JRRCマガジンNo.373 コンプライアンス・企業倫理を考える1 企業倫理の徹底を再生の中核とした例から

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JRRCマガジン  No.373 2024/6/13
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◆今回の内容
【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える
【2】【6/21開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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皆さま、こんにちは。

今日6月13日は「鉄人の日」
1985(昭和60)年6月13日、「鉄人」と称され広島東洋カープに所属していた衣笠祥雄選手が2,131試合連続出場の世界記録を樹立したことにちなんで記念日が設けられたそうです。

さて、今週号から板東久美子氏(日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役)の新たな連載が始まります。坂東氏は長年文部科学省の行政官としてご活躍され、著作権行政や教育行政等に精通されておられます。他方、消費者庁長官や民間企業の社外取締役等も歴任され、消費者行政や企業倫理にも造詣が深い方でもあります。日本複製権センターの業務も民間企業や官公庁のコンプライアンス意識に支えられていますので、今回の連載においては企業倫理等の大切さ等について実例もご紹介いただきながら連載を進めていただくことにしました。お楽しみに。

◆◇◆【1】板東氏のコンプライアンス・企業倫理を考える━━━
①企業倫理の徹底を再生の中核とした例から
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                      日本赤十字社常任理事/雪印メグミルク株式会社社外取締役 坂東久美子
・はじめに
 皆様、こんにちは。
今回から、新しい連載を担当させていただきます。テーマは、企業にとって経営・行動する上での体幹ともいうべき「コンプライアンス」(法令や社会的ルールの遵守)、そしてさらに広く「インテグリティ」(高い倫理意識、社会的責任意識、誠実)も含めて、「企業倫理」を、いろいろな角度から考えていこうというものです。これは、消費者・顧客、株主、従業員などの様々なステークホルダー、社会全体の信頼を得て企業活動を展開し、持続可能な企業の在り方を築く基盤となるものです。企業倫理がいかに重要であるかは、最近の芸能事務所のセクハラ事件、中古車販売業の保険金不正請求、自動車メーカーの試験不正や型式指定申請不正の事例などを通じても改めて認識されているところであると思います。
 私自身は、この「コンプライアンス」の専門家ではありませんが、国家公務員として、様々な法令の創設・改正、運用に関わってきました。文部科学省在職中は、このJRRCに関係の深い文化庁著作権課で数度にわたる著作権法改正も担当したことがあり、また、消費者庁では、まさに企業活動と関わりが深い消費者法制や公益通報者保護制度、消費者志向経営やエシカル消費の推進に携わる機会に恵まれました。退官後も法務省所管の日本司法支援センター(通称法テラス)で国民の司法アクセスの支援に関わる仕事をしてきました。そして、現在は、後でご説明します雪印メグミルク株式会社の社外取締役と企業倫理委員会委員長を務め、まさにコンプライアンス・企業倫理の取組みをどう向上させていくかに取り組んでいます。その他の営利・非営利の様々な法人に関わる中でも、コンプライアンスやインテグリティの重要性を痛感することが増えてきました。
 今、社会の大きな変化の中で、このコンプライアンスや企業倫理に関しても、新たな課題・局面が生まれています。デジタル化・データ社会の進展の中で、AI倫理や個人情報保護、ネット上の情報に関わる様々な法的問題がクローズアップされています。また、様々なハラスメントへの対応や働き方・雇用に関わる環境整備も切実な問題です。人的多様性の推進も、現在ではDE&I(ダイバーシティ(多様性)、エクイティ(公平性)&インクルージョン(包摂性))というように、公平性・包摂性も含む概念として認識されつつあります。
外国人労働者をめぐる環境整備やサプライチェーンにおける人権問題などもますます重要な問題になっています。また、グローバルに企業活動が展開する中、変化する国際的な枠組みや各国の制度へも対応していく必要があります。SDGsに向けた取組やESG経営(環境・社会・ガバナンスを重視した経営)など、持続可能な社会・企業づくりにおいても、コンプライアンスや倫理に関わる柱が重要な要素となっています。このこのように、コンプライアンス・企業倫理の地平が大きく変化する中、企業をはじめとする様々な組織における取組み体制の強化も急務です。
 このような様々な変化も踏まえながら、一年間にわたり、コンプライアンスや企業倫理に関わるいろいろな話題を取り上げていきたいと思っています。

