JRRCマガジンNo.383 EUデジタルサービス法及びデジタル市場法について

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JRRCマガジン  No.383 2024/8/29
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◆今回の内容
【1】田渕先生の「EUデジタルサービス法及びデジタル市場法について」
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皆さま、こんにちは。

今日8月29日は「文化財保護法施行記念日」
1950(昭和25)年8月29日に文化財保護法が施行されたことにちなんで記念日が設けられております。

今回はNo.379に引き続き政策研究大学院大学教授の田渕エルガ先生に欧州デジタルサービス法・デジタル市場法について執筆していただきました。
田渕先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/tabuchi/

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【1】田渕先生の「EUデジタルサービス法及びデジタル市場法について」
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1.はじめに

 私たちは毎日の生活の中でインターネットを長時間にわたって利用するようになりました。直近の調査によると、日本では、平日・休日ともに、9割前後の人がインターネットを利用しており、平均利用時間は1日3時間以上、テレビなどの他の媒体を超える利用状況となっています(注1)。情報の収集や伝達、買物、動画や音楽の視聴などの様々な目的で、世界中の人々が長い時間をデジタル空間で過ごすようになった今、この空間で様々なサービスの利用者や消費者、ビジネスなどを仲介する役割を果たす事業者の存在感が高まっています。とりわけ欧州では、こうした仲介を担う事業者の責務に目が向けられるようになりました。

 このような背景のもとで制定されたのが「デジタルサービスのための単一市場に関して規定し、指令2000/31/ECを改正する欧州議会及び理事会規則2022/2065」(デジタルサービス法)及び「デジタル部門における公正かつ競争可能な市場に関して規定し、EU指令2019/1937及びEU指令2020/1828を改正する欧州議会及び理事会規則2022/1925」(デジタル市場法)です。一部規定を除き、デジタルサービス法は2024年2月より、デジタル市場法は2023年5月より、適用が開始され、より安全かつ公正で開かれたデジタル空間をつくる役割が期待されています。本稿では、これらの規則について、著作権による保護の対象となるコンテンツとの関わりを中心に、簡単にご紹介します。

2.デジタルサービス法

 デジタルサービス法は、消費者保護の原則をはじめ基本的な権利が保護されるよう、仲介サービスに関する域内ルールの調和を図ることを目的としています(1条)。対象となる仲介サービスとしては、オンラインモールやSNS、動画等共有サイト、アプリストア、旅行・宿泊予約サイト、検索エンジンなどがあげられます。デジタルサービス法は、プロバイダの設立地にかかわらず、EU域内に設立されているか所在するサービス利用者に提供される仲介サービスに適用されます。また、同法による規律の対象となる違法コンテンツには著作権を侵害するコンテンツも含まれますが、著作権に関する既存のEU法の適用に影響を与えるものではないと定められています(2条)。

 デジタルサービス法の主たる内容として、指令2000/31/EC(電子商取引指令)においても定められていたプロバイダの責任について規定するとともに(2章)、プロバイダの注意義務について新たに規定しています(3章)。

 (1)プロバイダの責任

 デジタルサービス法では、仲介サービスを「単なる伝達」、「キャッシング」、「ホスティング」の3つに分けて、それぞれ、どのような場合に責任を問われないか、定めています。いわゆるセーフ・ハーバー条項と呼ばれるものです。例えば、サービス利用者から提供された情報を当該利用者の要求に応じて保存するサービスを提供するホスティング・プロバイダについては、違法行為や違法な情報について現実に知らなかった場合等、または認識後、直ちに、当該情報を削除またはアクセス不能にするため対応した場合には、責任を問われません。さらに、プロバイダに一般的監視義務を課してはならないことが定められています。こうした基本的な枠組は、電子商取引指令をほぼそのままの形で取り込んだものです。この他、当局から違法コンテンツに対する措置命令があった際の対応状況を報告しなければならないことなどについても定められています。

 なお、動画投稿サイト等のコンテンツ共有サービスのプロバイダについては、EU指令 2019/790(デジタル単一市場著作権指令)17条において、プロバイダ自身が公衆送信行為等を行うものであり、権利者から許諾を得る必要があることなどを内容とする別の枠組を規定しています。その範囲において、デジタル単一市場著作権指令では、電子商取引指令のセーフ・ハーバー条項はコンテンツ共有サービスのプロバイダには適用されないと規定されています。デジタルサービス法のセーフ・ハーバー条項も同様に、デジタル単一市場著作権指令第17条が規定する部分については、適用されないと解されます(注2)。 

 (2)プロバイダの注意義務 

 デジタルサービス法は、上記のプロバイダの免責に加えて、新たにプロバイダが遵守しなければならない義務についても規定しています。同法においては、仲介サービス(①)のうち、サービス利用者から提供された情報を当該利用者の要求に応じて保存するサービスを「ホスティングサービス(②)」とし、ホスティングサービスのうち、サービス利用者の要求に応じて、情報を保存し、公衆に広めるものを「オンラインプラットフォーム(③)」、一定以上の規模のオンラインプラットフォームとオンライン検索エンジンを「巨大オンラインプラットフォーム・巨大オンライン検索エンジン(④)」と定めています(3条、33条)。①仲介サービス、②ホスティングサービス、③オンラインプラットフォーム、④巨大オンラインプラットフォーム・巨大オンライン検索エンジンの後となる順に課される義務が重くなります。

