JRRCマガジンNo.345 最新著作権裁判例解説13

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JRRCマガジン No.345    2023/11/16
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】【12/15開催】JRRC無料オンライン著作権セミナー開催のご案内(受付開始!)
【3】【11/28開催】「2023年度オンライン著作権講座 中級」のお知らせ(受付中!)
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皆さま、こんにちは。

新嘗祭も近づき、穏やかな気候が続いています。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。

濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/

◆◇◆━【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
最新著作権裁判例解説(その13)
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               横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未

今回は少し時間を遡って、知財高判令和3年10月28日(令和3年(ネ)第10047号)〔Live Bar X.Y.Z.→A事件〕を取り上げます。

<事件の概要>
 本件は、控訴人ら(X1~X3)が著作権等管理事業者である被控訴人((一社)日本音楽著作権協会)に対し、以下のとおりの請求をする事案です。
(X1の請求)
 控訴人X1が自ら作詞及び作曲した楽曲を含めてその楽曲を管理する被控訴人に対してライブハウス「Live Bar X.Y.Z.→A」(本件店舗)での演奏利用許諾の申込みをしたところ、本件店舗が被控訴人の管理する著作物の著作権使用料相当額の清算が未了であることを理由として拒否されたため、控訴人X1は、本件店舗で予定していたライブの中止を余儀なくされ、リハーサルが無駄になるなど、同控訴人の演奏者としての権利、演奏の自由、著作者人格権が侵害され、これにより精神的苦痛を被り、
また、同控訴人の作詞及び作曲した楽曲の利用の許諾を拒否されたことにより、同楽曲の使用料相当額(210円)の損害を被ったなどと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料100万円,楽曲使用料相当額210円及び弁護士費用10万円の合計110万0210円及びうち110万円に対する不法行為の後である平成29年1月1日から、うち210円に対する平成28年5月12日(演奏利用許諾申込みについて被控訴人が拒絶書面を作成した日)から、各支払済みまで、民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求
(※1)X2、X3においても同様の趣旨の請求が各々なされています。
(※2)X1においては、さらに独自の請求として、被控訴人が、ライブハウス等との間で締結する被控訴人管理楽曲に関する利用許諾契約について、包括的利用許諾契約以外は認めず、個々の演奏者からの利用許諾の申込みを受け付けないという不適切かつ違法な管理方法を採っているために、控訴人X1は、「Grooving mamagon」(本件許諾店舗)における自らの作詞及び作曲した著作物に関する著作権使用料の適切な配分を受けられず、同控訴人の著作権及び著作者人格権が侵害され、これにより精神的苦痛を被ったと主張して、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の合計55万円及びこれに対する不法行為の後である平成29年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求等もなされています。
(※3)本件店舗と本件の被控訴人JASRACとの間には別件訴訟があり、その経緯等は以下の通りです。
 本件店舗は、Aらが経営主体となって開店したライブハウスであるところ、①Aらは、ミュージシャンに活動の場を提供するという趣旨から、本件店舗では、出演者から会場使用料を徴収せず、来客が支払ったライブチャージは出演者が全て取得することとしたが、店舗の運営の維持のために、平成22年後半からは、ライブチャージとは別に、来客者に1000円の飲食チケットを購入してもらい、来客者は,その限度で追加料金を支払うことなく飲食をすることができるというシステムを採用し、②本件店舗の音響設備や楽器は、本件店舗の経営方針に賛同するAの音楽仲間から無償で私物の中古機材の提供を受けて備え付けられており、出演者がこれを自由に使用することができるようになっていて、A及びAが参加するバンドのメンバーは、本件店舗に音響設備を提供したほか、控訴人X2及び同X3は、ギターアンプを本件店舗に提供していて、
