JRRCマガジンNo.294 ドイツ著作権法 思想と方法2 著作権一元論

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JRRCマガジン  No.294 2022/11/10
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◆今回の内容
【1】三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法2
【2】著作権講座(中級)オンライン受付開始(無料)
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皆さま、こんにちは。

今月22日(火)は著作権講座の開催日です。
今回の特集の1つは、JRRCの管理対象である新聞、出版物等に係る裁判例についてです。
受付は本日開始です。この機会を是非お見逃しなく。

さて、本日は三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法の続きです。
三浦先生の記事は下記からご覧いただけます。
https://jrrc.or.jp/category/miura/

◆◇◆━三浦先生のドイツ著作権法 思想と方法2━━
【1】著作権一元論
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  国士舘大学法学部 教授 三浦 正広

1965年に制定された現行ドイツ著作権法の最大の特徴は、著作者の権利の理論構成として、著作権一元論を採用していることである。前回紹介したように、ドイツ著作権法は大陸法系の構成を採用し、自然権思想にもとづく創作者主義を前提に、著作者の権利は著作者人格権と財産権としての著作権(著作財産権)によって構成されている。
同じく著作者人格権を保護しているヨーロッパ法においても、フランスをはじめとするほとんどのヨーロッパ諸国およびわが国は、著作権二元論を採用している。

著作権一元論を根拠づけるドイツ著作権法29条1項では、著作者の権利(Urheberrecht)は譲渡することができないと規定されている。著作権一元論において、著作者の権利は、著作者人格権と著作財産権が渾然一体となった不可分の権利として構成されている。
一身専属性を有する人格権と、譲渡性を有する財産権という性質の異なる権利が1つの権利として融合し、しかも財産権的性質よりも人格権的性質が優越するものとして構成され、譲渡することができない権利であるとされる。
著作者の権利は「譲渡」することはできないが、著作物の利用形態や利用目的に応じて、複製権や頒布権などの個々の利用権(Nutzungsrecht)を「移転」することは可能である。その場合、著作物の利用契約にともなう利用権の移転は、設定的移転として構成される。
著作者と利用者の間で利用権の移転が行なわれた場合、著作財産権が著作者から利用者に承継的に移転するのではなく、利用権が利用者に設定的に移転されることになる。著作者の著作財産権は、利用者に移転された利用権の内容や範囲に相応して制限を受ける。所有権について制限物権を設定する場合のように、権利自体は著作者に留保されるが、利用者は権利内容の一部分を排他的に行使することが可能となるのと同様に解することができる。
いずれの場合も、利用者に設定的に移転された利用権が消滅することにより、著作者の権利は何ら制約のない本来の円満な状態に復帰するという点に特色がある。著作権一元論において、著作者の権利は、著作物の利用のために、その部分が利用者に移転することになるが、最終的には著作者に復帰することになる。

著作権一元論のもとでは、権利の性質として譲渡性が否定されている著作者人格権だけでなく、一般的には譲渡性を有する財産的利用権までもが譲渡できないものと構成される。そこで、個々の著作物の具体的な利用方法に応じて、個別的な利用権が設定されることになる。
利用権は、著作物の利用について、著作者が利用者に対して設定を許諾する権利であり、利用権の譲渡(uebertragen)という承継的移転の形式ではなく、設定的移転(einraemen)という形式で行なわれる。利用者が、その設定された利用権を「譲渡」することは可能であるが、その場合は著作者の同意が必要となる。

現行法が制定された当初は、著作権一元論と二元論をめぐる激しい論争が繰り広げられていたが、現在ではそのような議論は沈静化し、著作権法の概説書のなかのドイツ法の歴史の1コマとして記述される程度にとどまっている。
ドイツにおいても、日本の場合と同様に、経済性を優先する著作権法学者のなかには、一元論を批判する学者も少なくない。しかしながら、著作権一元論は、ドイツ著作権法を特徴づける理論として、揺るぎない不動の位置を占 めている。
ドイツをはじめとするEUにおいてブームを巻き起こしている近年の著作者契約法の理論は、この著作権一元論を基礎理論として構成されている。また、文化の創造や人権の保護を尊重するヨーロッパ諸国のなかでも、著作権一元論は、著作者の権利保護において優れた法理論であるといえる。
人格権論を提唱したオットー・フォン・ギールケは、著作者の権利だけでなく、特許権や商標権などの工業所有権も人格権の対象であると構成した。著作物も発明も人間の知的創作の成果である点で共通しており、そこでは両権利を区別する理由は見出しえない。
自然権思想を根拠とするギールケの人格権論は、社会活動における法秩序のもとで人間性を重視したロマンティックな法理論であると評価されている。著作権一元論は、このようなギールケの人格権論を礎として発展した理論である。フランス法は、日本と同様に著作権二元論を採用しているが、ドイツ法と競い合うように、著作者の権利保護に手厚い法理論を採用している。

