JRRCマガジンNo.314 イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)13 著作権(3)

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JRRCマガジン  No.314 2023/04/06
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◆今回の内容
【1】今村先生のイギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)13
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皆さま、こんにちは。

相変わらず花より団子に心が動きます。
いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は今村哲也先生のイギリスの著作権制度についての続きです。

今村先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/imamura/

◆◇◆イギリス著作権法の特徴を捉える(初級編)━━━
 Chapter13. 著作権(3)
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                 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授 今村哲也

1. はじめに
今回は、イギリス著作権法(1988年CDPA)で保護される著作権のうち、公衆へのレンタル・レンディング権(18A条)について、日本の著作権法において相当する権利との比較の視点から、見ていきます。

はじめに述べておきますと、日本の著作権法には、イギリス著作権法におけるレンタル権に相当する権利はありますが、レンディング権に相当する権利はありません。そして、レンタル権については、日本の著作権法における、著作物の複製物を公衆に貸与することを内容とした、貸与権(映画の著作物の場合、頒布権の対象)におおむね相当するものと言えますが(日本著作権法26条の3、26条)、その内容には若干の異なる部分もあります。

2. 公衆へのレンタル権・レンディング権

2.1. レンタルとレンディングの相違
レンタルとレンディングは、似たような言葉であり、法律上の区別が必要となります。この点についてイギリス著作権法は、レンタルとレンディングについて定義規定を置いています。

レンタルとは、「返却されること又は返却されうることを条件として、直接若しくは間接の経済的又は商業的利得のために、著作物の複製物を使用に供すること」を指します(18A条第2項(a))。

これに対して、レンディングとは、「返却されること又は返却されうることを条件として、直接若しくは間接の経済的又は商業的利得のため以外に、公衆が利用することができる施設を通じて、著作物の複製物を使用に供すること」を指します(18A条第2項(a))。

条文をみたときに、この二つの権利には、大きな違いが2点あることが分かります。第一に、レンタルは「直接若しくは間接の経済的又は商業的利得のため」の提供であり、レンディングはそうした目的がないということです。第二に、レンディングは、「公衆が利用することができる施設」での提供であるのに対して、レンタルにはそのような制限がないということです。

レンディングについては、たとえば、非商業目的で運営されている公共図書館などでの貸し出しを想定していただくとよいでしょう。なお、こうした施設で、貸し出しに関連して料金が取られることもありますが、条文上、当該施設の運営費を賄うために必要な金額を超えない金額の支払いは、直接若しくは間接の経済的又は商業的利得とはいえないとしているので(18A条第5項)、その範囲であれば料金を徴収したとしても、レンタルと評価されることにはなりません。

2.2. 他の目的でなされる行為の過程で行われる貸す行為の法的評価

また、貸すという行為は、他の目的でなされる行為の過程において生じることもあります。たとえば、絵画の所有者が、画廊(ギャラリー)において絵画を展示する場合、画廊に対して、返却してもらうことを前提に、著作物の複製物を使用に供することになるでしょう。

この点に関して、イギリス著作権法におけるレンタルとレンディングには、(a)公の実演、公の演奏若しくは公の上映又は公衆への伝達を目的として提供すること、(b)公の展示を目的として提供すること、(c)現場での参考用に提供すること、を含みません(18A条第3項)。

したがって、たとえば、絵画作品の所有者が公の展示のために画廊に作品を貸す場合や、雑誌の所有者が待合室で雑誌を閲覧させる場合に、少なくともレンタル・レンディング権との関係では、事前に権利者の許諾を得る必要はありません(See J. Griffiths, “Copyright and Public Lending in the United Kingdom” [1997] E.I.P.R. 499, 500)。もちろん、このような行為が、レンタル・レンディング権以外の権利、すなわち、公の実演権・演奏権・上映権・公衆伝達権、展示権との関係で、どのような法的評価を受けるのかは別の問題となります。

2.3. 権利の対象・内容と日本法との相違点

2.3.1. 権利の対象と内容
公衆へのレンタル権・レンディング権のいずれも、文芸、演劇、音楽の著作物、建築の著作物や応用美術以外の美術の著作物、及び映画や録音物の著作権に関して生じます(18A条第1項)。

また、イギリス著作権法の第2部に規定されている実演家の権利のなかにも、録音・録画物に関する公衆へのレンタル権・レンディング権が規定されています(182CA条)。

日本の著作権法の場合、映画以外のすべての著作物について、その複製物に関しての貸与権が及ぶとともに、映画については、頒布権の内容としてその複製物の貸与に関しても権利が及びます。