③ 本件店舗におけるライブの演奏曲目やミュージックチャージの額は、出演者が決めていて、本件店舗のスタッフは、出演者からライブの名称や宣伝文、写真等のデータを受領すると、本件店舗のホームページにライブの予定日とミュージックチャージの額などの情報とあわせて掲載したほか、ライブスケジュールが印刷されたチラシを本件店舗に置いたり、配布したりしているという営業形態を採っている状態にあって、④本件店舗では、被控訴人管理楽曲の演奏が行われることはあったが、Aらは、被控訴人との間で楽曲の利用許諾契約を締結せず、本件店舗では、ライブ終了後、被控訴人管理楽曲を利用した場合には、出演者が記入した「社交場利用楽曲報告書」を預かり、客から受領したライブチャージからライブで演奏された被控訴人管理楽曲1曲当たり140円を徴収して本件店舗で保管し、残額を出演者に交付していたところ、
⑤(調停不成立を経て)被控訴人は、Aらに対し、平成25年10月31日、本件店舗における演奏の差止め及び損害賠償又は不当利得の返還を求める訴訟(別件訴訟)を東京地方裁判所に提起し、東京地方裁判所は、平成28年3月25日、本件店舗における被控訴人管理楽曲の利用についてAらが演奏主体に当たるものと判断して、Aらに対し、本件店舗における演奏の差止め及び使用料相当損害金212万4412円等の支払を命じる判決(別件一審判決)を言い渡したが、
⑥Aら及び被控訴人は、別件一審判決の敗訴部分をそれぞれ不服として控訴をし、知的財産高等裁判所は、平成28年10月29日、Aらに対し、本件店舗における演奏の差止めに係る別件一審判決の判断を維持し、使用料相当損害金496万5101円等の支払を命じる判決を言い渡しています。

 そして、今回の事案に戻りますが、原判決は、被控訴人が控訴人らの演奏利用許諾の申込みを拒否したことはいずれも不法行為を構成するものではない上、本件約款による取引方法が控訴人X1との関係で不法行為を構成するものではなく、また、被控訴人による楽曲管理が控訴人X1との関係で不法行為を構成するものではないから、その余について判断するまでもなくいずれも理由がないと判断して控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らがこれを不服として控訴をしたものです。

<判旨>
 原告の請求を棄却。
「被控訴人は,被控訴人管理楽曲の利用許諾を得ることなく営業の一環として演奏した店舗との間では,その店舗が過去の楽曲の使用料を清算しなければ,新たに被控訴人管理楽曲に係る演奏の利用許諾をしないこととしており,また,その店舗において無許諾の利用があり,楽曲の使用料の清算が未了であれば,第三者からその店舗における被控訴人管理楽曲に係る演奏の利用の申込みがあっても,その楽曲の利用がその店舗の営業の一環として行われるものである限り,利用の許諾をしないこととしている。
・・・ 本件店舗は,平成28年4月8日,本件店舗でライブ演奏の予約済みの出演者及び過去に本件店舗でライブ演奏をした者に対し,被控訴人との間の裁判の詳細については本件店舗のホームページを参照してほしいとした上で,被控訴人管理楽曲を演奏する場合には,出演者自身が被控訴人に利用申込みをするよう案内するメールを送信した。また,同じ頃,本件店舗のホームページには,同様の案内が掲載されるとともに,「「店が出演者のライブ演奏を管理・支配することにより,店がJASRAC楽曲を演奏している(歌唱している)」「出演者に楽器を演奏させる(歌唱させる)方法により,JASRAC楽曲を営業のため使用してはならない」との内容の判断が出されました。・・・当店としては,この判決がいまだ第一審の判断(通過点)に過ぎず,内容的にも根本的に不当なものであると考えており,引き続き主張が認められるよう活動していく予定です。」との文章が掲載されている。
・・・ 控訴人X1は,平成28年5月1日付けで,被控訴人に対し,本件店舗で同年6月9日に予定されていたライブに,控訴人X1の作詞及び作曲に係る被控訴人管理楽曲3曲(本件3曲)を含む被控訴人管理楽曲9曲と控訴人X1の作詞及び作曲に係る3曲の合計12曲を使用する旨の演奏利用許諾申込み(本件利用申込み1)をしたが,被控訴人は,同年5月12日付けの書面をもって,本件店舗の「使用料相当額の清算が未了である現状に鑑み,貴殿からの演奏利用許諾のお申込みを受け付けることができません。」として,同申込みの受付けを拒否した。」(※X2・X3についても同様の理由で受付けを拒否)
「楽曲の作詞又は作曲をした著作者(以下,単に「楽曲の著作者」という。)は,著作物である楽曲を公衆に直接聞かせることを目的として演奏する権利を専有する(著作権法22条)から,著作者以外の第三者は,営利を目的としない演奏である場合を除いて(同法38条1項),著作権者からの利用の許諾を受けなければ楽曲を演奏することはできず(同法63条1項),当然にはその楽曲を演奏することによる利益を享受することはできない。
他方,楽曲の著作者は,著作物の適切な管理と簡易迅速な使用料の分配を受けることを目的として,著作権等管理事業者に楽曲の管理を委託することができる。被控訴人は,著作権等管理事業法3条に基づき著作権等管理事業者として登録を受け・・・,著作者等からの委託を受けて数多くの楽曲に関する著作権等を管理する一般社団法人である・・・ところ,著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ著作物の利用の許諾を拒んではならないとされている(著作権等管理事業法16条)から,演奏家は,被控訴人が管理する楽曲について,このような法規制に裏付けられた運用を通じて,希望する被控訴人の管理楽曲を演奏することができる利益を有している。
