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JRRCマガジン No.150 2018/11/21
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皆さま映画はいつもどちらでご覧になりますか。最近は
ミニシアターがマンションの1階についていると聞きました。
そんな雑談もなんとなく気になってきます。
ご契約窓口やコンプライアンスご担当の皆さま、
10月より電磁的複製利用許諾を開始しております。
詳細については下記からご確認いただけます。
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さて、
今回の半田正夫弁護士の著作権の泉は
「ローマの休日」の著作権についてです。
◆◇◆半田正夫弁護士の著作権の泉━━━━━━━━━━━
第63回 「ローマの休日」の著作権
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青春時代に感銘を受けた映画を1本挙げよといわれたならば、私
は迷うことなく「ローマの休日」を挙げることと思う。若いころ映
画好きであった私は片っ端から映画を見て歩き、1か月に20本も見
ていたような記憶がある。玉石混交の映画あさりであったが、い
までも強烈な印象を受けている映画というのはそれほど多くない。
せいぜい20本~30本程度であろうか。しかし、そのなかでも鮮烈
な印象を受けている映画といえば、「ローマの休日」を措いてな
いようである。
この映画は、オードリー・ヘプバーンが扮するアン王女とグレ
ゴリー・ペック扮する新聞記者ジョーのローマを舞台とするロマ
ンチック・コメディである。とくに最後のシーンである謁見の場
におけるアン王女の毅然たる気品に満ち溢れたたたずまいや、ア
ン王女とジョーとの無言の対面、さらにはジョーがコツコツと足
音を響かせながら、ひとり謁見会場から去っていく哀愁を帯びた
姿などに大きな感動を覚え、興奮しながら帰途についたことが、
つい昨日のことであったかのような錯覚にとらわれるほどだ。
ところで、この映画の著作権の保護期間が経過したか否かで一
時大いに争われたことがあるので、それを紹介しよう。
著作権の保護期間は、現在のところ、一般の著作物については
著作者の死後50年(近くこれが70年に延長される)であるが(著
作権法51条2項)、映画の著作物については公表後70年となって
いる(同法54条1項)。これは従来、公表後50年となっていたの
を、平成15(2003)年の法改正により70年に延長されたものであ
る。この改正法は、平成16(2004)年1月1日に施行されているが、
問題となったのは昭和28(1953)年に公表された映画「ローマの
休日」の保護期間が経過されたとみるか否かついてであった。こ
の年は映画の黄金期にあたり、優れた映画が次々と公表された。
「ローマの休日」はもちろんのこと、「第17捕虜収容所」、「シ
ェーン」、「地上より永遠に」、「紳士は金髪がお好き」、「恐
怖の報酬」、日本映画では「東京物語」、「雨月物語」など、映
画ファン垂涎の名作が多いのが特徴である。
このうち、「ローマの休日」と「第17捕虜収容所」の著作権を
有していた米国の会社(以下、X という)が、DVDの正規商品417
9円(税込み)のところ、500~2000円の廉価版で発売している会
社(以下、Yという)に対し、著作権侵害を理由に製造頒布の差止
めの仮処分を求めたことで、紛争が公となった。Xは、平成16
(2004)年1月1日施行の改正著作権法によって平成15(2003)年
末まで保護期間のあった映画はさらに20年延長されたと主張した
のに対し、Yは、改正法の施行の際、本件映画の著作権は消滅して
いると主張して、意見は真っ向から対立することとなった。
ここでの問題点は、保護期間の終了の時点をいつと見るか、に
ついてである。
昭和28(1953)年の公表された映画の保護期間の計算については、
公表された日の属する年の翌年である昭和29(1954)年から起算
し(著作権法57条)、50年後の平成15(2003)年12月31日をもって
終了することになる。ところが、70年に保護期間を延長する改正
著作権法が平成16(2004)年1月1日から施行されたため、保護期
間の満了を「時間」をもって表現すれば平成15(2003)年12月31日
午後12時までとなり、これは平成16(2004)年1月1日午前零時と
同じで重なり合うところから、上記「ローマの休日」などの映画は
保護期間が延長されて70年となったとする解釈が可能であり、Xの
主張がこれである。文化庁の公式見解もこの立場に立った。
これに対し、保護期間の満了を「日」をもって計算するならば、
平成15(2003)年12月31日で保護期間が終了し、平成16(2004)年
1月1日以降は70年に延長されることなく終わることになる。Y の主
張がこれである。
そこで問題は、保護期間の終了を「時間」でとらえるか、「日」で
とらえるかについてである。民法138条は、法令などに特別の定めが
ある場合を除き、民法の規定に従う旨の規定を置いており、著作権
法には特段の定めはないから、著作権の保護期間の算定にあたって
は民法の「期間の計算」の規定によって処理しなければならないこ
とになる。これによるときは,年によって期間を定めたときは暦に
従って計算することになり(同法140条)、その末日の終了をもって
満了するから(同法141条)、本件の保護期間は平成15(2003)年
12月31日をもって終了し、平成16(2004)年1月1日には著作権は消
滅していると解さなければならない。
ところで、平成15(2003)年の改正法は附則2条において、「改正後
の著作権法(次条において『新法』という)第54条第1項の規定は、
この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映
画の著作物について適用し、この法律の施行の際現に改正前の著作
権法による著作権が消滅している映画の著作物については、なお従
前の例による」と規定しているところから、改正法「施行の際」、
つまり平成16(2004)年1月1日に著作権が存在する著作物について
のみ保護期間の延長が許されることが明らかである。ところが、本
件著作物はその当日著作権がすでに消滅しているのであるから、延
長の特例は認められないといわなければならない。本件における裁
判所の決定は、以上の趣旨に基づいて「ローマの休日」などの作品
につき保護期間の消滅を明らかにした。
著作権侵害は刑事罰の適用を受けるものであり、したがって罪刑法
定主義の見地から著作権法には法解釈の厳密性が要求される領域で
あるから、あいまいさがあってはならない。12月31日の24時00分と
1月1日の0時00分と重なり合うから保護期間が延長されるという技
巧的な処理は妥当ではなく、立法者がもし延長を図りたいのであれ
ば、だれしも異存のないような規定の仕方、たとえば、「この法律
の施行の前日に著作権を有する映画の著作物については新法を適用
する」というように規定しておけばよかったのではないかと悔やま
れるところである。
この問題はひとり映画著作物の場合に限る問題ではない。近く映画
以外の一般の著作物について保護期間が著作者の死後50年から70年
に延長されることになっているが、この場合にも同様の問題が生じ
うることを念頭におくべきだと考える。
〔追記〕
本稿脱稿後にTPP11 が6か国の国内手続きを完了したため、今年の
12月30日に発効する運びとなりました。これに伴い、わが国の著作
権の保護期間も著作者の死後50年から70年に延長することが本決ま
りとなりました。
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