なお、条文では、公衆に対するレンタルおよびレンディングとされているので(18A条第1項柱書)、公衆でない者に対するレンタルおよびレンディングは、権利の対象となっていないと考えられます。この点については、前回述べた頒布権の場合と同様です。

2.3.2. 日本法との主な相違(1):複製物と原作品の区別はしない
日本の著作権法の条文では「複製物の貸与」とあることから、原作品の貸与は含まないと解するのが通説です。たとえば、絵画の原作品の所有権を取得した者は、それを公衆に有償貸与することについて著作権者の許諾は不要ですが、複製画の所有権を取得した者は、それをレンタル絵画として有償貸与することについて、著作権者の許諾は必要となります。

これに対して、イギリス著作権法のレンタル権の対象には、著作物の複製物だけでなく、原作品を含みます。この点は、前回説明したイギリス著作権法における公の頒布権の場合と同様です。日本の著作権法では、譲渡権(日本著作権法26条の2)については、「その原作品又は複製物」と規定されているため、複製物のみならず原作品の譲渡にも譲渡権が及びます。そのため、譲渡権と貸与権とでその対象が異なると解されているのです。

我が国の著作権法においても、貸与権の対象について原作品を含むとする解釈論を展開する説もあります(田村善之『著作権法概説[第2版]』(有斐閣、2001年)169頁)。ただ、日本の著作権法では、譲渡権と貸与権という、隣接する条文に規定された権利があえて異なる文言を用いていることから、貸与権に原作品を含むとする文理解釈を正面から受け止めるのには困難を伴いそうです。この点について、イギリス著作権法では、貸与権の対象に原作品を含むというのは、条文上も当然のこと、ということになります。

2.3.3. 日本法との主な相違(2):貸与権の権利行使期間の限定はない
日本の著作権法における著作隣接権に関しては、レコード製作者は、そのレコードが複製されている商業用レコードについて、その発売から最長1年に行使期間が限定されている貸与権(97条の3第2項)を有し、権利行使期間の経過後は報酬請求権のみを有することになります(97条の3第3項)。実演家についても、その実演が録音されている商業用レコードの貸与について、権利行使期間が限定される貸与権とその後の報酬請求権からなる同様の権利があります(95条の3第1項、第2項、第3項)。

イギリス著作権法における、レコード製作者や実演家のもつ貸与権については、日本と異なり、貸与の対象が商業用レコードに限定されていませんし、著作権の保護期間中における権利行使期間の限定もありません。また、実演についてはその録画物にも貸与権が及びます。

2.3.4. 日本法との主な相違(3):いわゆるワンチャンス主義はない
日本の著作権法では、実演家が、その実演を録音・録画することを許諾する権利をいったん行使し、許諾による録画により映画に固定された実演のその後の二次利用については、排他的許諾権は及ばないことになります(録音・録画について日本著作権法91条2項、放送・有線放送について同92条第2項第2号ロ、送信可能化について同92条の2第2項2号参照)。したがって、実演家が、その後の収益について利益の配分を交渉するチャンスは、映画に実演を固定することを許諾する最初の契約のときだけ、ということになります(いわゆるワンチャンス主義)。

イギリスの著作権法には、このようなワンチャンス主義は規定されていません。しかし、イギリスでも、個々の実演家の交渉上の立場が弱いことには変わりなく、制作段階におけるマルチユース契約において、実演家は製作者側に幅広く権利を譲渡してしまうことが多いようです。もっとも、団体間合意により、実演家に対する適切な報酬が確保されているという状況もあります(著作権情報センター『映画に関する諸問題 映画委員会』(2019年3月)54頁、株式会社野村総合研究所『平成26年度文化庁調査研究事業 実演家の権利に関する法制度及び契約等に関する調査研究報告書』(平成27年3月)49頁参照)。

なお、イギリスでも、レンタル権そのものを第三者に譲渡することは可能となりますが、その場合、公正報酬請求権に転化することになります。特に、映画における実演の録画物に関して実演家が有する貸与権については、映画製作者に移転されたものと推定されるので(191F条)、通常は、公正報酬請求権としてのみ残ることになります(191G条第1項)。ただし、実演家が、映画に含まれる映画の実演の録画物のレンタル権を映画製作者に移転した場合、あるいは、録音物に関する貸与権をレコード製作者に移転した場合でも、権利を執行するために徴収団体に譲渡するような場合を除いて、この公正報酬請求権をも譲渡してしまうことはできません(191G条2項)。

