JRRCマガジンNo.372 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)26 著作物の利活用

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JRRCマガジン  No.372 2024/6/6
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)
【2】【6/21開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付中!)
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皆さま、こんにちは。

今日6月6日は「梅の日」
1545年6月6日に京都・賀茂神社で行われた葵祭で後奈良天皇が神事をされた際に、梅が献上されたとの記録があることにちなんで、紀州田辺うめ振興協議会(紀州梅の会)が新暦となる6月6日に記念日を制定したそうです。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についてです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter26. 著作物の利活用
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                              明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1.はじめに

著作権法は、著作物である作品を作った人に、その作品を独占的に使用したり、売ったりする権利を与えています。これは、作者が自分の作品から利益を得られるようにするためです。

例えば、作者は自分の書いた本を印刷して売ることができます。本の値段を適切に設定することで、本を作るのにかかった費用を回収し、さらに利益を得ることができるのです。

しかし、作者自身が本を印刷して売るのは大変です。そこで、著作権法では、著作権を他の人に譲ったり、利用を許諾したりすることができるようになっています(イギリス著作権法 90条)。

例えば、あまりお勧めはできませんが、作者は出版社に著作権を譲ることもできます。出版社は本を印刷・販売するノウハウを持っているので、より効率的に利益を上げられるかもしれません。この場合、著作権を譲った対価として、作者は出版社から利益の一部をもらうことができます。

また、作者は出版社に著作権を譲らずに、本を印刷・販売する許可を与える(ライセンスする)こともできます。この場合も、作者は出版社から利益の一部を得ることができます。

著作権で保護された作品の特徴は、本来、無体の情報財として、複数の人が同時に使用できることです。例えば、たくさんの人が同じ本を同時に読むこともできます。そのため、著作権のビジネスでは、著作物の利用許諾、つまりライセンスが重要な役割を果たすことになります。

このように、著作権法は、作者が自分の作品から利益を得られるよう、著作権を財産として譲渡したり、利用を許諾したりできるようにしているのです。

今回はこうした著作物(著作権)の利活用について、イギリス法の状況を見ていくことにしましょう。

2. 著作権の譲渡・ライセンス

著作権の対象となる著作物を他人に利用させる方法には、大きく分けて2つあります。

1つ目は「譲渡」で、これは著作権の所有権そのものを別の人に移すことです。譲渡するときは、書面で行い、譲る人がサインをします(著作権法90条3項)。つまり署名された書面が必要とされるのです。この点については、特に方式が定められていない日本法と異なる点です。

著作権の譲渡契約においては、著作権の全部を譲渡することも、著作権の一部だけを譲ることもできます(著作権法90条2項)。まだ作られていない将来の著作物の著作権も、譲渡の対象とすることは可能です(著作権法91条1項)。

2つ目は「ライセンス」です。これは著作物を利用する許諾を与えることで、所有権は移りません。例えば、作家が出版社に本を印刷・販売する許諾を与えるようなケースです。

ライセンスについてもう少し詳しくみておきましょう。

3. 独占的ライセンスと非独占的ライセンス

ライセンスとは、著作権者の同意がなければ禁止される行為を行うための許可を意味しています(British Actors Film Co. v. Glover [1918] 1 KB 299; Canon Kabushiki Kaisha v. Green Cartridge Co. [1997] 4 LRC 686, 692)。

つまり、著作物を利用しても侵害が成立しないことになります。例えば、普段は許可なしに他人の書いた本を印刷して売ることはできませんが、その本の著作権者からライセンスをもらえば、それが可能となります。ライセンスをもらった者のことを「ライセンシー」と呼びます。ライセンシーは、ライセンスの範囲内では、著作権者から著作権侵害で訴えられる心配がなくなるのです。

ライセンスにはいくつかの種類があります。

例えば、著作権者がある特定の出版社だけに本を印刷・販売する許可を与える「独占的ライセンス(排他的ライセンス)」があります(著作権法92条1項)。この場合、著作権者は他の出版社に同じライセンスを与えたり、自分で本を印刷・販売したりしないことを約束することになります。

したがって、独占的ライセンスをもらった出版社は、著作権者とほぼ同じ権利を持つことになります。そうした重大な効果が生じますので、独占的ライセンスは、署名された書面による必要があります。

一方で、もう少し限定的なライセンスもあります。例えば、ある企業に社内でのみ資料を使う許可を与える、といったケースです。こうしたライセンスを多数の企業に認めて、利用の対価を得ることができます。こうしたライセンスを「非独占的ライセンス(非排他的ライセンス)」と呼びます。

非独占的ライセンスを与える際は、必ずしも署名された書面である必要はありません。口頭で許諾を与えることもできます(Godfrey v. Lees [1995] EMLR 307)。

また、「黙示のライセンス」という、はっきりとライセンスを与えていなくても、状況からライセンスが与えられたと裁判所によって判断されるタイプのライセンスもあります。

4. 著作権の担保と相続

著作権は、お金を借りる際の担保として使うことができます。これを「著作権のモーゲージ」と言います。また、著作権は、著作権者が亡くなった場合、遺言や法律の定めに従って、別の人に移ります(著作権法93条)。著作権は財産的な価値があるので、担保として使ったり、相続の対象になったりするのです。