 全ての仲介サービスのプロバイダに課される義務として、加盟国当局やサービス利用者等に対する連絡先を公開すること(11条、12条)、域内における法定代理人の指定(13条)、コンテンツ・モデレーションの方針等、サービスの利用者が提供する情報に課される制限について利用規約に明記し、公開すること(14条)、報告義務(15条)が規定されています。コンテンツ・モデレーションとは、サービスの利用者が違法なコンテンツ等を提供した場合にプロバイダがとる対応を指しています。したがって、例えばどのような場合に、著作権侵害を理由にコンテンツへのアクセスが遮断されたり、削除されたりするのか、プロバイダが利用規約で示しておく必要があります。

 ホスティングサービスのプロバイダの義務としては、上記の義務に加えて、違法コンテンツと疑う情報について通報できる仕組みを導入すること(16条)等が規定されています。 

 オンラインプラットフォームのプロバイダの義務としては、追加で、上記通報制度において特定の専門領域で活動する「信頼できる通告者(trusted flagger)」による通報を優先し、当該通報を不当な遅延なく処理するために必要な措置を講ずる義務(22条)を負います。加盟国が「信頼できる通告者」の地位を付与した団体には、著作権侵害対策を行っている団体も含まれています。この他、広告表示(26条)、レコメンド機能(27条)、未成年者の保護(28条)等に関する義務が課されています。

 巨大オンラインプラットフォーム・巨大オンライン検索エンジンは、欧州域内での月間平均有効利用者数が4500万人以上で欧州委員会が指定するものであり、最も厳しい義務が課されています。提供サービスを利用した違法コンテンツの拡散等に関するリスク評価を行い( 34 条)、リスクの軽減措置を講ずる(35条)等の義務を負います。欧州委員会は、2023年以降、Amazon、Apple、Google、Meta、Microsoft、TikTok、Twitter等によるサービスを巨大オンラインプラットフォーム・巨大検索エンジンとして指定しています。

 (3)罰則 

 加盟国は、仲介サービスのプロバイダがこの規則に違反した場合に適用される罰金等の罰則を定めることとされています( 52 条)。巨大オンラインプラットフォーム・巨大オンライン検索エンジンのプロバイダによる違反については 、欧州委員会が、全世界における年間売上高の6%を上限とした罰金を科すなどの措置をとることができます(73条、74条)。

3.デジタル市場法

 デジタル市場法は、公正かつ競争可能な市場を確保するためにゲートキーパーであるオンラインプラットフォームに関するルールを定めています。欧州委員会は、原則として、次の 3 要件を満たす企業をゲートキーパーに指定することとされています(3条)。
  ①EU域内の年間売上高が75億ユーロ以上又は時価総額が750億ユーロ以上であり、3加盟国以上で同一の中核的なプラットフォームサービス(オンライン仲介サービス、検索エンジン、SNS、動画共有サイト等)を提供している
  ②月間有効エンドユーザが4500万人以上かつ年間有効ビジネスユーザが1万人以上いる
  ③過去 3 年連続して②の条件を満たしている

 ゲートキーパーにはデジタルサービス法の対象であるものも含まれます。また、ゲートキーパーがEU域内でサービスを提供する場合に、その設立地を問わず、デジタル市場法は適用されます(1条)。2024年8月現在、Alphabet、Amazon、Apple、ByteDance、Meta、Microsoft、Bookingがゲートキーパーに指定されています。

 ゲートキーパーに対して以下のような義務や禁止事項が規定されています( 5 条、6 条)。
 ・ビジネスユーザが自身の販売サイト等を通じて、ゲートキーパーのオンライン仲介サービスを通じて提供されるものとは異なる価格又は条件で同一の製品・ サービスを提供することを妨害してはならない
 ・広告主や媒体社に広告料金や報酬に関する情報を無償で提供する
 ・第三者のソフトウェアアプリを自身のOSからインストールできるようにする
 ・ランキングやインデックス作成等において、自社製品・サービスを第三者の類似製品・サービスより優遇してはならない    等               

 ゲートキーパーによる違反の場合、欧州委員会は、当該ゲートキーパーの世界全体の売上高の10%を上限とする罰金を科すことができます。同様の違反が繰り返される場合は、世界全体の売上高の20%を上限とした罰金を科すことができます( 30 条)。

4.最後に

 巨大グローバル企業が、EU以外の地域における事業展開においても、デジタルサービス法やデジタル市場法に即した対応を採用することにより、EUのルールが域外にも実質的に拡がる可能性があります。いわゆるブリュッセル効果と呼ばれるものです。したがって日本においても、これらのEU法の適用状況について注視することが必要と考えます。

ご案内:
9月19日に政策研究大学院大学で「日本の文化戦略のこれからを考えるシンポジウム」を開催します。詳細は政策研究大学院大学ウェブサイト等をご覧ください。
https://www.grips.ac.jp/jp/events/20240703-00045/
X:
https://x.com/GRIPS_Info/status/1823584777926332927
Facebook:
https://www.facebook.com/grips.tokyo/posts/pfbid02yq3Lwfr3DYBU8fvwU3gHrNwVuKdEhezrCVAjsbD1ez8XPTLZ2F9opB19tdcyhoQWl

(注1)総務省情報通信政策研究所『令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書』(令和6年6月)6頁
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000953020.pdf
(注2)デジタルサービス法 前文(11)

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