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JRRCマガジン No.295 2022/11/17
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※マガジンは読者登録の方と契約者、関係者の方にお送りしています
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◆今回の内容
【1】濱口先生の最新著作権裁判例解説
【2】著作権講座(中級)オンライン受付本日締切
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皆さま、こんにちは。
朝夕寒くなってまいりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
さて今回は濱口先生の最新の著作権関係裁判例の解説です。
濱口先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/hamaguchi/
◆◇◆━濱口先生の最新著作権裁判例解説━━━
【1】最新著作権裁判例解説(その2)
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横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授 濱口太久未
早いもので初回の掲載からあっという間に一か月近くが経とうとしています。連載物の仕事をしていると、週刊漫画の凄さをほんの少しだけ体感いたします。
閑話休題、第二回の今回は、前回取り上げた東京地判令和4年3月30日(令和2年(ワ)第32121号)〔スティック春巻写真事件〕で触れたポイントに多少関連するものとして、知財高判令和4年7月14日(令和4年(ネ)第10004号)〔ホンダ50年社史事件〕を取り上げます。
<事件の概要>
本件は、控訴人X(翻訳家・フリーライター)の主張として、被控訴人Yにおいて「語り継ぎたいこと チャレンジの50年」と題するYの社史(以下「Y社史」という。)を発行した行為がXを著作者・著作権者とする書籍(『いつか勝てる ホンダが二輪の世界チャンピオンに復帰した日』(徳間書店、昭和63年10月初刷)(以下「X書籍」という。)の翻案に当たり、Yはその許諾料相当額を法律上の原因なく利得したものであるとして、Yに対し不当利得返還請求を行ったものです。
なお、今回の控訴審判決(以下「本判決」という。)が引用している第一審判決中の前提事実として、
①X-Yの関係につき、Xは少なくとも昭和62年11月~平成20年12月までの間、Yの関連会社である株式会社ホンダ・レーシングと契約を結び、コーディネーター、外国人レーサーの通訳として活動したこと、また、少なくとも平成17年4月~平成20年12月までの間、Yの広報部とも契約を結び、コーディネーターとして活動したこと、
②X書籍につき、Yの二輪世界選手権への再挑戦についてXがYの関係者等に取材した実話に基づいて執筆したものであることが挙げられています。
<判旨>
本判決では、基本的に第一審判決を引用しており、控訴棄却となっているところ、第一審判決を以下に紹介します。
「・・・言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
そして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
そうすると、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解される。
したがって、原告書籍と本件社史部分との間で、事実など表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらない。
また、原告書籍と本件社史部分との間に、表現において同一性が認められる場合であっても、同一性を有する表現がありふれたものである場合には、その表現に創作性が認められず、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと解すべきである。
すなわち、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば、著作物に作成者の何らかの個性が現れており、その権利を保護する必要性があるといえる場合には、上記の創作性が肯定され得るが、一方で、表現がありふれたものである場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、かえって上記の著作権法の目的に反する結果となりかねないため、当該表現に創作性を肯定して保護を与えることは許容されないというべきであり、そのため、原告書籍と本件社史部分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には、その表現に創作性を認めることができない。」との翻案等に係る従来の判断基準を提示した上で、記述対比表に記載されたX書籍とY社史部分の各記述(番号1~20)について、それぞれの間での創作表現の同一性の存否が検討され、いずれも記載内容が事実にすぎない。
また、個別の記述箇所によっては同じ内容を扱っていても具体的な記述における描写が異なっているなどと判断し、その結果、創作的表現において同一性を有するものと認められた箇所はありませんでした。
<解説>
X書籍はノンフィクション作品であり、具体的に争われた各記述はYによる二輪世界選手権への再挑戦と、そのための二輪車の開発をめぐる歴史に関するものでした。いわば(関係者の認識なども含めた広い意味での)事実を元にした文章記述が一方にあり、他方でそれらと同様の事実をもとに作成された、取材対象先の会社における社史記述があり、そのような場合における著作権侵害の在り方を問う事案です。
本判決が採用した翻案該当性に関する判断基準や、当該基準に沿った原告・被告両作品の比較手法として濾過テストが採用された点については、前回取り上げた東京地判令和4年3月30日(令和2年(ワ)第32121号)〔スティック春巻写真事件〕と同様であり、この点については繰り返しません。
著作権制度に対する従前の理解として、事実そのものは著作権では保護されないが、事実を対象としていてもそうした事実を元に創作的に書かれた文章は保護されうる、具体的には新聞における解説記事や、歴史小説、ノンフィクション作品などが該当しうる、と説かれています(注1)。
