JRRCマガジンNo.377 コンプライアンス・企業倫理を考える2 「風化」と「風景化」

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JRRCマガジン  No.377 2024/7/11
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
【2】【8/1開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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皆さま、こんにちは。

今日7月11日は「世界人口デー」
1987年7月11日に、世界人口が50億人を超えたとされていることから、世界の人口問題についての意識を高めるために制定された国際デーだそうです。

さて、今回は板東氏の「コンプライアンス・企業倫理を考える」です。

板東氏の前回までの記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/bando/

◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
②「風化」と「風景化」
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                              日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 板東久美子
・はじめに
 この連載は、企業の経営・行動の上での大切な軸となる「コンプライアンス」や「企業倫理」について、いろいろな角度から考えようというものです。連載の第一回では、自己紹介も兼ね、自身が企業倫理委員会の委員長として関わっている企業の取組をご紹介させていただきました。
 今回は、そもそも「コンプライアンス」「企業倫理」とは何か、なぜ、これらについて取り組んでいく必要があるのかという総論について、最初にもう少し整理してご説明します。それから、コンプライアンス・企業倫理違反を生む落とし穴の一つとして、「風化」と「風景化」についてお話ししたいと思います。

・コンプライアンス・企業倫理の意義
 「コンプライアンス」は、法令にとどまらず、社会規範も含むルールの遵守と理解されます。それは単に規則を守るというだけでなく、その根底にある考え方まで理解し、それを踏まえて行動することが必要です。さらに「インテグリティ」という言葉がありますが、これはルール化されていなくとも、倫理、社会的責任、誠実さ、高潔さといった観点から求められることを行うことで、そこには自発性・主体性が根底にあるといえましょう。研究インテグリティ、スポーツインテグリティなど、分野ごとの倫理指針を表すときにも使われています。「企業倫理」は、コンプライアンスにとどまらず、インテグリティも含め、企業として正しい判断・行動をし、企業の責任を果たそうとするものです。
 その必要性は、消費者、取引先、株主、従業員などの様々なステークホルダー、社会全体の信頼を得ることや、様々なリスクを避けることにより、企業の持続可能性や競争力にとって極めて重要な基盤となることに見ることができます。今月から新1万円札の顔となった渋沢栄一は「論語と算盤」で道義や公益と企業活動との関わりの重要性を唱えましたが、まさに先駆的に企業倫理の必要性を説いたものといえましょう。そして、企業活動のグローバル化が進んだり、規制改革の中で一層企業が自らの責任において行動することが拡大する中、このような企業としての「行動軸」の確立がますます必要になっています。
 このコンプライアンス・企業倫理の推進に関する様々な社会的な仕掛けや政策もいろいろ構築されてきました。2006年施行の会社法では業務の適性を確保する内部統制システムの構築が求められ、企業のコンプライアンス体制の整備も進みました。2007年の金融商品取引法では、従来から進められてきた企業情報の開示が徹底されました。また、2006年には公益通報者保護法が成立しましたが、企業不正は内部通報により明るみになることも多く、公益通報制度はその後の改正で強化されてきました。2015年には、金融庁・東京証券取引所によりコーポレートガバナンス・コードも制定されましたが、その中で、健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けて取締役会・経営陣がリーダーシップをとるべきことがうたわれています。消費者の利益を守る企業行動を担保する観点からは、消費者基本法(2004年)が制定され、その後消費者庁もスタートして消費者法の充実が図られ、企業における「消費者志向経営」も推進されています。金融庁も「顧客本位原則」の実現を推進しています。

