JRRCマガジンNo.389 コンプライアンス・企業倫理を考える5 内部通報制度と公益通報者保護法

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JRRCマガジン  No.389 2024/10/10
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(アーカイブ配信あり)
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皆さま、こんにちは。

今日10月10日は「朝礼の日」
「朝」という字を分解すると「十 + 月 + 十 + 日」と取れることと、朝礼は一礼一礼しっかりとすることから【いち(1)れい(0)】の語呂合わせにちなみ、記念日が制定されたそうです。

さて、今回は板東氏の「コンプライアンス・企業倫理を考える」です。

板東氏の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/bando/

◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
 ⑤内部通報制度と公益通報者保護法
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                              日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 板東久美子

 コンプライアンス・企業倫理を実践していくためには、それに反する行為・状態があった場合にはそれを察知し、このような状態を是正するための仕組が機能していることが重要です。不正を顕在化するのに効果的な仕組みとして、従業員など企業内部の者が問題事実をしかるべき窓口・機関に通報する「内部通報制度」があります。そして、その内部通報制度が実効あるものとして機能するために欠かせないのは通報者の保護であり、そのための法制として「公益通報者保護法」があります。今回と次回で、この内部通報制度と公益通報者保護法について取り上げたいと思います。
 この内部通報制度や公益通報者保護法については、その重要性がますます増しており、法改正により制度の拡大・実効性の強化が図られてきています。企業の不祥事に関して目にすることが多いだけでなく、今、兵庫県知事の不信任決議に関わる問題でも焦点が当たり、ホットなテーマとなっています。今回は、内部通報や通報者保護の意義、公益通報者保護法の概要についてご紹介し、次回は企業等における内部通報制度の運用の在り方について考えたいと思います。

内部通報制度と公益通報者保護の必要性
 企業の不祥事が明らかになるのは内部通報によることが最も多いということをご存知でしょうか。消費者庁が2016年に行った調査でも、企業の不正が発見された端緒(複数回答)としては、「内部通報」という回答がトップで58.8%となっており、「内部監査」(37.6%)や「上司による日常的なチェック」(31.5%)等を上回っています。内部通報により問題を吸い上げ、対応する仕組が機能していなければ、企業の問題も是正・改善の機会を逃して問題が大きくなり、不正が顕在化したときには、消費者・取引先・株主など様々なステークホルダーの信頼を失い、企業に深刻なダメージを与えることになります。
 内部通報の対象となる不正行為としては、ハラスメント、労働法規違反のような従業員に対するものが件数としては多いのですが、データ偽装、リコール隠し、産地偽装、談合などの消費者・社会の利益を害するような様々な企業の不正もあり、企業内部の自浄作用が働かない場合に、マスコミや行政機関など外部に対して行われる通報から明らかになる場合も多い状況です。消費者はじめ広く国民にとってもこのような企業内部からの通報による不正の顕在化とその是正は極めて重要です。そのような意味において、企業等における不正行為に関する内部からの通報を「公益通報」ととらえて法的にも重視しています。そして、そのような通報を行う者がかえって企業から制裁や不利益を受けることがないように法的に守ることが必要であり、そのために公益通報者保護法が2004年に制定されました。したがって、公益通報者保護法は、公益通報を行った従業員を保護するという意味で労働法的側面もありますが、企業の法令遵守により消費者・国民の利益を確保する機能を持っており、所管も消費者庁となっています。

