産権登記証》の有効性が認められました。本件で争われたデータ集は、AIモデルの学習用としての音声データ集であり、AIをめぐって議論される学習用データ集の権利問題の検討に重要な参考事例になると思われます。
さて、本稿では《データ知的財産権登記証》の概要を紹介し、その後、このデータ集の紛争事件についても説明します。
2.《データ知的財産権登記証》の概要
 《データ知的財産権登記証》とは、中国国家知識財産権局が2022年12月に国務院の発表した《データ基盤制度を構築しデータ要素の役割をより良く発揮させるための意見》(以下、「データ二十条」という)に基づいて導入したものです。この「データ二十条」は、データを新規要素として、その生産、分配、流通、消費管理等のデータ管理制度の構築体系で、データ集を保護するための基礎的な根拠を提供することになりました。ここで、「データ集」は、従来は編集著作物として保護されることもあり得ましたが、民法上の絶対的・相対的所有権として認められるか否かはまだ明確に規定されていないので、その保護に関する検討も続いています。
 現在、中国では北京、上海、深センなど17の地域で《データ知的財産権登記証》の登記が試行されています。各試行地域での登記対象の基準や手続きには一部相違する内容もありますが、大体次の基本条件を満たすデータが登記対象とされています。
  ①登録するデータは合法的に取得されたものであること。
  ②登記対象はデータ集であること。
  ③登録するデータは、通常、実質的な労力を投入して得られたものであること。
  ④登録対象のデータは商業的または実用的な価値を有すること。

3.《データ知的財産権登記証》に関するデータ集事件
(1)基本状況
   ◆第一審裁判所:北京インターネット法院
   ◆第二審裁判所:北京知的財産権法院
   ◆第一審原告:データ堂(北京)科技有限公司(以下、「原告」または「データ堂」という)
   ◆一審被告:隠木(上海)科技有限公司(以下、「被告」または「隠木」という)

(2)事件の経緯
 原告データ堂は2010年に設立され、データ処理、人工知能システムサービス、インターネット情報サービス、技術開発などを事業範囲としている会社です。2021年9月、データ堂は、自分のウェブサイトにおいて「AIデータオープンソースプロジェクト1505時間中国語標準語音声データ」を発表し、多くの人手と資金を費やして、1505時間の標準語収集音声データ(以下、「本件データ集」という)を収録しました。2023年、データ堂の「標準語携帯電話収集音声データベース」は「京知数登字第2023000007号」という《データ知的財産権登記証》を付与され、データ登録番号は「BJSZD202300000008」で、登録有効期限は2026年7月6日までとなります。
 そして原告は、2021年、原告と同じく人工知能分野のデータサービスを手掛ける被告が、本件データ集を違法に入手し、公式ウェブサイト上で公衆に流布し、インターネット利用者が自由にダウンロードできるようにしたことを発見し、一審裁判所に提訴し、次のような主張を行いました。1)原告は本件データ集の最初の作成者であり、合法的権利者で、原告は法律に基づきデータ権益を享受している。データ権益保護制度はまだ整備完全ではないが、データ権益は明確に保護されるべき民事権益である。 2)本件データ集は、編集著作物であり、被告の公衆に流布する行為等は著作権の侵害行為に該当する。3)被告と原告は両者ともデータ処理業界の業者であり、第三者へのデータ提供を業務としているため競争関係にあり、被告はインターネットを通じて違法な取得、コピー、流布などのデータ侵害行為を実行し、かつ主観的な過失および悪意があり、被告は不正競争防止法第2条等に規定された法的責任を負わなければならない。4)本件データ集は原告の営業秘密に属し、被告が違法にデータを取得、使用、他人に提供することは、不正競争防止法第9条の営業秘密の侵害行為に該当する。

(3)裁判の争点および判旨
(イ)本件データ集の合法性について、原告は、本件データ集は非識別化され収集者個人を特定することができないので、本件データ集を保有するだけでは収集者個人に現実的損害を与えることは考え難いと主張しました。これについて裁判官は、この主張に反する証拠がない限り、原告の音声データ収集行為には合法性があると結論付けることができると認定しました。
(ロ)原告が提出した《データ知的財産登記証》について、裁判所は、《データ知的財産登記証》は、原告が本件データ集の財産権及びその権益を享受することの証明資料として使用することができ、データ収集行為又はデータの出所の合法性の証明資料として使用することもできると認定しました。
(ハ)本件データ集の著作物性について、裁判所は、その内容の選択及び配列に創作性がなく、著作権法により保護される編集著作物に該当しないと認定しました。
(ニ)本件訴訟に関連するのは200時間データ集のみとなり、このデータ集は既に秘密性がないため、2019年不正競争防止法第9条に規定する営業秘密に該当しないと認定しました。
(ホ)裁判所は、原告は本件データ集の音声データ項目を合法的に収集するために技術、資金、人員等実質的投資を行い、さらに商業的な価値を加えることにより、人工知能モデルの開発における音声データの需要を満たすものとなり、原告にとっては、トラフィックを引き付け、取引機会や競争優位などの商業的利益をもたらすことができるし、このような商業的利益は、一種の実質的な競争性権益であり、不正競争防止法によって保護される法的権益であると認定しました。そして、原告の許可なく被告が行った被訴行為は、データサービス分野における企業倫理に違反し、原告の合法的な権益および消費者の権益を損ない、データサービス市場における競争秩序を混乱させているため、不正競争防止法第2条の不正競争行為に該当すると認定しました。

(4)裁判の結果
 判決は、被告は、原告に対し経済的損失10万人民元と合理的費用2,300人民元を賠償するというものであり、一審判決後、被告は一審判決に不服として控訴したが、二審は一審判決を維持しました。
                                    ―(2024年)京73民終546号民事判決書より抜粋

4.おわりに
(1) 本判決では、データ集の保護について、一定の条件を満たす場合、著作権法,営業秘密等知的財産権制度を利用して保護することができる旨を明確にしました。
(2) データ集の所有権について、本判決では民法上の所有権を認めていないが、データ集が一定の条件を満たす場合、不正競争防止法の一般規定による保護対象となり得ることを認めました。
(3) 一審および二審の裁判所は、両方とも《データ知的財産権登記証》について、データ処理者が関連データの権益を享受することを証明する初歩的証拠としての役割を認めました。 また、《データ知的財産権登記証》は、これに反する証拠がない限り、当該データ集の収集は関連法律の規定に違反していないことを認めました。

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【2】【12/5開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ(アーカイブ配信あり)
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今年度2回目となる、JRRC著作権講座”中級”を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。
※本講座はお申込みいただいた方限定でアーカイブ配信を行います。

★日 時:2024年12月5日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 第1部 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物)
           特集①著作物について(境界領域等)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの管理事業について
13:10 ~ 14:15 第2部 著作権制度の概要2(著作者、権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:30 第3部 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
15:30 ~ 15:40 休憩
15:40 ~ 16:40 第4部 特集②著作権の集中管理と独占禁止法
16:50 終了予定

★ 受付サイト:https://jrrc.or.jp/event/241114-2/ ★

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JRRC代表理事 川瀬 真

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