JRRCマガジンNo.334 新聞と著作権5 けっこう大変な『社員出版』下

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JRRCマガジン  No.334 2023/8/31
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◆今回の内容
【1】福井記者の「新聞と著作権」その5
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皆さま、こんにちは。

連日厳しい残暑が続いています。
いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は福井記者の「新聞と著作権」です。

福井記者の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/fukui/

◆◇◆━【1】福井記者の「新聞と著作権」その5━━
 けっこう大変な『社員出版』 下
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  福井 明

 前回に続き、毎日新聞社で担当した「社員出版」事務の仕事について記したいと思います。想定していないことに驚いたり、対応に頭を痛めたりすることが、何度もありました。
 以前にも書きましたが、本を出したい社員の最初の作業は、上司の部長、局長の了承印をもらって、出版届出書を知財管理センターに提出することです。この届出書によって会社は初めて、社員のだれが、どこの出版社から、どのような本を出すのかを知ります。そして、グループ内の毎日新聞出版との調整や、関係局幹部らでつくる委員会の著作権者判定、出版社との契約交渉という一連の社内手続きが始まります。
 10年近く前です。この出版届出書の提出が、本が店頭に並ぶわずか「1カ月前」「2カ月前」という事例が1年半で3件も起き、あ然としたことがありました。いずれも、届出書を受け取っても正常な社内手続きはもはや不可能でした。
 1カ月前に提出したA記者は「社員出版の細かい規定を知らなかった」と釈明しました。また、2カ月前に出したのは2人いて、B記者は「出版社のノンフィクション作品コンクールに応募して、最優秀作品だけが出版される仕組みだった。最終候補に残って、出版してもらうことになったが、それは部長には報告していた」、別のC記者は「社員出版手続きへの認識が足りず、反省している」と述べました。
 当時の社員出版規定は、社員出版の本について、①業務の取材で得た情報に基づくもので、会社が著作権を100%持つケース②取材に伴って知り得た情報で書き、会社と筆者が著作権を共有するケース③まったく私的なもの――に分けていました。そして、①の場合は会社の出版局(その後、毎日新聞出版として独立)が「自社から出すかどうか」を判断できる権利を持っていました。
 知財管理センターは、上記の3冊の本のうち2冊を①と判定しました(当時は同センターが判定)。本が発売される1、2カ月前でしたが、私は一応、手続きの手順を踏むことにし、出版局の担当者に、その都度おわびをしながらその2冊の出版届出書を送りました。最初の時、大阪本社勤務が長く、私とも懇意な出版局長から電話があり、「今さら、どないせえ言うねん」と、嫌みを言われました。謝るしかありませんでした。
 知財管理センターは2年がかりで社員出版規定を見直し、2017年4月から大幅に改訂した新規定をスタートさせました。その主眼の一つは「出版届出書を早く出すこと」でした。出版社から声をかけられ、同意した場合、加えて、出版社は未定だけど本の原稿を書きたいと思い立った場合、出版社のノンフィクション作品コンクールに応募する場合などにも出すよう求めています。
出版届出書の提出遅れは、規定を社内に十分周知できていなかったことも原因でした。このため、新規定については、社内の一斉メールなどで伝え、編集局の部長会議で説明し、さらに一般社員向けの説明会も開いたりして浸透に努めました。その結果、「発売の1カ月前の届け出」という事態はその後、私が知る限りなくなりました。
 また、社員が日ごろ撮りためた写真の職務著作物性が焦点になったことがありました。海外特派員を終え、帰国した記者が駐在した都市に関する本を出すことになりました。紙面化した記事を活用していたので、本の著作権者は会社と判定されました。そして、その本には、記者と出版社の希望で、記者が駐在時代に撮りためた写真約50枚(企業の社屋、スーパーの店内など)を掲載することになりました。
 社員の本の出版契約書では、出版社が著作権者(ほとんどの場合、毎日新聞社)に支払う「著作権使用料(印税)」の対象は原稿だけで、写真は含まれないとするのが一般的です。つまり、原稿、写真とも毎日新聞社の著作物(職務著作)であったとしても、出版社は、毎日新聞社の写真を本で利用する場合、印税とは別に「写真利用料」を支払うことになります。そして、会社の写真の場合、社の許諾部署が写真データや請求書を出版社に送ります。個々の記者が提供することはできません。このため、今回の約50枚の写真を「職務著作の写真」か「記者個人の写真」かに仕分けすることにしました。
 まず「掲載・未掲載にかかわらず、本社の紙面・サイトに載せる目的で撮影したもの」は、職務著作になります。掲載された写真の隣のコマなどで、業務で撮った写真だからです。また、「仕事と関係なく、私的な関心で撮ったもの」は、個人の著作物でしょう。友人が写る写真などです。問題は「撮影時は掲載目的ではないが、いずれ紙面などで使うかもしれないと思って撮った写真」です。顧問弁護士事務所の見解も求め、これは「法人が作成を予定、予期していたものと言え、職務著作に該当する」「その撮影日が休日であったとしても影響はしない(関係ない)」と判断しました。
 記者からは「50枚の中には、記事とともに出稿したのに本社デスクがボツにしたものがある。これは社として『捨てた写真』だと考える。なのに、それがどうして今回、『社の財産』になるのか」といった問い合わせを受けました。私は「載せる載せないといった紙面編集上の判断と、社の著作物かどうかは、まったく別の話」などと回答しました。
 その後、記者と出版社の了承を得たので、記者に約50枚の写真の3ケースへの分類を要請し、職務著作としたうち2ケース分については新聞社と出版社の業務のやりとりとしました。
 写真利用料にまつわる話がさらにあります。社員の本を出す小規模な出版社から「申し訳ないが、写真利用料の支払いが予算的に厳しい。配慮をお願いできないか」と要請されたことがありました。掲載写真数を減らせば、支払い額は減ります。しかし、それでは本のビジュアル性が損なわれます。出版社に詳しく事情を聴いたうえで、社内の関係部署で協議し、この時は要請を「あくまで特例」として受けることにしました。方式は、出版社に利用料を支払ってもらうものの、当方への印税を一部減額する、というものでした。筆者にも、印税から受け取る報奨金が減るという辛さがあるのですが、「本のビジュアル性を維持するため」ということで了解してもらいました。
 他にも、社の著作権者判定委員会の判断に「承服しかねる」と反発した筆者もいました(委員会の議論を説明し、了解してもらいました)。また、以前に出した本の著作権者を「会社」と判定された記者が中途退社する際、知財管理センターを訪ね、「私の本の著作権の返してほしい」と迫ってきたこともありました(この時は「著作権の帰属は判定委員会が判断した。『会社が取った』『返す』というものではない」と答えました)。
 緊張感にはこと欠かない仕事でした。

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