そして,こうした利益は,表現の自由として保護される演奏家の自己表現又は自己実現に関わる人格的利益と位置付け得るものであるから,民法709条の「法律上保護される利益」であるといえる。そうすると,楽曲の著作者から委託を受けて著作権等を管理する被控訴人が演奏家の希望する楽曲の利用の許諾を拒否する行為は,著作権等管理事業法16条が規定する「正当な理由」がない限り,上記の意味での人格的利益を侵害する行為であって,不法行為を構成するというべきである。」
「著作権等管理事業法16条は,「著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない。」と規定するところ,著作権者等は,多くの利用者に著作物等の利用をしてもらうことによって多くの使用料の分配を受けることを期待して,著作権等管理事業者に著作権等の管理を委託しているから,著作権等管理事業者が利用者の申込みを自由に拒絶することは,委託者の合理的意思に反するのみならず,著作物には代替性がないものも多くあって,著作物の円滑な利用が阻害されることとなることから,著作権等管理事業者は,原則として,著作物等の利用を許諾すべきことが定められたものと解される。このような規定の趣旨に鑑みれば,利用者からの申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反する場合には,同条の「正当な理由」があるというべきであり,例えば,利用者が過去又は将来の使用料を支払おうとしない場合が考えられる。
また,著作権等管理事業の制度趣旨に基づき,被控訴人が多数の委託者からの委託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲に係る著作権等の集中管理を前提とした委託をしている以上,通常の委託者の合理的意思を検討するに当たっては,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関する適正な管理と管理団体としての業務全般への信頼の維持という観点を軽視することは相当でない。そうすると,利用者からの申込みを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者の利害や実情にとどまらず,著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反するか否かの観点から判断されるべきである。
・・・このような観点から本件利用申込み拒否1についてみると,・・・認定事実によれば,本件店舗は,Aらが経営主体となって開店したライブハウスであり,出演者から会場使用料を徴収せず,来客が支払ったライブチャージは出演者がほぼ全て取得する運用になっていた・・・ものの,出演者は本件店舗に備え付けられた音響設備や楽器を使用して演奏を行う・・・こと,ライブの予定日等の情報を本件店舗のホームページに掲載したり,チラシを店頭に置いて配布するなどし・・・,本件店舗の来客者がライブチャージとは別に店舗に支払う飲食料金によって本件店舗の収益とする構造になっていた・・・ことからすると,本件店舗の経営者であるAらは,本件店舗における楽曲に係る演奏主体に当たるということができる。
そして,前記認定事実によれば,Aらは,本件店舗を開設した平成21年5月以降,客から受領したライブチャージからライブで演奏された被控訴人管理楽曲1曲当たり140円を徴収し,保管していたものの,被控訴人に使用料を支払うことなく,無許諾で出演者に被控訴人管理楽曲の演奏をさせており・・・,別件一審判決で演奏の差止めと使用料相当額212万4412円等の支払を命じられた後も,被控訴人の利用許諾を得ることなく控訴人らを含む出演者に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏させた・・・のみならず,著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決を不服とする意向を示すとともに,ライブ演奏の予約済みの出演者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に演奏利用許諾の申込みをするようホームページ又はメールで呼びかけ・・・,これに応じる形で本件3曲を含む被控訴人管理楽曲9曲の利用許諾が申し込まれた(本件利用申込み1)といえる・・・。
このように,本件店舗においては長期間にわたって被控訴人管理楽曲が無許諾で使用されていたにもかかわらず,過去の使用料が全く清算されておらず,Aらが著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決に従わない旨を表明している状況の下で,本件利用申込み1は,従前どおりの本件店舗の営業形態を前提としつつ,形式的に演奏の利用主体を出演者として被控訴人に利用許諾を求める本件店舗のホームページ等の呼びかけに応じた形でされたものであることが認められ,また,・・・認定事実によれば,控訴人X1は,本件店舗に21回程度出演して被控訴人管理楽曲を演奏しており,別件一審判決直後も本件店舗において無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していた・・・ことが認められる。