・企業倫理の徹底を企業経営の核とした雪印メグミルクの取組から
 初回として、私がまさに企業倫理委員会委員長として関わらせていただいている雪印メグミルクの取組を簡単にご紹介したいと思います。まさに、それは、企業が社会的信頼を失った中から、企業倫理の徹底を中核に据えて再生を図っていった代表的な例であると思うためです。
 雪印メグミルクグループは、前身の雪印乳業時代の2000年6月、大規模な食中毒事件を起こしました。その直後の商品の回収や消費者への告知に時間を要したり、トップ・幹部の説明・発言が適切でなかったなど、事件への対応の問題がさらに社会の信頼を揺るがすことになりました。そして2002年1月には、子会社の雪印食品が輸入牛肉を国産と偽ってBSE対策の補助金を不正に受給した事件も起きました。これらの事件による社会的信頼の喪失は企業の根幹に決定的なダメージを与え、雪印食品は廃業し、雪印乳業は、解体・再統合を経て、2009年から雪印メグミルクとして新たな出発をすることとなりました。2つの事件による解体的出直しの後、2度とこのような事態を起こさず、企業としての社会的責任を果たし、企業倫理の徹底を図るため、数多くの取組みを実施してきました。まさに社会的信頼を回復して再出発する鍵が、コンプライアンス、企業倫理だったのです。
 企業倫理を徹底する取組には、「企業文化・風土とする」「常に原点に立ち戻る」「経営の中核に位置づける」「推進体制を整備する」「トップから全ての役職員に徹底する」「具体的な取組方針・計画を策定し、PDCAサイクルをまわす」「社外の目で検証する」ことが必要といえます。雪印メグミルクの取組みは多岐にわたりますが、主なものにしぼってご紹介したいと思います。
①事件を風化させない活動~常に原点に戻り、企業倫理を徹底する風土を形成する
 雪印メグミルクグループとして、2つの事件を風化させず、食の責任を担う決意を新たにするため、2003年度から現在に至るまで、2つの事件の発生月である6月、1月に「食の責任を強く認識し、果たしていくことを誓う日(略称:食責の日)の活動」を社長から役員・従業員全てが参加して行っています。6月の活動では、「2つの事件を正しく理解し、二度と繰り返さないためには何が必要か」をテーマに、1月の活動では「雪印メグミルクグループが持続的な成長を目指し、今後取り組んで行く社会的課題」をテーマに講演や話し合いなどの活動が全社で行われ、企業倫理やESGを重視する企業風土の形成が図られています。
②企業倫理を重視した「企業行動憲章」
 企業倫理・コンプライアンスの重視は、企業行動憲章にも具体化されています。グループとして「企業行動憲章」を定め、その中で「関係法令、国際ルールおよびその精神を遵守し、高い倫理観のもと公正かつ誠実に行動していきます。」と最初に宣言し、具体的な柱として「消費者との信頼関係」「公正な事業活動」などを掲げて、企業倫理(コンプライアンス)の遵守を具体的に謳っています。
③外部有識者を中心とする企業倫理委員会による活動~外部の目による課題の検証
 雪印メグミルクの取組の中核となる体制としては、取締役会の諮問機関として、外部の有識者を中心とした企業倫理委員会を事件直後の2002年から設置し、委員長は消費者視点に立つ社外取締役が務めています。初代の委員長だった日和佐信子さんは、消費者運動に長年携わった方であり、会社からの全面的な情報開示や自由な議論の確保、消費者重視の視点の徹底などの委員会運営を確立されました。
 委員会は、専門部会(品質部会、表示部会、消費者部会)を置き、品質、商品表示、消費者対応などの課題を常時検証したり、取締役会の諮問を受けて、毎年、コンプライアンス・企業倫理をはじめとする経営全般に関する企業倫理委員会提言をまとめ、その実施状況のフォローを行っています。毎回の委員会の審議状況については、取締役会で委員長である社外取締役から報告をし、それに基づく活発な議論をしています。コンプライアンスや品質管理に関する委員会を設置している企業は多いと思いますが、様々な外部有識者を入れて率直に企業の状況を踏まえた議論や検証を行い、それが取締役会・経営層に常時報告されている企業は少ないのではないでしょうか。
 品質部会においては、品質管理の専門家による工場監査を行い、製造現場をチェックし、指摘するだけでなく、第一線の従業員とも率直な意見交換をして、働き方・職場環境など品質管理にとどまらない現場の課題を把握することができる重要な機会となっています。表示部会においては、商品パッケージの表示について、消費者にわかりやすく、適切に伝わるかを社外の目を通じてチェックするとともに、マニュアルの改訂についても提案しています。消費者部会においては、会社の取組みを消費者団体の方々に説明し、率直な意見・提案をいただき、改善につなぐことに努めています。
④企業倫理意識向上のための全社活動の毎月の実施
 雪印メグミルクでは、2003年度から企業倫理意識向上と実践に向けた「サステナビリティ活動」を役員・従業員全体が参加して、毎月行っています。各部署に配置されたサステナビリティリーダーが中心となって、全社共通のテーマの下に部署単位で活動を実施しています。例えば、ハラスメントの実際の事例をアレンジした事例を基にワークショップを行って意見交換をしたり、社会課題解決に向けた取組みについての意見交換を行ったり、その内容はバラエティーに富んでいます。毎月、全ての従業員が参加して行うのは他にも例がない取組みであり、企業倫理に関する意識の向上、企業文化・風土の醸成に大きく寄与しています。
 以上、いくつかの取組みをご紹介しましたが、全社的に、継続的に、社外からの目もいれて行ってきていることは、企業の体幹を鍛え、ゆるぎない経営を行っていく上で重要であると思います。雪印メグミルクグループの場合は2つの事件が引き金となりましたが、組織が様々なリスクに遭遇しないためにも、このような取組が皆様のご参考になれば幸いです。