3. 公衆へのレンディング権と公共貸与権制度

公衆へのレンディングに関しては、公共貸与権制度(Public Lending Right Scheme:公貸権とも訳されます)の対象となります。公共貸与権とは、公立図書館による書籍の無償貸出しに対して著作者が受ける損失を補填するために報酬請求権を与える制度です。公共貸与権は、世界の34カ国で採用されていますが(2021年7月時点)、制度内容は少しずつ異なります(詳しくは、稲垣行子「公貸権制度の動向」比較法雑誌55巻3号83頁を参照)。

イギリスにおける公共貸与権制度は、1979年の公共貸与権法(Public Lending Right Act)により導入され、1982年実施要綱(Public Lending Right Scheme 1982 (Commencement) Order (S.I. 1982/719), as subsequently amended)に基づいて運用がなされています。

イギリスの公共貸与権制度の詳細は、上記の公共貸与権法および実施要綱に定められています。イギリス著作権法は、公共貸与権制度の下での行為が著作権侵害にならないように、公共貸与権制度の対象となる書籍については、公共貸与制度の枠内で行われる一定の行為が、著作権侵害にならないこと規定しています(イギリス著作権法40条のA)。

制度の対象は、印刷かつ製本された書籍のみならず、オーディオブック、電子書籍にも拡大されていますが(Public Lending Right Scheme 1982 (Commencement of Variations) Order 2014/1457)、楽譜は除外されています。また、公共貸与権は、最初の出版から著者の死後70年まで存続します(Public Lending Right Scheme 1982 (S.I. 1982/719) as amended by Art. 20, Public Lending Right Scheme (Commencement of Variations) Order 1997 (S.I. 1997/1576))。

イギリスでは、公共貸与権が認められるには、登録が必要です。主要な居住地が、リストされている国(英国またはEEA)であることが必要です。したがって、日本に主要な居住地がある場合には、残念ながら報酬請求権を受ける対象となりません。

この制度の下では、公共図書館の貸出回数に基づいて報酬が定まりますが、受け取れる年額に一定の上限があります。キャップがあるので、無制限に受け取れることにはなりません。この金額は、現在のところ、年間最大 6,600 ポンドとなっています(最低は1ポンド)。1ポンド160円程度とすると、日本円で大体100万円くらいになるでしょうか。また、公共貸与権の原資は、政府が創設する基金(PLR基金)により運営されています。

現在、この貸与権制度は、大英図書館が運営しています(2013年10月から)。支払いについては、政府から提供されるPRL基金から管理費を引いた額を、登録済みの書籍の総貸出額で割り、年間の「1貸出あたりのレート」を算出した上で、図書館の貸出データのサンプル調査に照らして、支払額を計算します。なお、1冊の書籍について幾人もの寄与者がある場合もありますので、シェアの計算方法についても細かく定められ、公表されています(以上については、大英図書館のウェブサイトのPRLの特設サイトを参照:https://www.bl.uk/plr)。

4. おわりに

今回は、イギリス著作権法で保護される著作権のうち、レンタル権・レンディング権についてみていきました。

レンディング権に対する公共貸与権制度についてですが、イギリスでの2021/22年度における「1貸出あたりのレート」は、30.53ペンスでした。なお、このレートは毎年、協議により変動します。2021/22年度の計算は、新型コロナの影響を受けて、中央基金が変更されていないことと、PLR に登録されている書籍の推定貸出数が減少したことを反映した結果、前年度から19.27ペンス増額の30.53ペンスとなりました。

コストは政府によるPLR基金から支払われるために、図書館利用者がレンディング権に対する報酬を支払うというものではありませんが、1ポンド=100ペンスなので、2021/22年度の1貸出あたりのレートによれば、1回1冊の貸出あたり、日本円で48円くらいは著者に還元されるという計算になります(1ポンド160円で計算)。

大英図書館で公表されているデータによれば、著者への支払いについては、支払帯でみると、£5,000 -£6,600は303回、£2,500 – £4,999.99で372回、£1,000 – £2,499.99で828回、£500 – £999.99で898回、£100 – £499.99で3,034回、£1 – £99.99で15,592回となっています (2021/22年度)。余談ですが、支払帯ごとの支払い回数について過去のデータと比較すると、前年度(2020/2021年度)とあまり変わっていないようです。あくまで推測ですが、新型コロナの影響を受けて貸し出し回数が減った結果、支払帯の幅の中でも、低い方に偏っているのかと思われます。

日本では、現在のところ、公共貸与権の制度は導入されていません。原資をどうするかという問題もありますが、クリエーターへの利益還元という点を重視したときには、制度運用コストはさておき、理念的には、それなりのインパクトがある制度かもしれません。

次回は、引き続きこれ以外の著作権について見ていく予定です。

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