JRRCマガジンNo.358 愛媛新聞社特別執筆~新聞記事はタダじゃない!前編~

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JRRCマガジン No.358    2024/2/22
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◆今回の内容
【1】愛媛新聞社特別執筆~新聞記事はタダじゃない!前編~
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皆さま、こんにちは。

寒暖差の激しい日々が続いております。
いかがお過ごしでしょうか。

さてJRRCは全国各地の新聞社様のご協力のもと、2023年度は計4回の著作権セミナーを行いました。
そこで今回は四国地方編でご尽力いただいた愛媛新聞社・読者部の高橋様に新聞社にとっての著作権や、新聞社や記者の実情についてJRRCマガジンに特別にご寄稿いただきました。前編・後編の二部作となっております。
(*後編は3月28日(木)配信予定です。)

◆◇◆━【1】愛媛新聞社特別執筆━━━━━━━━━
 新聞記事はタダじゃない!前編
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                     愛媛新聞社読者部 高橋 士朗

 「愛媛新聞を何十年も購読している者ですが」と会社に電話がかかってきました。声の感じから70~80歳代の女性でしょうか。穏やかで丁寧な話しぶりです。結論から言うと、新聞紙面の二次利用に関する問い合わせでした。
 ずっと使っていた古いタイプの携帯電話機、いわゆるガラケーが使えなくなるというので思い切ってスマートフォンに買い換え、スマホデビューを機にSNSを始めたそうです。結果的に1時間に及んだやりとりは「新聞記事を撮影して貼り付け、SNSで拡散してもいいでしょうか?」という質問から始まりました。

 私「弊社ではSNSへの転載はお断りしています」
女性「え、なんで? すぐOKもらえると思っていたのに」
 このあたりから、早くも不機嫌そうな声になります。
女性「SNS以外ならいいんですか?」
 私「とりあえず手続きが必要です。許可できない場合もありますし、許可できても有料の可能性もあります」
女性「いい記事があったら、10~20人ほどのお友達に送って読ませてあげたいだけなんですけど」
 私「記事の中身を広めてもらうのはありがたいんですけど、新聞自体は買って読んでいただきたいんですよ」
女性「それなら、写真に撮らずに書き写しますから」
 私「それもダメです。内容をかいつまんで紹介してもらえるなら、むしろありがたいんですが」
女性「私は素人だから正確に要約できる自信はありません。変に間違った情報が広まる方が新聞社も困るでしょ」
 なかなか納得していただけません。
女性「買った新聞そのものをあげるのは大丈夫?」
 私「それは大丈夫です」
女性「じゃあ、コピーしたものを配るのは?」
 私「コピーの配布はご遠慮ください」
女性「現物もコピーも同じものじゃないですか」
 私「コピー(=複写)することが、場合によっては著作権侵害の入り口になりかねないんですよ」
 書店などでよくある切り抜き(書評欄)の貼り出しを例に、紙面の現物を掲示するのは問題ないが、拡大するためにコピーするには許諾手続きが必要になることを説明しました。すると…

 「新聞に載せるということは広く知らせたいということでしょ!」「新聞社には公共性があるでしょ!」「お金出して新聞を買ってるんですよ!」「私はお友達から料金を取って記事を送ったり、お金儲けでやろうとしてるわけではないんです!」。女性の勢いは、もう止まりません。最後には、「おたくたちは何のために新聞出してるの?」と責め立てます。
 長年の読者ですから何とか対応したいのですが、かといってルールを曲げるわけにもいきません。「私たちも商売なんです」「著作権については新聞代金に含まれていません」「新聞記事には手間や時間や技能、つまりコストがかかってます。タダではないんですよ」。私はこんな感じで根気よく説明を続けましたが、話し終わる前に電話は切られてしまいました。

 少し感情的になってしまったことを反省しながら、話がかみ合わなかった理由を振り返ってみました。答えはシンプルです。女性にとっては、情報が印刷された紙、すなわち新聞紙こそが商品だったのです。目に見えない、手で触れられない情報そのものに価値があったり、著作権の使用・借用に手続きが必要だったりすることが、どうしても腑に落ちなかったのでしょう。

 具体的には、「情報が商品」という考え方に最後まで耳を貸していただけませんでした。確かに商品といえば、形や重さがあって手で触れられる物を思い浮かべるのが自然です。スーパーに並んだミカンは商品ですよ、と言われて理解できない人はまずいないでしょう。ところが、無形ともいえる情報を指して、商品とか(知的)財産といわれても受け入れられなかったのでしょう。「自分で買った新聞をどう使おうと自分の勝手」という言い分はこのあたりからきているのではと推察します。

 二つ目の理由として、新聞の料金に著作権使用料は含まれてないということ、これが納得いただけませんでした。繰り返しになりますが、新聞社はニュースは売っても著作権までは売っていません。映画のDVDだったら、勝手にコピーして配るのが著作権侵害になることはみんな知っています。同じ著作物なのに新聞記事の場合は、なかなか分かっていただけません。難しいところです。

 なぜ、女性のエピソードを長々と紹介したかというと、日々の窓口業務では同じようなやりとりが決して珍しくないからです。著作権ビジネス、中でも利用客と接する業務に携わる皆様なら分かっていただけると思いますが、現場感覚として、著作権に関する世間の理解は、私たち関係者が期待しているほどは広がってないと実感しています。
 この女性のように問い合わせをしてくれるケースは、まだありがたい方です。著作権のことなど念頭にないかのように、新聞紙面を無断でSNSに貼り付けているケースも相当数あるようですから。

 ここまで、個人の利用者を例に実情を紹介しました。では、企業や団体などの場合はどうでしょう。実は昨年、ある団体が愛媛新聞の紙面を複写(PDF化)し、多数の職員が閲覧できる環境でデータを数年間保存していたケースが発覚しました。詳細は省きますが、先方が問題点を把握した時点で自発的にお申し出があり、事後対応にも誠意をもって当たっていただいたことで円満に解決できました。直後にクリッピング契約も結んで、現在は適切な形で紙面を積極的に活用いただいています。

 皆様の職場では、記事を無断でコピーして関係部署で配布・回覧したり、会議資料に添付したりしてないでしょうか。誤解のないように申し上げると、今回、このJRRCマガジンに寄稿させていただいたのは、「新聞記事を勝手に使うな」という意図では決してありません。むしろ、「紙面はどんどん活用してほしい」というのが本意です。
 日常の仕事で新聞記事を使う際、「著作権侵害に該当しないだろうか」とヒヤヒヤしながら綱渡りするのではなく、適切・相応な手続きを踏んだ上で、心置きなく、存分に新聞記事を仕事に役立ていただきたいと願っています。

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