そうすると,このような客観的,外形的状況に照らせば,控訴人X1による本件利用申込み1につき,被控訴人において,著作権の管理に係る被控訴人の方針に従わず,無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を利用してきた本件店舗の運営姿勢に賛同し,支援するものと受け止めることは避けられないものというべきである。そして,上記のような本件店舗の運営姿勢は,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に支障を生じさせるものであるといわざるを得ない以上,この運営姿勢に賛同し,支援するものと理解される本件利用申込み1に被控訴人が許諾を与えることは,通常の委託者の合理的意思に反するものであり,被控訴人の管理団体としての業務の信頼を損ねかねないものでもあるから,このような疑念を払拭するに足りる特段の事情が認められない限り,被控訴人が本件利用申込み1を拒否した判断が不合理なものであるとはいえないし,本件において上記特段の事情を認めるに足りる事情や証拠は見出せない。
したがって,本件利用申込み拒否1には著作権等管理事業法16条に規定する「正当な理由」があるというべきである。」
「控訴人X1は,本件利用申込み1は別件訴訟を有利にするためにAらの呼びかけに応じたものではなく,Aらとも親しい関係にはないし,本件店舗は控訴人X1がライブ演奏を行う1つの店にすぎず,平成28年4月6日に本件店舗で被控訴人管理楽曲を演奏した際は1曲140円を供託した上で演奏しており,著作権侵害に加担していないなどと主張する。
しかし,前示のとおり,本件利用申込み1は,著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決を不服とし,ライブ演奏の予約済みの出演者等に被控訴人管理楽曲を演奏する場合には出演者が被控訴人に利用申込みをするようホームページで公表された後にされたものであり,また,控訴人X1は,本件店舗に21回の出演歴があり,別件一審判決直後も無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していたこと等を踏まえると,控訴人X1の主観的意図はともかく,外形的,客観的に見れば,同申込みは,無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を使用してきた本件店舗の運営に賛同し,支援するものと受け止められてもやむを得ないものである。なお,本件全証拠を精査しても,平成28年4月6日に開催された本件店舗のライブ演奏に当たって,控訴人X1が被控訴人管理楽曲の演奏使用料を供託したとの事実を認めることはできない(本件店舗の経営者らに被控訴人管理楽曲の使用料を手渡したとしても,それが供託に当たるものではないことはいうまでもない。)。」

<解説>
 著作権法制は著作権法を始めとして、いくつかの法律から構成されているところ(注1)、今回は著作権等管理事業法(平成12年法律第131号)を扱い、その具体的な論点としては同法第16条に規定する(著作権等管理事業者による、著作物等の利用許諾拒否ができる)「正当な理由」について取り扱います。
 著作権等管理事業法の詳細については、JRRCマガジンのバックナンバーにて川瀬理事長による解説記事がありますので、そちらをご参照ください。

 本解説でも同法について簡単に触れておくと、著作権の集中管理については、これに経緯的に少し関連するものとして本年の著作権法一部改正(令和5年法律第33号)において未管理公表著作物等に係る新たな裁定利用制度(第67条の3~)が創設されたところですが(注2)、我が国におけるスタートは「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」(昭和14年法律第67号)(=いわゆる仲介業務法)であり、これは特に著作物の無形的利用に関する著作権の意識が希薄であった当時の我が国において特定の外国人による著作権使用料の支払い要求をきっかけとして、外国の著作権管理団体の活動を制限しつつ日本国政府による指導監督下で国内の著作権管理団体を育成することを企図して、特定の種類の著作物(注3)を対象とする仲介業務について文化庁長官による規制色の強い許可制を導入した法律でした(許可を受けられる者は1分野につき基本的に1団体のみ)。
 このように著作権保護の実効性を高める仕組みとして制度化された著作権の集中管理制度は、その後数十年の経過を経て、デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、権利処理の円滑化の要請も高まったこと等から、文化庁の著作権審議会において新しい仕組の検討が進められ(平成7年4月~平成12年1月)、その結果、仲介業務法の廃止と同法に代わる著作権等管理事業法の制定が第150回臨時国会において認められたところです。
 仲介業務法との対比的関係からみた著作権等管理事業法の特徴は、全体として国の関与を最小限とすべく、著作権等管理事業を行う場合は許可制ではなく文化庁長官への登録制とし(第3条等)、事業者に制定義務がかかっている管理委託契約約款や使用料規程についても文化庁長官への届出制とし(第11条・第13条)、対象となる著作物の種類や事業者について限定を課していない点にあります(その他、文化庁長官による報告徴収・立入検査や業務改善命令、登録の取消し等も規定されています)。
 このように、仲介業務法から著作権等管理事業法への移行については、著作権等管理事業に対する国による一定の関与は規定されているものの、大きな意味では事前規制から事後チェックへの流れが敷かれており、その分だけ著作権等管理事業者自身による適正な業務遂行が期待された仕組になっているということであって、そうした考え方の下で著作権等管理事業法第16条では「・・・事業者は、正当な理由がなければ、取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならない。」と規定されているところ、今回の事案では「正当な理由」の判断基準が提示され、その当てはめが行われたものです。
