JRRCマガジンNo.336 フランス著作権法解説2 著作権法により保護される著作物

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JRRCマガジン  No.336 2023/09/14
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◆今回の内容
【1】井奈波先生のフランス著作権法解説
【2】(10/13開催)無料オンライン著作権セミナー開催のお知らせ(本日受付開始!)
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皆さま、こんにちは。

少しずつ日暮れの時間が早くなり、秋の気配を感じます。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は井奈波先生のフランス著作権法解説の第2回目です。

井奈波先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/inaba/

◆◇◆【1】井奈波先生のフランス著作権法解説━━━
第2回 著作権法により保護される著作物
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1 はじめに
 第2回目は、保護される著作物の要件について説明します。なお、フランス語表記におけるアクセント記号は省略しています。今回は、料理や香水に著作物性が認められるか、という問題を題材に説明を進めたいと思います。この問題については、日本の場合、なんとな~く保護されないのでは?という感じで、明確に議論されていないように思います。保護を否定する理由として、わが国の著作権法10条1項では、視覚または聴覚によって感得できる著作物しか挙げられていないことや、2条1項1号の「文芸、学術、美術又は音楽の範囲」に属さないことなどを挙げることができますが、釈然としません。この点、フランスと欧州では、保護される著作物の要件を新設ないし明確化し、保護を否定しており、わが国においても参考になると思われます。
 この問題に入る前に、まずは、伝統的に認められている保護される著作物の要件について説明します。といっても、フランス著作権法には、わが国の著作権法2条1項1号のように、著作物性について規定した条文がありません。その一方で、著作物の保護にあたって考慮してはならない要素を規定する、という消極的な規定の仕方をしています。保護される著作物の要件を規定していないあたり、すでにカオスに見えますが、学説では、条文を辿って、次のように整理されています。

2 保護される著作物の要件
 まず、111-1条は、「精神の著作物の著作者は、この著作物について、自己の創作という事実のみにより、排他的ですべての者に対抗し得る無体の所有権を享受する」と定めています。そこから、保護される著作物は、「精神の著作物(l’oeuvre de l’esprit)」であることが必要とされます。まず、「精神の」著作物であることから、人間の関与が必要となります。さらに、この点から創作の意思と創作行為から生じるものであることが求められます。そのため、例えば、考古学上の発見、単なるコレクション、偶然の産物、実演などは創作行為とは認められません。
 次に、111-2条は、「著作物は、公表の有無にかかわりなく、未完成であっても、著作者の構想の実現という事実のみによって創作されたものとみなされる」と定めています。ここで「構想の実現」が求められていますので、形式と本質、つまり表現とアイデアは区別され、表現形式の創作のみが著作権法により保護されるという原則が導かれます。この思想の背景には、アイデアは自由に移動するものであり、何人もアイデアを独占することはできないという考えがあります。ただし、フランスの場合、第三者がアイデアを剽窃したような場合、著作権法によっては保護されないとしても、不正競争や不正なただ乗りとして不法行為責任が認められる場合があります。
 さらに、112-4条は、「精神の著作物の題号は、それが創作的な性質(un caractere original)を示す場合には、著作物それ自体として保護される」と定めています。これは、題号が著作物として保護される要件を定めたものですが、著作物全般に創作性を必要とすることの根拠条文となっています。創作性は、法律によって正面から定義されていないのですが、講学上、著作者の個性の痕跡と定義されます。著作権による独占権は、著作者の個性の延長である著作物に与えられることになります。ところで、創作性の概念は、かつてコンピュータ・プログラムに著作物性を認めるかどうかが問題となった際に揺らいだことがあります。コンピュータ・プログラムには、著作者の個性の痕跡が認められるとは考え難いのではないかとの疑問が生じ、たとえば、個性の痕跡に代わって、知的貢献の痕跡があることを要件とするなど、別の基準を立てたかのような誤解を生じさせる判例が現れました。しかし、今では、著作者の個性の痕跡を言い換えたに過ぎないと考えられています。
創作性の評価のしかたですが、著作物によって異なります。創作性は、著作者が与えられた自由な領域で自由な選択をしたかどうかが問題となります。この創作者の自由な領域は、扱う著作物の主題の性質によって異なります。たとえば、平面図であっても、絵と地図では自由な領域は異なります。立体物の場合も、彫刻と建築とでは自由な領域は異なります。
 著作権により保護される著作物の要件は、ここまで、日本法とほぼ同じ考え方を採用しているといえます。

