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JRRCマガジン No.391 2024/10/24
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◆今回の内容
【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説
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皆さま、こんにちは。
今日10月24日は「国連デー」
1945(昭和20)年10月24日に、ソ連が国際連合憲章を批准したことにより世界20カ国の同意が得られ国際連合が発足したことにちなんで、国際デーのひとつとして記念日が制定されたそうです。
さて、今回は方先生の「中国著作権法及び判例の解説」です。
方先生の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fang/
◆◇◆【1】方先生の中国著作権法及び判例の解説━━━
AI生成物の著作権法上の法的属性と権利帰属について
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方 喜玲
1.はじめに
近年、ChatGPT等の生成AI(学習済みAIモデル)が広く利用されるようになり、AI生成物の著作物性や著作権者に関する議論がますます重要になっています。
著作物の定義について、日本の著作権法と同様に、中国著作権法の第3条には「本法にいう著作物とは、文学、美術及び科学分野において、独創性を有し、 かつ、一定の形式で表現可能な知的成果をいう。」と規定されています。つまり、著作物として認められるためには、1)文学、芸術及び科学の分野に属するか否か、2)独創的であるか否か、3)一定の形式で表現することができるか否か、4)知的成果であるか否か等、4つの要件を満たす必要があります。さらに、著作権者については、中国著作権法の第2条で、自然人、法人又は非法人組織が著作権者になり得ることが規定されています。
生成AIを使い、プロンプト(指示内容)を入力してAI生成物を得る場合、そのプロンプトが人間の創作性を反映している限り、その人が著作者と認められる可能性があり、AI生成物が著作物性を有する可能性も否定できません。
このような中、2023年末に、北京インターネット裁判所は、AI生成物の美術作品としての著作物性を認め、そのAI生成物を得るために生成AIにプロンプトを繰り返し入力した原告を著作者として認定しました。また、被告の著作権侵害行為も認定し、侵害行為の差し止め、謝罪、損害賠償を命じる判決を下しました。判決の概要は、次章で述べます。
なお、『日本知財学会誌』で「中国におけるデータの知的財産法における保護・活用と課題」という論文を発表する際に、AI生成物と著作権法との関係について議論しましたが、今回はその続編として、中国著作権法の具体的な内容と関連判例を通じて、同法の最新実務を紹介したいと思います。
2. AI生成画像の著作権法上の法的属性と権利帰属の認定に関する著作権判決
2.1 事件の経緯
原告(李氏)は、オープンソースソフトウェアStable Diffusionを使用し、順方向及び逆方向のプロンプトの入力を通じて、バッチ数、図の高さ、プロンプト誘導係数及び乱数シード等を設定して本件生成画像を生成し、「小紅書プラットフォーム」で公開しました。被告(劉氏)は、「百家号」というアカウントで記事を投稿し、その記事内で本件生成画像を使用しました。原告は、被告が無断で本件生成画像から原告の「小紅書プラットフォーム」の透かし署名を除去して使用し、関連ユーザーに被告が著作者であると誤認させ、原告が有する氏名表示権及び情報ネットワーク伝播権を著しく侵害したと考え、公開謝罪と経済的損害の賠償を求めて提訴しました。
これに対し、被告は、本件生成画像について原告に権利があるかどうかは不明であり、被告が公表した記事の主な内容はオリジナルの詩であり、本件生成画像ではなくまた商業的利用もなく、原告の権利を故意に侵害した事実はないと反論しました。
2.2 裁判の争点および判旨
(1)本件生成画像は著作物の定義に合致し、著作物に属するか
中国著作権法(以下、「著作権法」という)第3条には、「本法にいう著作物とは、文学、芸術及び科学の分野における独創性があり、一定の形式で表現することができる知的成果をいう」と定められています。この規定に基づき、原告の著作権請求の対象が著作物に該当するか否かを検討するためには、以下の要件を考慮する必要があります。1)文学、芸術及び科学の分野に属するか否か、2)独創的であるか否か、3)一定の形式で表現することができるか否か、4)知的成果であるか否か。