公益通報者保護法の概要
 それでは、公益通報者保護法により、どのような通報者が保護されるのか、また、企業・行政に何が求められているのかについて簡単にご紹介したいと思います。
 公益通報者保護法は、2004年の制定ですが、適用範囲も狭く、その実効性が低いことが指摘されていました。そのため、私がちょうど消費者庁に在職していた2015年に「公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会」が設けられ、実効性ある内部通報対応体制の整備のための民間事業者向けガイドラインの見直しや公益通報者保護法自体の改正の方向について検討が開始されました。その報告書が2016年末にまとまる前に私自身は退職しましたが、企業経営者、弁護士、学者、消費者団体関係者だけでなく、実際に通報を行った方や通報を受けるマスコミ関係者にも入っていただいた検討会での白熱した議論は今でも思い出します。さらに消費者委員会の検討・答申を経て改正案がまとめられ、2020年に改正法が成立し、2022年6月から施行されています。事業者内部における体制整備のため、従来のガイドラインの内容も吸収して、「公益通報者保護法に基づく指針」(内閣府告示)が定められています。
 公益通報者保護法においては、「公益通報」とは、企業等の事業者による一定の違法行為(「通報対象事実」)を、不正の目的(金品を得ることや損害を与えることを目的とするなど)でなく、労働者・退職後1年以内の退職者・役員が、その組織内の通報窓口、あるいは権限を有する行政機関、報道機関などに通報することとしています。この公益通報者を保護するため、同法では、①公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効 ②解雇以外にも不利益な取り扱い(降格、減給、退職金の不支給等)の禁止 ③事業者が公益通報によって損害を受けたとして、公益通報者に対して損害賠償を請求することはできないことを規定しています。
今回の法改正では、1)事業者は、公益通報対応業務の「従事者」を定め、通報窓口を設置し、公益通報に適切に対応するための体制を整備すること 2)通報者の不利益な取り扱いを禁止すること 3)事業者内の内部通報担当者に守秘義務を課し、違反すれば罰金刑を課すこと 4)保護される「公益通報者」を退職者(1年以内)や役員に拡大すること 5)保護される「通報対象事実」の範囲を拡大すること 等の改正がなされ、保護の仕組み・内容が強化されました。
 保護の対象となる「通報対象事実」については、少しわかりにくいのでさらにご説明いたしますと、同法では、コンプライアンス違反として概念されることが全て同法で保護される通報の対象とはなっているわけではなく、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」として公益通報者保護法やそれに基づく政令に列挙されている法律により刑事罰の対象となる犯罪行為や行政罰である過料の対象となる違法行為、行政庁の是正命令などの処分違反を介して結果として刑罰・行政罰の対象となる事実を対象としています。このように法律で対象を限定列挙することについては議論があるところですが、保護対象の明確化のためにこのような仕組みとされています。改正前は刑罰の対象となる違法行為だけでしたが、今回、範囲が広げられましたので、企業不正として社会的にも問題となる行為はほぼカバーされているといえましょう。
公益通報者保護法自体の違反も今回の改正で対象となり、例えば企業の内部通報担当者が守秘義務違反を行った場合には公益通報の対象になります。ちなみに、 著作権法や 意匠法・ 特許法・ 商標法・ 実用新案法・種苗法等の知的財産法も、対象になる法律として列挙されていますので、違反行為は公益通報の対象となります。
 公益通報をだれに対して行うかについては、①組織内部(内部通報窓口、上司など) ②権限を有する行政機関 ③その者に通報することが通報対象事実の発生・被害拡大の防止に必要と認められる者(報道機関、消費者団体等)の3つの場合があり、公益通報として保護されるための要件は若干異なっています。①の組織内部では、通報内容の事実があると考えていれば保護対象となるのですが、②の行政機関にする場合は、「通報内容の存在を信じるに足りる相当の理由」があると思料することが必要になり、③の場合は、組織内部の通報では、証拠隠滅等のおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があるなどの列記された事由のどれかを満たす必要があるとされています。まず、組織内部での自浄作用を働かせることが第一歩となっていますが、それが機能しない場合もあることから、②や③の場合も併せて公益通報者保護制度が機能することが求められます。
 公益通報者保護法の本当に大枠だけの言葉足らずのご説明になってしまったかと思いますが、消費者庁において「公益通報ハンドブック」も作成されており、消費者庁のホームページでも公表されていますので、参考にしていただければありがたく思います。

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【2】2024年度著作権講座初級オンライン開催について(アーカイブ配信あり)
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今年度2回目となる著作権講座初級を10月24日(木)にオンラインで開催いたします。
本講座は著作権法を学んだことのない初心者向けの講座です。著作権法の体系に沿って著作権制度の概要を分かり易く解説するとともに、理解を深めるために重要判例や最新の情報についてもお話いたします。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申し込みください。
※今回よりお申込みいただいた方限定でアーカイブ配信を行います。当日のご都合が合わない方も是非お申し込みください。

★開催日時:2024年10月24日(木) 13:30~16:35★

プログラム(予定)
13:30~15:05 第1部 著作権制度の概要
15:05~15:15 休憩
15:15~15:25 JRRCの管理事業について
15:25~16:35 第2部 表現とデータ・アイデアの利用の境界について

★ 受付サイト: https://jrrc.or.jp/event/241002-2/

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JRRC代表理事 川瀬 真

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