 著作権一元論の効果がもっとも顕著に現れるのは、著作権の譲渡においてである。二元論の場合、著作権の譲渡は承継的移転として構成され、譲渡契約において著作権の譲渡を受けた者が著作権者となる。わが国の著作権法は、著作権はその全部または一部を譲渡することができると規定するだけであり(著作権法61条1項)、基本的には契約自由の原則により、譲渡契約の目的や内容は契約当事者間の合意により定まることになる。
この規定を受けて、わが国の著作権譲渡契約は、所有権の譲渡契約等と同様に、権利の帰属主体を変更する契約であると捉えられており、著作物の利用を目的とする契約であるという認識は乏しい。たとえば、出版契約は出版を目的とする契約であり、出版者は出版する義務を負うこととなるが、著作権譲渡契約とは法律構成が明らかに異なっている。
したがって、当事者間に契約期間、譲渡の期間について取り決めがない場合は、著作権が相手方に譲渡されたまま、著作者のもとには二度と戻って来ない可能性が生じる。ちなみに、著作権法79条以下に規定されている出版権は、著作権者(著作者)または複製権者と出版者との間で締結される出版契約において、設定移転の形式により設定される排他的独占権である。
 ドイツ著作権法の基本原理である目的譲渡論によれば、権利の譲渡は、契約で定める著作物の利用目的の範囲内で移転することとなり、契約の履行あるいは契約期間の終了によって、移転した権利は著作者のもとに復帰する。また、ドイツ出版権法では、著作者を保護する趣旨から、出版契約における出版権の設定が義務づけられている。

 ドイツにおける著作者の権利の発展の歴史のなかで、無体財産権理論は、特権、所有権、財産権、個人権、精神的所有権あるいは工業所有権(産業財産権)といった権利論とともに発展してきており、当初、著作者の権利は、一体的な権利構成ではなく、人格権と財産権の2つの権利によって構成されるとする著作権二元論が採用されていた。この著作権二元論の主唱者は、新ヘーゲル学派の法学者ヨーゼフ・コーラーである。
彼は、経済法学的な立場から、著作者の権利を無体財産権(知的財産権)として構成した。そこでは、人格権の優越性は否定され、著作者の権利は財産権として構成される。そして、著作物の変更や改変は、一般的な人格権の侵害として構成されうるが、著作者の権利の侵害とはならない。
さらに、著作者の権利は人格権に由来するとするギールケによる個人権理論を批判し、特許権と同様に、著作者の権利の経済的利用権としての側面を重視した一方で、著作者とその著作物の関係性は、個人の人格権として保護されるべきものであって、財産権と併存しうるものであるとも主張している。
 それに対して、著作権一元論は、アルフェルト、デ・ボーア、フープマンおよびウルマーら、当時の著名な著作権法学者によって提唱された。
アルフェルトは、財産権と著作者人格権の関係性について次のように説明する。すなわち、「著作者の権利は、著作者の人格的利益と財産的利益を保護するという二重の機能を有しており、それは財産権でも人格権でもない、特別な権利である」。
そして、これらの学説の影響を受けて、多くの判決において著作権一元論が採用されることとなる。たとえば、1908年のニーチェ手紙事件では、ニーチェと親交のあった大学教授の遺族(被告)が、遺言にもとづいて、ニーチェからの手紙を出版して公表したところ、ニーチェの遺族(原告)が、手紙の公表はニーチェの人格権を侵害するものであると主張して、出版の差止め等を求めた事例において、ライヒ裁判所の判決は、民法上の一般的人格権を否定する一方で、著作者の権利としての個別的人格権を根拠として原告の請求を認容している(RGZ 69, 401)。
その後も著作物の改変や氏名表示等との関係において、著作者の人格権を承認する判例が積み重ねられ、これらを踏まえて、現行著作権法において著作権一元論が採用されることとなった。
 ウルマーは、著作権一元論における著作者の権利の人格的利益と財産的利益の関係を、1本の樹木にたとえて次のように説明している。
「著作者の観念的利益と財産的利益は著作権の2つの根をなす。著作権自体は単一の幹である。著作権上の諸権能は枝であり、これらの枝は滋養分を、あるいは両方の根から、あるいは主として一方の根から摂る。
つまり枝にあたる著作権上の諸権能のうち人格権的権能は主として観念的利益の保護の要請に応ずるものであるが場合によっては著作者の財産的利益の要求のうちに含むことがあるし、他方、財産権的権能も主として財産的利益の保護に奉仕するが場合によっては観念的利益を満足させるために行使されることがあるとするものである。」(著作権一元論について、半田正夫「著作権の一元的構成について」『著作権法の研究』(一粒社、1971年)参照)。
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JRRC著作権講座


受付開始:2022年11月10日 15:00~

開催日程:2022年11月22日(火) 10:00-16:30
プログラム予定
10:30 ~ 12:00 知的財産法の概要
        著作権制度の概要1(体系、著作物、著作者)
13:00 ~ 15:20 著作権制度の概要2(権利の取得、権利の内容、著作隣接権)
15:30 ~ 16:30 著作権制度の概要3(保護期間、著作物の利用、権利制限、権利侵害)
※最新の裁判例等の話題は講座内の特集で説明予定です。

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