・「風化」と「風景化」
 様々な企業の不祥事や、前回ご紹介した雪印メグミルクでの日常的な活動などを見ると、企業倫理の実現にはいくつか落とし穴があり、それを意識して避けることが必要であることを感じます。それを「風化」と「風景化」という観点からお話ししたいと思います。
 「風化」とは、不祥事が起きて手痛い教訓を得、2度とこのような事態を起こさないと直後には思っても、そのための取組を徹底して考え、常に課題を把握し、継続して改善をする仕掛けを作らなくては、その経験も風化してしまうということです。不祥事の直後は、組織を立ち上げたり、施策を講じても、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、そのような取組もいつしか雲散霧消してしまい、また同じような落とし穴に陥る例も数多くあります。風土・文化を育てる恒常的な取組が必要です。不祥事を契機としないいわば企業の日常におけるコンプライアンスや企業倫理の実践についても、その時々に意識を新たにし、常に改善していく仕組みをとっていかないとマンネリ化して実が伴わないものになりやすいのです。
前回、「事件を風化させない活動」ということで、雪印メグミルクの「食の責任を強く認識し、果たしていくことを誓う日(略称:食責の日)の活動」をご紹介しましたが、それに限らず、企業倫理委員会を立ち上げて社外の視点を入れて恒常的に検証・改善をしていく仕組みを構築したり、日常的なサステナビリティ活動を、その内容を工夫しながら全社で行っていることも、事件の教訓、企業倫理を重要な柱として打ち立てたことを風化させないための日常的な仕掛けと言えます。                              
 もう一つの「風景化」はなじみがない言葉かもしれませんが、品質管理においてももっと日常的に意識すべき落とし穴です。例えば、工場の水漏れがあって床に水がたまりがちでいろいろなリスクにつながるおそれがあっても、それが続くと「日常・当たり前の風景」に変わってしまい、不思議とも何とも思わなくなってしまう。日頃の原則に立ち戻った点検作業や外部の目によるチェックが必要となってきます。
 多発するデータ不正などを見ても、この「風景化」の存在を強く感じます。長年にわたりデータ不正を繰り返しているとそれが「当たり前の風景」になってしまい、コンプライアンス意識自体も働かず、改善の意識・行動が生まれなくなる。最近の自動車メーカーの認証不正においても、データを操作することが「風景化」してしまったことを感じます。報道の中で、認証制度自体の課題や、また一層厳しい安全基準で高い品質の商品を作っていた例も言われていましたが、それであってもデータ改ざんなどが行われることは、コンプライアンスやインテグリティにとって決定的な問題です。データをきちんととって正しく報告していくことを守らなくてもよいということは、「データ改ざん、基準を守らないことが風景化」していることです。基準やデータ自体が軽視され、基準を上回るだけでなく、下回ることにも当然つながるし、信頼性が決定的に損なわれます。
 このような「風景化」を防ぐためには、現場だけでなく、会社全体での風土・文化の改革、コンプライアンス・インテグリティの意識の向上、チェックの徹底などが必要であり、恒常的に取組を進める体制も必要です。そのために、企業倫理についてのトップの明確なコミットメントが望まれます。
 皆様の会社・組織でも、理念の「風化」はないか、望ましくない状態が「風景化」していないか、様々なレベルで意識してチェックしてみていただきたいと思います。著作権に関しても、違法コピーなどが「風景化」していることがないのか、是非点検してみていただくことを期待しています。

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【2】【8/1開催】「オンライン著作権講座 中級」開催のお知らせ
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今年度初となる、JRRC著作権講座”中級”を開催いたします。

本講座は知財法務部門などで実務に携わられている方、コンテンツビジネス業界の方や以前に著作権講座を受講された方など、著作権に興味のある方向けです。講師により体系的な解説と、最新の動向も学べる講座内容となっております。エリアや初級受講の有無やお立場にかかわらず、どなたでもお申込みいただけます。
参加ご希望の方は、著作権講座受付サイトよりお申込みください。

★日 時:2024年8月1日(木) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの紹介
13:10 ~ 14:15 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)前半
14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:30 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)後半
15:30 ~ 15:40 休憩
15:40 ~ 16:40 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
16:50 終了予定

詳しくはこちらから

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編集責任者 
JRRC代表理事 川瀬 真

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