 第16条の立法趣旨については、立案担当者の解説(注4)によれば「そもそも委託者は,管理事業者に対し,利用許諾を積極的に行うことによりなるべく多くの使用料を徴収してもらうことを期待して,著作権等の管理の委託をしている。また,管理事業者が利用者の許諾の申込を自由に拒絶できることとすると,著作物等は代替性が低い場合が多いことから,利用者側に多大な不都合を生じさせることにもなる。
そこで,著作者・利用者双方の利益の保護を図るため,管理事業者に対し,正当な理由がなければ取り扱っている著作物等の利用を拒んではならない義務を課すこととしたものである」と説明されており、それに続けて「正当な理由」については「・・・委託者の意思に反する等,利用を拒絶してもやむをえない理由のある場合をいう。
利用者が自らと競合する管理事業者の系列会社に当たるために拒絶する場合や,利用者が自らと不仲であるために拒絶する場合などは,これには当たらないと解せられる。」とした上で具体的な該当ケースとして「①許諾をすることが委託者の意思に反する場合 管理委託契約締結の際に,委託者が,環境破壊や飲酒・喫煙の助長につながるような方法による利用を拒絶するよう依頼していた場合など,特定の態様の利用行為に対して委託者の拒絶の意思が明らかにされている場合である。 ②許諾することが通常委託者の合理的意思に反すると認められる場合 利用者が過去または今後の使用料を支払おうとしない場合,利用者が著作者人格権を侵害する方法・・・による利用を行おうとする場合等,通常の委託者であれば許諾を望まないと認められる場合である。 ③その他やむを得ない場合 天災,地変,自己の過失がない事故など,偶発的な障害事由により許諾業務が行えない場合である」と説かれています。
 法文の関係上、「正当な理由」は「やむを得ない場合」とは異なると思われるので、立案担当者の解説は厳密にはやや疑問なしとはしませんが、著作物の集中管理と利用促進とを図る制度趣旨からしても、拒否できるケースは相当程度限定的になるものであることは確かであり、今回の判決では大きく分類すれば上記のうち②の判断基準が採用されているところです。

 さて、今回の解説ではこの点についてみていきますが、本判決についてはいくつかの先行評釈も存在しますので、適宜それらも参考にしながら考えてみたいと思うところ、全体的には本判決は特有の状況の下で出されたものであり、その射程はかなり限定的に捉えるべきものではないかと考えます。
 まず具体的な点の一つとして、著作権等管理事業法の規制による運用を通じて演奏家が本件被控訴人の管理楽曲を演奏する人格的利益(表現の自由として保護される演奏家の自己表現又は自己実現に関わる人格的利益)を有しており、同法第16条の正当な理由がない限り演奏家が希望する楽曲の利用を被控訴人が拒絶することは不法行為を構成するとの説示があります。
この部分の実質的な意味合いは、著作権等管理事業法で念頭に置かれている委託者たる著作者の期待・目的(著作物の適切な管理と簡易迅速な使用料の分配)から敷衍される第16条の「正当な理由」が限定的な範囲に止まることを説明する理由の一つとして提示されたものであると考えられますが、先行評釈1(注5)が指摘する「演奏家の人格的利益が保護法益であるとする構成を貫徹するならば、著作者人格権を侵害する、あるいは著作者の名誉・声望を害する方法の利用である場合や天災当やむを得ない場合には、演奏家の人格的利益を犠牲にしても「正当な理由」があるとして許諾を拒否することは理解し得る。しかし、使用料の未払いや特定の利用行為に対して委託者の拒絶があったという管理委託契約の内容が、利用者の人格的利益の毀損(きそん)をなぜ正当化できるのか説明できなくなると思われる」との疑問が生じるところであり、この疑問点については今回の判決では言及されておらず不明のままになっています。
 次に、著作権等管理事業法第16条に規定する「正当な理由」の判断基準についてです。上述の通り、本判決では立案担当者の揚げる該当事由のうち②に分類される基準を用いている訳ですが、厳密には(「著作権等管理事業の制度趣旨に基づき,被控訴人が多数の委託者からの委託を受けて楽曲に係る著作権等を集中的に管理しており,委託者も広く楽曲の利用がされることを期待して被控訴人による楽曲に係る著作権等の集中管理を前提とした委託をしている以上,通常の委託者の合理的意思を検討するに当たっては,被控訴人による楽曲全体の著作権等に関する適正な管理と管理団体としての業務全般への信頼の維持という観点を軽視することは相当でない」とした上で)「利用者からの申込みを拒絶することについて「正当な理由」があるか否かは,個々の委託者の利害や実情にとどまらず,
著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼の維持の必要性等についても勘案した上で,利用者からの演奏利用許諾の申込みを許諾することが通常の委託者の合理的意思に反するか否かの観点から判断されるべき」として、通常の委託者の合理的意思への合致性に係る考慮要素につき、著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼の維持という点を付加し、かつ、これにも少なからぬ力点を置いた判断が示されています。この点については一見もっともらしい判断基準が提示されているような印象ですが、今回の事案において裁判所がこの判断基準を使って被控訴人による拒絶を認めるに当たっては一種の技巧を施していることにも留意して考える必要があります。