まず、著作権法に明示された著作物の類型に該当するか否かを判断する必要があります。対象物の特性や表現形式を、著作権法第3条第1号から第8号までに列挙された著作物の類型と比較し、これらに該当する場合、特定の著作物として認められます。なお、著作権法実施条例第4条の規定によれば、「美術作品とは、絵画、書道、造形物等の形態で、線、色彩その他の方法により美的意義を有する平面又は立体の美的著作物をいう」とされています。本件生成画像は線と色彩からなる美的意義を有する平面造形の芸術作品であり、美術作品に該当します。よって、「著作物の特性に適合するその他の知的成果物」として保護する必要はなく、本件生成画像は著作権法により保護される美術作品となります。
次に、本件生成画像はその外観から、通常の写真や絵画と何ら変わりなく、明らかに芸術の分野に属し、一定の表現形式を有しています。本件生成画像は、原告が生成AI技術を用いて生成したものであり、原告の本件生成画像の構想から本件生成画像の最終的な選択に至るまで、原告は、キャラクターの表現形式の設計、プロンプトの選択、プロンプトの配列、関連パラメータの設定、期待に沿う画像の選択などを行い、本件生成画像には原告の知力の投入が反映されています。したがって、本件生成画像には独創性が認められ、「知的成果」の要件を具備することになります。
さらに、本件生成画像の中身を見ると、それ以前の作品と明確に異なる点が認められます。生成過程において、原告はプロンプトを通じてキャラクターやその表現形式などの画面の要素を設計し、画面のレイアウトや構図などに対してパラメータを設定し、原告の選択や設計思想が反映されています。また、原告は、入力されたプロンプトに基づき、関連パラメータを設定し、最初の画像を得た後もプロンプトの追加やパラメータの修正を行い、繰り返し修正を行うことで最終的に本件生成画像に至っています。なお、この調整及び修正の過程においても、原告の美的選択及び個性判断が反映されています。したがって、これに反する証拠がない限り、本件生成画像は原告が独自に完成させたものであり、原告の個性的な表現が反映されたものであるから、本件生成画像には「独創性」の要素があると判断することができます。
(2)李氏は本件生成画像の作者であり、本件生成画像の著作権を享有するか
本件著作物の権利の帰属に関して、著作権法は、著作者を自然人、法人または非法人組織に限定しており、生成AI自体が著作権法の著作者になることはできません。原告は自身のニーズに基づき生成AIに対して関連する設定を行い、最終的に本件生成画像を選択したのであり、本件生成画像は、原告の知力によって直接生み出されたものであり、原告の個性的な表現が反映されています。したがって、原告は本件生成画像の著作者であり、著作権を享有します。
なお、依頼者と受託者の間には、一般的にはペンを使って作画した受託者が創作者とみなされます。この状況は、人が生成AIを使って画像を生成する場合と似ていますが、両者には大きな違いがあります。すなわち、受託者は自らの意思を持ち、依頼者から委託された画像を完成させる際に、自らの選択や判断を画像に反映させるという点であります。一方、現段階で生成AIには自らの意思がなく、法律上の主体にもなり得ません。そのため、人が生成AIを使って画像を生成する場合、この2つの主体の間に誰が創作者であるかを確定する問題は存在しません。本質的には、やはりツールを使って人が創作する、つまり、創作プロセス全体に知的投入をするのは人でありAIではありません。AI生成画像は、その人の独創的な知力を反映できる限り、著作物として認められ、著作権法によって保護されるべきです。
(3)劉氏は李氏の権利を侵害しており、著作権侵害の責任を負わなければならないか
被告は無断で本件生成画像を使用し、「小紅書プラットフォーム」の自身のアカウントに投稿したことで、原告の情報ネットワーク伝播権を侵害しました。また、被告は本件生成画像から透かし署名を除去したことで原告の氏名表示権を侵害しており、氏名表示権侵害の責任も負うべきです。
2.3 裁判の結果
判決は、被告は、原告李氏に謝罪し、経済的損失500元を賠償するというものであり、判決後両当事者はいずれも上訴状は提出されていません。
-(2023)京0491民初11279号判決より抜粋
3.おわりに
本判決は、人が生成AIを利用して得られたコンテンツが著作物の定義を満たす場合は著作物として認められ、著作権法により保護されることを初めて明確に示した判決です。また、本判決では、AI生成コンテンツに利用者の独自の知的創作性が反映されている場合、当該コンテンツの著作権は原則として生成AIの利用者に帰属することを初めて明確にしました。そして本判決は、人工知能への知的財産権保護を考える上で重要な役割を果たしたとして、「2024年中国デジタル経済発展及び法治建設における影響力のある事件ベストテン」及び「2023年中国法執行事件ベストテン」にも選ばれました。
これにより、中国ではAI生成物への保護が進むとともに、人工知能に関連する知的財産権の保護が強化されていくと考えられます。今後、AI生成物や人工知能に関する紛争が増加することが予想されるため、人工知能技術やAI生成物の利用に関して慎重に検討する必要があると考えられます。
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