5. 強制ライセンス

通常、著作物を使用するには著作権者の許諾が必要です。しかし、特別な状況下では、著作権者が拒否していても、著作物の利用を強制的に許諾しなければならない場合があります。これを「強制ライセンス」と言います。

強制ライセンスは、著作権者の権利を制限するものです。著作権者は、本来なら自分の著作物を独占的に使用できるはずですが、強制ライセンスが適用されると、他の人にも使用を許可しなければならないからです。

イギリスでは、強制ライセンスが認められる状況は限られています。たとえば、イギリスも加盟しているベルヌ条約でも、放送権の制限(ベルヌ条約11条の2(2))や録音権の制限(13条)に関して、強制ライセンスを国内法で設けることを許容していますが、イギリスではこれらの規定を国内法において活用していません。

他方で、ローマ条約12条は、レコードの二次使用(放送や公の伝達)に関して、衡平な報酬請求権を実演家とレコード製作者に与えつつ、各国の裁量で一定の制限や強制許諾を与えることを認めていますが、これに関してイギリスでは、1988年著作権法でも、この規定に基づく強制ライセンスは導入されています(著作権法135A条~135G条)。

しかしながら、いずれにしても強制ライセンスについては消極的な立場であり、これは日本でも同様かと思います。その背景には、強制ライセンスの存在と条件を決めるには行政手続きが必要で、自由市場での交渉に比べてコストと時間がかかること、そして、ライセンス料は市場での交渉によってのみ正確に決められるものであることが指摘されています(L. Bently, B. Sherman, D. Ganjee, P. Jonson, Intellectual Property Law (6th edition, OUP, 2022) p.334)。。

6.著作物の保護と利用

デジタル技術が発達した現代では、音楽や映像などの著作物を簡単にコピーできるようになりました。このことは著作権者にとって大きな脅威です。

なぜなら、著作権者の許諾なしに、個人が自由に著作物をコピーして使えてしまうからです。そうなると、著作権者は著作物で収入を得られなくなってしまいます。

そこで著作権者は、「技術的保護手段」と呼ばれる技術を使うようになりました。

例えば、音楽配信サービスでは、購入した音楽を他の人に送ったりコピーしたりできないようにする技術が使われています。

こうした技術は、著作物が許可なく使用されたり、コピーされることを防ぐための「技術的保護手段」なのです。しかし、問題なのは、こうした保護手段を回避する方法も出てくるということです。

そこで、技術的保護手段の回避をさらに法律で禁止するという仕組みを設けています(著作権法296ZA条-296ZF条)。こうした技術の回避が違法になれば、著作権者は安心して技術的保護手段を使うことができます。

イタチごっこの連鎖を避けるために、技術的な保護手段を法により補完する形で、保護の充実を測っているわけです。

7. おわりに

著作権法は、著作権者の保護と利用とのバランスを図るために、さまざまな制度を取り入れています。ここまで述べてきたいくつかの仕組みは、そうした仕組みの一つといってよいでしょう。これら以外にも、たとえば、著作権の制限/例外規定も、「保護と利用のバランス」を図るものでしょう。

他方で、音楽の分野などで高度に発展している集中管理団体のような仕組みの発達も、まさにWin-Winの形で「保護と利用のバランス」を図る仕組みであるといえます。

著作物は無体物であり、ひとたび世の中に流通して皆が知りうることになったのであれば、本来誰でもが利用できるはずのものです。ですから、作者が作ったからという一事をもって、保護一辺倒になってはいけないという点は、物理的な有体物を対象とする所有権とは大きな違いであるといえるでしょう。

生成AIの登場に見られる昨今の動きのように、新しい技術が登場するとそれに対応しつつ、著作権者と利用者双方のニーズを満たす制度設計が求められることになります。これはイギリスに限らない、世界各国の著作権法の重要な課題だと言えるでしょう。

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この度、日本複製権センターは主に官公庁の方を対象とした、「官公庁向け著作権セミナー」を開催いたします。第5回開催のテーマは『新聞等の著作権保護と著作物の適法利用』です。
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※第4回開催の官公庁向け著作権セミナー(中国地方)の内容と一部重複いたしますので、予めご了承ください。 

★開催要項★
日 時 :2024年6月21日(金) 14:00~16:00
会 場 :オンライン (Zoom)
参加費 :無料
主 催 :公益社団法人日本複製権センター
参加協力:茨城新聞社・下野新聞社・上毛新聞社・山梨日日新聞社・信濃毎日新聞社・長野日報社・中日新聞社・東京新聞社・新潟日報社

~~プログラム~~

14:00 ~ 14:05 開会・諸連絡
14:05 ~ 14:40 【1】新聞等の著作権保護と著作物の適法利用
14:40 ~ 15:00 【2】ご存じですか?新聞記事や写真の利用
15:00 ~ 15:05 休憩
15:05 ~ 15:25 【3】新聞記事を巡る著作権侵害の事例
15:25 ~ 15:40 【4】JRRCからのご案内
15:40 ~ 15:55 質疑応答
15:55 ~ 16:00 閉会

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