3 消極的要素
 他方、知的財産法典112-1条は、「この法典の規定は、いずれの精神の著作物についても、その種類、表現形式、価値または用途を問わず、著作者の権利を保護する」と規定しています。したがって、裁判所は、精神の著作物として保護されるか否かを判断する上で、これらの要素を問題にはしません。
 考慮されない要素の1つ目は、①著作物の種類(genre)です。著作物は、伝統的に、文学、音楽、美術の3つの種類に分類されます。しかし、これらの種類に属さないことを理由に、保護が排除されることはありません。また、112-2条は、精神の著作物を列挙していますが、これらは例示であり、列挙されていない著作物について、保護が排除されることはありません。たとえば、ゲームは、112-2条に列挙されていませんが、著作物としての保護が認められています。ただ、112-2条の例示は、視覚または聴覚によって感得される著作物に限られています。そこで、香水と料理といった、嗅覚や味覚によって感得される著作物が、著作権法により保護されるかが問題となり得ます。
 考慮されない要素の2つ目は、②著作物の表現形式(une forme d’expression)です。たとえば、口頭のものか文字により記されたものかは考慮されませんし、コンピュータ・プログラムがソースコードであるかオブジェクトコードであるかは問題となりません。
 考慮されない要素の3つ目は、③著作物の価値(merite)です。美醜、長短、良し悪しなど、著作物の価値は問題となりません。これは裁判官の自由裁量を避けることを目的としています。裁判官は、たとえば芸術的かどうか、学術的かどうかなど、著作物の価値を考慮して著作物性を判断することはできません。
 考慮されない要素の4つ目は、著作物の用途・目的(destination)です。ここで問題となるのが応用美術です。応用美術は、実用目的を有するわけですが、実用性があるからといって、著作物性を否定する理由にならないとされます。この原則は、美術の一体性の理論(la theorie de l’unite de l’art)といわれます。美の一体性の理論により、著作物の目的は問題とされず、応用美術も問題なく保護の対象とされます(112-2条⑩)。また、応用美術に限らず、機能的な著作物であるコンピュータ・プログラムも著作物として保護の対象となり得ます。

4 香水や料理の著作物性が否定される理由
 冒頭、香水や料理は著作物として保護されるかどうか、という問題を提起しました。香水については、フランスの裁判所でかなりのドタバタ劇が展開されました。下級審は、香水の著作物性を認めていましたが、フランスの最高裁である破毀院(破毀院第1民事部2006年6月13日)では、単なるノウハウの実行に過ぎないという理由で保護を否定します。フランスの面白いところは、それでもめげずチャレンジすることで、しかも下級審は破毀院判決に反抗して、香水の著作物性を認める判決を連発します。前回の連載で記載したように、最高裁判例に先例拘束性はないとされています。フランスは制定法主義であり、判例法主義ではないのです。その後、破毀院(破毀院商事部2013年12月10日)は、理由を変えて、再び香水の著作物性を否定しました。同判決は、「著作権は、創作物がその伝達を可能とするために十分な明確性をもって識別可能である限りにおいてのみ、感得可能な形式における創作を保護する」とし、香水はその形式を満たしていないと判断しました。
その後、欧州では、食品の味について、著作物性を否定しています(欧州司法裁判所2018年11月13日)。その理由は、上記の破毀院と同様、保護対象を明確かつ正確に識別できる必要性を挙げています。これらの判例から、著作物として保護されるには、明確な識別可能性をもって感得可能な創作である必要があるとされています。

5 形式的要件
 最後に、形式的要件について、少し説明します。上述の111-2条は、「未完成であっても」保護されることを明記しています。また、上述の111-1条は、「創作したという事実のみによって」保護されることを明記し、111-2条は、「構想の実現」で保護されることを明記しています。これらにより、著作物の保護にあたって、完成品かどうか、固定の有無、方式の履践は、問題とはなりません。
 次回は、上述した美の一体性の理論と応用美術について説明する予定です。

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【2】(10/13開催)無料オンライン著作権セミナー開催のお知らせ(本日受付開始!)
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