 即ち、今回の事案において被控訴人に対して被控訴人管理楽曲の利用を申し込んでいるのは(被控訴人との間で別件訴訟の争いをしていた本件店舗の依頼によるものとはいえ、)X1らであったところ、被控訴人が拒絶の方針を採っていた対象者は本件関係者の中では本件店舗であったためか、今回の判決では、本件店舗のAらについて、被控訴人管理楽曲等の演奏主体に当たると認定した上で、本件における形式的演奏主体であるX1らが本件利用申込み1等を行ったことについては、(「本件店舗においては長期間にわたって被控訴人管理楽曲が無許諾で使用されていたにもかかわらず,過去の使用料が全く清算されておらず,
Aらが著作権の管理に係る被控訴人の方針や別件一審判決に従わない旨を表明している状況の下で,本件利用申込み1は,従前どおりの本件店舗の営業形態を前提としつつ,形式的に演奏の利用主体を出演者として被控訴人に利用許諾を求める本件店舗のホームページ等の呼びかけに応じた形でされたものであることが認められ,また,控訴人X1は,本件店舗に21回程度出演して被控訴人管理楽曲を演奏しており,別件一審判決直後も本件店舗において無許諾で被控訴人管理楽曲を演奏していた・・・ことが認められる」との本件特有の事情の下で「このような客観的,外形的状況に照らせば,控訴人X1による本件利用申込み1につき,被控訴人において,著作権の管理に係る被控訴人の方針に従わず,無許諾で長期間にわたって被控訴人管理楽曲を利用してきた本件店舗の運営姿勢に賛同し,支援するものと受け止めることは避けられないものというべきである」と判示して、本件店舗を主軸とした法的評価が行われているところです。
 そしてこれらの部分の説示については、これを実質的にみると、この部分の後に続く「上記のような本件店舗の運営姿勢は,安定的な著作権の管理,使用料の徴収に支障を生じさせるものであるといわざるを得ない以上,この運営姿勢に賛同し,支援するものと理解される本件利用申込み1に被控訴人が許諾を与えることは,通常の委託者の合理的意思に反するものであり,被控訴人の管理団体としての業務の信頼を損ねかねないものでもあるから,このような疑念を払拭するに足りる特段の事情が認められない限り,被控訴人が本件利用申込み1を拒否した判断が不合理なものであるとはいえないし,本件において上記特段の事情を認めるに足りる事情や証拠は見出せない」との結論を導き出すための、やや強引な論理展開に見える言説であり、換言すれば先に述べた「著作権等に関する適正な管理と管理団体業務への信頼の維持という点を付加し、かつ、これにも少なからぬ力点を置いた」判断基準はこのような本件固有の認定事実の裏打ちによって初めてもたらされた基準であるように思われるところです。
勿論、クラブキャッツアイ事件に関する最高裁判決(注6)をきっかけにその後30年以上にわたる種々の判例・学説の議論を経て形成されてきた侵害主体論の観点では、直近の音楽教室事件に関する最高裁判決(注7)において「演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である」との一般的判断基準が判示されていることから、最高裁的にみても今回の事案における本件店舗のAらが控訴人管理著作物の利用主体(の一人や二人)に当たるとする知財高裁の判断が支持される可能性はなくはないのですが(注8)、その一方で先行判例評釈2(注9)においては、別の裁判例(注10)における音楽著作物の演奏主体に関する判断等に照らし、今回の事案におけるAらの演奏主体性の認定について疑問を呈するものも存在しているところです。
そして事案の設定を考えてみると、今回の事案では出演者がライブチャージの金額を決め、そこから本件店舗が被控訴人管理楽曲1曲当たり140円を徴収・保管していたわけですが、仮想事例的にX1らが使用予定楽曲の使用料を予め被控訴人に支払った上で対象楽曲の利用申込をX1らが自らしたとするケースだったとしてもやはり被控訴人による拒絶が著作権等管理事業法第16条に規定する「正当な理由」有りとして裁判上でも認められることになるのでしょうか。
つまり、①本件店舗が別件訴訟で敗訴しているにもかかわらずその点に納得をしていない旨を対外的に表明しつつ未だに使用料を支払わないでいること、②X1らはそのことを恐らくは認識していながらも回数を重ねて本件店舗で被控訴人管理楽曲を含めてライブ演奏を行っていること、③本件店舗は店に備え付けの楽器等を使用させ、また、ライブ演奏の告知活動をしていること等の事情の下では、仮にX1らが使用料を支払った上で被控訴人管理楽曲の利用申込を自らしたとしても、被控訴人による拒絶が正当化されるべきかという問題ですが、私見ではこのケースだと、実際の判断の枠組みは大きく変わるのではないかと考えます。
というのは、この場合、使用料が獲得できる以上、上述の通り著作権等管理事業法第16条の狙いとする著作者・利用者双方にとっての利益の確保がいずれも図られており、それは通常の委託者の合理的意思に合致するものと考えられるためです。そのように考えてくると、今回の事案において、①著作権等管理事業法第16条の「正当な理由」における通常の委託者の合理的意思の検討するに際して楽曲全体の著作権等に関する適正な管理と管理団体としての業務全般への信頼の維持の点を挙げ、②本件店舗のAらが被控訴人管理楽曲の演奏主体と認定して、③X1らが被控訴人に対して被控訴人管理楽曲の申込みを直接行ったとしても、それは本件店舗での出演等の関係性等からすれば形式的演奏主体による行為であって、④実質は長年使用料の支払いを怠ってきた本件店舗の経営姿勢に賛同等するものであり、