この点、X側は、控訴審段階での補充主張として、ノンフィクション作品における創作活動の分析的提示(①あらゆる種類の無限の事実の中から、②誰も知らなかったような事実を、③意図的な取材によって発掘し、④その中から制作方針に元して選択して、⑤創作的に表現し、つなぎ合わせるという一連の創作活動である点)をしたものの、本判決においては「控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品においては、事実を見つけ出すこと及び見つけ出されたその事実が重要であって、原告書籍と本件社史部分とは事実において共通する点が複数みられることを理由に、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当する旨を主張するものと解される。
しかしながら・・・控訴人の上記主張はノンフィクション作品自体の特徴や本質についていうものにすぎず、その「具体的表現」における表現上の本質的特徴について主張するものではないから失当である」として退けられています。
ノンフィクション作品に表現レベルでの創作性が認められるのは、事件や事実に対する評価などが反映され、記述方法にもさまざまな創意工夫がこらされているからであり(注2)、事実の独占自体を著作権法が許容しない以上、発見が難しい貴重な事実群があったとしても、それらを元にした具体的な創作表現の同一性が把握できなければ、事実群の取り上げ自体が同一であることを基本的理由として著作権侵害を肯定することは困難と言わざるを得ませんので、こうした点はデータベースに対する著作権保護における限界性(注3)と一種通ずる部分はありますが、本判決の考え方は妥当なものと言えます(注4)(注5)。
ところで、少し話題は変わりますが、ノンフィクション作品の著作物性が一般的に肯定されるものであることは前述のとおりであるところ、このことは著作物の定義規定(第2条第1項第1号)を理解するうえで重要なポイントを提供しています。
著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものという。」と規定されているところ、著作権法の基本書等においても、同定義の最初の要件である「思想又は感情」を解説する中で「事実そのもの」は著作物性を充足しない旨が説かれており(注6)、定義の文言上、この説明に不自然な点はありません。他方で一般的に著作物性が肯定されるノンフィクション作品の対象は事実であるので、このような説明とは整合的でないように見えます。
現行著作権法(昭和45年法律第48号)で初めて設けられた著作物の定義規定は、そのような定義規定を欠いた旧著作権法(明治32年法律第39号)の下での大阪控訴院S11.5.19判決(注7)を参照したものであるようですが(注8)、ノンフィクション作品との関係を考えれば、著作物の定義規定における「思想又は感情」は、定義の文言上は表現する対象である場合に限られているように見えるものの、そうではなく、事実が表現の対象であってもその事実を表現する方法の中に存在する場合もありうると理解されるべきものであり、換言すれば、「思想又は感情」の要件は、表現する過程のどこかに「思想又は感情」が存在すればよい、という意味で捉えるべきものということになると考えられます(注9)。
ただし、そうなると、この思想・感情要件と創作性要件との関係性については一考を要することになってくると思われます。
創作性については通説的には創作者の個性の表出と理解されているので、その場合、両要件は相関関係性を有することになると考えられるところであり、創作性の内容の捉え方次第では創作性要件の中に思想感情要件を包含した形で理解することも強ち不可能ではないと思われます。
もっとも、この点はさらに深い考察を要するところでもあるので、機会があれば別の回に譲ることとし、今回はここまでといたします。
(注1・2)斎藤博=吉田大輔『概説著作権法』28~29頁
(注3)茶園成樹編『著作権法第3版』51頁[濱口太久未]では、データベースの作成には多 大な労力当を要する場合が多いにもかかわらず、デジタル技術を用いて他人がコピーを行うことは容易であり、さらにデータベースの価値の高さ(情報の網羅性、検索のための体系付けの汎用性)とデータベースの著作物性とはいわば反比例の関係にある点等が指摘されている。
(注4)個別箇所での具体的表現の違いがあるほか、原審におけるYの主張によれば、X書籍は316頁(字数換算で20万字程度)であるのに対し、Y社史のうち問題とされた部分は8頁(字数換算で1.5万字程度)となっている。
(注5)表現上の本質的特徴は、翻案行為に関するかつての通説的理解でいう「内面的表現形式」に存しうる点からすると、記述しようとしている事柄の取捨選択に現れることもありえようが(本事案でもX側はそれに近い主張をしている)、殊にノンフィクション作品についてこれを認めると、事実の取捨選択がかなり際立ったものであったとしても、結果として著作権法が否定する事実の独占を許す結果になりかねず、結論としてはやはり本判決のような判断になるものと思われる。
(注6)例えば、島並良=横山久芳=上野達弘『著作権法入門第3版』21頁[横山久芳]
(注7)同判決では、著作物の概念について、精神的労作の所産たる思想感情の独創的表白であって客観的存在を有するもの、とされていた。
(注8)CRIC附属著作権研究書『著作権及び隣接権に関する法律草案(文部省文化局試案)コンメンタール』14頁
(注9)例えば、中山信弘『著作権法第3版』51頁以下
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【2】著作権講座(中級)オンライン受付本日締切
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22日の著作権講座(中級)オンラインの受付は本日締切りです。
どうぞお見逃しなく!
◆受付終了日時:2022年11月17日 17:30◆
開催日程:2022年11月22日(火) 10:00-16:30
プログラム予定
10:30 ~ 12:00 知的財産法の概要
著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
13:00 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
※最新の裁判例等の話題は講座内の特集で説明予定です。
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