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JRRCマガジン No.140 2018/7/26
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遠く霞む山の端が朝日に照らされる頃、
暑い一日を告らせる蝉の声。
記録的な猛暑が続いています。
皆さま体調管理をなさってお過ごしください。
今回の山本隆司弁護士のコラムは「パロディと表現の自由」です。
日本における著作物のパロディとしての利用に対する考え方について、
EUおよび米国と比較してお話しくださいました。
◆◇◆山本隆司弁護士の著作権談義━━━━━━
第66回 「パロディと表現の自由」
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先日、東大の著作権研究会で、パロディに関する欧州司法裁判所の
判決(2014年9月3日C-201/13)が紹介されていました。日本以外
の多くの国では、パロディに著作権の権利制限を認めています。
しかし、なぜパロディに権利制限を認めるのかというその根拠につ
いて、EUとアメリカとの考えかたの違いに驚きました。
パロディは、風刺的もじりとか滑稽な物まねというような意味です。
EUの情報社会指令(2001/29/EC)は、「カリカチュア、パロディま
たはパスティシュのための利用」に対して権利制限を規定すること
を、加盟国の立法裁量に委ねています(5条3項k号)。この規定
の解釈を巡って、欧州司法裁判所の前記判決が下されました。原告
の著作物は、チュニックを着た男性が空を飛んでお金をばらまき、
人々がそれに群がっている様子を描いたマンガです。被告は、同じ
構図で、空を飛ぶのがベルギーのヘント市長、お金に群がる人々が
イスラム系の人々に置き換えた絵を描き、カレンダーの表紙にして、
所属する政党の新年パーティーで配布しました。ベルギーの控訴裁
判所が欧州司法裁判所に前記規定の解釈を求めました。
欧州司法裁判所は、前記規定のパロディ(カリカチュア、パスティ
シュを含め)に該当するには、①原著作物を想起させるが、原著作
物との相違を識別でき、かつ、②ユーモアまたは嘲笑の表現を構成
していることが必要であり、それで十分だと判断しました。それ以
上の要件として、たとえば、独自の創作的特徴や、原著作物の著作
者以外の者が作成したことの表示や、原著作物の出典表示は、必要
ないとも判示しています。また、そこでは、パロディの風刺・批判・
批評が原著作物に向けられていることを要しないことも前提として
います。
このように定義されたパロディに権利制限を認める正当化根拠はど
こにあるのでしょうか。①原著作物に新たな表現や付加価値を与え
ることでしょうか、原著作物に新たな表現や付加価値を与えること
で権利制限が正当化されるとすれば、翻案権の付与と矛盾します。
原著作物に新たな表現や付加価値を与えることが表現の自由によっ
て保護されるとすれば、翻案権を認めること自体が表現の自由に抵
触することになります。それとも②ユーモアまたは嘲笑の表現だか
らでしょうか。ユーモアまたは嘲笑の表現に、それ以外の表現より
も一段高い価値または公共的目的があるのでしょうか。笑いが社会
に平和をもたらすというような政策判断や、国民が笑いに飢えてい
て死にそうだというような事情でもない限り、ユーモアまたは嘲笑
の表現が特別扱いを受ける根拠はないように思います。
他方、アメリカでも、パロディにはフェア・ユースとして著作権が
権利制限されることがあります。しかし、パロディに権利制限が認
められるのは、ユーモアまたは嘲笑の表現だからではなく、評論な
どと同様に、著作物に対する批判・批評の形態の一つだからです。
アメリカでは、表現の自由の中でも、思想・感情の表現者に対する
自由な批判・批評は、民主主義の成立基盤として、優越的な保護が
与えられます。原著作物に対する批判・批評のために、原著作物を
利用することに著作権を及ぼせば、原著作物に対する批判・批評が
封殺される危険があります。それゆえ、ここでは原著作物に対する
著作権による保護の利益と原著作物に対する批判・批評する者の表
現の自由が対立しますが、表現の自由が著作権の保護に優先するこ
とが正当化されます。したがって、風刺・批判・批評が原著作物に
向けられている場合にのみフェア・ユースとして権利制限を受けま
すが、EUとは異なり、風刺・批判・批評が原著作物に向けられて
いない場合には、フェア・ユースとして権利制限を受けることはあ
りません。
ところで、日本では、モンタージュ写真事件がパロディの事案とし
て有名です。この事件では、原告の著作物は、雪山の斜面を6人の
スキーヤーがシュプールを描いて滑降している写真です。被告は、
この写真の雪山上部に巨大なタイヤを書き加え、そのシュプールが
タイヤ痕に見えるようなモンタージュ写真を作成しました。被告は、
原告写真とは別個の思想・感情を表現するものであるから、引用に
あたり著作権・著作者人格権を侵害しないと主張しました。東京高
裁は、憲法21条の表現の自由を根拠に、自己の思想・感情を自由に
表現するために必要・妥当であれば、原告は受忍すべきだとして、
著作者人格権侵害を否定しました。最高裁は、東京高裁の受忍限度
論を退けました。東京高裁のパロディ論はEUの考え方に近いもの
ですが、原告写真とは別個の思想・感情を表現するものであるから
表現の自由が著作権を制限するということになり、前述のとおり翻
案権の付与自体と矛盾します。
なお、表現の自由(日本国憲法21条1項)は、内心における思想や
信仰(「アイデア」)を外部に表明し、他人に伝達する(「表現」)
自由を意味し、これに対する法規制を禁止します。表現の自由の核
心は、アイデアを他人に伝達することの自由を保障するものであり、
その伝達のために他人の表現を自由に使用できることまでも保障す
るものではありません。したがって、著作権制度が思想・感情とい
うアイデアを他人に伝達するために他人の表現を利用することを規
制することは、原理的に表現の自由と両立するものです。
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