結局のところ通常の委託者の合理的意思に反し且つ被控訴人の管理団体としての業務の信頼を損ねかねないものであるとする今回の判決における一連の考え方については、別件訴訟をはじめとする本件特有の事情の下で被控訴人による拒絶を肯定するために導き出されたものであると言わざるを得ないのではないかと思われます。その意味で、冒頭申し上げたように今回の判決の射程はかなり限定的に捉えるべきものと考えられますし、著作権等管理事業法の制度趣旨に思いを致せば、第16条の「正当な理由」を判断する際の考慮要素として、委託者の通常の合理的意思に関して含め得るのは「管理団体としての業務への信頼」というようなファジーで且つ場合によっては広範囲にわたりうる要素ではなく、せいぜい、著作権等の集中管理制度の正常な運用が期待できないほどの深刻な事情の存否といった程度であると考えます(注11)。
 なお、音楽業界に精通している研究者による先行評釈3(注12)において、本件被控訴人がX1らの利用申込みを拒絶した真の理由について「・・・本当の理由が、Xらのような出演者に直接利用許諾を与えて、著作権使用料を徴収すると(個別許諾・個別徴収)、事務処理が煩雑になることになるのは、関係者では衆目の一致するところである。つまり、ライブハウスと包括的利用許諾契約を締結し、従前の「包括許諾・包括徴収」という効率的な管理方法を継続したいというのがJASRACの本音であろう。しかし、自己の管理業務の効率化のために、Xらが有する表現の自由を犠牲にしてまで利用申込みを拒絶したことに、その正当性を見出すことは困難なのである」と指摘されている点には留意しておくべきであると思われます。
 今回は以上といたします。

(注1)例えば、(公社)著作権情報センターの発行する『著作権関係法令・条約集(令和四年版)』を見ると、著作権法以外の関係法律として、「プログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律」(昭和61年法律第65号)や「映画の盗撮の防止に関する法律」(平成19年法律第65号)、「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(昭和27年法律第302号)などが掲載されている。
(注2)この点に関する施行日については、二段階に分かれており、裁定制度そのものについては一部改正法公布日(=令和5年5月25日)から3年以内で政令で定める日とされているが、そのうち、指定補償金管理機関の指定等に関してはこの一部改正法公布日から2年6月以内で政令で定める日とされており、新制度施行に向けた準備期間に相当程度要するものとなっている。
(注3)「昭和十四年法律第六十七号第一条第三項ノ規定ニ依リ著作物ノ範囲ヲ定ムルノ件」(昭和14年勅令第835号)においては、小説、脚本、楽曲ヲ伴フ場合ニ於ケル歌詞、楽曲が各々第1号から第4号まで規定されていた。
(注4)著作権法令研究会編『逐条解説 著作権等管理事業法』95―96頁[郷治友孝]
(注5)諏訪野大「著作権等管理事業法16条にいう「正当な理由」に該当するか否かが争われた事例 -Live Bar X.Y.Z.→A事件-」『発明2023 No.8』49頁
(注6)最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁
(注7)最判令和4年10月24日(令和3年(受)1112号)。なお、事件での争点は音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏に関して、被上告人である音楽教室運営者が上告人(JASRAC)の管理する音楽の著作物の利用主体といえるかどうかであった。
(注8)上記注7の最判につき、最高裁調査官がその解説論考において、事例判決・事例判断であることを強調する箇所の記述を行っている部分があるが、総論的に判決が個別の事案に即して行われることからすると、少なくとも建前的にはそのことは否定できないが、これを強調しすぎるのは裁判実務的にも学術研究的にも無理が伴うように思われる。神谷厚毅「音楽教室の運営者と演奏技術等の教授に関する契約を締結した者(生徒)のレッスンにおける演奏に関し上記運営者が音楽著作物の利用主体であるということはできないとされた事例〔音楽教室事件〕(最一小令4・10・24令和3年(受)第1112号)」『Law&Technology No.100』96頁以下を参照。
(注9)高瀬亜富「著作権等管理事業法16条所定の「正当な理由」の有無が判断された事例 -第二次Live Bar X.Y.Z.→A控訴審-」『月刊コピライト No.732Vol.62』39頁以下。
(注10)大阪高判平成20年9月17日判時2031号132頁〔デサフィナ―ド事件〕。前掲注8の評釈・44頁では、このデサフィナ―ド事件と今回の事案とにおける音楽著作物の演奏主体性に係る裁判所の判断を分けたのは「店舗経営者が得ていたであろう利益の有無であると言わざるを得ないように思われる。しかしながら、いわゆるカラオケ法理が「利益」をもって演奏主体性肯定のための要件であるかのように判示していた点については、何故それが演奏主体性を基礎付けるのか理由が明確ではないと批判されていたところであり、上記のような事情のみで本件と[デサフィナ―ド:著作権侵害]との結論の相違を正当化できるのかは疑問である。