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【2】【6/21開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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この度、日本複製権センターは主に官公庁の方を対象とした、「官公庁向け著作権セミナー」を開催いたします。第5回開催のテーマは『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』です。
著作権のより一層の保護を図るために、著作権の基礎知識の普及と複製を行う際に必要となる契約についてご案内させていただきます。
なお、本セミナーは官公庁の方に限らずどなた様でもご参加いただけますので、多くの皆様のご応募をお待ちしております。
※第4回開催の官公庁向け著作権セミナー(中国地方)の内容と一部重複いたしますので、予めご了承ください。 

★開催要項★
日 時 :2024年6月21日(金) 14:00~16:00
会 場 :オンライン (Zoom)
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター
参加協力:茨城新聞社・下野新聞社・上毛新聞社・山梨日日新聞社・信濃毎日新聞社・長野日報社・中日新聞社・東京新聞社・新潟日報社

~~プログラム~~

14:00 ~ 14:05 開会・諸連絡
14:05 ~ 14:40 【1】新聞等の著作権保護と著作物の適法利用
14:40 ~ 15:00 【2】ご存じですか?新聞記事や写真の利用
15:00 ~ 15:05 休憩
15:05 ~ 15:25 【3】新聞記事を巡る著作権侵害の事例
15:25 ~ 15:40 【4】JRRCからのご案内
15:40 ~ 15:55 質疑応答
15:55 ~ 16:00 閉会

※進行状況により時間が変更になる場合がございます。ご了承ください。
詳しくはこちらから

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