本件において、本件店舗の経営者であるAらの演奏主体性を認めることは、些か無理があったように思われる。」と指摘している。
(注11)今回の判決が出される数年前に、東京地判令和2年12月10日(平成30年(ワ)39933号、令和元年(ワ)35655号)〔歌の手帖事件〕が出されており、ここでは「著作権等管理事業法は,著作権等管理事業者は,正当な理由がなければ,取り扱っている著作物等の利用の許諾を拒んではならないと規定しているところ(同法16条),同法は,管理事業者の登録制度や委託契約約款及び使用料規程の届出・公示等により,著作権等の管理を委託する者を保護するとともに,著作物等の利用を円滑にし,もって文化の発展に寄与することを目的としており(同法1条参照),著作権者は利用許諾をするか否かを自由に決定できる(著作権法63条1項参照)ことも考慮すると,上記の「正当な理由」の有無は,著作権者(著作権の管理委託者)の保護と著作権の円滑な利用という法の趣旨を勘案して,許諾業務が恣意的に運用されることを防ぐという観点から判断すべきである。
・・・過去の管理著作物の無許諾利用に係る使用料相当損害金の未清算・・・がある場合であっても,管理著作物の利用を許諾しなければならないとすると,許諾を拒んで爾後の使用を違法ならしめることにより過去の侵害行為に係る使用料相当額の損害填補を事実上促進するという手段が失われることになり(著作権法119条参照),著作権者の利益に反すると解され,また,管理著作物の利用許諾を受けて使用料を払っている誠実な利用者との間の公平を欠くため,著作権の集中管理に対する信頼を損ない,これによる著作権の円滑な利用を害するおそれがあり,このような場合に利用許諾を拒んでも,許諾業務が恣意的に運用されているとはいえない。
以上によれば,原告が,管理著作物の無許諾利用者による使用料相当損害金の未清算を理由に,同人又はこれと同視できる者に対して新たな管理著作物の利用許諾申請を拒絶することは,そもそも著作権等管理事業法16条の趣旨に反するとはいえないというべきである。」と判示されている。今回の判決は上記の説示を参考にし且つ規範的侵害主体論も援用したものと思われるが、使用料の徴収自体がおよそ見込まれないというような場合であればいざ知らず、本文記載のように実際に使用料の徴収が見込まれる場合であっても、過去の未清算を理由として著作物の利用申込を拒絶しうる場合というのは基本的に説得力を欠く説明であると言わざるを得ないであろう。
(注12)安藤和宏「著作権等管理事業法16条の「正当な理由」の該当性(JASRAC利用申込拒否事件)」『新・判例解説Watch◆知的財産法No.149』4頁。なお、同評釈では「そもそも間接侵害という高度な法的論点を有する訴訟が継続している中で、一審で敗訴した本件店舗を徒に悪者扱いし、Xらがその店舗で過去に演奏したことをもって、本件店舗の運営姿勢に賛同し、支援するものと受け止められるという帰結は、論理が飛躍し過ぎている」として、本判決に対する痛烈な批判が展開されており、また「本判決は「著作権の管理に係るJASRACの方針に従わず、無許諾で長期間にわたってJASRAC管理楽曲を利用してきた」と本件店舗を糾弾するが、当初JASRACと包括利用許諾契約を締結しようとしたAがライブハウスでの演奏楽曲について、JASRACがサンプリング調査によって収集したデータに基づいて著作権使用料を分配していたことを知り、これでは権利者に使用料が正確に分配されないと思料し、JASRACのやり方に不信感を抱いたことが紛争の端緒となっている。
つまり、単なる無断利用の事案ではなく、公平かつ正確な使用料の分配を要求するAと管理業務の効率性を過度に重視するJASRACとの紛争なのである。裁判所はこのような事情を捨象し、Aの違法性をことさらに強調するが、妥当ではない」として背景事情が述べられ、さらにその脚注6)で「しかもLive Bar事件控訴審判決後の2019年7月に、JASRACは利用楽曲の収集方法について、サンプリング調査を廃止し、全曲報告に切り替えている。結果的にJASRACはAの要求していた方針に変更しているのである。・・・」とも述べられており、今回の事案及び判決に関する理解を図るための参考情報が提供されている。

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★日 時:2023年11月28日(火) 10:30~16:50★

プログラム予定
10:35 ~ 12:05 知的財産法の概要、著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
12:05 ~ 13:00 休憩
13:00 ~ 13:10 JRRCの紹介
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14:15 ~ 14:25 休憩
14:25 ~ 15:30 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)後半
15:30 ~ 15:40 休憩
15:40 ~ 16:40 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
16:50 終了予定
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